翌日、援軍が全員揃い、作戦会議。本当に全員勢揃いした状態でである。今回は赤い海であることなど考えず、出撃できるもの全てからの部隊選定。そこまでしないと、白吹雪さんには到底勝てそうにないという判断である。
また、こちらが出撃したことを向こうはわかっている節がある。その隙をついて鎮守府そのものを攻撃してくる可能性が高い。ただでさえ回り込むという原始的な手法で防衛線を潜り抜けてきた前例がある。主戦力を赤い海に投入しているからこそ、防衛だけは徹底しなくてはいけない。援軍のおかげで哨戒にも人数が割ける。
「今回は部隊を5つに分ける。敵本陣出撃の主力連合艦隊。哨戒と防衛を兼ねた東警戒部隊、西警戒部隊、南警戒部隊。そして、鎮守府防衛部隊だ。防衛部隊は警戒部隊への増援も兼ねている」
鎮守府は人工島、周囲を海に囲まれているのだから、何処からでも攻め込まれる可能性がある。警戒部隊は必須だ。
元帥閣下からの援軍を待たずして出撃するのは、当然白吹雪さんの誘き出しが優先されたからだ。来ない可能性もあるが、その場合は援軍込みでの再出撃になる。
本陣での最終決戦は、白吹雪さん無しでもさらなる脅威が待ち構えている可能性が非常に高い。それだけ時間を与えてしまったというのもある。そこに最強の艦娘をぶつける。
「それでは部隊を発表する」
注目されるのはやはり主力連合艦隊だ。
第一艦隊、旗艦は山城姉様。随伴に扶桑姉様、霞、春風、初霜さん、そして私、朝潮。扶桑姉様は赤い海に入ることができない最大級のデメリットを持っているが、それをどうにかするための作戦は考案済み。明石さんとセキさん、そして新たに加わった佐久間さんの、知識と技術の結晶が与えられた。
第二艦隊、旗艦は神通さん。随伴に大鳳さん、飛龍さん、ビスマルクさん、ガングートさん、ウォースパイトさん。火力と航空戦力を固め、あの尋常ではない艦載機の処理をお願いする。私と春風の対空も込みにしてギリギリ。
「扶桑さんのデメリットをどうにかするための装備です。かなり危険ですが、1戦は保ちますから」
「深海の脚部艤装の上から、艦娘の脚部艤装を装備できるように改造した。それでも厳しいだろう。突貫工事だったからな。強度に難があるんだ」
「いいわ……それがどうにかなるまでに終わらせればいいのよね……」
艤装の上に艤装を被せるというかなり無茶な発想。脚部艤装の接続が深海側に偏っているせいでこの手段しか使えなかったらしい。苦肉の策ではあるが、無いよりマシとなった。ダメだと思ったら赤い海の外に退避する。
「オレらが鎮守府防衛だ。背中は任せろ」
「オーバースペック組も防衛です。任せてください!」
「我々も陣地の位置をこちらに移動させた。鎮守府防衛に参加させてもらう」
ミナトさん達も陣地を移動させ、完全な防衛の形に。援軍の方々も防衛のために尽力してくれる運びだ。これなら帰ってくる場所が無くなっているようなことは無いだろう。
「瑞穂さん、ここをお願いします。私の帰る場所を守ってください」
「勿論です。朝潮様の帰る場所は、この瑞穂がお守り致します。省みることはございません」
心強い。これなら何も気にせず戦いに向かえる。
「朝潮、これ」
「敷波さん、リボンですか?」
「長いこと使ってるからボロボロでしょ。替え、持ってきたよ。ちゃんと帰ってきて返してよね」
「……はい。このリボンを返すためにも、私は死にません」
新しいリボンを結び直し、心機一転。必ず帰る、死なない約束も更新して、私は出撃する。全員無事で、ここに帰ってくるのだ。
赤い海。扶桑姉様の艤装はまだ大丈夫な様子。何が起こるかはわからないが、側にいてもらえるだけでもとてもありがたい。この場には、姉も妹もいる。それだけで私は気持ちが入るというものだ。
「気配を確認。寄せ餌効果、始まります」
「吹雪は」
「……います。待ち構えているようですね。陣地まで行くことにならなくて良かったですよ」
白吹雪さんの気配もしっかりと感じる。前よりも濃くなったように思えた。さらに改造を受けていることが、それで理解できた。
「春風、どう?」
「深海忌雷多数発見です。随時報告し、処理します」
春風は今回、深海忌雷を見ることができる装備を身につけている。
電探、ソナーに掛からず、気配すら読めない生体兵器と聞き、明石さんもセキさん頭を悩ませたが、佐久間さんが知らないものの閃きを見せて開発された。電探に感知されないけどそこにあるんだから、海中がただ見える
海面の光の乱反射防ぐだけの機能を妖精さんが開発しただけで、海中丸わかり。結果、潜水艦の位置まで目視できるというとんでもない代物が出来てしまった。今本当に必要な装備が出来たということで、爆雷も随時投射できる春風が使うことに。これは艤装に繋がる必要のない装備なので、深海艤装の春風でも普通に使える。
「春風は深海忌雷の処理を徹底」
「……春風、眼鏡意外と似合うわね」
「霞さんも片眼鏡似合ってますよ。御姉様から眼鏡が失われたのが少し惜しいですね」
戦艦の長距離砲撃が始まる。標的は当然私だ。回避、もしくはウォースパイトさんに守ってもらいながら、さらに進軍。深海忌雷を見つける度に爆雷で処理。比較的安全に進むことができている。
そして、会敵。
中心、最前に吹雪さんが立ち、周りには群を成した深海棲艦。イロハ級もいれば、鬼級姫級も当たり前のように量産されている。
「久しぶりですね、吹雪さん。随分と様変わりして」
「朝潮ちゃんが素直にこっちについてくれればこんなことにはならなかったんだけどね」
吹雪さんには、もう深海艦娘の面影も残っていなかった。制服すら着ておらず、真っ白なワンピース姿。一番目に付いたのは、異形化した左腕。まるで魚人のような、魚のヒレがついたおぞましい形状。そして、背中には深海忌雷。
忌雷の寄生により完全な深海棲艦に変えられていた。改造に次ぐ改造で歪んでしまった身体と心をそのままに深海棲艦にされてしまったようだった。洗脳も必要ないほどに狂わされている。
もう、あの吹雪さんは元に戻ることはない。小型艤装が存在しないのだから、私達に敵対しているあの姿、あの心が、吹雪さんの本質となってしまっている。背中の深海忌雷を破壊すれば、もしかしたら何か変わるかもしれないが。
「私を助けようなんて、もう思ってないよね? 助からないのは見てわかるでしょ。朝潮ちゃんが折れてくれたらまだ助けられたかもしれないのに」
「そうですね。それに関してはごめんなさい。早く助けられれば、まだ戻ってこれたのに」
悔やむのは後だ。あれはもう、吹雪さんの形をした全く別のもの。
「お姫様もこの戦いを見てる。私も朝潮ちゃんと同じ、お気に入りの1つなの。だからこんなに弄くり回されて、別の名前を与えられた」
「……別の名とは?」
「単純だけどね」
少し目を伏せた。改造される前の記憶をかなぐり捨てるように頭を振り、完全に敵対したようにこちらを睨みつける。今までの余裕そうなニヤニヤ笑いも、いつも見ている吹雪さんの笑顔も、何処にもない。
あれはもう、敵だ。
「私は『深海吹雪棲姫』。もう戻れない。もう戻らない! ここで、お前達全員を沈めてやる!」
左腕を振るうと同時に、凄まじい数の艦載機が発艦した。後ろの空母棲姫も含めて、比喩でなく空が埋め尽くされる。対空はまず間に合わない。回避しながら処理するしかない。だが春風は深海忌雷の掃除を優先させなくてはいけない。対空砲火は私の仕事だ。
あの艦載機はイロハ級が出したものではないため、寄せ餌効果が効かない。各自で回避してもらうしかない。危ないタイミングなら私が口を出し、それ以外は判断してもらう。
「大鳳、あれの処理が私達の仕事らしいよ」
「これはまた……大変なことになってますね。でも、やれないわけじゃないでしょう」
「当然よ。やったろうじゃん! 友永隊、頼んだわよ!」
「第六〇一航空隊、全機発艦!」
私も高角砲で艦載機を確実に潰していく。敵艦載機もわかりやすく私を狙ってくるので、対空砲火もしやすい。この効果に関しては吹雪さんも想定していなかったようだ。
「山城、扶桑、アレを食い止めていてくれ。周りを潰した方がいいだろ」
「ええ、お願い。私達姉妹でなら拮抗は出来る。アンタ達に頼るわ。ビス子、アンタも頼りなんだから」
「ええ、ええ! わかってるわ! こんな戦場に呼ばれたんだもの、私に期待しなさい!」
戦艦組が敵先頭から叩き潰していく。まずは周りをどうにかしないと話にならない。優先的に空母を叩いてもらうことで、負担を減らしてもらう。
「朝潮さん、以前と同じ要領で」
「了解、お願いします!」
艦載機3つを神通さんの下へ。長良さんの戦術を覚えた神通さんだからこそのこれだ。敵が群れであればあるほど有効的な、頭上突撃。
「神通、突撃します!」
敵を飛び石に群れを突っ切り、戦艦と空母を優先的に撃破していく。ついには姫級まで標的にし始めている。天龍さんに勝てたことが、心の余裕となり、最大の力が発揮できているようだった。その後のことはもう無視している。
「アサシオ、真ん中に撃つわ。少し離れて」
「了解。フィフ、貴方もお願いします」
親指を立てた後、頭部が変形。超大型主砲を構えて、敵のど真ん中に風穴を空ける。戦艦棲姫すら一撃で葬る砲撃だ。頼りになりすぎる。だが、私の盾役は難しくなるので、回避にも神経を使わなくてはいけない。
「初霜、私達もまずは雑魚掃除よ」
「はい。その前に朝潮さん、一つだけお願いを聞いてもらえますか」
「今出来ることなら」
「命令してください。呼び捨てで」
霞がなんかすごい顔をしたが、今は士気を高めることが重要だ。戦場でも出来ることなら考える必要もない。
「初霜! 行きなさい!」
「了解! やる気出ました! 霞さん行きますよ!」
「後からいろいろ言わせてもらうから!」
「霞、期待してる!」
「任せなさい! 姉さんを守るのは私なんだから!」
雷撃隊も私の前へ。ウォースパイトさんの両サイドに展開し、魚雷を連射していく。霞が広い範囲に撃ち、タイミングよく爆破。初霜さんはウォースパイトさんでは破壊できない敵を撃破し続ける。
イロハ級だけならすぐに対処ができた。対空砲火もまだ間に合っている。やはり私に攻撃が集中するというのは対策が取りやすくて戦いやすい。
「前よりも硬くなってるじゃない。元は駆逐艦なのに!」
「もう私は駆逐艦なんかじゃない! 退け!」
「朝潮を狙ってるんでしょうけど……させるわけがないでしょう……」
現時点での最高戦力2人を以てしても、吹雪さんは拮抗が限界。いつひっくり返されてもおかしくない戦況だ。あちらの主砲は簡単に弾いているが、主砲の合間に魚雷も飛んでくるので対処が難しい。
「御姉様! 深海忌雷の処理完了しました!」
「鎖は!?」
「見つけたので破壊しました! 7本!」
「よくやったわ! 姫級の処理を手伝って!」
これで足下からの奇襲を気にしなくて済む。早く随伴を処理しないと戦況が悪くなる。
「邪魔だぁ!」
扶桑姉様が蹴りで飛ばされる。ダメージは少ないが、強引に間合いが取られる。同時に山城姉様も拳で飛ばされた。変化した腕で殴られたせいか、蹴りと同じくらいの吹き飛び方。
大きく間合いが出来たせいで、私と吹雪さんの間に遮るものが一切ない状態に。即座に未来を予測。吹雪さんは主砲による砲撃。春風がこちらに向かっていることと、ウォースパイトさんが砲撃をやめて手を伸ばすことが見え、私は避けられる場所にいる。
最善は、誰も動かさずに私自身が回避。むしろこれは私を狙っているように見せて春風を盾に使わせる攻撃だ。そんなことさせない。
「ハルカゼ、ウォースパイト、動くな!」
アサに交代。指示を出させて自衛に専念してもらう。
予測通り、私に向かっての砲撃だ。即座に海中に潜り、難を逃れる。アサならこの回避が出来るのがありがたい。前後左右しかない艦娘の回避に下を加えるだけで、格段に被弾率が下がる。これを使うことがあるのでインカムも耐水性のものにしてもらっている。
だが、私が潜るところまで吹雪さんの計算には入っていたようだった。私に潜る以外の選択肢を与えないような攻撃をしてきた。
反応が私の方ではなく、イロハ級を処理している方に向かった。まずい。海中で指示は出せない。
「っぷはぁっ! ガングート! 後ろ!」
「間に合わせない!」
「くそっ……!」
真後ろからの攻撃に指示が間に合わず、ガングートさんが飛ばされる。それと同時に砲撃も受けて、艤装の腕の片方が半壊。本人もほぼ大破状態に。
ここで未来を予測。ガングートさんにトドメを刺さずに次に向かう。動けないなら後でも出来るという考えなのだろうか。次の狙いは近くにいる神通さん。対応は出来るが火力に回避が追いつかず左腕をやられる映像。こればっかりはまずい。
「ジンツウ右に回避!」
「させるかぁ!」
私の指示を聞いた後に撃つ方向の補正をかける。神通さんになら簡略化した指示でも何とかなる。
「補正をかけるところまで私は対応しますよ」
吹雪さんの主砲に吸い込まれる神通さんの砲撃。撃つ寸前で弾同士がぶつかり、吹雪さんの身近で爆発した。神通さんも爆発に巻き込まれて少し飛ばされるが小破程度。まだやれる。
さらに未来を予測。爆炎に紛れて次はビスマルクさん。魚雷だ。
「ビスマルク! 10時から魚雷!」
「やってくれるじゃない。私に魚雷で挑もうだなんてね。Feuer!」
魚雷に対して魚雷を放ちながら、主砲まで放つ。今までの傾向から、主砲が牽制になることがわかっていた。
未来を予測。一旦ビスマルクさんを標的から外し、次はもう一度神通さん。次は格闘。
「ジンツウ!」
「もう対応させない! 鬱陶しいんだよ二水戦!」
「甘い! その程度の攻撃は何度も見てきています!」
恐ろしいことに格闘にすら対応してきた。おそらく天龍さんに関節技を決められたからだろう。攻撃を軽くいなすと、合気道の要領で体勢を崩した。それと同時に背中は主砲を一撃。深海忌雷にダメージを与えるが、破損らしい破損が見当たらない。
ここでアサと交代し、私が表へ。支援をメインにし、全員を守る戦いに移行。
「空母棲姫処理できた! 艦載機に余裕ができるよ!」
「他の随伴に集中攻撃!」
「了解! 第二次攻撃隊! 発艦!」
艦載機が大分減り、優先的に処理した敵の空母が全滅したことを知る。ここからはこちらの空母隊も攻撃に参加できる。私も対空のことを考えずにすむようになった。
未来を予測。何度も何度も先を読み続ける。次は2方向。主砲が霞、同時に初霜さんへ接近。
「霞回避! 初霜下がって!」
「いい加減に、間に合わせないと言っているだろう!」
こちらの予測をさらに予測してきた。霞に撃ちつつも向かってきたのは私の方だ。あちらも行動予測を使えることはわかっていたが、先読みを先読みするほどの精度とは思っていなかった。
「うぅっ」
「霞!」
「余所見してる場合じゃないだろ朝潮!」
行動予測ができる霞にも対応され、ギリギリでの回避になってしまった。直撃はしていないが、その衝撃波だけで霞は中破。戦闘はまだ可能だが、ギリギリではある。私も大ピンチだ。予測をさらに走らせ、回避方向を計算。だが、そこに救世主が
「朝潮は……やらせないわ……」
山城姉様の力を借り、弾丸のように飛んできた扶桑姉様が横槍。脚部艤装の強度を完全に無視した蹴りを放ち、私への接近を止めた。扶桑姉様の脚から、少し嫌な音が聞こえた。機械がヒビ割れるような音。一撃で艤装が悲鳴を上げていた。それでも吹雪さんは無傷。
「まだまだ!」
即座に切り返した。未来を予測する暇すら与えられない。扶桑姉様以上の動きで戦場を駆け回る。
「飛龍さん4時から!」
「間に合わせないと! 言ってるだろう!」
「うっそ、こっち!?」
指示の後の回避では間に合わない。指示を出した時には飛龍さんの飛行甲板が砲撃で叩き折られ、同時に大鳳さんのボウガンが蹴り飛ばされた。それだけでは止まらず、大破するほどの攻撃で大鳳さんは吹き飛ばされ、飛龍さんも魚雷を受けて大破。折れた飛行甲板を盾にしてなんとか四肢を欠損するようなことは無かったが、大怪我であることは間違いない。
「これで3人!」
「これ以上やらせませんよ!」
たった1人にここまで戦場を荒らされるのは扶桑姉様以来だ。その扶桑姉様ですら、艤装の問題からかなりギリギリ。私の『未来予知』も上回る予測で、まだ吹雪さんは無傷。
ここまでのものとは想定していなかった。イロハ級からの攻撃も回避しながらとはいえ、手も足も出ないとはこのことを言うのだろう。戦場は絶望に支配されている。
深海吹雪棲姫という名前は、商品名にそう書かれているから。Tシャツにはリコリス吹雪なんて書かれていたそうで。