欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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理由を探して

深海忌雷に寄生されたことで深海棲艦化した艦娘、島風さんが仲間に加わった。私、朝潮の領海に流れ着いてくれたことは、本当に運が良かった。同じ境遇の艦娘が助けられたのは本当に嬉しい。

その代わりに、島風さんも深海の匂いが強いらしく、私と重なることで相乗効果が発揮されるようになってしまった。これだけはどうにか注意しなくてはいけない。

 

「佐久間さん、3人の監視ありがとうございます」

 

島風さんは改めて精密検査に入ったので、その間に雪さんと一緒に霞、春風、初霜さんの拘束を解いてやる。私と雪さん、そして島風さんの3人が重なり合ったときの相乗効果は想像を絶するものがあったらしい。扶桑姉様ですら、ギリギリの理性で山城姉様に拘束を願い出たほどだ。2人重なったときでさえ理性が吹き飛んだ初霜さんは、この部屋でとんでもないことになっていたそうだ。

 

「名誉のために何も言わないでおくけど、駆逐艦3人があれはもう、ねぇ?」

「佐久間さんホント何も言わないで。私は狂ってたの。あの時は狂ってたのよ……」

「もう私のこと何も言えませんね霞さん。案の定私より激しかったじゃないですか」

 

ここで何が行われていたかは気になるところだが、霞の名誉のためにも問い質さないでおこう。置いておけば勝手に自滅しそうだが。

 

「初霜も相当だったじゃない……」

「霞さんには負けますよ」

「わたくしも酷かったですが霞さんには……」

「私から言わせれば3人とも酷かったからね? 朝潮ちゃんの前で全部話そうか?」

 

3人同時に土下座した。余程らしいのでこちらからは触れないことにしてあげよう。雪さんも気の毒に思ったのかゆっくりと私から離れてくれた。気遣いが出来る良い子である。

 

 

 

翌日、島風さんが何処からあの場所に流れ着いたかを調査するため、青葉さんと一緒に私の領海付近の海域調査に出ることとなった。その場所に北端上陸姫が隠れている可能性があるためだ。

いろいろと海図を作っている青葉さんだが、こちらの方はまだ少し甘めだったらしい。陸側も近いため、緊急時に増援が呼びやすいというのも海図を大まかにしている理由であった。

 

「島風さんが漂着したということで、海流を主に調査していきますね」

「だから久しぶりにゴーヤさんもいるんですね」

「海底の形を見る必要があるでち。朝潮ちゃん達は周辺警戒お願いするでちー」

 

青葉さんはいつもの装備に加え、海中が見える眼鏡を着用。ゴーヤさんと2人がかりでの調査となった。

今のところは深海の気配は無く、海域調査が黙々と進んでいく状況。私が青葉さんの手伝いとして出た海域調査は毎回何者かの邪魔が入ったので、こんなにうまく進むところを見るのは初めて。

 

「全然覚えてないや。私、ここに流れ着いてたの?」

「はい。傷だらけでここに」

 

随伴として、この現場に流れ着いていた当事者である島風さん、緊急時に島風さんを落ち着かせることが出来る雪さん。そして雪さんの過保護な保護者叢雲さん。戦力としても充分だろうが、どうも緊張感が無い。元々戦闘目的でないので緊張する理由もないのだが、それでもこれは任務の一環。

 

「一番狂ってたときなんだよね、多分」

「おそらくは」

「今は大丈夫だけど、本当に、世界の全部が憎かったの。こんな世界いらないから全部壊しちゃえって思えるくらいに」

 

黒の深海棲艦の思考を植え付けられていたということだ。特殊とはいえ、深海忌雷の製作者は黒側である北端上陸姫。実際、島風さんも真っ黒に染まってしまっているのだから、そうなってもおかしくはない。

だが、この寄生による深海棲艦化は、艦娘本来の性格が変化後にも大きく影響を与えているように思えた。私の場合、自分で言うのもなんだが、司令官のおかげで愛を知っていたため、アサが憎しみを持たなかった。白吹雪さんの場合、今でこそ深く反省出来ているが、深海艦娘として散々調整されて狂わされた状態での寄生だったため、それがより悪化した愉快犯となった。

 

「今は大丈夫だよ。朝潮達は私の味方、友達だもん。憎くないし壊さないから!」

 

その言い方だと、他のものは憎いし壊すとも聞こえてしまう。

島風さんの場合は、元々の奔放な性格が強まっているように思える。味方と認識したものには徹底して仲良くしてくれる。孤独が怖いとも言っていたので、手放したくないというのもあるのだろう。これは元々の性格なのか、深海棲艦化して変化した性格なのかは定かではない。

 

「はーい、ちょっと移動しますぅ。ここから西へ向かいますね」

 

場所としては、鎮守府から南西。周囲は全て水平線だが、より陸に近い位置を調査している形に。この辺りは哨戒ルートにも入っておらず、実際ここまで来るのは初めて。大分前の潜水艦姉妹の件の時よりさらに南下した位置。

 

「この辺りは初めてですね」

「そうですねぇ。ここまで遠いところはなかなか来ませんからねぇ」

 

初めて見る海。何処も変わらないように見えても、感じることは違う。深海棲艦化してから、そういうことに敏感になった気がする。ここもいい場所だ。私が陸上型ならここに移動してきているかも。

 

『ここもなかなかいい場所だな。領海を拡げるならこっち方面にしよう』

「物騒なこと言わないの。そんな気無いくせに」

『それくらいここは居心地がいい場所ってことだ』

 

アサもこの海域は気に入った様子。深海棲艦に好かれる海というのは、良くも悪くもいい場所である。

 

「では一旦朝潮さんの領海に戻りますぅ。今日1回で終わらせるわけじゃないので、ゆっくり調査していきましょう」

「海も広いですしね」

「そういうことです。それに、皆さん気分転換になったんじゃないですかぁ?」

 

初めて来る海は空気も違う。ここに来れたことでリフレッシュ出来たのは間違いない。

その筆頭が雪さんだ。ポーラさんとあの岩の島に行くこと以外で鎮守府から出ることがなかったので、海に出ることは艦娘としても深海棲艦としても気分が良くなる。現に、少し明るくなったように見えた。

 

「小さい姉さん、これからは散歩もしましょ。鎮守府の中で作業し続けるのも身体に悪いわ」

「えっ、でも」

「今、すごく顔色いいわよ。やっぱり海の上が落ち着くんでしょ。そりゃそうよね、艦娘だし深海棲艦なんだもの。何もかも忘れろとは言わないから、たまには気分を変えましょうよ」

 

反省の気持ちを常に示し続けている雪さんも、たまには気分転換に海に出ることもいいだろう。こうなった直後ならまだしも、今なら皆がそれくらい認めてくれる。毎日働き詰めで身体が心配になるほどだ。

 

「うん、わかった。たまになら海に出ることにする」

 

ほんのり笑顔を見せた。当時よりは表情も柔らかくなったかもしれない。

 

「朝潮、雪って何かあったの?」

「……そのうち説明します。すごく重いことなので」

「そっか。でも私は雪の友達だから!」

 

何も知らないが故に、島風さんは雪さんとも分け隔てなく接する。わだかまりも何もない。むしろ深海の匂いのおかげで近くにいると落ち着くまである。一番の新人だが、雪さんには一番の友達かもしれない。姉妹とは違ういい関係だ。

 

「島風が救いよ。出来ることなら何も知らないでいてほしいわ」

「そうなの? よくわかんないけど、知られたくないなら私も聞かない。雪は雪だもんね!」

 

力強く抱きしめた。この場に半深海棲艦がいたらその場で発狂物であるから、こんなこともあろうかと連れてきていない。確かに匂いが強まったように思える。深海棲艦である私には心地良い程度だが。

 

『あれは要注意だな。シマカゼ、孤独が嫌と言っていたろう。そのせいかスキンシップが激しい』

「そうね。何かあるとすぐに抱きついてくるものね。その度に霞達が狂うわ」

『気をつけるのはお前だからな。知らないところであの2人がくっついて、別の場所で霞の近くにいるお前が襲われる可能性もあるんだぞ』

 

1人くらいなら対処出来るだろうが、理性を失った3人を同時に相手をするのは骨が折れそうである。

 

その後、一旦私の領海に戻った後、少し打ち合わせをしてから今度は少し南へ、というのを繰り返した。敵は出てくることなく、深海棲艦の気配すらない。青葉さんが海中を見る眼鏡を使い続けているものの、深海忌雷すら影も形もない状態。そうなると、島風さんが余程運が悪かったのか、それともまだ準備段階で今後深海忌雷がばら撒かれるのか、謎が残るばかりであった。

 

 

 

海域調査を終え、鎮守府に帰投。青葉さんの持つノートには文字と図がビッシリ。ゴーヤさんと協力して得た情報の全てが詰め込まれている。目で見て、足で稼いだ貴重な情報だ。青葉さんは休憩もせず、お風呂にも入らずにこれを纏めるという。

 

「私達はこれで終了です。お疲れ様でした」

 

また後日、2度目の海域調査も組み込まれている。私の領海周辺を全て網羅し、あの島に流れ着く全てのルートを網羅するまでは続けるそうだ。海域調査のメンバーは基本変わらないというのも伝えられている。

 

「小さい姉さんの息抜きに最適ね」

「うん、また行きたい……かな」

 

青葉さんは部屋に走っていってしまったため、残り5人でお風呂へ。戦闘が無いにしろ、長距離を動き続けたことでそれなりに疲れている。

 

「ゴーヤさん本当にお疲れ様です。最近は体調は大丈夫ですか?」

「すこぶるいいでち! やっぱりちゃんと仕事するんだったら休まないとダメでちねぇ」

 

心の病の一件から、ゴーヤさんも考え方を改め、仕事中毒(ワーカーホリック)も改善されていた。

全てはシンさんのおかげ。いろいろあった中で、ゴーヤさんが支えになろうと思える人が来たことが大きかった。仕事ばかりしていたら構うことも出来ないし、体調を崩したら尚更だ。

さらに言えば、シンさんは子供、パワーが段違い。ゴーヤさんがお休みの日でも引っ張り回し、遊び倒している。それに付き合うためには、適度に力を抜かないと無理。

 

「シンちゃんがもう凄くて凄くて。ゴーヤがお休みの時はセンさんの代わりに車椅子押してあげるんだけど、そのまま海に入っちゃって追いかけっこが始まったり、レキちゃんやクウちゃんと一緒に駆け回ったりで大変でち」

「この前、ヒメさんのところまで行っちゃったらしいですね」

「そうでち! 提督に許可貰ってたからいいものの、子供達だけで北に出ていっちゃって! 岸に車椅子だけあったの見たら顔面蒼白になったよもう!」

 

随分と振り回されている様子。だが楽しそうだ。以前までとは大違い。ゴーヤさんの心の問題は、完全に解決したといえる。

 

「私の知らないみんなの事いっぱいだぁ……羨ましいなぁ」

「そうですね。島風さんはここで一番の新人ですから。ゆっくり知っていきましょう。私達は仲間ですからね」

「朝潮はいい人だねー! 一緒にいると気分も落ち着くし、私朝潮のこと好きだよ」

 

本能のままに行動しているからこそ、本心をそのまま伝え、そして抱きついてくる。ここはお風呂なので素肌同士、ちょっと恥ずかしい。

 

「朝潮ちゃん、相乗効果」

「うーん……ちょっとまずいかもですね」

「小さい姉さんから聞いたけど、そんなに危ないの?」

「はい。鎮守府で4人ほど暴走を始める可能性があります」

 

そんなこと気にせずにボディタッチが激しい島風さん。孤独を極端に嫌うからこそ、肌の温もりが欲しいのだと思う。出来ることならいつでもしてあげたいのだが、現状それが問題を起こしそうなのが辛いところ。現在進行形で危険なことになっている可能性大。

 

『ハルカゼが近付いてきてる』

「わかってる。アサ代わってよ」

『高みの見物と洒落込もうと思ってるんだ』

 

主導権の交代も突っ撥ねてくる。緊急時に表に出るという話は何処に行ったのか。

 

「御姉様! 御姉様はお風呂ですね! これはわたくしを誘っているということですね! 一線を越える許可をいただけたということですよね!」

 

扉越しに声が聞こえる。向こう側で服を脱いでいるのもわかる。

 

「叢雲さん、これが結果です。私と雪さん、島風さんの内の2人が重なるとこうなります」

「理性が飛んじゃうんだって……」

「うわぁ……春風って割とお淑やかな子よね」

 

さりげなく雪さんを抱きしめて私と島風さんから離れている。ゴーヤさんに至っては叢雲さんよりも遠くにいる。

 

「御姉様! 春風が参りました!」

「お風呂では静かにしなさい」

「御姉様が悪いのです! わたくしのせいではございません! (かぐわ)しい深海の匂いが悪いのです!」

 

全裸で前も隠さずにお風呂に入ってきた春風。事を起こしてやろうという気持ちがヒシヒシと伝わる。周りに誰がいようと関係ない。

 

「御姉様、今のわたくしは止められないのです。わたくし自身でわかっております。ここで一線を越えてペロペロするのです!」

 

ジリジリと近寄ってくる。これお風呂じゃなかったら猛ダッシュで近付かれたのではないだろうか。割とシャレにならない。

 

「島風さん、少し離れてもらっていいですか?」

「んー? どしたの? あ、妹分が楽しいことになってるね!」

「そうでしょう。でも、それを止めなくちゃいけないんですよ。なので、少しだけ離れてもらえると」

 

名残惜しそうだが素直に離れてくれる。途端に正気に戻る春風。羞恥心で顔が真っ赤に染まっていき、顔を隠してしゃがみこむ。気持ちはわかるが、自制出来ないのだから仕方あるまい。

 

「対策を考えないといけないわ……春風ですらこれだもの。やっぱり扶桑姉様の下で特訓してもらうのがいいのかしらね……」

「そ、その、御姉様、わたくし気をやってまして……その、あのー……」

「わかってるからこっちにおいで。せっかくだからお風呂に入りなさい」

 

顔を隠したまま私にしな垂れかかる形でお風呂に。ダメージが相当大きかった様子。

周囲の視線が痛いらしい。そもそも視線に敏感な春風には苦痛以外の何物でもなかった。それも私のせいなのだから責任を感じる。

 

「春風、一度本当に訓練しましょう。忍耐力の訓練」

「はい……こんな恥ずかしい思いしたくないです……」

「扶桑姉様は3人が重なってもギリギリまで耐えられたわ。そこまでになれとは言わないけど、頑張れるように、ね?」

「はい……」

 

まだ周りは見られないようだ。ゴーヤさんも叢雲さんもこれには同情しかない様子。私だって止められるものなら止めてあげたい。あとは洗脳電波キャンセラーのように深海の匂いに耐性が持てるようなアイテムがあれば。

 

「春風がんばってね? 私も応援してる!」

「はい……頑張ります……」

 

島風さんは自分が理由になっているということはわかっていない様子。だが体質の問題なので怒るに怒れないという状況。島風さんに触るなというのも酷な話だ。島風さんは触れ合いで心の安寧を得ている。

 

春風もそうだが、霞と初霜さんにも訓練が必要だ。訓練でどうにかなるかはわからないが、やらないよりはマシだろう。私も手伝ってあげよう。私も原因の1つだし。

 




鎮守府内で活動していたら不意打ちでネジが飛ぶという過酷な環境。霞&春風&初霜の明日はどっちだ。

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