午後、なんとか酔いから覚めた私、朝潮。瑞穂さんの手厚い介抱のお陰で後を引かずに済んだが、醜態だけはどうにもならない。霞や春風からも呆れられる。だがあれは私のせいじゃない。皆もポーラさんの部屋に行ってみればわかる。
「初霜は酔ってなかったのよね。同じ部屋にいたのに」
「……そうね」
「御姉様、お酒に弱いのですね。覚えておきます」
ウィスキーボンボンでは酔わなかったと力説するも、当たり前だと一蹴された。もうお酒は懲り懲りである。
『朝潮……お前が私に封印されていた時の恐怖がわかった気がする』
「え、アサ、あの」
『こっちの声だけ一切届かなくなるなんて、二度とゴメンだと思った。たった数時間なのに本当に怖かった。よくあれを3日も耐えられたな』
酔って正気を失っていたとはいえ、アサには悪いことをしてしまった。今度領海に行くことでお詫びとしよう。今のアサには癒しが必要な気がする。
ポーラさんが逃避のためのアルコール中毒を改善しようと動き始めたのと同じく、鎮守府としてもいろいろと動き始める。最終決戦に向けて、援軍の再要請である。浦城司令官の鎮守府と、さらには大本営、元帥閣下からの増援が期待できる。
迎え入れるための部屋は出来たため、あとは来てもらうのを待つのみ。司令官は昨日のうちに連絡済みだそうだ。
「あちらにも準備があるだろう。特に元帥閣下の方は、上層部の目もある。早くても3日はかかるらしい」
元帥閣下到着まで待つとなると、前回の救出任務から2週間経過することとなる。大分日を空けてしまった。それまでに私が深海棲艦化し、初霜さんが半深海棲艦化し、クウ、ポーラさん、そしてスタッフとして佐久間さんが配属されている。なんて濃厚な2週間。
それまでに浦城司令官の鎮守府から援軍を招き入れ、一度赤い海へと向かうことも視野に入れた方がいい。そこで白吹雪さんと戦闘ができれば、あとが大分楽になる。
「浦城君の鎮守府からの援軍はすぐにでも来るよ。今日先発部隊、明日後発部隊だ」
「また一気に増えるのね。鎮守府防衛が捗るわ」
あちらからの援軍は総勢13名。それだけ増えれば、攻めるも守るも自由が利くようになる。しかし、援軍の方々は白吹雪さんの力をまだ知らない。元帥閣下の援軍が来る前に説明しておくのが良さそう。
「山城君。扶桑君と共に、援軍の子達と演習をしてもらえるかな」
「ええ。白い吹雪がどういうものかを知っておく必要があるものね。朝潮、アンタにも手伝ってもらいたいんだけど」
「大丈夫です。酔いも抜けたので」
「そろそろ到着という連絡が来ている。先発部隊は駆逐艦と軽巡洋艦。明日の後発部隊は残りの重巡、空母、戦艦だ。集まり次第作戦を説明する。元帥閣下の援軍は本陣を攻める時に使わせてもらおう」
出来ることなら、白吹雪さんは先に片付けておきたい。それが出来る可能性を考えて、陣地まで行かず、赤い海のいつもの交戦場所までの出撃をするとのこと。2段階の出撃にして、負担を減らせたら幸いだ。
会議の後、すぐに援軍の先発部隊が到着。私は説明が必要だということで出迎えはせず、工廠の後ろに初霜さんと一緒に待機させられた。前回、電さんと深雪さんのお披露目をした時のような演出。こんな気分だったのか。少し楽しい。
「お久しぶりです、加藤提督。旗艦神通、並びに随伴6名。再配属させていただきます」
「ありがとう。今回は最終決戦までお願いするよ」
「はい。尽力させていただきます。ところで、朝潮さんはどうしたのですか? 以前と同じなら出迎えも一緒にいたと思うのですが」
援軍の方々は私が深海艦娘となったところまでは見ているが、今の状態は知らない。
「朝潮さん、いっそアサさんの方で出てみては」
「え、それはさすがに」
『いいぞ。あいつらは私とは初顔合わせだ。挨拶させろよ』
無理矢理主導権を取られた。酔ったときに閉じ込められたのを根に持っているのかもしれない。どういう反応をするのかは少し楽しみではあるが、趣味が悪いのでは。
「朝潮君、初霜君、来てもらえるかな。っと、今日はアサ君かい?」
「見せた方が早いだろ。こいつらは私のことを知らない」
「そうだね。君も大事な私の娘だ。紹介する必要がある」
私の姿を見て怪訝そうな顔をする援軍一同。最後に見た私は深海艦娘故に髪は白かったし瞳は赤かった。今は髪は黒く瞳は青白い。印象が違うのはわかる。
「え、えーっと、朝潮?」
「お前がこのリボンの持ち主のシキナミか。縁が強いな」
「あ、朝潮!?」
こういう反応にもなる。顔見知りから記憶が消えているようなものだ。
「今は朝潮に主導権を貰っている。朝潮の
「朝潮君は敵の攻撃を受け、深海棲艦に変えられてしまった。今は1つの身体に2つの精神を宿している。今表に出ているのは、深海棲艦の方ということだよ」
一同大混乱。言われてもわからないだろうし、目の前で交代しても理解するのが難しい内容だ。春風の二重人格に関しては理解しているので、それと似たようなものと考えてもらえればいいだろう。
「で、こっちの初霜も同じことを……?」
「私は半分だけ。これが証拠です」
右腕のヒビ割れた痣を見せる。これである程度は納得してもらえたようだ。初霜さんの私への距離感については理解できていないようだが。
「ジンツウといったな。テンリュウから話を聞いている。私も演習に参加するから、相手をしよう」
「そうですか。では期待させていただきます。……今度こそ天龍さんに勝ちますから」
負けず嫌いもここまで極まっていると少し怖い。いつか実弾で演習しかねない。
「作戦概要は明日の後発部隊が来てから話そう。それまでは前回と同じように寛いでいてほしい。今は決戦前の準備期間だ。各々話を聞いて回ってもいいし、身体を休めてもいい」
「了解しました。各自、貸していただける部屋を確認次第、自由行動ということで」
神通さんは足早に部屋を確認しに行ってしまった。すぐにでも天龍さんと演習がしたい様子。さすがにもう慣れた。
挨拶もしてあちらの驚く顔も見れて満足そうなアサに主導権を貰い、改めて私が皆に挨拶。
「はい、交代しました。お久しぶりです、皆さん。
「その呼ばれ方、久しぶりだね。ここに戻ってきたって実感するよ」
北上さんと大井さんは神通さんに続いて部屋に向かい、夕立さんは春風に会いに走っていってしまう。長波さんもここで仲良くしていた皐月さんに会いに深海艦娘の詰所に向かっていった。黒時雨さんも長波さんに便乗。自由時間と言われているが、あまりにも
「すっごい驚いたけど、朝潮……だよね?」
「大丈夫です。今はアサが中にいます。表に出ているのは朝潮ですよ」
半信半疑な敷波さん。知らない人は中身が入れ替わっていると言われてもピンと来ない。一目でわかってくれるのは、元深海棲艦絡みの人と霞と司令官くらいである。霞はよくわかるなと感心したものだ。一応瞳に閃光が走るとアサということはわかるらしい。
「見分けってつく?」
「深海の匂いが強まるとアサさんです」
「あたしらでもわかる見分け方ね? というか初霜もそういうことやれるようになったんだ。あたしらが帰投したあとの1週間ちょっとで何があったのさ」
「説明しますよ。仲間も増えましたからね」
ついでに工廠の隅でこちらをチラチラ見ている佐久間さんも。深海棲艦研究のためには艦娘のことも知らなくてはいけないと、誰彼構わずふれあいを求めてくる。女性とはいえ、触り方がいやらしいこともあるので、実はこの鎮守府の中では一番の要注意人物なのかもしれない。
敷波さんと再建により改装された鎮守府内をブラブラしているうちに霞と合流。そのまま演習が繰り広げられているという海の岸へ。
「おー、やってるやってる。神通さんやっば天龍さんに喧嘩売ったんだ」
「すごい……ついに互角になってる」
あらゆる方面で天龍さんのことを研究してきた神通さん。圧倒とまではいかないが、天龍さんが本気で苦戦しているのが遠目でもわかる。あと、やっぱり2人とも笑顔。怖い。
『すごいなジンツウ。あれは苦戦しそうだ』
「勝てそう?」
『あれに勝てないと白いフブキには勝てん』
アサと話すうちに、天龍さんの刀が飛ばされた。ついに神通さんが勝利を収める。
「くっそ! ついに負けちまった!」
「はぁ……はぁ……勝ちました……やっと……」
天龍さんがこうやって負ける姿を見るのは初めてかもしれない。ここに来て神通さんの成長速度に驚かされる。あれは練度ではなく技術の強化。対応力の成長だ。
「ではこれでようやく山城さんとの演習が許可されますね」
「そこまでやりたかったのかよ……マジでオススメしないんだが」
「そこまで言われるからやってみたいんです」
呆れた顔で山城姉様が呼ばれる。運が悪いことに扶桑姉様も一緒にいた。
「……貴女は強くなりたいのね……なら……私が相手をしてあげるわ……」
「山城さんと同等かそれ以上の力を持つ扶桑さんですか。お相手していただけますか」
これはまずい。注意だけはしておかないと神通さんが大変なことになりかねない。すぐに海に降りて扶桑姉様の下へ。工廠に行かずとも海に向かえるようになったのを見て、敷波さんは私が深海棲艦になったのだと改めて実感したようだった。
「扶桑姉様。加減はしてくださいね?」
「朝潮……わかってるわ……デコピンだけだから……」
「私としては本気でお願いしたいんですが」
「やめておいた方がいいです。デコピンしか使わない扶桑姉様に勝ってからにしてください」
私の力説で神通さんはどうにか折れてくれた。山城姉様も少し安心している。
「では、よろしくお願いします」
「ええ……外の鎮守府の子と演習するなんて初めてだもの……妹達に……いいところ見せないとね……」
演習開始と同時に急所を撃つ神通さん。相変わらず容赦がない。しかし扶桑姉様にはそういったものが一切効かない。適当に払うだけで砲撃は弾かれる。主砲による砲撃が効かないと言っても過言では無いだろう。これを白吹雪さんもやってくるのだから厄介だ。
「狙いはいいわね……でも……もう少し精度が欲しいわ……」
「これ以上を求めますか」
「ええ……白い吹雪は私以上よ……主砲は効かない」
相変わらずめちゃくちゃだった。缶とタービンをありったけ積み込んだほどのスピードで接近し、すでに神通さんの眼前。スピード自体は天龍さんでも見慣れている神通さんだが、それを戦艦がやってきたとなると話が変わる。
「速い……っ!」
「主砲よりは……魚雷の方がいいわ……だからこれはダメ」
デコピンで主砲を吹き飛ばした。壊さないように細心の注意を払ったが、それでも持っていられないほどの衝撃だったらしい。あの神通さんでも無防備に。
「まずい……っ」
「戦い方を……変えましょうね……」
軽く、本当に軽くデコピン。脳震盪を起こさないよう、勢いを殺さず、後ろに飛ばすような一撃。神通さんが戦艦の砲撃を受けたように吹き飛んだ。やり方は違うが、初めて扶桑姉様が襲撃をしたときにあんな感じで深雪さんがやられたのを思い出す。
「……おしまい」
「これほどとは……額が痛いです」
それだけで演習終了。神通さんの次のターゲットが決まった瞬間でもあった。
「……何あれ」
「姉さんが姉と慕う海峡夜棲姫の姉。朝潮帝国の最高戦力」
「神通さんがあそこまで成すすべなかったの初めて見るんだけど。あと帝国って何」
霞が敷波さんに説明しているのが聞こえたが、あまりに簡単すぎて理解できていない様子。
あれだけ痛い目を見た後、今度はこちらを見てくる。そういえばさっきアサが喧嘩を売っていた。もしかして、今度は私が相手をすることになるのでは。
「朝潮さん、次は貴女です。演習に参加してくれると言っていましたよね」
「私じゃなくてアサがですけどね。……わかりました。やります。アサ、責任取ってよ」
『当たり前だ。私がやるから主導権よこせ』
即座に主導権を渡す。神通さんとは一度だけ、ただ回避するだけの演習をやらせてもらっているが、その時は『未来予知』のおかげで無傷。だが今回は、普通にこちらも攻撃しながらの演習だ。自衛の得意なアサの方が適している。
「よし、お前の相手はこの私、深海朝棲姫が受け持つ」
「朝潮さんの中にいる深海棲艦ですか。いいでしょう、相手にとって不足はないですね」
「前に朝潮と演習をしたんだってな。その時とは違うぞ。こちらも攻撃をさせてもらう」
手を払うことで、全12機の艦載機が一斉に発艦。周囲をリング状に回る。私も出来ることだが、1対1の演習ならアサの方が戦える。接近戦にも対応できるのも私よりアサだ。
「では行かせてもらいます」
早速突撃してくる。
神通さんは最初はいつも突撃。これだけは覚えている。そこから突然臨機応変な対応に変化する。突っ込む割には後出しをするので、こちらのペースが崩れに崩れる。
「じゃあ、朝潮、先を見るぞ」
『ええ。負荷は考えなくていいから』
臨機応変にその場で対応方法を変えてくる神通さんだからこそ、私の技術も伸びる。電探の反応と視覚情報、聴覚情報を全て使っての『未来予知』だ。深海棲艦化する前ならまず負荷で倒れる情報量だが、今なら出来る。2人分の精神を許容できるほどに膨れ上がった脳の容量の賜物だ。
また、前々から思っていたが、深海棲艦化で『未来予知』が完全な映像として理解できるようになった。数秒先の映像が見えるようになったおかげで、理解の速度が格段に上がっている。これは今までの経験が昇華された形だろう。行動予測の最終形だと、私は自負している。
「こいつ……先が見づらい」
『その時その時で考えてるからよ。これに対応して』
「無茶言ってくれるな」
それでもしっかり回避できている。さすが自衛が得意なだけあった。避けながらも小さく小さく艦載機による攻撃を当てていく。攻撃的な割には地道にダメージを稼ぐ作戦。自分の出来ることを弁えている。
「前より当たらない……!」
「悪いな。朝潮の身体を守らなくちゃいけないんだ。避けに特化してるんだよ」
演習としてはかなり長い時間をかけて回避し続け、蓄積したダメージで神通さんを大破判定に持っていき、そのまま勝利した。ありがたいことにアサは無傷だ。
「……朝潮さんにも勝たなくてはいけなくなりましたね……」
『ホント勘弁してください』
「朝潮が勘弁してくれってさ。フソウ姉さんとヤマシロ姉さんに勝ってから頼む」
そんな状態で来られたら、多分私達でも負けると思う。
「朝潮……なんかとんでもないことになってない? 神通さんに勝っちゃうとか……」
「そりゃあね。朝潮帝国の女帝だもの。姉さんは扶桑さんと山城さんの攻撃も避けるわよ」
「それもう無敵でしょ……。あとさっきも聞いたけど帝国って何!?」
あとから霞にも文句を言っておかなくてはいけないかもしれない。説明が雑すぎる。
援軍も来ました。次回、ついにあの場所へ向かいます。