欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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新たな戦術

出向中の時雨さんに呼び出され、霞と共に遠方の鎮守府へとやってきた私、朝潮。そこには1体の深海棲艦が浄化されたことにより分裂したという特殊な元深海棲艦、村雨さんと峯雲がいた。実の妹故に、頑張ってもらいたいと思った。

だが、今度はそこの秘書艦である陽炎さんに演習の申し込みを受けてしまう。時雨さんが余計な説明をしたせいで、闘争本能に火をつけてしまったらしい。こちらとしてはいい迷惑である。

 

その許可をもらうため、一旦司令官に連絡を取った。

 

「司令官、朝潮です」

『どうしたんだい? そろそろ帰投かな?』

「いえ、その、演習を申し込まれまして……」

 

通信の向こう側で笑い声が聞こえた。こうなることも想定内だった様子。人が悪いのでは。

 

『了解した。たまには今まで戦ったことのない艦娘との演習を楽しんでみてはどうかな。交流の一環だよ』

「はぁ、司令官がそういうなら。仲がいい人が増えるのはありがたい限りですし」

『そこの子達は少し物騒かもしれないが、気のいい子ばかりだ。友達を増やすといい』

 

おそらく時雨さんからもそういう連絡を受けていたのだろう。私がここに来たら確実に演習を申し込まれると。

 

「連絡してきました。演習、お受けします」

「やった! さーんきゅ!」

 

こういう人は一度やらないと黙らないことはわかっている。神通さんで散々な目に遭っているのだから、理解しているつもりだ。

大喜びの陽炎さん。あまり表情に出していないが、後ろの不知火さんも昂揚しているように見える。唯一黒潮さんだけはこちらに少し申し訳なさそうにしていた。この3人だと一番下の妹がストッパーとなっている様子。それでも配属されている人全員が神通さんみたいなものと聞いているので、黒潮さんも戦いたいとは思っているのだろう。

 

「堪忍な。うちのアホな姉が」

「いえいえ。司令官から友達を増やしてこいと言われましたので。こういう形でも仲良くなれたらいいなと」

 

それに、割とアサがやる気。ここ最近、訓練で新しいことを覚えたので試したくて仕方ないようだ。哨戒任務でも敵は確認されておらず、今まで試す機会が無かったので、若干燻っていたのかもしれない。

 

「せっかくですから、チーム戦にしませんか。陽炎さん達は、三人一組(スリーマンセル)が得意なのでは?」

「そうだけど、いいの?」

「はい。むしろ私は欠陥(バグ)の都合上、1対1の方が辛いんです。私は霞と組んでお相手します」

 

姫級を1対1で倒したという触れ込みがあるものの、私としてはそういうのは苦手だ。だから、相手の得意分野になってもいいので援護をお願いしたい。

峯雲の距離感を見て羨ましかったのか、組むと言った途端にガッチリ手を繋いでくる。ついには外部の人の前でもこういうところを見せるようになったか。

 

「白い時雨と五月雨とは演習させてもらったが、深海棲艦との演習なんて願ったり叶ったりだね。アンタ達、せっかく機会が貰えたんだ、いいとこ見せな」

「任せてよ司令! 時雨や五月雨には後れを取ったけど、今度は3人でやれるからね!」

「陽炎はアレやけど、ウチと不知火がちゃーんとサポートするで」

「はい。陽炎がアレですが、不知火と黒潮でどうにかします」

 

大体どういう関係かはわかった。陽炎さんが突っ込む。それを妹2人が補助する。戦闘でもそれがあるかはわからないが、チームワークは完璧と見ておこう。

 

「村雨、峯雲、一応こんな奴らでもこの鎮守府では駆逐艦トップだ。ここがどういうとこか知るために、演習を見ておきな」

「はいはーい」

「了解です」

 

妹に見られながらの演習、俄然やる気が出るというものだ。だが、ここの雰囲気に呑まれて峯雲まで好戦的になられたら少し困る。是非この鎮守府のストッパーとして成長してもらいたい。

 

「峯雲、ああはならないでね」

「村雨もだよ。少しは理性的になりなよ」

「は、はい」

「保証は出来ないかなぁ……」

 

この型違いの双子だけはどうにか守りたい。いざとなったらこちらの鎮守府に引き取りたいくらいである。ただ、村雨さんは()()夕立さんの双子の姉。似たような闘争本能を持っていてもおかしくない。峯雲が頼みの綱である。

 

 

 

配属されている者全てが神通さんのようなものというのは本当だった。秘書艦が外部のものと演習するという話は瞬く間に鎮守府中に拡がり、演習場は全艦娘が勢揃いするほどに大盛況。

時雨さんも同じ環境でやったらしく、物凄いアウェー感の中、全員を薙ぎ倒したらしい。火力が強化された背部大型連装砲はそれだけでも必殺級である。上手く立ち回って全滅させたそうだ。

 

「先に伝えておきます。私の欠陥(バグ)は、主砲と魚雷が使えないものです」

「私は魚雷以外使えないわ」

欠陥(バグ)ってのは大変なのね……でもそれで勝ってきたんでしょ。それならこっちも、遠慮なく、容赦なく!」

 

3人と相対する私と霞。あちらの3人は同じ型なだけあり艤装の形も近しい。手に持つ主砲と艤装のサイドに備えられたアームに接続された魚雷での連撃が怖い。

対するこちらは攻撃手段が私の艦載機と霞の魚雷しかない。とはいえ、それだけで充分なくらいに私達は今まで鍛え上げてきている。

 

「おや、艤装はどうしたのですか?」

「深海棲艦は艤装を自分の意思で出し入れできます。工廠要らずですよ」

「便利やなぁ。そういうとこは羨ましいわぁ」

 

霞と組んでの演習というのはかなり久しぶり。2人だけでやるとなると、春風の連携訓練以来かもしれない。そのせいか、霞もやる気満々である。

 

「姉さんは私が守るわ。近付けさせない」

「ええ。でもある程度やったらアサに代わる。出たがってるのよ」

「はいはい」

 

艤装を展開する。

霞の艤装も半深海棲艦化により様変わりしており、朝潮型の機関部が深海に侵食された形状になっている。唯一装備できる魚雷も今では手を払うだけで出現させるため、かなり身軽に。

私の艤装は相変わらずの異形。霞と同じように朝潮型の機関部が侵食された形状だが、半壊した深海忌雷が食い込みさらに禍々しくなっていた。さらにはそこに生えている剛腕。もう滅茶苦茶である。

 

「駆逐水鬼の艤装! あれって確かやたら硬かったのよね」

「駆逐水鬼と同じなら、主砲の攻撃は防御される可能性が高いですね。朝潮には魚雷メインで行きましょう」

「せやな。逆に霞の方はバカスカ撃ったろ。魚雷だけや言うてたし」

 

艤装を見てそれだけの作戦が立てられるのだから、自分で精鋭と言うだけある。

 

「それじゃあ、始めましょう」

 

艦載機を全機発艦。時雨さんや五月雨さんとも何度も演習しているみたいで、駆逐艦が艦載機を使うことに対しては驚きは無かったようだが、その数には驚いてもらえたようだ。

 

「12機……ですか」

「五月雨と同じように使ってくるでしょ。低空飛行されたら各個撃破、雷撃しながら肉薄!」

「あかんて陽炎、霞の雷撃が何かわからん」

 

なかなか慎重派。猪突猛進タイプの陽炎さんを2人が制御する予想通りのチームワーク。

 

「霞、最初は黒潮さん」

「了解。姉さんは不知火かしら」

「そうね。ブレインを潰して陽炎さんだけにする」

 

霞が手を払うと20本近くの魚雷が発生。試作型の手動操作魚雷の特性を半深海棲艦化と同時に取り込み、深海艦娘化で手に入るはずの艦載機も捨てたことにより数も増えたホーミング魚雷である。見た目ではわからない初見殺し。

今や霞はその全てをコントロールする。手足のように魚雷を操り、加減速は勿論カーブやUターンまで自由自在。当初あった頭痛も大分緩和されている。

 

「うへ、なんやあの数、わけわからん」

「狙いは黒潮のようですよ」

「数が多いなら全部壊せばいいのよ」

 

魚雷の数だけで破壊しようと考えたのはさすがである。それは邪魔させてもらおう。艦載機をけしかけて行動を邪魔する。

 

「邪魔しますよ」

「うわ、はっや! 五月雨のよりも精度高い!」

「撃ち墜とすのではなかったんですか」

 

射撃精度は不知火さんが高いようだ。私の艦載機は不知火さんに狙われてる。ここまでの精度は、私達の鎮守府では深雪さんや白露さんに匹敵しているほどだろう。回避にも神経を使う。

 

「あかん、あの魚雷曲がる」

「何よそれ」

「あと途中で止まったで。あの霞、魚雷全部コントロールしとる。メチャクチャやん」

 

早々にこちらの手がバレたようだ。観察力は黒潮さんがトップというところか。北上さんとまでは言わないが、よく見ている。だが、見ていたところでそう簡単に対処できないのが霞の魚雷。戦場を引っ掻き回すためにいろんな方向から黒潮さんに集中させている。

代わりに陽炎さんが比較的フリーになってしまい、霞の魚雷を対処しながらこちらを撃ってきた。主砲で撃つのだから、狙われるのは霞。行動予測は出来るが、今は魚雷のコントロールで忙しいだろう。そういう時は私が守ってあげる。

 

「あっぶな」

「大丈夫?」

「私が姉さんに守られてどうすんのよ。でも助かったわ」

 

主砲は私の艤装の腕でカバー。この守り方はガングートさんに教わった。自衛もそうだが、身近な仲間も守れる。覚えておいて損はなかった。

これも洗練された『未来予知』のおかげだ。身近にいるのなら、回避方向を指示する前に腕で守った方が早い。その判断のためにほんの少し先を視る必要はあるものの、守れる幅が増えたのはいいことだった。防御も教わった甲斐がある。

 

それに、自分以外が守れるのが、たまらなく嬉しかった。

 

「行動が制限されてる気がするわ」

「3人がかりで姉さんを追い詰めてるのかしら」

「そうかもね。艦載機が無くなれば私には攻撃手段が無いんだもの」

 

宣言通り、私には魚雷が多めに放たれている。一部は艦載機で破壊し、それ以外は回避。霞には砲撃が多めではあるが、それも回避可能。雷撃に引き込むように撃ってきているため、回避方向が制限されている。これは相手の思うツボなのかもしれない。

 

「わかった、これ陽炎さんが突撃してくる」

「魚雷を掻い潜って?」

「ええ。なら、迎え撃ちましょう。作戦変更、アサと交代するわ」

 

霞に宣言し、アサと交代。ここから霞には自衛してもらうことになる。

 

「待ってました! さぁ、行くか!」

『ほどほどによ、ほどほどに。加減すること』

「わかってる。カスミ、後ろの2人の足止め任せていいか」

「ええ、大丈夫。姉さんの身体なんだから大事に使ってよ」

 

わざと突撃しやすいように、だが思惑に気付かれないように、わずかに魚雷の向きを変える。不知火さんと黒潮さんは足止めしつつ、陽炎さんだけはこちらに来れるように誘導。乗ってくれるかどうか。

 

「あっ、隙あり!」

「ちょっ、あかん!」

「陽炎、誘われてます!」

 

3人いるなら1人ずつ呼び出して各個撃破する方が手っ取り早い。2人はわかっていたようだが、陽炎さんだけは飛び出してくれた。実力者なのはわかるが、ちょっと危ないかも。

 

「釣れたわ」

「了解、迎撃するぞ!」

 

同時にアサも突撃。今までは霞に守られつつ艦載機の支援をしていたが、ここに来て大幅に戦術が変わる。腕は防御のためにしかないわけではない。アサに代われば、これは攻撃のためのものになる。

 

「白兵戦を相手にしたことはあるか?」

「さっきとキャラ違わない!?」

「悪いな、2対3だと思ってたろうが、こっちも3人なんだ。表に出てないだけでな!」

 

砲撃を全て艤装の腕で弾き、足下に来るであろう魚雷も飛んで避け、合間合間に艦載機を足場にして方向を変え、最終的には陽炎さんの至近距離。

 

「白兵戦ってマジ!?」

「大マジだ。そら、どうする!」

 

海面を殴りつけるように振り下ろし、白兵戦開始。

私はその間に未来を予測する。陽炎さんの動きは正直予測不能。典型的な猪突猛進と思わない方がいいかもしれない。視線、腕の動き、周りの状況、全てを計算に入れて導き出された答えは、

 

『潜って』

「この状態で回避を選択か!」

 

指示通り、アサが海中に潜る。瞬間、元々いた場所に3人同時の砲撃が飛んできた。そのまま攻撃してたら蜂の巣。潜る選択をした瞬間、陽炎さんがニヤリと笑ったのが見えた。自分が突っ込むのを妹2人がサポートしてくれることまで計算に入れての動き。

流石に秘書艦をやってるだけある。周りまで混乱させてるが、突っ込むのも最善の戦況を考えた結果だ。私が潜らなかったら、大小問わずダメージを受けていた。

 

「潜るのズルくない!?」

「姉さんは深海棲艦よ? 生き残るためにやれること全部やるわよ」

「あのタイミングなら外れないと思ったのに!」

 

一気に潜行し、不知火さんの足下へ。海中からでも艦載機をコントロールし、目くらましをしながら背後を取った。艦娘同士の演習ならまずあり得ない行動。先読みもしづらいだろう。

 

「悪いな。まずはお前だ」

「ぬいっ!?」

 

艤装の腕でデコピン。ここは扶桑姉様から教わったのだろう。曲がりなりにも艤装である。出力は相当で、それだけで不知火さんが飛んだ。当然大破判定。

 

「さすがに動揺したわね」

「うえっ!? あかーん!?」

 

不知火さんが飛ばされたことで少しの隙が出来た。そこを見逃す霞ではない。魚雷のうち5本を黒潮さんに集中させ、回避の時間を与えることなく爆破。これもまた大破判定。

 

「不知火! 黒潮!」

「あとはお前1人だ。さすがに潜るのは想定してなかったか」

「艦娘は潜れないから!」

 

艤装の腕で掴み上げた。両腕で艤装を封じ込めるように握りしめているので、攻撃しようものなら暴発して自爆である。事実上、動きが止まった。

 

「みんな濡れたからな。お前も濡れよう」

「アンタは自分で勝手に」

 

艦載機が顔面に水鉄砲を当てた。頭へのダメージは轟沈判定。これで演習終了。それでも飽き足らず、全身が濡れるように爆撃までする。そこまでする必要は無いと思うが。

 

 

 

演習結果はこちらの完勝。潜ったせいで私はびしょ濡れだが気にしていない。霞は完全な無傷。私が艤装の腕で守った甲斐があるというものだ。アサは満足したのか演習終了と同時に引っ込んだ。

 

「悔しいーーっ! 潜られなかったら女帝倒せてたのに!」

「あれは誰の落ち度でもありません。あの回避方法は誰も思いつきませんから」

「あそこからガタガタになったんは確かやけどな〜」

 

敗戦はすぐ反省。次に活かそうとしている。

 

「ああもうビショビショ」

「無傷で終わらせるためにはアレしかなかったから」

「まぁいいわ。眼福眼福」

 

濡れていろいろ透けているのをじっくり見てくる霞の目は少し怖い。

 

「ご苦労さん。面白いものが見れた」

「参考にはならないと思いますが、これが私達のやり方です。死なないためには手段を選びません」

「よーくわかったよ」

 

私達の演習で志摩司令官も楽しんでいたようだ。さすがこの武闘派というか好戦的な艦娘達を束ねる司令官。演習を見ているのが娯楽の一環とまで言う。

決して私達の戦闘は普通の艦娘には参考にならないだろう。それでも、こういう手段があるということがわかれば、真似なり対策なりができる。そして、戦力が上がる。知識は力になる。

 

「アンタ達とは長い付き合いになるかもしれないからね。これからもよろしく頼むよ」

「はい。峯雲のこと、よろしくお願いします」

「ああ、任せな。立派な武闘派艦娘に育ててあげよう」

「それだけは勘弁してください」

 

次に峯雲と会った時、その豹変ぶりに腰を抜かす……なんてことが無ければいいが。

 




通称yaggyの3人ですが、3人同じ駆逐隊ってわけじゃないんですよね。むしろ陽炎と不知火の縁者は霞。第十八駆逐隊、絶妙な組み合わせで好き。
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