欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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最後の援軍

金剛さん主催のお茶会に参加し、心身ともにリラックスすることができた私、朝潮。いや、私よりアサの方が癒されたかもしれない。金剛さんと話すアサは、いつになく饒舌だった。無愛想ではあったが、お茶会を楽しんでいたのがわかった。今までと違うことに興味を持ってくれたのは私としても嬉しい。

 

そして、次の日。元帥閣下到着の日。

その日は朝からバタバタしていた。その日中に決戦に向かうことは無いとは思うが、最後の援軍がやってくる。そのメンバーが最強の部隊と名高い元帥閣下の護衛艦娘である。私達は一度ならず会っているが、浦城司令官の鎮守府の方々は初めて会うそうで、今までにない緊張感を持っている。あの神通さんもである。

 

「久しぶりだなぁ。会いたかった!」

「そうですね。武蔵さんには挨拶しなくてはいけません」

「春風ちゃんも武蔵さんと仲よかったもんね!」

 

そろそろ到着という報せを受け、私は司令官と港にやってきた。縁が深い春風と清霜さんも一緒。

 

「あ、来ましたね。電探に反応入りました」

「人数は?」

「元帥閣下の乗る大発動艇込みで7つ。確か長門さんが大発動艇の運用が出来るんでしたよね」

 

元帥閣下からの援軍は、以前訓練の相手をしてくれた6人。一航戦、赤城さんと加賀さん、大和型大戦艦の大和さんと武蔵さん、ビッグセブンの長門さん、そして奇跡の駆逐艦、雪風さん。精鋭中の精鋭。

少し怖いのは、元帥閣下が大発動艇の船首に立っていることだった。それなりにスピードが出ているのだが、微動だにしていない。元帥閣下も司令官と同様、艦娘相手には無敵と言える戦闘能力を持っているのかもしれない。老体に鞭打っているようには見えなかった。

 

「あの、元帥閣下が大発動艇の艇首に立ってるんですけど」

「爺さん、今回は本気だな。気合いを入れるときは海の風を感じたいと言ってそうするんだ」

 

一度や二度のことではないようだが、知らない私としてはヒヤヒヤする。そのまま港に到着し、その足で降り立つ。危なげない足腰。見た目とまるであってない。

 

「洗脳された艦娘8人の奪還、よく成し遂げてくれた。いろいろと犠牲もあったようだが……」

「ああ……だが誰も命を落としていない。首の皮一枚だよ」

 

到着するや否や、元帥閣下含む7人の視点は私に集中する。今日はあえてアサの服で出向いた。変わり果てた私を見てもらおうと思った結果である。アサ自体は思考の海に引っ込んでいるが、機会を見て挨拶してもらおう。

 

「お久しぶりです、皆さん。視線が痛いです」

「いや、様変わりしすぎですよね。長門さんから話は聞いていましたが」

「私が最後に見たときよりもさらに変わっているぞ」

 

一番反応を見せたのは雪風さんだった。角を握るわ服を引っ張るわで興味が尽きないようだ。出来ることなら角はやめてもらいたい。それなりに痛い。

 

「春風、清霜、元気にしていたか?」

「いろいろありましたが、わたくしは元気です」

「はい! 名誉大和型清霜! 今日も元気です!」

「そうかそうか、ならば良し!」

 

2人は早速縁のある武蔵さんに捕まっていた。春風も大分慣れたものだった。外部の人の中でもここまで仲良くできている人は、武蔵さんか夕立さんくらいだろう。

 

「早速じゃが、作戦会議と行こうか。決戦は明日。今日一日で決めるぞ」

「ああ、よろしく頼むよ、元帥閣下」

 

ここからは司令官と元帥閣下で作戦を練ることになる。そこに説明は大淀さん、敵陣地のこともわかっている私、そして援軍リーダーの赤城さんを加えた5人での作戦会議となる。

前々から思っていたが、そんな重要な作戦会議に一介の駆逐艦が参加していいものなのだろうかと思ったが、全員が口を揃えてお前が参加せずにどうすると言ってきた。敵の陣地を知り、敵の持つ未知の技術を2回も受け、気分が悪いことに敵に気に入られている私だからこそ、作戦立案出来るだろうと。

 

「朝潮ちゃんや、いろいろ頼むぞい。君が一番敵を知っていると聞いておる」

「了解しました。私に出来ることをやらせていただきます」

 

元帥閣下にまで頼られるとなると、頑張らざるを得ない。

 

 

 

執務室、5人で作戦を立てる。私もいくつか意見を出して、明日の決戦への準備は着々と進んでいく。

私は少し前に陣地の付近まで行き、姫2人とも会話をしている。その経験が大きかった。近場に何があるか、どんな戦術を今までやってきたかも、ある程度は知っている。ここに来て私達の知らないことをやってくる可能性はまだまだあるが、敵の戦術を何度も受けている経験は生きている。

 

「海中を見ることが出来る眼鏡とやらは、いくつあるんじゃ?」

「春風君や瑞穂君に使ってもらった1つだけだったが、明石君に頼んでもう2つ増やしてもらった。爆雷が使えるものに装備してもらい、海中からの攻撃への対策を考えている」

 

最も警戒しているのはやはり海中からの攻撃。電探にもソナーにも気配も引っかからない深海忌雷と、捕まったら身体を書き換えられ洗脳されてしまう鎖の存在は、例えどれだけ強い艦娘でも脅威となり得る。対策は最優先。

 

「敵の数は未知数ですが、深海棲艦としてはまだ倒しやすい方だと思います。鬼級や姫級も、通常より大分強いですが、対処は可能です」

「となると、問題はやはり深海艦娘のような隠し球……」

「まだいるかはわかりませんが、可能性だけは考えておくべきです」

 

漣さんの証言から、深海艦娘は8人のみであると考えられているが、誰にも見えないところで9人目以降を作っているかもしれない。雪さんがこちらに救出されたのだから、もういないと見越して行ったところに、足をすくわれる可能性はある。

 

「鎖による洗脳ではなく、遠隔操作の場合はその場で処置が必要だ」

「深海棲艦化されている場合……説得に応じてくれればいいですが、そうでなければもう討伐しかありません。どうやっても元に戻せないのは実証済みです。雪さんは戻ったのではなく改心しただけですから」

 

今ある情報は何もかも疑って行った方がいい。出来ないと思っていた半深海棲艦を人工的に生み出すほどの敵だ。そもそも洗脳が出来る鎖というもの自体がおかしい。艦娘の常識に囚われていてはいけない。

鎖は8本であるというのも忘れるべきだろう。今なら増えている可能性がある。私の耳にあるイヤリングも、次の洗脳電波に対応できない可能性だってある。最悪の可能性を全て排除することは出来ないだろうが、出来る限りはしなくてはいけない。

 

「運用できる大発動艇は?」

「爺さんが乗ってきたものも含めて4台。内火艇もある」

「陸まで上がれれば何とか出来そうじゃな」

WG42(ロケラン)もありますから、対地攻撃は充分かと」

 

私は敵の陣地に足を付けているが、大発動艇は効果的だとは思えた。それすらも効かない陸上型深海棲艦と言われてしまうと、打つ手がないわけではないがかなり厳しくなる。それだけは大丈夫であってほしいものだ。

 

「他に危険なことは何か思い当たるか?」

「……1つだけ。全てに疑問を持つのなら、これは考えておいた方がいいことです」

 

陸上型深海棲艦の特性であり、私達の鎮守府の人間しか知らない事実。陣地ごと移動できることだ。鎮守府が丸々1つ入っているような超大型の陣地であっても、戦闘中に移動してしまう可能性が無いとは言えない。

 

「陣地ごと移動じゃと? そんな情報聞いたことないぞ」

「本来はする理由が無いからだろう。拠点と決めた位置を動くのは、逃走以外にほとんど無いさ」

「私達は移動してくる瞬間を見ています。浮上してくるところですが」

 

逆に司令官は沈没していくところを見ていたそうだ。ミナトさんとヒメさんの陣地が北の防衛線にまで移動してきた時、鎮守府近海にあった陣地が地響きを立てながら海に沈んでいったらしい。こちらでは海が揺れながら海底がせり上がってきた。

それをやられたら、こればっかりは打つ手がない。その前に撃破することが出来ればいいが。

 

「出来ることなら速攻をかけた方がいいということか」

「私はそう思います。そういうことがしづらい戦場にしてくるとは思いますが」

 

大型艦での火力、対地攻撃持ちの軽巡、駆逐でのゴリ押しが私の中では一番確実ではないかと思っている。岩礁帯や随伴艦が邪魔な可能性があるので、空母による速攻がいいかもしれない。

 

「よし、ではここからは儂と加藤の仕事じゃな。ありがとう朝潮ちゃん、いい情報じゃった」

「お力になれてよかったです」

「ところで……その角を触らせてほしいん」

 

全部言い切る前に赤城さんがはたいた。

 

「セクハラで弾劾裁判も辞さない」

「赤城君。私もサポートしよう」

「冗談! 冗談だから!」

「おじいちゃん、これはその、ごめんなさい」

 

緊張感のある作戦会議も妙な形で和んだ。ここからは2人で部隊を決めるとのことで、私は執務室を出ることとなった。大淀さんはサポート、赤城さんはあり得ないが護衛任務の真っ最中のため、嫌でも近くにいないといけないとのこと。相変わらず歯に衣着せない言い方であるが、それで成り立っているのだから元帥閣下のところはいい雰囲気の鎮守府なのだろう。

 

 

 

こうなるとやることが無くなるので、人が集まっているところへ。会議中から気にはなっていたところはあった。演習の場である。

 

「おー朝潮、来たね。そりゃあ気になるよねぇ」

「まぁこれは仕方ないですよね」

 

岸で北上さんが演習を眺めていたので便乗させてもらった。今演習中なのは、扶桑姉様と武蔵さん。まさかの互角である。

一度山城姉様にやられたことでさらに鍛錬を積んだらしく、今回は山城姉様との1対1の演習に勝利したらしい。そこで次はということで扶桑姉様が相手をしている状態。あれにまともに対応できている人を見るのは正直初めてである。

 

「はっはっはっ! ここの扶桑姉妹は面白いなぁ!」

「そう……それはよかったわ……妹の仇を取らないと……ね」

 

主砲まで使う独自の白兵戦に昇華された武蔵さんの戦闘法は、遠目で見ていても何かがおかしい。扶桑姉様が圧倒されそうになる。互角から徐々に押され始め、ついには攻撃が当たり始めてしまった。

だが、扶桑姉様も私が見ていることに気付いただろう。突然攻撃の精度が上がる。

 

「ごめんなさいね……妹2人の前では……負けられないのよ」

「うぉっ!?」

 

そのまま押し返してしまった。妹2人の視線で急にスペックが跳ね上がっていた。勝ちが決まったところでこちらを見て小さく手を振ってきたので、私も手を振り返す。

 

「ここの扶桑姉妹はバケモンか何かかな」

「そんなことはないと思いますけど」

「アンタもだよ扶桑型3番艦」

 

北上さんも呆れ顔である。

 

「ただ惜しいよねぇ。扶桑さん、赤い海に行くのしんどいんでしょ」

「そうですね。上から被せる艤装は戦闘中に壊れてしまいましたし」

「あんなバケモンがまた出てきたらどうするよ。扶桑さんが行かないなら山城さんも行かないんでしょ」

 

無いとは言えないから困ったものだ。扶桑姉妹抜きで戦うとなると、どうにかして赤い海から外に出すかしなくてはいけない。武蔵さんが部隊に入ることが確定した瞬間でもある。

 

「また来るのも、無いとは言えませんしね」

「白い吹雪の件でもエグいことになってたしなぁ。4人大破2人中破だっけ」

「その上で扶桑姉様が脚部艤装損傷、神通さんが小破です」

 

12人がかりでこれである。私の経験した戦闘で1番の損害だ。

 

「弱点らしい弱点も見つからないんだよなぁ。ずっと観察してるんだけどさ。朝潮なんかわかんない?」

「私も回避するのが精一杯ですね。それですら身体が追いつかない場合もあります」

「せめて攻略法があればなぁ」

 

武蔵さんの場合は結局上から捻り潰そうとする、最強の戦艦ならではのゴリ押し戦法だ。1対1ならまだ何とかなるかもしれないが、同じようなものに囲まれたとしたら、たまったものじゃない。

北上さん以上に私は扶桑姉様の戦い方を観察しているが、ゴリ押しもゴリ押しで弱点らしいものも見つからなかった。白吹雪さんの時のように、本来なら戦場に出てくるはずもないもので不意打ちできるのならいいのだが。

 

今度は武蔵さんに神通さんが立ち向かっている。本当に好戦的な人だ。ここでは比較的負けが込んでいるので、演習には率先して参加していた。滅多なことでは相手をしてもらえない護衛艦娘となると、何を捨ててでも相手をしてもらいたいのだろう。

 

「あーあ、また神通が喧嘩ふっかけてる。ありゃあどうにかならないもんかねぇ」

「そういう性分なんでしょう。そちらの神通さんは」

「ここだと負けが込んでるからいろいろやりたいんでしょ。扶桑さんどころか朝潮に負けたんだもんよ」

 

私というよりは、アサが勝った。時間をかけてじっくりと、回避し続けて当てる『負けない戦術』である。正直、似たような戦術を取る龍田さんには精度の差もあり勝てる気がしない。後ろに天龍さんがいれば尚更。

 

「神通さんは負けから物凄く学びますから。次は私が勝てるかわかりませんよ」

「またまた。朝潮の『心を折る戦術』はなかなかのもんだよ。無傷で終わらせるためにゃ一番必要な技術かもしれないね」

 

もう少し言い方を考えてほしいが、実際、相手の心が折れてくれればこちらは無傷で済む。負けないためにはそれが一番だ。

 

「やってるわね。武蔵が喧嘩っ早くてごめんなさいね」

「加賀さん。いえいえ、こちらもいい訓練になりますので」

「むしろうちの神通に謝らせたいよ」

 

後ろに加賀さんがやってくる。赤城さんがまだ作戦会議中のため、暇を持て余していたらしい。先程まではここに揃っていた二航戦をしごきにしごいていたらしいが、2人ともギブアップしたのだとか。

 

「朝潮、貴女のことは皆に聞いたわ。いろいろあったみたいね」

「はい。でも大丈夫です。おかげさまで強くなれました」

「そう……慢心はダメよ」

「理解しています。驕りません」

 

以前に最上さんから言われた言葉を思い出す。誇れど驕らず。私は今でこそ攻撃する手段を手に入れたが、この鎮守府では最弱の存在だ。守ってもらわないとどうにもならない。回避し続けるのだって限界があるのだから。

 

「あ、神通負けた。あいつここでどんだけ負けたよ」

「私と扶桑姉様と武蔵さんなので3回ですね」

 

負けのことが聞こえたのだろう。ゆっくりとこちらを振り向く。そして北上さんに向かって、手招き。演習(ケンカ)するぞという合図。北上さんも舌を出しながらも神通さんの方へと向かった。満更では無さそう。

 

「ここの神通は普通と違うわね。あんなに好戦的だったかしら」

「個体差出てますよね。私は他の神通さんを見たことが無いんですけど」

 

遠目で見ていても白熱している演習(ケンカ)。武蔵さんも見物しながら大盛り上がりだ。私も春風と似たようなことをしたから、あの楽しさがわかっている。

 

「私も参加しようかしら。ここから艦載機で横槍でも」

「せめて許可を取ってからにしましょうね」

 

決戦の後、またこうやって出来ればいいと思う。そのためにも、全員生きて帰るのだ。

 




元帥閣下からの援軍が来ました。25話から続いてきた北の陣地の話も、ついに佳境を迎えます。
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