欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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気を衒う一撃

赤い海、完全な深海棲艦と化した白い吹雪さん、『深海吹雪棲姫』との最終決戦。すでにガングートさん、飛龍さん、大鳳さんが大破状態となり、私、朝潮を含む連合艦隊は行動できるのが残り9人。イロハ級や量産された鬼級姫級の処理は大分終わったが、たった1人にやりたい放題されている現状は、あまりにも絶望的だった。

 

「朝潮、お前だけは殺す。絶対に殺す!」

 

次の狙いはウォースパイトさん。私の盾役を外そうとしている。

 

「アサシオ、私が動きを止める。フソウとヤマシロに指示をして」

 

吹雪さんの砲撃がウォースパイトさんを支えていないフィフの腕を吹き飛ばし、魚雷が片脚をもぎ取る。頭部超大型主砲を放つが、それすらも素手で払いのけてしまった。本当に主砲は効かない。

 

「朝潮の盾は邪魔なんだよ! 戦艦棲姫!」

「私はウォースパイト、戦争を忌む者よ。Fif, sit down」

「姉様! お願いします!」

 

頭部超大型主砲を諦め、玉座形態に。バランスの悪い人型形態から安定感のある状態に変えて攻撃を続行する。同時に私から扶桑姉妹に指示。

 

「往生際が悪い!」

「貴女は手癖が悪いわね。新参の姫風情が、我々のEmpressに勝てると思っているの? 出直してきなさい」

 

主砲で集中放火。全て弾かれるが、直進を妨げることは出来ている。動きを多少止めることが出来たため、扶桑姉様と山城姉様が復帰。ウォースパイトさんに限界が来る前に、なんとか引き剥がすことに成功した。

 

「アサシオ、もう盾役は難しいわ」

「大丈夫です。イロハの攻撃が少なくなっていますから、自衛できます。大破した人達と退避を」

「Your fortunes of war」

 

ウォースパイトさんも中破状態。戦闘続行は可能だが、無理をすると帰れなくなってしまう。先に退避してもらい、大破しているガングートさん達を回収してもらった。これで残り8人。

 

「アンタね、いい加減にしてもらわないと困るのよ」

「それはこっちのセリフだ! いい加減死ねよ!」

「うちの吹雪とは大違いね……とっても……憐れ」

 

扶桑姉様の渾身の一撃。ガードをして無傷かもしれないが、その衝撃で浮き上がるほど。だが扶桑姉様の脚部艤装の片方が再び音を立てた。限界が近い。片脚ならまだしも、両脚が破損したら立つこともできず沈むしか無くなる。

 

「言うに事欠いて、私を憐れだと!?」

「ええ、憐れで無様よ」

 

左拳にキス。全力の拳。それならば、私も支援しよう。吹雪さんの背中に艦載機を集中。撃ち込まれる拳の反動を軽減できないように押さえ込んだ。回避もさせない。

 

「邪魔をするなぁ!」

「そのふざけた左腕、吹っ飛ばしてやるわぁ!」

 

そのまま全力のパンチ。本来なら大概の深海棲艦がミンチになる一撃だが、あの異形の左腕は何よりも頑丈らしい。衝撃を全て伝えられるように補助しても、破壊まで行けなかった。それでも表面がグシャグシャになるくらいまではダメージを受けた様子。

 

「硬すぎ……!」

「それくらいでやられてたまるか! 私はここで、お前達を!」

「皆殺しにするって? させると思っているの? このビスマルクがいるのよ?」

 

左腕の強度がとんでもないことがわかっているが、それでも主砲を撃つ。ウォースパイトさんの攻撃で連射すれば行動がある程度封じられることがわかったからだ。魚雷も織り交ぜたビスマルクさんの攻撃で回避を優先させることに成功。

回避先は予測済み。それすらも予測されている可能性はあるが、攻撃の手を緩めるわけにはいかない。

 

「春風!」

「わかってるさ御姉様! こっちに来るのはわたくしも予測してた!」

「半端者の古姫が私に勝てると思っているのか!」

 

勝てるようにするのがサポート役の私だ。今度は艦載機を春風の方へ。顔面にチラつかせたり真横から攻撃したりで集中力を切らせていく。

私の攻撃はあくまでも吹雪さんをイラつかせるための攻撃だ。理性を失わせ、攻撃を単調に変えていく。たったそれだけで戦況がガラリと変わる。

 

「霞、行ける?」

「まだ行ける……! あの脚、もう一度吹っ飛ばしてやるわ!」

 

中破状態でもまだ行けると視線を感じたのでお願いする。春風への攻撃に対して艦載機で横槍を入れる中、後ろからの魚雷。射線上に何があっても、曲げ、潜らせ、加速させ、確実に脚を狙いに行く。

 

「鬱陶しい羽虫が!」

「こっちはチーム戦なんですよ。使えるものは何でも使わせてもらいます」

 

艦載機の一部を神通さんの方へ。イロハ級が掃除できたことで、こちらに向かっていることがわかった。それなら、それをサポートしよう。背中を押すように加速させ、即座に戦線へ。

 

「左腕ですね」

「はい! あれを破壊してください!」

「了解」

 

霞に寄りながら次の状況を予測。人数がいる分戦いやすいはずだが、それでも圧倒されているのが現状だ。それは全て、私の予測をさらに予測という後出しジャンケンの応酬のせい。どうしてもこちらが先になってしまうから行動が読まれる。

なら、人数を使ってこちらの行動を先に予測させる方がいい。それを私が予測する。攻守をどうにか逆転させる。

 

そのために、私は秘密兵器を出す。

 

「初霜さん、あれの出番です」

「えっ、念のために積んだアレですか!?」

「この戦場だからこそ、効きます」

 

ここで初霜さんに指示。このメンバーの中での最大の隠し球。本来ならば吹雪さんには効きそうにない攻撃。だからこそ、搦め手に使う。

 

「朝潮さんが言うのならやりましょう。どうにか隙を見つけます」

 

山城姉様にも目配せ。初霜さんの秘密兵器は、部隊全員が知っていることだ。それが使えるようになるための隙をどうにか作ってもらう。

 

「古姫如きに、負けるわけがない!」

「っぐぅっ!?」

「次はお前だ! 邪魔な戦艦め!」

 

春風が大破。どうにか急所は回避したが、格闘の後の主砲攻撃で艤装が破壊され、包み込まれていた左腕が露わになるほどに。これで残り7人。

次に狙われたのはビスマルクさん。戦艦主砲で動きを止められることがいい加減鬱陶しくなってきたようだ。

 

「邪魔だと思うほど貢献できているのね。いいじゃない、でも私が負けるわけないのよ」

「何をふざけたことを!」

「私に来ることは想定済み。そうよね、山城」

「ええ、だんだん読みやすくなってるわ」

 

ビスマルクさんに向かうことは私が予測していた。小声で山城姉様に指示。扶桑姉様には春風の回収をしてもらい、ウォースパイトさんの下へと届けてもらう。

 

「お前一人で! 私を止められると」

「思ってないわよ。初霜!」

 

攻撃を受け止め、僅かにだが吹雪さんの行動が止まる。その隙を見逃さなかった。

山城姉様の陰から現れる初霜さん。構えるのは変化した深海の主砲ではなく、元より持つ艦娘の主砲。不意打ちとしては完璧。

 

「そんなもの、私に効かないのはわかってるだろうが!」

「知ってますよ! でも撃たないと始まらないでしょう!」

 

至近距離での砲撃。狙いは額だ。もう殺すつもりで撃ってもらっているが、これも当たるとは思っていない。が、回避ではなく素手で払う手段を取るはず。

 

「当たるかぁ!」

「払いましたね。それが狙いですよ」

 

手で払った瞬間に砲弾が爆発。だが炎が出るわけではない。

 

放たれたのはスウェーデンの缶詰の臭いのペイント弾。

 

完全な不意打ち。一番気にかけない嗅覚への攻撃。今までさんざんダメージの応酬を繰り広げられた中での、突然の激臭。私達は多少慣れたが、これは吹雪さんが知らないものだろう。たちまち顔をしかめ、片腕で顔を覆う。

 

「何これ!? なんで戦場でこんなものを!?」

「素が出たわね。深海棲艦になったところで、アンタはアンタだったってことね」

 

顔を覆う腕に攻撃。同時に初霜さんがさらにペイント弾を放つ。臭いの元がどんどん付着し、耐えられないレベルになってくる。完全にペースが崩れた。最高の搦め手。

今までの猛攻が嘘のように弱まり、その隙を山城姉様が見逃すわけがない。異形の左腕を掴むと、強烈な膝蹴りで叩き折った。神通さんも含めて何度も何度も攻撃を続けてきたからこそ、ついに破壊に至った。

 

「っああっ!?」

「やっと……悲鳴をあげたわね……飛びなさい」

 

左腕を庇うようにした隙をつき、今度は春風を届け終わった扶桑姉様が右側を蹴り飛ばす。そちらの腕も簡単に折れた。同時に扶桑姉様の片脚の艤装が崩壊したが、ここまで来たら終わりも近い。

 

「まだだ……まだだ! ここで、ここで全員……!」

「させませんよ、もう」

 

神通さんが両脚を撃ち抜いた。硬いかもしれないが、もう神通さんならこのくらいのことは出来る。立ち上がることもできなくされたところで、山城姉様が仰向けに転がした。寄生している深海忌雷は海中へ。こうしたのだから、トドメは魚雷だ。

 

「霞、最後よ」

「ええ……手こずらせてくれたわね……。元に戻れればいいわね」

 

魚雷を5本。前回と同じように周囲を囲うように撃ち、5本同時に爆破。背中に寄生した深海忌雷を消滅させるほどの衝撃で、吹雪さんにトドメを刺した。

 

 

 

戦場は散々たるものだった。春風、ガングートさん、飛龍さん、大鳳さんが大破。霞とウォースパイトさんが中破。扶桑姉様が脚部艤装崩壊。神通さんが小破。その他も多かれ少なかれ怪我を負い、疲労困憊。

最後まで引っ掻き回された。あの時、初霜さんに臭い付きペイント弾を撃ってもらったことが全て功を奏した。

 

「負けちゃった……あれだけ大見得切っておいて……」

「……本当に憐れね。アンタ、結局最後までお姫様に利用され続けてたのね」

 

力をさんざん与えられ続け異形の姿になった吹雪さんも、お気に入りと言われていた割には北端上陸姫から援軍も届かなければ、回収されるようなこともない。いいように使われて、負けたために捨てられた。あまりにも憐れ。

結局、長い間戦い続けた深海艦娘は、全て北端上陸姫の実験台。艦娘を深海棲艦に改造する技術まで手に入れてしまったのだから、ここまでの実験は全て成功したということなのだろう。私も含めて、北端上陸姫は自分のやりたいことをやり続けて、ただひたすらに楽しんだわけだ。

そんな中、改造し甲斐のある吹雪さんと、それに対して自分の思った通りの反応をした私がお気に入りなのだろう。特に私は、見たい表情をすべて見せている。

 

「私は憐れじゃない……お姫様は私を改造して楽しんでた……求められていたんだ」

「でも捨てられた。負けたらそれでおしまい」

「……そうだね……そういうことなんだよね……」

 

両腕も、両脚も、深海忌雷も破壊された吹雪さんは、身も心も深海棲艦のままで虚ろな表情をしていた。捨てられたことで、死を受け入れたかのように何もかも諦めた表情。自暴自棄にも見える。

 

「早く殺してよ。私はもう戻れない。深海棲艦なんだから」

「なら私はどうなるんです。貴女と同じように深海棲艦に変えられましたが、ちゃんと鎮守府で生活できています。私の中の深海朝棲姫も、全員に受け入れられました。貴女もこちらに来てください。助かる命なんですから」

「助けないでよ……これ以上、私を惨めにしないでよ……」

 

元の吹雪さんが戻ってきているようだった。深海忌雷が失われても何も変わらないと思っていたが、ほんの少しだけでも、最初の人格は残っているのかもしれない。

それなら、私はこの人を助けたい。

 

『本当にお人よしだな』

「アサは認めてくれない?」

『お前の意思に任せる。こいつは私の怨敵でもあるが、ここまでになると恨みも憎しみも無い。お前がこいつを救いたい気持ちが少しだけわかる』

 

山城姉様に目配せ。私の考えていることも察してくれていた。

 

「吹雪を誰か運べる? 私は扶桑姉様に肩を貸さないといけないわ」

「私が運ぶわ。無傷に近いもの」

「じゃあビスマルク、吹雪をお願い」

 

吹雪さん自身は嫌がっているが、身動きできないのだから私達の好きにさせてもらおう。今の吹雪さんは死にたがっている。そんなこと認めるわけにはいかない。救える命は全て救う。そもそも、吹雪さんは救助対象だ。本人がどう思おうが関係ない。()()()()()()が今回の任務である。

 

「離して……離せ! 私はここで死ぬのがお似合いなんだ!」

「敗者なら勝者の言うことを聞きなさい。アンタは捕虜よ。悪いようにはしないわ」

「殺せ! 殺せよぉ!」

「動かないでもらえる? 貴女臭いのよ」

「誰のせいでこうなってると思ってるんだ!」

 

ジタバタと身悶えるが、ほぼ無傷のビスマルクさんの膂力から抜けることはできない。ずっとグチグチと文句を言っていたが、そのうち消耗しすぎたのかグッタリと動かなくなってしまった。死んでいないことを確認しつつ、私達は帰投する。今回は今までにない大損害だ。

 

 

 

鎮守府に帰投。警戒をしていたのは正解で、東西南北から微々たるものだが敵が来ていたらしい。警戒部隊もフルで活動。防衛部隊も援軍として動き回ったそうだ。消耗が非常に激しい。鎮守府は地獄のような状態だった。

 

「よく帰ってきてくれた! 被害は聞いている! 入渠ドックは妖精さんに頼み込んでどうにか数を増やしたから、すぐに全員入れてくれ!」

「了解しました! すぐに!」

 

帰投直後から大騒ぎだ。こちらの部隊は大破4人中破2人という大損害。

 

「小破は私と睦月のところに来て! 工作艦の修理施設ですぐに直すから!」

 

扶桑姉様は脚部艤装の損傷を明石さんに、神通さんは小破のため睦月さんにお世話になる。ビスマルクさんは吹雪さんを運んだ時についた臭いを取りに工廠の奥へ。

残されたのは私、初霜さん、山城姉様。疲労困憊なのは変わらないのでそのままお風呂に直行。残念ながらお風呂すら大混雑である。

 

「阿鼻叫喚ね……」

「お風呂待ちとか初めてですよ」

 

待っているだけで3人してウトウトし始めている。疲労が溜まっているのがわかった。それだけ今回は激戦だった。一番動いていない私ですら、その場で考え続けたことで精神的に疲労している。

 

「風呂は一眠りしてからでもいいんじゃないかしら……ちょっと疲れたわ……」

「初霜さんはもう寝ちゃってます」

「寝ましょ……結構辛いわ」

 

お風呂はいつでも入ることができる。今は眠ろう。

時津風さんの気持ちがわかるような気がした。




長かった深海艦娘との戦いもいよいよ終幕。初めて顔を出したのが86話『最悪の敵』なので、実に70話の間、延々と苦しめ続けていました。
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