欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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孤独の払拭

青葉さんが海図を纏めるのには2日要するということで、海域調査は次は3日後ということになった。そのため、翌日からは島風さんの戦闘訓練を始めることとなった。初日は精密検査、次は海域調査と大忙しだが、島風さんには謎が多すぎる。早期の調査が必要と判断された。

 

その島風さんはというと、全員と仲良くなりたいという本能の下、レキ並のコミュニケーション能力を発揮し、次々と仲良くなっていた。孤独を極端に嫌う本能が社交性に発揮されているのならいいことだろう。ただ、一番最初に私、朝潮が落ち着かせるためにやった行動のせいか、相手の胸に顔を埋める行為を基本としてしまう。誰彼構わず真正面から抱きつき、胸に頬擦り。

 

「龍驤さんの胸落ち着く……」

「複雑やわ」

 

現在は龍驤さんの胸に頬擦りして温もりを感じている。龍驤さんはまだいいのだが、コンプレックスを持っている人もいるだろう。その辺りが判断できるかはわからない。

 

「朝潮よぉ、やってくれたな」

「その、咄嗟のことでしたので」

「身体だけじゃなく乳までデカなりおって。うちにもパフパフ頼むわ。島風がこんだけハマり込むんやからさぞかし気持ちええんやろうなぁ」

 

ニヤニヤしながら手をワキワキ。そのノリでも許されているのが龍驤さんの人柄だろう。私も嫌な気はしない。佐久間さんやネジが飛んだ霞達ほど触り方がいやらしくないし。

 

「ほんでも、これで3人目か。元艦娘は」

「そうですね。これ以上犠牲者は出したくないですよ」

「せやなぁ。朝潮は頭ん中に住んどるし、雪はホンマに酷い状態やったしなぁ」

 

島風さんの頭を撫でる。見た目は駆逐艦に近い龍驤さんだが、空母なだけあり中身は大人。さらにはこの鎮守府では最古参だ。ここの人達をほぼ全て見ているからか、誰もの母親のような雰囲気を持っている。島風さんが落ち着くのもその雰囲気を読み取っているのかもしれない。

 

「こいつは飛び抜けて明るいからまだええ方やな」

「生まれた段階でこの身体だからですかね。私みたいに途中から変えられたわけではありませんし、雪さんみたいに敵の言いなりになっていたわけでもありませんから」

 

最初からこうだったというのが私達と違うところ。過去がないというのは、得てして受け入れやすいものなのかもしれない。

 

「明日から戦闘訓練なんやろ? やっぱ朝潮が付き添うんか」

「おそらくは。情報を先行して手に入れる必要がありますから」

「ホンマ、来た時から変わったなぁ朝潮。外見も中身も。顔面に爆撃してトラウマ植え付けたんもいい思い出やで」

 

龍驤さんに言われると、成長も実感できる。まさか身体まで成長するなんて思わなかったが。

 

 

 

翌日、早速島風さんの戦闘訓練。まだ何が出来るか誰も知らないが、本来の駆逐艦島風というものは、自立型艤装と自身の雷撃で戦闘をするスタイルらしい。深海棲艦化しても、そのスタンスは変わらず。

島風さんは魚雷発射管が背中にあるという珍しいタイプだが、深海忌雷の寄生によりそれが禍々しく歪んでいた。

 

「これが島風さんの自立型艤装ですか」

「そう! 私の連装砲ちゃん!」

 

やはり目を引いたのは島風さんの周りをヨチヨチと歩く3体の連装砲。砲身がウサギの耳のようになっていてとても可愛らしい。今まで見てきた自立型艤装と違い、表情まである。サイズも大中小とあり、深海棲艦化の影響からか、一番大きな連装砲ちゃんは重巡並の主砲になっていた。

 

「これはすごいですね……主砲が自分で考えて撃ってくれるなら、雷撃のことだけ考えられますし」

「私がちょっとした指示をするんだけどね。この子達も私の友達なの!」

 

満面の笑みで飛び跳ねている連装砲ちゃん達。こういうマスコット的な艤装は初めてだ。

 

「それでは戦闘訓練をしてみましょう。水鉄砲に出来ましたか?」

「おっけー!」

 

ちょっとだけ発射して黒い水鉄砲であることを見せてくれた。これなら訓練も大丈夫。そういうところはしっかり深海棲艦である。感覚的にやり方がわかっている。

 

「相手はいつも通り深海艦娘を用意しました。こういうものの犠牲になるのはやっぱり漣さんですね」

「犠牲って言った!? 女帝様、今犠牲って言った!?」

 

訓練の相手はやはり深海艦娘。最初から特殊なタイプと戦うのは難しいと思うので、スタンダードなタイプから選択させてもらった。大潮は霞の忍耐力訓練に付き合っており、電さんは深雪さんと哨戒任務中。五月雨さんは時雨さんと別の訓練に参加しているため、漣さんくらいしか相手ができる人がいなかったというのもある。潮さんもついていてくれるので安心。

 

「漣ちゃん、頑張ってー」

「うっしー棒読み! でもこれでやられる漣じゃないやい! へ、へへっ、新人に洗礼を与えてやるぜぇ」

 

悪い顔をしているが、フラグが立っている感じもする。

 

「では島風さん、相手は漣さんです。感覚的に、本能的に、戦いやすい戦いをして漣さんに勝ってください」

「はーい! 水鉄砲で漣を倒せばいいんだよね? やっちゃうよーっ!」

 

海に飛び込む。その後ろを連装砲ちゃんがついていった。海に入ると腰に浮き輪が出現。島風さんに追随する形で追いかける。すごく可愛い。語彙が無くなる。

 

「もしかして漣、1対4を強いられてない?」

「あ、わかりました?」

「察したわ! で、でも勝つんじゃ……漣が勝つんじゃあ……」

 

いつものように面と向かって演習開始。開幕の合図は漣さんの主砲からだった。

漣さんだって与えられた能力がこちら側では使い物にならないだけで立派な深海艦娘だ。主砲の威力は通常より高いし、艦載機だって運用できる。スタンダードであるというだけ。普通の艦娘なら苦戦する姫級の実力はあるのだ。

 

「当たらないよ! だって速いもん!」

 

スピードは誰にも負けないと言うだけあった。トップスピードに辿り着くまでの速さが尋常ではない。気付けばそこにはもういないというレベルである。連装砲ちゃんまでその速度なので、島風さんを4人相手にしているようなもの。

 

「マジで速すぎ! 漣は行動予測とか積んでないんですけど!?」

「連装砲ちゃん! 行っちゃって!」

 

漣さんを取り囲むように配置された連装砲ちゃん。逃げ道は真正面だけだがそこに島風さんが陣取る。

 

「せめて連装砲ちゃんだけでも!」

 

艦載機発艦。2つとはいえ駆逐艦ではあり得ない戦術である。小型の連装砲ちゃんをそれで撃ち抜き、どうにか逃げ道を作ろうとしたが、そこは自分で考える自立型艤装の本領発揮。

 

「小、避けて!」

 

簡単な指示で避ける方向を自分で考えて回避。全て考えて自分でコントロールする私とは負担が全く違う。

 

「中、大、撃てーっ!」

 

撃てと言うだけで相手の位置を確認してから狙いを定める。同時に魚雷の準備。

霞や春風のように手を払うだけで魚雷が出現させられるわけではないらしく、軽巡棲姫のようにしっかり発射管を使った発射。背中の艤装がグルンと回り真横に向く。

 

「行っちゃってーっ!」

「これ絶対ヤバいヤツ! こっちも魚雷じゃい!」

 

中型と大型の連装砲ちゃんからの砲撃を辛うじて避けるが、魚雷をスタンバイしたのを確認したことで、それにぶつけるために漣さんも魚雷を放つ。島風さんも魚雷を放つが、漣さんの思惑通り魚雷同士が接触して爆発。大きな水柱が立つがお互いダメージ無し。視界が塞がれて戦況が膠着した。

 

「すごいね島風ちゃん……一昨日流れ着いたばっかりなのにね」

「深海棲艦ですから、あれでもう完成なんですよ。そこからさらに育つんですから怖いですよね」

 

ドロップしたものが寄生されて流されてきたとしても、生まれて1週間も経っていないだろう。それで既にあそこまでの動きが出来るというのは、生まれた段階で全てが出来るために成長する必要がない深海棲艦そのものである。

 

「私、勝てるかなぁ……」

「どうでしょう。4人と戦うようなものですからね。主砲しか撃てない欠陥(バグ)を持った連装砲ちゃん3人と、魚雷しか撃てない欠陥(バグ)を持った島風さんみたいなものですよ」

「しかも物凄く速いよね。缶とタービン積んだ皐月ちゃんみたい」

 

4人を相手取るという状態に陥ったことで、経験はあってもだんだん押されていく漣さん。顔が必死だ。対する島風さんは演習そのものを友情を深める行為と認識しているようで、楽しみながら戦っている。漣さんとの仲は深まるとは思う。

 

「ひっ、ひっ、これキッツイ!」

 

変な呼吸になってるくらいなので相当大変なのがわかる。その駿足で攻撃は避けられ、精度もだんだん良くなってきている。追い詰められているのが明白。

 

「楽しいね! 仲間と一緒にいるのって楽しい!」

「それはようござった! 漣はすっげー大変です!」

 

それでも島風さんは楽しそうだ。一緒に何かをするという行為が、島風さんの調子をどんどん上げていく。連装砲ちゃんすら無傷で漣さんを追い詰め、ついには完全に四方を囲んだ。

 

「おしまい!」

「1人で4方向はズルくねーですかー!?」

 

前後左右からの同時攻撃で、漣さんは成すすべなく水浸しにされるのであった。隣で潮さんが笑いを堪えているのがわかる。可哀想ではあるが、島風さんが楽しそうで何より。

 

「多分私も無理かな……」

「1人で4人分働くというだけでも凄いですよ。敵じゃなくて良かったですね」

 

1人駆逐隊というところか。孤独を嫌うのに1人で充分に戦える力を得てしまった辺りは皮肉である。

だがこの力を持っているのに、同じ制服の4人の艦娘に襲われたと言っていた。余程の精鋭に見つかったのか、変化したばかりでこの力がうまく使えなかったのか。各個撃破されたのなら、やられてしまうのもわからなくもないか。

 

「勝ったー! 朝潮、勝ったよー」

「お疲れ様です。島風さんの能力、よくわかりました」

 

そのままの勢いで抱きついてくるから結構痛い。でも素直に喜びを表現する方法としてもボディタッチを使ってきているのだから無下にするわけにもいかないだろう。

島風さんは、艦娘の姿を取っているレキのような存在だ。子供っぽく、感情を素直に行動で表現する。特に今だと私自身が駆逐艦とは離れた姿のため、甘えやすいのかもしれない。

 

「負けたようっしー……新人に……」

「うん、わかったから真似て抱きつくのやめてね。漣ちゃん水浸しだから私も濡れちゃう」

「うっしー冷てぇっす。女帝様はぜかま氏が濡れてても抱き着かせてるのに」

 

潮さんは本当に漣さんに対してだけは強い。頭を押さえて抱き着かせないようにガードしている。

 

「潮の胸も落ち着けるあったかさだったよ」

「なにぃ!? ぜかま氏はうっしーの潮っぱいを堪能しただとぉ!?」

「島風ちゃんは必要なスキンシップだし拒む必要ないよ。でも漣ちゃんはダメ。下心がすごく見えるから。添い寝のときに揉もうとしたの忘れないからね?」

「ぐぬぬ……まだ朝潮っぱいも堪能してないのに……」

「堪能させる気はさらさらないので諦めてください」

 

漣さんだからこんなお調子者なテンションでも許されている感じもある。罪悪感から来る空元気にも見えたが、元々こういうものなのだと潮さんに聞いている。裏側では泣いていたことも。辛い部分を表に出さないようにしているのは素晴らしい事だと思う。心が強い人だ。

 

「即戦力じゃねーですか。ぜかま氏が朝潮帝国最後の1人になるんですかい?」

「そういえば12人目だね。朝潮ちゃんの連合艦隊が出来ちゃった」

「……それは喜んでいいんですかね」

 

島風さんが加わると、私含めて12人。物凄く偏った連合艦隊編成が可能。戦艦4、空母1、水母1、駆逐6という状態だが、まともな艦娘が1人もいないという冗談みたいな部隊である。ある意味、この鎮守府の特徴を如実に表している。

とはいえまだ島風さんがそういう立ち位置になるとは限らないので、今はそう考えないようにした方がいい。好いてもらえるのは嬉しいが。

 

「それだけ懐いてるんだし、もう帝国民でいいんじゃないかな」

 

島風さんは私の胸への頬擦りをやめない。演習とはいえ戦闘後だからか、心が安息を求めているのかもしれない。自然と頭を撫でる形に。私もこれが落ち着くようになっている。

 

「そういえば、相乗効果……」

「3人は今、猛特訓中です。1つの部屋に集まって、扶桑姉様が抑え込んでます」

「じゃあ3人重ならなきゃ大丈夫なんスかね。昨日お風呂でえらいことになったって叢雲ちゃんから聞いたんだけど」

 

春風のことはもう伝え聞いているようだった。あまり話さないでほしいものだが。

 

「佐久間さんに雪さんを調べてもらって深海の匂いの研究もしてもらっています。忍耐とかでどうにかするより、このイヤリングみたいな装備でどうにかしてあげたいので」

「匂いなら鼻つまんでどうにかなんないのかな」

「そんな簡単なことじゃないんですよ。深海艦娘に影響がなくて本当に良かった」

 

これに関しては昨日の春風を目の当たりにしている雪さんが快く同意してくれた。深海の匂いが抑えられる、もしくは、感じなくできるものが出来上がれば、島風さんのスキンシップも堂々と受け入れられる。

 

「さ、一旦戻りましょう。島風さんのスペックもわかったことですし。データは私が報告しておきますよ」

「はーい。ありがとねみんな。漣、またやろうね!」

「次はこっちに仲間くだせえ! 1人で相手するの辛すぎぃ!」

 

漣さんも楽しんでいる。島風さんも少し違う方向でムードメーカーになりそうだ。仲間になって僅か数日だが、すごいスピードで馴染んでいる。

 




孤独を嫌うが故に1人で駆逐隊を結成してしまいました。単体で見ると作中で書いた通り、魚雷しか使わない島風と、主砲しか使わない連装砲ちゃん3体という欠陥(バグ)駆逐隊みたいなもの。島風がやられたら全滅ですが。
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