欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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心静かに

北の拠点攻略が終わり、1週間ほどが過ぎた。人工島に作られた最前線の鎮守府の奮闘は全鎮守府に発表され、その功績から勲章を授与された。北に出現した未知なる力を持つ深海棲艦を撃退したことは大きな評価を得られ、司令官は階級を准将から少将へと上げることとなる。

また、私、朝潮のような被害者に関しても、敵の攻撃がこういうものであるという証明となり、その存在を認められることとなった。身体自体は深海棲艦である私も、外部の鎮守府の人と交流が可能になったということである。外見で咎められることが無くなったのはとてもありがたかった。理解者が増えたのはとても嬉しい。私が成長した姿になっていることはまだ知られていないが。

 

だが、まだ問題は残っている。あの場から撤退した北端上陸姫は依然見つからぬまま。北の拠点の周辺は勿論のこと、私達が出来る限りの哨戒ルートは何度も確認しているが気配すら見当たらない。潜水艦姉妹まで使った潜水艦部隊の全方位探索を以てしても、今は見つかっていない状態である。

撤退を最初から視野に入れていた立ち回りだった。霞を洗脳し、壁にする以外にこれといった攻撃はされなかった。本当に戦闘が不得手なのがわかる。自分達では戦わず、他人に自分を守らせる。その代わりに力を与える。深海棲艦としては今までに一度も確認されていない頭脳派だ。これには大本営も頭を悩ませているらしい。

 

「いやぁ、この1週間で大分落ち着いたねぇ」

「そうですね。静かな日常は願ったり叶ったりです」

「朝潮ちゃんも穏やかに過ごせてるみたいだしね」

 

佐久間さんと朝食を摂りながら話す。

定期的に検査をしてもらい、私の中の爆弾は充分に沈静化していそうという判断になった。これ以上の身体の変化も今のところは確認されていない。ちょっとしたいざこざでは思考の海が熱くなるようなこともなく、アサも安心して過ごせている。

 

「悪いことが無いのはいいことだよね。私も研究が捗る捗る」

「あまりレキとクウにおかしなことをしないでくださいよ。私の娘みたいなものなんですから」

「わかってますって。髪の毛や艤装の一部を貰って研究してるだけだから安心して。あ、でもレキちゃんは注射だけは嫌がるから、それはやめておくよ」

 

佐久間さんの研究も少しずつだが進んでいる。謎が多い深海棲艦の一部だけでもわかれば、今後やれることが増える。司令官も佐久間さんを支持していた。

 

「ところで、あれは佐久間さんの差し金ですか?」

「差し金とは失礼な。雪ちゃんが自分でやりたいって言ったの。いい進歩でしょ。自分で()()()んだよ」

 

雪さんは今、その小さい身体で動き回りながら朝食当番を頑張っている。吹雪さんと叢雲さんのサポートという形だが、鎮守府に貢献したいという意思の表れ。戦闘には出ないものの、鎮守府の雑務をそれなりにこなしており、徐々にだがわだかまりが薄れてきていた。健気な姿で癒される人もいるほどである。

ポーラさんだけは確執が深すぎてどうにもならないが、それはお互いに理解していること。不可侵を貫くことで余計ないざこざは起こさないようにしている。それでもたまに一緒にあの島に行っているようだ。

 

「私が言っているのはそこではなく、雪さんがメイド服を着ていることです」

「あ、それは私の差し金。あと叢雲ちゃんが大喜びしたから」

 

叢雲さんも霞と似たようなタイプであることが判明した。大きな姉に対しても敬愛が見えるが、小さな姉に対しては溺愛も溺愛。今では自分の部屋に匿っているほどである。

 

「まぁ鎮守府に馴染んでくれているのはいいことです」

「でしょ? それに似合ってるからヨシ!」

「そこが全てでしょう貴女の場合」

 

苦笑する。佐久間さんと話していると本当に面白い。もうムードメーカーと言ってもいいほどだろう。

 

 

 

この1週間で、私の生活の基準は、より穏健派の深海棲艦に近いものとなっていた。穏やかに過ごして、自分の中の爆弾を沈静化したままとすることが目的。そのため、週に3回は領海で気分を落ち着けている。それを一番喜んでいるのは、他ならぬアサであった。さすが本能の化身、私の望むことをよく理解している。

当然だが哨戒も兼ねているので随伴はいる。哨戒と称して島でゆっくりできるというのがなかなか魅力的らしく、私の随伴は人気が高い。ある意味サボりのようなものではあるが、私は自分の身体のためである。前回はレキとクウが、その前は深雪さんと電さんが随伴として便乗した。

 

「ここが一番落ち着くわ」

「そうですね。いろいろありましたけど、ここが落ち着きます」

 

本日の随伴は霞と初霜さん。後天性半深海棲艦コンビ。やはりこの場所は深海棲艦を落ち着かせる何かがあるような気がしてならない。

 

「海が赤くなるな……離れれば元に戻るが」

「割と困った体質よね。島の周りだけだからいいけど」

 

進化させられたことでより侵食の力が強まってしまったのか、アサが表に出ているとここの海を赤く染めてしまう。鎮守府でそういったことが起こっていないのは助かるが、この場所は領海、拠点として認識しているため、侵食をしてしまうようだ。私が外に出ているときはそうでもないので、身体と心が一致した時に発生すると考えている。

 

「よし、ここに来たのは朝潮のためでもあるからな。交代交代」

 

主導権を渡され、私が表に。少し侵食の力が薄まり、赤い海の拡がりが止まる。私でも稀に侵食してしまうくらいなので、本当に力が強まってしまった。

 

「交代すると匂いが少し薄まるけど、すごく落ち着くのよね……私は姉さんの匂いの方が好きかも」

「私は甲乙付けがたいですね。朝潮さんの優しい匂いもいいですが、アサさんの力強い匂いも捨てがたく」

「わかる。すごくわかる」

 

私に代わった途端に抱きつくように擦り寄ってくる霞。隠さないのはいいが、距離が近過ぎるのは危うさを感じる。半深海棲艦化の影響で、初霜さんと同様にいくつかネジが飛んでいるように思えた。

抱きつかれては逆に私が落ち着けない。ここに来ている理由を何だと思っているのか。そろそろ鬱陶しいので、艤装の腕で引き剥がした。

 

「霞さんはいいですよね。毎晩添い寝ですし」

「霞は添い寝が無いと寝付きが悪いんです」

「おかげさまで、ホントにぐっすり眠れるわ。あの時のこと思い出さずに済むもの」

 

洗脳されていたとはいえ、私に暴言を言い散らかした記憶は当然ながら残っている。だからこそ私は暴走するほどに激昂した。

今はそんな仕草を見せないが、他の深海艦娘の人達と同じで、消えない罪悪感に苛まれることになってしまっている。夜1人でいると、その時のことを思い出してしまうと言っていた。なら私が落ち着かせるのが一番だ。

 

「姉さんの添い寝、前と全然違うのよ。私がこんな身体になったからかしら」

「そんなに違う?」

「深海の匂いがあるし、姉さん自体が変わったもの。言っちゃ悪いけど前までの姉さんって私達と同じで貧相だったじゃない。それが今は……ねぇ」

 

2人して胸を見ないでほしい。私はこのせいで朝潮型から逸脱していると思っているのだから。

 

「今はアサの服だから余計にわかるわね……成長しすぎよ」

「とても煽情的です。朝潮さんから私を誘っているのでは?」

「ちょっと何言ってるかわからないです」

 

こちらの服はアサが望んだからこのままにしたまでである。前のままでというのが希望だ。だから私の方は露出が少なく、アサの方は露出が多く。動きやすさ重視である。回避性能に関わるとアサはこれを譲らなかった。

おかげで霞と初霜さん、あと鎮守府で春風がやたらお腹に触れてくる。佐久間さんと同じように触り方がいやらしいのがとても残念。実の妹でも許せないものは許せない。

 

「私も添い寝してもらいたいです。霞さんが羨ましい」

 

さりげなく隣に座ってくる。負けじと霞も逆側に。隣に座るくらいなら咎める必要もないのでそのままに。

 

「お願いだから休ませて」

「ああ、そうね、ごめんなさい」

 

そのまま、まったりとした時間を過ごす。この島は誰かが通ることもなかなか無い。哨戒コースからも少し外れている穴場だ。そう滅多なことでは、この時間は邪魔されない。

 

ただただ本当にボーッとしているだけ。隣の霞も初霜さんも転寝を始めるほどの静かな時間。クウや雪さんもそうだったが、ここの穏やかな空気は眠りを誘う。私もそれに身を預けることにした。

心静かに、穏やかに。今私に必要なのは、それ一点のみ。

 

 

 

午前中に鎮守府を出てここに来たが、今は太陽がそれなりに昇ってきていた。そこそこ長い時間居座ってしまったが、おかげで私の心は大きく回復していた。綺麗な景色、穏やかな風、波の音、隣には仲間。回復には本当にもってこいな場所。

 

『よく寝てたな。穏やかなのはいい』

「貴女もね。これくらいまったりがいいわね」

『今までが酷かったんだ。これくらい許されるだろう』

 

眠っている間にアサと会話が無かったため、あちらはあちらで熟睡していたのだと思う。アサもなにかとお疲れだ。私が疲れているのだし、アサが疲れていてもおかしくない。いつも私を気にかけてくれているのだから、私以上に気疲れしているのかも。

 

「2人とも、起きて」

「んぇ、もうそんな時間?」

「わ、太陽がそれなりに高い位置に……思った以上に寝てしまったみたいですね」

「2時間くらいですかね」

 

寝ぼけ眼の霞と、起きてすぐにシャンとする初霜さん。対照的な2人。半深海棲艦化してから、霞は少し緩くなった気がする。私もそうだと言われるが、霞も真面目すぎる部分があった。それが緩くなっているのなら、それは喜ぶべきことかもしれない。

今の霞がベストなのかも……いや、シスコンの度がすぎるのでそこだけは控えめになってもいいとは思うが。

 

「寝て起きて隣に朝潮さんがいるだけで気分がとてもいいですね」

「そうですか」

 

初霜さんも度がすぎる気がする。帰ったら春風が嫉妬しそう。

 

「初霜は春風と違って朝潮型の制服求めてこないわよね」

「当たり前ですよ。私は姉や妹ではなく、嫁ですから。霞さんも私を義姉(ねえ)さんと呼んでくれて構いませんよ」

「誰が呼ぶか」

 

この辺りの発言は無視するとして、そろそろ帰投しなくては。哨戒任務を兼ねているためちゃんと周りも見ておかなければならない。

 

「気配も反応も無いですね」

「こっちも気配は感じないわ。まぁ姉さんが感じないなら私達も感じないか」

 

ここに移動してきていないのは安心である。本当に何処に撤退したのだろうか。移動先は決まっているとは言っていたが。今は潜水艦隊と元帥閣下に任せるしか無いだろう。私達はやれることをやるということで。

 

「さ、帰りましょ」

「姉さん、ちゃんと休めた?」

「ええ、充分に」

 

島を出るとき、前よりも名残惜しく思えた。赤く染まった海を見ていると、ここから出て行くのを躊躇ってしまいそう。成長したことでより深海棲艦の思考に偏ってしまったのかもしれない。今回の変化は私の思考に直接作用してきている。

 

『帰りたくないならもっといてもいいんだぞ』

「いやダメでしょ」

『ちぇっ』

 

口ではこう言っているがアサもそんなことを本気で思って言っているわけではないことがわかる。私の気持ちを一番最初に理解するのはアサだ。実際、アサにこれを言ってもらえたから未練も断ち切れる。

最初は振り回されてろなんて言っていたが、結局私が振り回してしまっている。

 

『考えすぎるなよ。お前は気楽に生きろ。私のために』

「……そうね」

 

私が壊れたらアサも壊れる。身体が1つなのだから一蓮托生。お互いがお互いのことを気にしないと生きていけない。アサのためにも私は壊れられない。

 

「姉さん、行くんでしょ?」

「ええ、ごめんなさい。すぐ行くわ」

 

心静かに、穏やかに。私のためにも、アサのためにも。

 

 

 

帰投して早速、春風に抱きつかれた。お供がこの2人だったことに危機感を覚えていたらしい。何もされていないと言っても関係なかった。

ここの春風は本当に嫉妬深い。ここまで大きな個体差が出ているのも稀だろう。春風は心の件もあるが。

 

「御姉様の匂いが欲しいのです。霞さんも初霜さんも充分に堪能したのでしょう。でしたら次はわたくしの番です。存分に、存分に」

「あまり素肌を触らないでくれると嬉しいんだけど」

「御姉様が悪いのです。これ見よがしにお腹を出す服なんて着て。誘っているのですか」

 

初霜さんと同じことを言ってくる。そんなつもりは無いのだが、ここの3人にはそう見えるらしい。半深海棲艦特有の捻じ曲がった思考なのだろうか。扶桑姉様はそんなこと無かったはずだが。

 

「成長された御姉様はとても素敵です。匂いも濃くなり、近付くだけで落ち着きます。この状態で添い寝を、また添い寝を許していただきたく」

「それは私の特権だから許さない。どうしても添い寝してもらいたかったら私を倒しなさい」

「それは私も参加していいんですよね。添い寝権をかけたバトルロイヤルですか」

 

3人が勝手に言い合いを始めてしまった。私を中心に、私の意思関係無しに。喧嘩しているわけではないので放置してもいいのだが、私が話題の中心なので無視するわけにもいかない。

こんな場なのに、私の心は穏やかになっている。領海でのんびりしている時よりも、満たされているように思えた。静かな場所でボーッとしているよりも、喧騒に巻き込まれた方が穏やかになれるなんて。

 

『愛されてるな』

 

冷やかされるが、それも込みで私は癒されている。これが私の平穏な日常なのだ。

 

「霞、今日は残念だけど、姉妹サンドの予定なの。添い寝を勝ち取るなら扶桑姉様を倒してね」

「よし、春風、初霜、今日は各々自室で」

「かしこまりました。霞さん、1人で寝られますか?」

「嘗めんじゃないわよ。1日くらい大丈夫よ」

 

本当に楽しい。皆に囲まれて生きていけるのが。これが続けば、私は心静かに過ごしていけるだろう。これ以上の変化は無い。何もかも私の手で壊してしまうような最悪の事態は、起こりようが無い。




霞があちら側に行ってしまったので、ストッパーらしいストッパーがいない現状。スキンシップが過剰な妹、妹分、嫁(自称)のトライアングルが、朝潮を(ある意味)追い詰めていく。
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