欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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雪解け

大怪我を負った白吹雪さんは入渠ドックに運び込まれた。ギリギリまで耐えてくれたおかげで死は免れたが、損傷が大きすぎるのは確かである。さらに身体が深海棲艦化しているせいで、欠陥(バグ)として残る可能性も非常に高い。入渠により身体が治ったとしても、左腕が動かなくなってしまうかもしれない。

 

「命があるだけマシかもしれませんが、こんなのあんまりです……」

「どうにかできるかはわからないが、できる限りのことはしたい。欠陥(バグ)が無ければいいんだが……」

 

ドックの前で話していても仕方がないのだが、心配なのだからじっとしていられなかった。こればっかりは本当に運なので、何もできないのが本当に歯がゆい。

シンさんの前例から考えると、白吹雪さんは治療が完了しても左腕が後天性欠陥(バグ)で動かなくなる可能性が非常に高い。

 

「あのー、ちょっといいですかね」

 

工廠にやってきた佐久間さんが進言。白吹雪さんの脱走騒ぎはかなり大きくなっており、私達が外に出ている間にいろいろ準備していたらしい。

 

「佐久間君、何かあるのかな」

「今ドックに入れられてる吹雪ちゃん、身体が全部深海棲艦なんですよね。で、欠陥(バグ)が残る可能性がある大怪我を負っていると」

 

後天性の欠陥(バグ)に関しては、この鎮守府に来て知っている。シンさんの脚についても、研究の一環ということで触らせてもらっていた。それを踏まえて、研究の一部を司令官に話す。

 

「深海棲艦は体組織がどの場所も一定なのが分かったんです。なので、入渠ドックの特性からですね、別の部位から正常な細胞を移して……なんてやれば、欠陥(バグ)無しで元に戻せるかもです。シンちゃんみたいに既に定着しているのは無理ですけど、今の状態なら!」

 

なんかとんでもないことを言っている気がするが、佐久間さんが言うには、深海棲艦に限り、欠陥(バグ)発生前に別の部位を犠牲にして回避することが出来るかもしれないということだった。後天性の欠陥(バグ)が発生する可能性があるからこそ出来る治療。

今回の白吹雪さんの場合は、左腕以外の場所から細胞を削って左腕に移動させることで、とある部分を犠牲に五体満足の身体で入渠が終わるのではないかと。

 

「たらればなんで上手くいく保証がありません」

「だが、やってみる価値はあるんだね?」

「はい、ドックの妖精さんにお願いすれば出来るんですかね」

 

私達は眠っている間の話なのでわからないが、ドックの中で私達を治療しているのも妖精さんだ。なので、その妖精さんに頼めば、やってもらいたい治療も出来る。

基本はそんなことはやってはいけないことだ。艦娘を好き勝手に弄ることが出来るようなもの。むしろ誰もそんなことをやろうとはおもわない。下手なことをして艦娘に悪影響があっても困る。

 

「可能性に賭けよう。明石君」

「了解です。佐久間さん、私が通訳するんで、妖精さんにどうすればいいか説明してください」

「おっけーおっけー! 五体満足で仲間になってもらいましょ!」

 

私達の鎮守府は欠陥(バグ)を受け入れている鎮守府だが、事前に防げるのなら防ぎたい。先天性は諦めがつくが、後天性はそれ以上に悔いが残る。シンさんを見ているからこそ、より一層救いたいと思えた。

 

 

 

翌朝、佐久間さんの機転により、白吹雪さんは奇跡の復活を遂げることとなる。その目覚めを見届けるため、私は入渠ドックの前へ。明石さんも佐久間さんも徹夜で作業していたらしく、フラフラしながらも尽力してくれていた。

前回丸一日以上入渠していたものを一晩で終わらせる辺り、佐久間さんの補助がしっかり効いていた。いつもなら妖精さんに任せっきりになる入渠も、ほぼ全ての作業に指示を出すという大仕事である。

 

「お、朝潮ちゃんおはよー……何とかなったよ」

「佐久間さん……本当にお疲れ様です。ありがとうございました」

「研究者冥利につきますなぁ。これでまた一つ、深海棲艦のことがわかったよ。こっちがお礼を言いたいくらい」

 

入渠ドックが開き、治療が完了した。もう命に別状はない。だが、心はどうなっているだろう。

 

「ん、んん……」

 

白吹雪さんが目を覚ました。だが、何処か違和感を覚える。若干だが()()()()

 

「あれ……わたし……」

「おはよう吹雪ちゃん。左腕は動く?」

「ひだりうで……うごきます」

 

佐久間さんがガッツポーズの後、明石さんとハイタッチ。治療は大成功だ。欠陥(バグ)が残りそうな怪我も完全に修復できた。

 

「吹雪さん!」

「朝潮ちゃん……わたし……」

 

ドックの中を見て言葉を失った。治療は成功したが、代償は大きかった。

 

今の白吹雪さんは、幼女と言っても過言ではない背格好になっている。

左腕、肩、胸の一部まで吹き飛ばされた損傷を、欠陥(バグ)を無くすために治療しようとした場合、身体全体から2割ほどの細胞を損傷部分に持ってくる必要があったらしい。結果、白吹雪さんの身体は2割縮むこととなった。身長が150センチだったとしたら120センチに。欠陥(バグ)の克服は、それほどのことなのだと実感する。その代わり、胴体にあったヒビ割れも全て綺麗に治されていた。

それ以外は前と同じ。魚人のような左腕もそのまま。私達と戦っているときより少しデフォルメされたように見え、全体的に可愛らしくなっている。

 

「わたし……助かったの……?」

「ここまで頑張ってくれたおかげです。ただ……欠陥(バグ)が残らないようにする治療をした結果、身体が……」

 

ドックから出てくる。身体のバランスが大きく変化しているのでヨタヨタとフラつくが、すぐに慣れた。小柄な私ですら見下ろすほどだ。本当に小さい。

 

「世界が広い……」

「縮んでますからね」

「そっか……あれだけのことをやったわたしへの罰がこれなんだ……軽すぎるよ……」

 

そういうことをやるように意思を誘導されただけだ。頭の中も改造されているのだから、それはもう仕方がない。

 

「吹雪さん、ありがとうございました。最後に助けてもらわなかったら、私は死んでいました」

「……身体が勝手に動いたんだ。あんなことをしたわたしを、それでも受け入れてくれた朝潮ちゃんは助けないといけないって」

 

そうだったとしても、私には感謝しかない。

 

「あの時に、深海吹雪棲姫は死んだんだね」

「はい。今までの貴女は私とアサが殺しました。新しい人生をその身体で生きてください。一緒に」

「……うん、捨てられたわたしを拾ってくれてありがとう」

 

今の自分を受け入れることは出来そうだった。が、その状態で私を見てから、少し様子が変わる。

 

「朝潮ちゃんが近くにいると……なんだか落ち着く……」

 

今までは敵として相対していたので、私の深海の匂いは敵対心の促進として作用していた。それに白吹雪さん自体も深海の匂いが強かったおかげで中和されていたのかもしれない。

だが、縮んだことで深海の匂いが少し薄れたこと、それと現状を受け入れて私達の仲間になろうと考えてくれたことで、私の深海の匂いの効果が逆転。初霜さんと同様に、好意の促進になってしまっている。

 

「とりあえず服を着ましょう」

「うん」

 

今までが嘘のように素直。敵対していた深海吹雪棲姫としての吹雪さんは本当に死んでしまったようだった。それならそれでいい。ここで新しい道を一緒に歩こう。

 

 

 

午前中は全て検査に使われ、小さな吹雪さんの公表は午後一。再び全員が会議室に集められる。

白吹雪さんの身体は正常と言えるほどに回復していた。以前に危惧されていた身体への負担も無さそう。身体測定に殆どの時間を使われたので、艤装に関してはまた後日ということになった。

 

「皆はもう知っていると思うが、昨晩、白い吹雪君がここを脱走した。それに関してはもう対処は終わっている。吹雪君は再びこの鎮守府に収監され、治療を受けた。今回の議題は昨日に引き続き、吹雪君の処遇だ」

 

未だに肯定派と反対派は真っ二つに分かれている。私は部屋の外で白吹雪さんと待機しているが、中の会話はあまり聞かせたくなかった。自分の生殺与奪の権利は全て会議室にいるものにあり、判断次第で自分は殺されるのだ。恐怖で震えてもおかしくはない。

それでも、白吹雪さんは震えずに、じっと扉を見つめていた。自分の罪と向き合い、死んでもいいと覚悟している。

 

「吹雪君は今、この部屋の前にいる。入ってきてもらうよ」

 

この姿の白吹雪さんを知っているのは工廠組と私、そして司令官だけ。皆はこの姿を見てどう思うだろうか。姿なぞ関係ないと罵るものもいるだろう。憐れに思うものもいるだろう。だが、今回は私が白吹雪さんの味方になる。命の恩人は必ず私が守ってみせる。

 

「大丈夫ですか?」

「……うん、覚悟は出来てる。それに、みんなにも謝らないといけないから」

 

今の身体では会議室の扉も重たいだろう。私が開けてあげ、中に入ってもらう。その姿を見て、少し騒がしかった会議室の中が静まり返った。敵対していた頃とあまりにも違う。

 

「吹雪さんは私の命を救うため、深海忌雷に左の腕と肩、胸の半分を根こそぎ爆破されました。深海棲艦には後天性の欠陥(バグ)が発生する可能性があることは皆さんご存知ですよね。それを回避するため、佐久間さんがこの治療をしてくれました。おかげで吹雪さんは五体満足です。その代償がこの姿ですが」

 

後天性のもの限定とはいえ、欠陥(バグ)を回避する手段が見つかったというだけでも驚きだった。この治療は深海棲艦にしか通用しないが、研究が進めば、先天性のものにまで通用するかもしれない。そうすれば、艦娘にも転用できる可能性だってある。欠陥(バグ)の克服に光が射した瞬間だった。

 

「吹雪さんは私の命の恩人です。それに、あの場で北端上陸姫から決別しました。天龍さんはその現場にいましたから、わかりますよね?」

「ああ。そいつはもうオレ達には敵対しねぇよ」

「それで良しとしろとは言いませんが、私は恩人である吹雪さんを必ず救います。何か言いたいこともあると思いますが、私が反発します。吹雪さんを処分なんて絶対にさせません」

 

もう迷わない。偽善でもいい。

 

「朝潮ちゃん……ちょっと、手を離してもらっていいかな」

 

白吹雪さんとはずっと手を繋いでいたが、お願いされたので手を離す。

 

「今まで……本当にごめんなさい。言い訳はしません。許してくれとも言いません。ただ、謝らせてください」

 

その場で土下座した。

この場にいる誰よりも小さな女の子が、衆人環視の下、誠心誠意の謝罪の意を示した。いくら罪があるとしても、これはあまりにもいたたまれない。先程とは違う理由で騒ついた。

 

「やってはいけないことをいくつもしました。それがお姫様の命令だったとしても、やったのはわたしの意思です。だから、謝り続けます。ごめんなさい」

 

さすがに司令官が起こそうとするが、吹雪さんは土下座をやめない。

 

「都合のいいことを言っているのはわかります。でも、わたしにはこれしか出来ません。どんなことを言われても、どんなことをされても、わたしは受け入れます。ごめんなさい」

 

頭を上げることなく、ずっと、ずっと土下座をし続ける。姿を笠に着た行為だと罵られるかもしれないと、白吹雪さんは会議室の外でそれだけを怖がっていた。

 

「誠意が見えないというのなら、言われた通りのことをします。死ねと言われたら自分で命を断ちます。飲まず食わずで働き続けます。死ぬまで貢献し続けます。何を望まれてもわたしは受け入れます。ごめんなさい」

 

もう見ているのが辛かった。司令官に続き、私も吹雪さんに起きるように説得。私の深海の匂いが効いたか、今度は素直に立ち上がってくれた。それでも伏し目がちな表情。誰とも目が合わせられない。

 

「吹雪さん、人の言うことを聞いて生きていくのでは、前と変わりません。貴女は貴女の意思で生きてください」

「でもそれだと償いにならないよ……望まれるままに奴隷のように働かないと……」

「それがダメなんです。せっかく自由の身になれたんですから、その姿で新しい人生を謳歌してください。私からのお願いはそれだけです」

 

この白吹雪さんのことを全員に受け入れろと言っても無理な話だ。だとしても、解放された白吹雪さんを再び雁字搦めにするのは違う。自由に生きてほしい。

 

「……御姉様、貴女をその姿にした吹雪さんは、鎮守府を襲撃した吹雪さんは、御姉様の目の前で死んだのですね?」

「春風……?」

「その子は、あの吹雪さんとは別人なのではないですか? 姿形は似ていますが、()()とその子は違う人なのでしょう。それでしたら、わたくしはその子を歓迎します。御姉様の命の恩人なのですから」

 

春風はそういう割り切り方をするようだ。

今までの悪逆非道の限りを尽くした吹雪さんは死んだ。代わりに残されたのはこの小さな吹雪さん。その2人は別人であると解釈した。

今までの私の説明も、今までの白吹雪さんの謝罪も、一切無かったことにして、私が戦場でドロップした艦娘を拾ってきたという扱いにしている。

 

「……ええ。昨晩の戦闘で……アサが深海吹雪棲姫を殺した。額に艦載機の機銃を一撃」

「でしたら、その子は別人ですね。受け入れない理由がありません」

 

扶桑姉様の一件以来、春風の心は大きく成長したように思える。そんな風に思っても、簡単に割り切ることなんて出来ない。それでも、春風は受け入れてくれた。

 

「……ありがとう、春風」

「御礼を言われる理由がありません。その子は御姉様が拾ってきた新しい白の深海棲艦なのでしょう。いつものように、仲間として受け入れるのが筋です」

 

春風のこの発言から、反対派の人達も少しだけ白吹雪さんを認めてくれるようになった。反省の誠意だけはずっと見せている。

 

「別人なら吹雪って呼ぶの違うと思う」

 

会議中ではあるが、ミナトさんの膝の上にいたヒメさんが、白吹雪さんの前に歩いてくる。並んでみると殆ど同じ背格好。同じ真っ白な深海棲艦なので、同年の友達にも見える。

 

「ガン、名前付けてあげて。いつもの」

「そうだな。なら、特型の25番艦というのも込めて、(ユキ)というのはどうだ。確か特型は後の方は漢字一字になるんだったよな」

 

はちさんの資料室も使い、命名職人となりつつあるガングートさんが、白吹雪さんに新しい名前を与えた。今までの深海吹雪棲姫、白い吹雪であることを完全に切り捨て、新しい人生を歩めるように。だが今までのことは忘れないようにと関連性のある言葉で。

 

「ユキ。今日からお前はユキだ。吹雪じゃない」

「わたしは……雪、ユキ、ユキ」

 

噛みしめるように自分の新たな名前を呟く。呟く内に涙が溢れていた。恐怖で震えてもあれだけの謝罪をしても泣くことが無かったのに。

 

「わたしは……ここにいていいんでしょうか……」

「いいんです。自分の意思を取り戻したんですから」

 

まだまだ根深いわだかまりはあるだろう。それでも、ここから出ていけという人はいなかった。一番存在を否定していたポーラさんも、今は何も言っていない。この2人のわだかまりだけは、どうしても取り払うことは出来ないと思っている。どれだけ謝っても、どれだけ反省しても、ポーラさんの仲間が帰ってくることはない。誠意だけでは納得出来ないだろう。

 

「加藤准将、つきましては、私佐久間から提案が」

「佐久間君は今回の功労者だからね。何かな?」

「ふぶ……じゃなくて、雪ちゃんは、私が面倒見てもいいですか? 例の処置の事後観察とかしたいので」

 

などと言いながら手をワキワキさせている佐久間さん。五体満足で吹雪さん……ではなく、雪さんがここに居られるのは、紛れもなく佐久間さんのおかげだ。雪さん自身も、恩人である佐久間さんに貢献するために、なんの躊躇いもなく了承した。

 

「お姉さんとイイコトしようねぇ、ふひ、ふひひ」

「え、えっと……」

「雪さん、本当に危ないと思ったら私を頼ってください」

 

すぐに私の陰に隠れる。やはり深海の匂いがそちら方面に作用しているようだった。私にだけは即座に懐いてくれた。

 

これで、北端上陸姫に囚われていた8人の深海艦娘は全員救出することが出来た。次の北への出撃が最終決戦だ。




小さい深海吹雪棲姫は劇場版艦これにも出てきました。幼女形態、少女形態、女性形態の3段階持つ中の最初の状態。ここでは逆行の形になりました。
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