欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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姉妹の存在

「て、手、絶対離さないでよ!? 絶対よ!?」

 

霞の配属が決まった翌日、早速水上訓練が始まった。小動物のように小刻みに震え、私、朝潮の手を物凄く強く握ってくる。支えてあげようと決意したが、まず物理的に支えることになるとは思わなかった。

 

「海の上がこんなに難しいだなんて……!」

「最初は私もそうだったわ。何回もダイブしたもの」

「なんで水着着せられたのかと思ったけど、これは想定してなかったわ」

 

今はただ立つだけなのだが、これがなかなか安定しない。

私も大分苦戦したのを思い出す。毎日水浸しになりながら頑張って覚えたものだ。

 

「ちょっ、バランス、あああっ!?」

「濡れるなら1人でお願い」

 

バランスを崩して倒れそうになったので手を離す。こうやって濡れながらの方が覚えられるだろう。見事に霞は水没し、びしょ濡れになった。

1日や2日でできるようなものではない。まず立つだけでも結構時間がかかる。その後移動、さらには移動速度を上げて、戦場に出られるところまで持っていかないといけない。

 

「酷い目にあったわ……」

「みんな通る道よ。頑張って」

 

こればっかりは自分の力で覚えてもらわないといけない。とにかく説明が難しいのだ。私も今何故簡単に立てているかが説明できない。陸地を歩く方法を教えられないのと同じだ。

 

「そのうち地面に立つみたいに水の上を立てるようになるわ」

「コツを掴むまでが大変そうね……」

 

大分濡れてきたので、今日の水上訓練は一旦終了。私のサポートがあったとしても、水上に立つということをしたわけだから、これから筋肉痛で悲鳴をあげるに違いない。

 

 

 

霞が配属されたことで少し私の周りがバタバタしたが、また普段の日常が戻ってきた。変わったのは、霞の訓練を私が見るようになったことくらいだ。

今やれることと言えば水上訓練くらいだし、いざ戦闘訓練になったら私はお役御免。魚雷は専門外なので、他の人に任せるしかない。

 

「ちゃんとお姉ちゃんやってんだね朝潮ってば」

「姉ですから、面倒は見たくなりますよ」

 

哨戒任務中、白露さんに茶化される。

初めての任務なのだが、先に戦闘を経験してしまっているため、部隊は通常通りの駆逐艦3人の形をとられた。私もそれで大丈夫だと思う。緊張感が薄らいでいる感は否めない。

今日の部隊は白露さんと皐月さんの3人編成。主砲に白露さん、対空に皐月さん、対潜に私と役割分担もできている。

 

「電探反応なーし」

「ソナーに感なし。敵影ありません」

「じゃあ次の地点に向かうよー」

 

旗艦は主砲担当の白露さん。白露さんが目視による周囲警戒、皐月さんが電探で、私がソナーで敵の反応が無いことを確認して次の地点へ移動。これを繰り返すだけの比較的簡単な任務だ。

だがこれにより先日の救援任務ができたので、怠ることは許されない。他鎮守府の援護もそうだが、私達の鎮守府を危険に晒す可能性もある。だからこそ毎日念入りに行う必要があるのだ。

 

「この前の救援が敵の大艦隊だったんでしょ? 残党くらい残ってるかと思ったけど、撤退したのかな」

「あの時は全然追ってこなかったよね。朝潮見てた?」

「清霜さんの主砲である程度蹴散らしていたと思いますけど、確認はしてませんね。霞のことで手一杯でした」

 

初めての戦場なのもあり、敵のことはあまり見えていなかった。艦載機を墜とすことに集中していた。最後の撤退はほとんど振り返っていない。先頭もしんがりも任せていたからこそ、それでどうにかなっている。

実際、あの戦闘の後から付近の哨戒任務を増やしていたそうだが、敵の姿は見えないそうだ。敵も今は警戒しているのかもしれない。

 

「何事も無いならその方がいいよ」

「ですね。平和が一番です」

 

低速の白露さんに合わせてゆっくりとした哨戒。のんびりと散歩をしているような任務。たまにはこんな日もいいだろう。

 

「ん、あれは別の鎮守府の部隊かな」

 

哨戒中、私達の鎮守府とは違う艦娘の部隊を見つける。こういった時に情報交換をして、海域の状態をより広く知るのだとか。海の真ん中に作られた最前線の鎮守府だとしても、そこから確認できる海域は思いの外狭い。

 

「すみませーん、ちょっといいですかー?」

 

向こうから話しかけられた。

あちらは遠洋練習航海なのだろう、旗艦は練習巡洋艦の鹿島さん。その後ろには、睦月型の子が4人。全員皐月さんの姉に当たる。

遠洋練習航海はその名の通り、鎮守府から遠く離れた土地まで行って戻る訓練。そうすることで、長期の海上移動の訓練にあてる。また鎮守府外で一晩野営することも目的だ。戦場では何が起こるかわからない。救援を待つために野営をする可能性も大いにある。それの練習も兼ねている。

 

「最前線の鎮守府の方々ですよね?」

「そうですよ。そちらはピクニッ……もとい、遠洋練習航海ですね」

 

白露さんが鹿島さんと話をしている間に、随伴艦の姉4人にもみくちゃにされている皐月さん。なんというか、とても微笑ましい。別の鎮守府の別の艦娘でも姉妹は姉妹。こういう出会いもあるわけだ。私もその内、別の妹達と会うかもしれない。

 

「なるほど、この辺りで大規模な戦闘が」

「まだ残党が残ってるかもしれないんで、気をつけてくださいね。今のところあたし達の哨戒には引っかかってないですけど」

「了解しました。迂回して進むことにします。ありがとうございました」

 

鹿島さんの号令で皐月さんの妹達は練習航海に戻っていった。残された皐月さんは交戦した後のように髪がボサボサにされていた。

 

「ボクのとこのお姉ちゃん達はどうしてこう落ち着きが無いのか……」

「それやってたのおおよそ1人だけですよね」

「卯月姉ちゃんね。時っちゃんと別の方向で厄介だよ」

 

溜息をつきながら髪を直している。

白露さんは鹿島さんから貰った情報を司令官に伝えていた。今から向かう方向の近海では、敵勢力の目立った行動は今のところ見られていないそうだ。この情報により、私達の哨戒ルートを少し短縮することに。

 

「皐月ぃ、やっぱお姉ちゃんっていいもの?」

 

ネームシップである白露さんが問いかける。私も長女なので姉というのは少しわからない。

皐月さんは本人含めて12人いる睦月型の5番目、大体真ん中。上も多ければ下も多い。

 

「悪い気分じゃないよ。うちの鎮守府にはいないけど、ああやってたまたま会うと構ってくれてさ。たまに甘えたり」

「私も白露さんも長女だからちょっとわからない感覚ですね」

 

少し姉妹が恋しくなってきた。帰れば霞がいるけど、他の姉妹にも会ってみたい。

 

 

 

哨戒任務は何事もなく終了。敵影見ずだ。

だが、帰投して工廠に入ったところで霞が浮かんでいるのを見てしまった。あれは心臓に悪い。

 

「か、霞!? 大丈夫!?」

「死ぬかと思ったわ……」

 

私がいない間も水上移動の訓練をしていたようだ。努力は認めるし、早く次に進みたい気持ちもわかるが、せめて誰かいるときにやってもらいたい。

これだとどうしても過保護になってしまいそうになる。吹雪さんのことをとやかく言えない。

 

「1人で訓練するのはもう少しできるようになってからお願い」

「そうね……これは私が悪かったわ」

 

その光景を見ていた白露さんと皐月さん。これくらいの距離感がベストだと感心していた。

今まで見ていた姉妹間のやり取りは吹雪さんが基準だ。あの人は深雪さんを甘やかすだけ甘やかしたらしい。結果、深雪さんの訓練は普通以上に時間がかかったそうだ。その過保護っぷりは潮さんや響さんにも行きかけたが深雪さんが全力で止めたのだとか。

 

「はいはい、じゃあ一度休憩。私達はお風呂行くけど、霞は?」

「これだけ濡れたし、私も行くわ」

 

白露さん達はすでにお風呂に向かっていた。私達も追うようにお風呂へ向かう。霞も私の後を追うようについてきた。

 

「少し遅くなりました」

 

先に湯船に浸かっていた白露さんが、私の身体をマジマジと見つめる。同性でも裸をそんなに見られると流石に恥ずかしい。

 

「朝潮さ、なんか身体引き締まってきたよね」

「えっ、そ、そうですか?」

 

自分では気付かなかったが、他人から見るとそうなのだろうか。少しでも成長できるかと思い、余裕があるときは筋トレをしていたが、それの成果が出ているのかもしれない。

 

「わ、ホントだ。ちょっと筋肉わかるよ」

「ジム行ってるもんね。山城さんと筋トレやってんでしょ?」

「やってますよ。山城さんがメニュー組んでくれますし。見ただけで何処を鍛えたらいいか指摘してくれるので」

 

あの特技だけはすごいと思う。私に必要な、的確なアドバイスをしてくれるので本当に助かるのだが、服の上から私の鍛え方がわかるというのは少し怖い。

 

「二の腕とか私と全然違うわ」

「最近は上半身の筋トレもしてて」

 

対空と対潜に腕の筋肉はいらないとは思うのだが、山城さんが言うに、バランスを取るために全身を満遍なく鍛えた方が海上での移動もしやすくなるとのこと。実際それは実感している。

 

「ちょっと触らせて」

「ボクは腹筋を……わっ、すごい、ボクと全然違う!」

「太腿も鍛えてるねぇ」

 

だんだんくすぐったくなってきた。3人がかりで撫で回されるのはさすがに困る。あと、だんだん際どい部分も触ろうとしてくるのは本当にやめてほしい。

 

「あたしも鍛えた方がいいかなぁ。対空できないだけだからせめて主砲使う腕くらいは……」

「白露さんは下半身じゃないですか? 古鷹さんが移動に難があるって言ってましたよ」

「げっ、それはヤバイ。ちゃんと鍛えよ」

 

少しだけだが、私も筋トレのことがわかってきた。山城さんほどではないが、これくらいのアドバイスくらいならできそうだ。とりあえず下半身強化が必要なのは、経験上痛いほどわかっている。私は水上移動をマスターした後から始めているが、霞には今からでもいいくらいじゃなかろうか。

 

「霞は魚雷特化に行くんだよね。まさか格闘戦……」

「あれは私には無理よ。あんなバケモノにはなれないわ」

「誰がバケモノですって?」

 

急に聞きなれた声がして全員が硬直する。壊れたおもちゃのように振り向くと、そこには仁王立ちの山城さんがいた。お風呂なので当然裸である。もう少し羞恥心を持ってもらえるとありがたかった。

 

「霞、水上移動を安定させるなら筋トレよ。バランス感覚と筋肉は密接な関係があるの。まず下半身、上体のブレを抑えるためにも確実に鍛える必要があるわ。勿論腹筋と背筋も安定させるために必要ね。これは全部朝潮にも伝えているけど。というかアンタ魚雷以外装備できなかったわよね。私達のところにいらっしゃい。格闘戦を極めさせてあげるわ」

「ひっ……」

 

早口で筋トレの説明をしだしたので霞が怯え始めた。白露さんと皐月さんが逃げようとしていたので、脚を掴んで逃がさないようにする。

筋肉の話をしている山城さんは少し怖い。事あるごとに筋トレを勧めてくるその姿は新興宗教の勧誘に近かった。不幸を払拭できる筋トレ教……違和感がない。

 

「駆逐艦の華奢な身体も筋トレさえすればオールマイティな戦力へと生まれ変われるわ。まず白露」

「はいっ!?」

「アンタは下半身が弱い。低速化なんて関係なしに、移動射撃で安定しなくなるわよ。いっちばーんになりたいならまず下半身を重点にした筋トレ。次、皐月」

「ぼ、ボクも!?」

「アンタは腹筋と背筋。対空要員なら高角砲を撃ってもピクリとも動かないくらい安定させなさい。特に腹筋、反動軽減のときに力むでしょう。そこが鍛えられていればさらに安定するわ」

 

アドバイスは的確なのだが、勢いが怖い。霞に至っては私の腕に抱きついて震えていた。欠陥(バグ)について説明されていた時よりも怯えている気がする。

 

「こら山城、皆が怯えているぞ」

 

山城さんのマシンガントークを遮ってくれたのは同じく白兵戦専門のガングートさん。山城さんに勝つために筋トレ組に入っているが、新興宗教に入信したわけではなさそうで安心している。

 

「すまないな。コイツは筋肉の事になるとタガが外れる」

「いつもの事なので大丈夫ですよ。霞、もう大丈夫だから」

 

腕が痺れるほど強く抱きしめられているので、霞の恐怖は余程なのだろう。頭を撫でて落ち着かせる。少しは落ち着いたのか、腕を離して恥ずかしそうにしていた。

 

ガングートさんが山城さんを引っ張っていった後、白露さんがふと思い出したように話し始める。

 

「あたしさ、友軍艦隊に参加した時に別の鎮守府の霞を見たことあるんだけどさ」

「別の私? 何も変わらないでしょ」

「と思うじゃん。やっぱ鎮守府ごとに個体差みたいなの出るっぽくてさ、そこの霞、なんていうか激しい子でさ」

 

白露さんの見た霞は、部隊を引っ張り、時には叱咤激励して、自分も含めて誰も甘やかさないような性格だったそうだ。司令官との通信でも、上司に向かって放つ言葉ではないようなことまで言っていたらしい。

今の霞を見ると、そういった部分は見受けられない。そうなれとは思わないが。

 

「どっちが基本の霞に近いのか知らないけど、あたしはこっちの霞の方が好きだなー。お姉ちゃんっ子な霞の方がさ」

「そ、そんな風に見える……?」

「今朝、朝潮の部屋から出てきたのボク見たよ。一緒に寝たんでしょ。甘えん坊だなぁ」

 

言葉にされると猛烈に恥ずかしくなってきたらしく、頭を抱えて水没していく。

個体差があるというのはすぐに理解できた。この鎮守府にはその筆頭となる山城さんがいる。敷波さんから聞いた山城さんは、終始ネガティブで姉のことばかり考えているような人らしい。だが、ここの山城さんはネガティブのネの字もないし、姉のことを話しているところを私は見ていない。おそらく真逆の位置にいる。

 

ここの鎮守府の艦娘は、おそらく他の艦娘とは違う要素ばかりなのだろう。でも、それで成り立っているのだからそれでいい。私も今のままで、霞も今のままで。




シスコンで甘えん坊な霞。でも司令官にはいつもの調子で行きたいけど、多分ここの司令官にクズとは言えない。最初から信頼度MAX。
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