欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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新たな犠牲者

北端上陸姫が撤退して2週間。なんの音沙汰も無し。反撃のための力を溜めているところなのだろうが、こうまで見つからないとなると不安になってくる。深海棲艦故に海底で準備をしている可能性もあるが、敵は陸上型、陣地を沈めたままにしておくとは到底思えない。潜水艦隊による調査も、現在不発ばかりである。

 

「朝潮は……気負わなくていいのよ……」

「アンタは考えすぎなの。だからここに来てるんでしょうが」

 

領海の島、週3回の穏やかな哨戒任務。本日の随伴は扶桑姉妹。鎮守府から最高戦力2人を連れ出しているのは若干気が引けるところではあるが、扶桑姉様の精神の安定もあるので、お互いの穏やかな心のためには必要であった。

そのため私、朝潮は今日は海峡夜棲姫の着物である。扶桑姉様と並ぶと、以前よりも姉妹な感じが出ているだろう。海峡夜棲姫の亜種のように見られてもおかしくない。

 

「私が周辺警戒はしておくから、2人は好きに寛いで」

「山城……ありがとう……」

「ありがとうございます山城姉様」

 

いつも通り扶桑姉様の膝の上に座らせてもらう。これだけでも随分と気が休まる。長女故に姉の存在を求めているのは、あながち間違いでは無かったようだ。アサも私から生まれたとはいえ同じように長女のようなもの、思考の海でリラックスしているのがわかる。

 

「……深海の気配を感じるけど……気のせいよね……」

「今そちらに山城姉様が行ってますから。何事もないと思いますよ」

 

扶桑姉妹を連れてきた時に限って、領海付近で深海の気配を感じていた。電探でも島の裏側に1つ反応を確認している。山城姉様が周辺警戒に向かったのはそのため。敵だとしたら危険だがピクリとも動いていない。瀕死状態のイロハ級が打ち上げられたか何かだろう。以前にセキさんの陣地にレキが漂流した時のことを思い出す。

そんな状況でもリラックス出来るのだから、私は図太くなったものだ。それだけ山城姉様を信用しているというのもあるが。

 

「なかなかゆっくりできないもの……今日は私が朝潮を堪能するわ……」

「はい、私も扶桑姉様とゆっくりしたかったので」

「嬉しいわ……大きくなってますます妹に似てきたの……可愛い可愛い私の妹……」

 

小さかった時より抱き心地は変わってしまっただろうが、堪能してもらえれば何より。

扶桑姉様も大分丸くなった。艦娘としての感情も大分覚えてきており、交友関係も少しずつ拡がっている。私と山城姉様を第一に考えるのは変わらないが、他の人達と話すようにもなった。特に白兵戦組の人達とは仲がいいとも言えるほどに。私が……というかアサがガングートさんから白兵戦を習いだした時に喧嘩になりかけたのはご愛嬌。

 

「あー……2人とも、すごく申し訳ないんだけど」

 

山城姉様が周辺警戒から戻ってきた。島の裏側の反応はそのまま。深海の気配もそのまま。

 

「どうしたの山城……何かあった……?」

「朝潮が言っていた島の裏側の反応、提督に報告がいるレベルのまずいものだった。ちょっと来てもらえる?」

「そんなにまずいものだったんですか?」

 

言われるままに島の裏側へ。反応はやはり動かない。

 

「これは……」

「まずいでしょこれ。レキが打ち上げられたときより」

 

そこにいたのは気を失った傷だらけの艦娘。それだけならまだ良かったのだが、その背中には私と同じように()()()()()()()()()()()

 

 

 

哨戒任務を急遽中止し、打ち上げられた艦娘を鎮守府に運び込む。それまでに目を覚ますこともなく、無事に運ぶことが出来た。艤装を展開していなかったので邪魔になるものも無く、山城姉様が抱えることが出来たのが大きい。

 

「扶桑姉様と一緒の時に限って……」

「仕方ないわ……」

 

不運艦の本領発揮とでも言うべきか。

 

「朝潮と同じように後から変えられた深海棲艦か。外傷は酷いが、欠陥(バグ)が残るほどでは無さそうだ。すぐに入渠させるべきだろう」

 

セキさんが手早く確認している。目を覚まして急に暴れられたら困るため、山城姉様が近くに待機している状態。

その艦娘は長い銀髪と額に伸びる1本の角に、ウサギの耳のようにピンと立った黒いリボンが特徴的だった。身体が少し大きいように見えるがおそらく駆逐艦。服装はアサと同じように駆逐棲姫に似たものに見えるが、私達とは違い黒の長手袋と膝上ソックスを着用。あとはやたらスカートが短い。いろいろ見えてしまっている。

 

「司令官、この人は……」

「この子は島風君だ。何処の所属かはわからないが。一旦元帥閣下経由で行方不明の島風がいるかを調査してもらう」

 

島風型1番艦島風。正確には島風型という通称もない単独の艦。

『駆逐艦版大和』と呼ばれるほどの超高性能。姉妹艦もいなければ僚艦すらいないという孤高の存在。その力は本物で、高速重雷装駆逐艦という特殊な戦闘方法を用いる。雪風さんとツートップと言われていたこともあるほどの実力者。過度な露出度も限界までスピードを上げるためだそうだ。

元は金髪らしいが、深海棲艦化により変色してしまったようだ。外見への影響は髪色と角くらい。それが大問題ではあるのだが。

 

「だが、深海忌雷による寄生か……未だ姿を現さない北端上陸姫の犠牲者がついに出てしまったわけだ……」

「そうですね……」

 

項垂れる司令官。事前にどうにかできるものではないとはいえ、犠牲者が現れたことに対しては申し訳なさも感じる。あちらが用意周到すぎる。私達を手玉にとって楽しんでいる顔が容易に想像できた。

 

 

 

その後、各所に連絡がされたが、行方不明、ないし轟沈した島風さんの存在は確認出来なかった。助けられた島風さんは元々ドロップ艦で、生まれてすぐに寄生され、その状態で誰かしらに攻撃を受け、そしてそのまま私の領海の島に流れ着いたというのが可能性が一番高い。

ドロップ艦が寄生されたのだとしたら、深海忌雷が無差別に配置されていることになる。今後はこの鎮守府で開発された、海中を見ることの出来る眼鏡が量産されるとのこと。北端上陸姫の撃破が確認されるまでは、海域調査を徹底する方向で話が進んでいる。

 

「島風の入渠が完了しました。今は扶桑さんと山城さんが監視してます」

「わかった。話をしてみよう」

 

明石さんの報告を受け、司令官が工廠は向かった。流れ着いたのを発見した者、そして同類として、私も同席させてもらう。精神的な部分がどうなっているかはわからないが、自分と同じものがいるというのがわかれば、多少は落ち着くだろう。

 

「君のことを教えてもらえるかな?」

「私は……駆逐艦島風……でも深海棲艦……艦娘じゃない……頭の中がグチャグチャする……嫌だ……憎い……憎い……」

 

錯乱している。駆逐艦島風の意識と、深海棲艦の意識が混在している。私とアサのようにハッキリと分離しているわけではなく、春風のように二重人格として発露するわけでもなく、扶桑姉様のように相反する意識が混ざり合ってしまっている。初霜さんも処置が遅れていたらこうなっていたのかもしれない。

艦娘としての意識が消えていない辺りが今回の厄介なところ。このままでは何もせずとも島風さんは壊れて暴走してしまう。

 

「何これ……壊したい……潰したい……嫌だ……独りは嫌だ……裏切られた……全部壊す……憎い……」

 

だんだん虚ろな目に。独り言もだんだん過激に。深海棲艦の意識に呑まれそうになっている。こちらの言葉も聞こえないようだった。このままではまずい。

 

「朝潮……深海の匂いで落ち着かせてあげなさい……」

「そうですね……効くかはわかりませんが」

 

扶桑姉様に言われ、落ち着けるように島風さんを抱きしめる。こういう時ばかりは成長したこの身体を利用していく。

 

「んぅ……嫌……嫌だ……壊したくない……憎い……」

「大丈夫、大丈夫ですから落ち着きましょう。私達は貴女の味方です。落ち着いて、落ち着いて」

「怖い……潰したい……憎い……嫌だ……憎い……」

 

私の深海の匂いだけでは足りない。深海忌雷に寄生されたものの宿命か、島風さん自身の深海の匂いもかなり強い。私の深海の匂いが中和されているせいで、効果がかなり薄い。

 

「山城姉様、雪さんを連れてきてもらっていいですか。佐久間さんの研究室です」

「まさかアンタ、相乗効果使うつもり? でも仕方ないわね、連れてくるわ」

 

大急ぎで雪さんを連れてきてもらう。その間もどうにか落ち着かせていくが、隣に控えている扶桑姉様の様子も少しおかしい。

 

「朝潮……その子とも相乗効果が出てるわ……理性を抑え付けるのが辛いわね……」

「ご、ごめんなさい。でも、どうにか耐えてください。島風さんのためなので」

「わかってるわ……今私がやらかしたら……全部台無しだもの……提督……いざという時は私を押さえつけてちょうだい……」

「わかった。どうにか耐えてほしい」

 

司令官なら扶桑姉様を押さえつけることができる。本当の緊急時は司令官に任せるしかない。

 

「連れてきたわ」

「え、えっと、何を……」

「ありがとうございます。雪さん、来てください」

 

山城姉様が雪さんを抱えて戻ってきた。未だにメイド服なのは完全に佐久間さんと叢雲さんの趣味だろう。戸惑う雪さんを他所に、説明もせず引き寄せ、抱きしめた状態で島風さんに接近。これなら中和される以上の匂いで落ち着いてもらえるはず。

 

「あ……ああ……独りじゃない……私、私は……」

「よかった。自分を取り戻せそうですね」

「あの、朝潮ちゃん、説明してほしいんだけど……」

 

島風さんが少し落ち着き始めたところで雪さんに説明する。相乗効果のことは雪さんもわかっているので、島風さんのためと知ると納得してくれた。うまくやれるようにするため、私がおぶる形に。相乗効果を出しつつ、島風さんと面と向かいやすい。

 

「大丈夫、落ち着いて。島風さん、貴女は島風さんですよ」

「私は島風……私は深海棲艦……島風……」

「そうです。落ち着いて。貴女は独りじゃない」

「わたし達がいるからね。落ち着いて、自分を見つめて」

 

雪さんも一緒に島風さんを落ち着かせる。敵対心を持っていなかったのが功を奏した。深海の匂いの相乗効果も、敵対心ではなく好意に向かってくれている。私達の側なら落ち着けるはずだ。一度落ち着いてしまえば、自分を取り戻してくれさえすれば、私達がいなくても錯乱することはないはず。

 

「私は島風……私は島風……」

「そうです。貴女は島風さんです。深海棲艦の島風さんです」

「独りじゃない……憎くない……壊さなくていい……独りじゃない……独りじゃないんだ……」

 

もう一度抱きしめる。顔を胸に埋めてきて、少しくすぐったい。深海の匂いでようやく落ち着いた様子。これならもう安心だろう。

 

むしろ安心できないのは島風さんではないところだった。雪さんをおぶった状態で島風さんを抱きしめているということは、深海の匂いが3人分重なっているということ。相乗効果で、その効果は3倍ではなく3乗である。間近にいる扶桑姉様が荒い息で悶絶している。

 

「これはまずいわ……理性が削がれる……」

「姉様、申し訳ありません、拘束させていただきます」

「お願い山城……気をぬくと……容赦なく朝潮を襲ってしまうわ……愛したくて愛したくて仕方ないの……」

 

扶桑姉様でこれということは、霞達は相当面倒なことになっている。鎮守府全域に深海の匂いは行き渡ってしまうので、敷地内にいれば確実に影響下。下手をしたらそろそろ工廠にやってきてしまいそう。と、そこで瑞穂さんが登場。

 

「朝潮様、先手を打っておきましたのでご報告を」

「流石です。今どこに」

「3人とも既に工廠の付近だったため、佐久間さんの研究室に縛っておきました」

 

さすが瑞穂さん、完璧な対処だった。元深海棲艦には効かず、純深海棲艦にはアロマテラピー程度だが、半深海棲艦にのみ異常に効きすぎて理性を根こそぎ剥ぎ取ろうとする深海の匂いは、そろそろ本格的に対策が必要な気がする。

 

「落ち着きましたか、島風さん」

「も、もう少しこのままで……」

「はい。気が済むまでどうぞ」

 

その分、扶桑姉様達は苦しむことになるのだが、島風さんを落ち着かせることが先決。もう少しだけ我慢してもらおう。

 

 

 

しばらくしてようやく落ち着いた島風さん。心も安定し、艦娘と深海棲艦が完全に混ざり合った人格として成立した。極端に歪んでいない扶桑姉様のようなもの。世界全てへの憎しみは、私と雪さんの深海の匂いで今は霧散し、離れていても落ち着いた雰囲気に。

結果、艦娘としての島風さんがほぼ全てを占める形になった。深海部分は相変わらずの趣味嗜好と、本能で行動を起こすこと。もしかしたら後ろから味方を撃つ可能性が捨てきれないため、少しの間は誰かの監視をつけることになる。

相性がいいのはやはり私や雪さんであった。匂いで落ち着かせることができるのは大きい。

 

「駆逐艦、島風です! スピードなら誰にも負けません!」

「元気になってくれて何よりだよ」

 

これが通常の島風さんの性格な様子。元気いっぱい、疾さにかけてのプライドは高いが、真面目な良い子だそうだ。笑顔も眩しい。

 

「島風君、君はこうなる前の記憶はあるかい?」

「うーん、確か……4人くらいの艦娘に襲われて……でもその時は見えたもの全部が憎くて壊したくて仕方なくて。誰だったかとはわからなかったです。私、その時正気じゃなかったんだと思います」

 

寄生されたことで頭の中がグチャグチャの状態だったのだろう。見た目だけなら新種の深海棲艦だ。島風さんを見つけたその4人の艦娘というのも、襲いかかられたら反撃くらいする。

 

「今は大丈夫かい?」

「うん、今は憎いとか壊したいとかそういうのは無いです。朝潮と雪のおかげ!」

 

不意に私達に抱きついてくる。後ろで扶桑姉様がビクンと震えたのがわかった。相乗効果おそるべし。

 

「寄生されて書き換えられたことで錯乱しているところを攻撃されたんだろうね。どの辺りでやられたかわかるかい?」

「うーん……そこまではちょっと。でも、艦娘4人は同じ服だったと思います」

「なら姉妹艦だね。ありがとう。君は今からどうしたい?」

 

どうしたいと聞かれてほんの少し考えたが、結論はすぐに出た。

 

「私、独りが嫌なんです。理由はよくわからないけど、独りになったらまた狂っちゃう気がします。だから……」

「なら、ここに配属してもらおうか。もし何かあったとしても、朝潮君と雪君がいれば落ち着けるだろう?」

「はい! よろしくお願いしまーす!」

 

ただでさえ、寄生されたことで深海棲艦化したという特異な存在。孤立は不可避である。だが、ここには同じことが起きている私や雪さん、それに艦娘でありながら深海棲艦でもある扶桑姉様を始めとした半深海棲艦がいる。孤独を感じることはないだろう。私達の気配と匂いがあれば落ち着くはずだ。

 

「では手続きをしておくよ。島風君、我が鎮守府にようこそ」

 

新たな仲間、深海棲艦化した島風さんが加わることとなった。

相変わらず私の領海は何かを引き寄せる力を持っているような気がする。でも領海に流れ着いてくれてよかった。そうでなければ、きっと島風さんは今頃沈んでいただろう。




改二は無くとも戦力としては上々すぎるスペックを持つ島風。最初期からの艦これの顔で、主人公のお話もありました。その時のライバルキャラが、朝潮ですね。
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