午前中は心を穏やかにするために領海への哨戒任務へと向かった私、朝潮。午後からは戦闘訓練となる。あれだけのハードな戦場を終えた後だが、訓練を続けて練度を維持していく必要がある。本当に平常に戻ったイメージだ。
私の訓練は対空、もしくは対潜となるのだが、通常とは違うとはいえ艦載機の運用や、艤装の腕での戦闘まで加わり、単独戦力として充分と判断されている。さらに、あまり戦闘ばかりすると身体と心に悪影響がないとも限らない。他の人よりも慎重にされていた。
「なんだか申し訳ない気分になります。他の人は訓練や任務をしているのに、私ばかり休んでいて」
「君はこの鎮守府で一番の被害者なんだ。霞君からその時の状況は何度も聞いている。今は大丈夫かもしれないが、いつ爆発するかわからないんだ。必要な時に出てもらうよ。だが、身体が鈍ってはいけないからね。頻度を落としてもらっているだけさ」
司令官も含め、誰もが私を心配してくれていた。皆に気遣われているというのも、なんだか気恥ずかしい。
食事時でも、なんだかんだ周りに誰かついてくれている。突然爆発することは無いにせよ、何が起こるかわからない身体というのは自他共に認められるほど恐ろしい。こう生活している中で、突然私が暴れ出す危険性もある。そうなると、心配というよりは監視されているという気がしないでもないが。
「敵に好かれるというのは、あまり気分のいいものではありませんね……」
「確かにね。精神攻撃が多いのも考えものだ。だが、そのおかげで我々は対策もいろいろ考えられたし、何よりアサ君に出会うことが出来た。それだけは感謝しているよ。他に1つも許せるところはないがね」
司令官もいつもの表情ではあるものの、私達のされたことに対しては怒り心頭だったらしい。私と霞が精密検査を受けている間に報告を受け、なんと怒りで机を叩き割ってしまった。戦闘では勝ったが、根本的な部分では敗北している。
「朝潮君は必要最低限を徹底してほしいね。暇かもしれないが、身体と心を休めることが、君が最もやらなくてはいけないことさ」
「わかっています。週に3度も領海に行かせてもらえていますし、ストレスも溜まっていませんよ」
「それなら良かった。以前の強迫性障害も治ってきているようだね。言っては悪いかもしれないが、今の君が最高のスペックだと思うよ」
精神的な病も、今の生活で大分改善されていた。何もやらないことを苦痛と感じないようになってきたのは大きい。今までで一番、私の心は穏やかになっているであろう。
深海棲艦となってから、さらに身体が成長したことで、少し楽観的な思考になってしまったのかもしれない。深海艦娘の時の過激思想は、今は鳴りを潜めている。
「また誰かに訓練の手伝いを頼まれたら、好きに手伝ってあげてほしい。そうでなければ自由に過ごしてほしい」
「了解しました」
今の私は緊急時のバックアップ要員となった。誰かが必要なら好きに使ってほしい。なんだかんだ適当に呼ばれることは多いし。
ある程度の検査も終え、暇になってしまった。私の身体は今日も安定。出来れば身体が縮んでもらいたいものだが、一度変化してしまったものは治らないと相場が決まっている。それが治せるものなら、今頃誰も
『午前に領海行ったし、午後は検査も終わったし、暇だな』
「そうね。なら、この鎮守府でもアサが好きな場所あるでしょ」
『ああ、海を眺められるベンチだな。あの場所なら癒される』
今の時間なら、あの場所からは訓練や演習が見られる。そういうのを眺めているだけでも、今の私は楽しめるようになった。
「今だと誰かしら何かやってるわね」
海を眺めることができるベンチへ。そこでは案の定、演習が繰り広げられていた。演習と言っても、レキの
「やってるやってる」
『レキはまだまだ訓練してるんだな。あそこまで来たら必要も無いように思えるが』
「そんなことないわ。あの子も育ち盛りだもの」
私が近付いたことに気付いたらしく、こちらを振り向き手を振ってくる。こちらも手を振り返したが、今思い切り狙われている。大丈夫なのだろうか。
そして今回、よりによって相手はオーバースペック組3人。水鉄砲といえども火力がとんでもない。
「余所見しちゃダメだよレキちゃん」
「のわぁあっ!?」
萩風さんの砲撃が直撃。重巡主砲の火力で吹き飛ばされた。これが清霜さんのものだったらもっと危なかったかもしれない。
「やられたー!」
「朝潮さんが来たから反応しちゃったんだね」
なんか邪魔をしてしまったようで申し訳ない。
「朝潮ー、一緒にやろー」
「別に構いませんけど、私艦載機しかないですよ?」
「大丈夫大丈夫! ねー、きよしー」
「いいよー。朝潮ちゃん倒せないくらいでないとこれからが辛いだろうからね! あ、でも未来予知禁止!」
「それ禁止されると私為すすべもない気がしますが……わかりました。電探も一時的に切ります。集中砲火はやめてくださいよ」
時津風さんに誘われ、私も参加することに。この遊びに参加できるようになったのも、今の身体の利点だ。艦載機しかないにしろ、回避に徹するのみではなくなったので、ちゃんと演習の形式になる。
そのまま海に降りた。当たり前のように工廠要らずで海に降りる姿は、未だに見慣れていないらしい。一瞬ギョッとして顔をしたが、そういえばと気を取り直した。
「いつ見てもビックリしちゃう」
「朝潮も深海棲艦なんだよねー。便利だけど怖い怖い」
レキが抱きついてきたので頭を撫でるが、水浸しなので私も濡れてしまった。まぁここからどうせ水浸しになるので関係ないか。
「いきなりだけど大丈夫? あたし達ちゃんと水着着てるけど」
「まぁ見られて恥ずかしいものでもないですし、構いませんよ」
「萩風、あれが開き直りだよ。派手なもん着けるならあそこまで行かないと」
萩風さんがワタワタし始めるが、私からも同じことが言えるだろう。開き直り、大切。私も似たようなスタイルになってさらに開き直ったことだし。恥ずかしいならもう少し地味なのを選んだ方がいい。
艤装を展開。艤装から腕が生え、その両手がギュッと拳を握る。別にこれで殴ろうだなんて思っていないので安心してほしい。
「これ、バトルロイヤルなんですか?」
「そうだね。今奇数だし」
こういう形ででも、オーバースペック組と訓練するのは初めてのこと。攻撃する手段を持っていないと、そういうこともできない。そういう意味では今の身体に感謝する。
『こういう形で息抜きもいいな。全員水浸しにしてやれ』
「はいはい。アサがやりたくなったら代わってあげるわ」
『ああ、後から頼む。まずはお前が楽しめ』
艦載機を全機発艦。その全てに水鉄砲を装填。春風との喧嘩を思い出し、ちょっと楽しくなってきた。
要注意なのはやはりレキ。超火力の水鉄砲を連射できるというのは恐ろしい。その次に清霜さん。レキ以上の火力は単純に当たりたくない。大和さんに撃たれて浮いたのを思い出してしまう。
「それじゃあ、スタート!」
萩風さんの合図と同時に、全員が私に主砲を向けた。集中砲火はやめてくれと言ったのにこれである。遊びだとしてもこれは普通に危険だ。勿論、私も『未来予知』済みなのだが。4人からの集中砲火も回避ルートは見えていた。
「集中砲火はやめてと言いましたけど!?」
しっかり避けた後、全員の眼前に艦載機を配置して文句を言っておく。回答次第では水鉄砲である。
「いやー、フリかなって」
「朝潮ちゃんはまず濡らしておかないとダメかなと」
「朝潮さんは要注意人物だから最初に狙いたくて」
「アサ姉ちゃんといっぱい遊びたいから!」
レキ以外に水鉄砲。ここから完全に開戦。案の定だが、私が狙われる確率が若干高め。まず自分達と同じくらいに濡らしたいという気持ちが隠しきれていない。
「アサ姉ちゃん、もっと濡れろー!」
「濡れるのはレキの方よ」
砲撃を掻い潜り、艤装の腕で腰を掴む。そしてそのまま海に向かって放り投げた。頭から海に落ちるレキ。
「にゃあああっ!?」
「そ、それ禁止! 砲撃の訓練とかじゃ無くなっちゃう!」
清霜さんはちょっと持ち上げられそうにない。いくら膂力が上がっていても、大戦艦クラスの艤装を持つ清霜さんは、さすがに無理だろう。禁止とかそういうことでなく、このメンバーの中ではおそらくレキにくらいしかこんなことできない。順当な駆逐艦くらいしか持てないと思う。レキは小柄で艤装もそこまで大きくないし。
「多分持ち上げられないと思うので安心してください。清霜さんは艤装が大きすぎるので。その代わりに艦載機をいっぱい避けてくださいね」
と、清霜さんと話している間に時津風さんが横から撃ってきた。1回目はさておいてその後は『未来予知』をしないようにしていたので、もろに被ってしまう。重巡主砲でもなかなかの威力。身体が浮くほどではないが、衝撃は激しい。
「耳に、耳に入った……」
「へいへーい。余所見は良くないよ朝潮ー」
ケラケラ笑う時津風さん。本当に楽しそうだ。私も楽しい。なので、少しいたずらを仕掛けてみる。
こっそり近付けた艦載機で膝カックン。からの顔面に水鉄砲。
電探を切った状態で艦載機を操作するのは地味に難しい。位置を全て把握してるからこそ、的確な位置に飛ばすことが出来るのだが、今は違う。基本見える範囲なら正確、見えない場所は運と勘という身も蓋も無い操作方法になってしまっている。
「うわぁっ!?」
「隙だらけですよ、時津風さん」
念入りにぶちまけておいて、次の標的は萩風さん。既に濡れたことで透けて見えている水着も結構大胆じゃないか。何を恥ずかしがることがあるのだろうか。
「意外と避けますね」
「姉さんほどではないけど、避ける訓練してるんだ」
「でも、気をつけた方がいいですよ。敵は私だけじゃないんですから」
復帰してきたレキの砲撃で吹き飛んだ。やはり戦艦火力、当たった時の衝撃がえげつない。
というのも、後ろから狙っているのが見えたので、アイコンタクトで上手いこと作戦を立てていた。見事成功。レキが親指を立てたので、私も艤装の腕で親指を立てた。
「清霜さん、覚悟はいいですか」
「覚悟って言われてもなぁ……あたしはただ撃つだけだから!」
三連装砲が広い範囲で照準をつけてきた。これはどうやっても避けられない。艦載機を壁にするのも難しそう。潜るのはアリなのだろうか。どうせもう水浸しだし、これ以上濡れるのも気にはならないが、反則扱いかも。
などと考えている間に、さっき吹き飛んだ萩風さんが私を羽交い締めにしてきた。時津風さんまで私に近付き、艤装の腕を押さえ込む。電探を切ってたから気付かなかった。
「洗礼受けとこ、朝潮」
「朝潮さん、潜るのは禁止だからね」
「これ全員に当たりません?」
死なば諸共の精神らしい。こういう戯れの場だからいいものの、戦場でそういうことはやらないように。
「撃てーっ!」
清霜さんの掛け声と共に、水鉄砲とは思えない轟音と衝撃。私を中心に3人が一気に吹き飛ばされた。とんでもない幕引き。大戦艦の主砲による水鉄砲を喰らうのは2度目だが、3度目はないようにしたい。
その後何度も同じことを繰り返し、全員が悲惨なほどに水浸し。途中からはアサに交代しての撃ち合いとなる。子供のように楽しむアサの姿に、思考の海でほっこりした。こういう息抜きは私もだがアサにも必要だと思う。
戯れとはいえ演習。終了後はそのまま皆でお風呂へ。清霜さんだけは着替えるだけ着替えて食堂の方へ。デメリットが強すぎて空腹が耐え切れなかったのだろう。こればっかりは仕方ない。
心地よい疲れと、それを回復する湯船で、割とダラけてしまった。相変わらず時津風さんは湯船で船を漕ぎ始め、萩風さんの胸を枕にうつらうつら。それを真似してか、レキが私の胸を枕に眠り始めてしまっている。
「私がこの役目をやることになるとは……」
「朝潮さん、すごい成長しちゃったし、仕方ないんじゃないかな」
「萩風さんにはまだまだ敵いませんけどね」
レキの頭を撫でながら湯船の回復効果を存分に堪能する。こう裸の付き合いをしてみるとわかるが、やはり私の身体は相当大きくなっている。以前なら私も萩風さんの胸を枕にするレベルだっただろう。それが今ではこれである。
「肌もスベスベだし、前より健康的になったかも?」
「深海棲艦はみんなこんな感じですよ。レキもほら、お肌スベスベで髪もサラサラです」
「わっ、本当だ。羨ましい」
眠るレキの髪を撫でる。くすぐったそうに身をよじるレキがとても可愛らしい。やはり姉妹愛ではなく親子愛、母性本能がくすぐられる。私の娘のようなものという感覚は、身体が成長してからさらに強くなった。
『癒されるな』
「そうね。お風呂で身体が癒されて、レキとこうしてると心も癒されるわ」
『いい事だ。穏やかになるな』
演習ではあるものの、戦闘行為をしても暴走の予兆みたいなものは感じられなかった。やはりあれは私の感情に左右されている。それなら、今後も穏やかな心のままであれば何をやっても大丈夫だろう。穏やかに戦闘することなど不可能に近いので、慎重に行くのは当然ではあるが。
アニメでは駆逐艦の水着は全員スク水でしたけど、ゲーム内では割と頑張っちゃう子が多いですよね。霞、お前のことだぞ。