欠陥だらけの最前線   作:緋寺

176 / 319
大きな一歩

数度の海域調査を続け、私、朝潮の領海周辺の海図がそろそろ完成するところまでやってきた。次の哨戒で一旦調査終了となる。この海図の完成に一番喜んでいたのは実はアサ。島から出ようとしない分、周囲の海の詳細がわかるのが嬉しいと語る。

その間に、島風さんは鎮守府の全員と仲良くなっていた。レキがやってきたことをそのままなぞっているように思えるほどの手際の良さ。誰とも確執はなく、演習も訓練も楽しんでいる様子がよく見られる。非番も誰かと遊んでいるようで何より。仲がいいのはレキやクウという辺り、やはり似た者同士なのかもしれない。レキと駆けっこしているのをよく見かける。

それでも私と雪さんに抱きつくことが多く、その度に半深海棲艦の4人が苦しむのが、少し申し訳なかった。

 

そんな中、工廠に向かう通路で佐久間さんが倒れていた。何事かと思い駆け寄るが、やり遂げたような恍惚とした表情である。

 

「さ、佐久間さんどうしました」

「やっっっっと成果が出たよ! 深海の匂い!」

「えっ!?」

 

私達の深海の匂いについて、一定の成果がついに出たらしい。純粋な深海棲艦であるセキさんでも解析出来なかったことを、人間の佐久間さんがついに辿り着いてしまった。深海棲艦にかける強い思いで引き寄せた勝利であろう。

 

「匂いを抑えることは出来ないけど、匂いを遮ることくらいなら出来そう!」

「凄いじゃないですか!」

「少し理論がわかってから3徹くらいしたからね! とりあえず私は寝る!」

 

これで霞達が理性を押さえつける苦しみから解放されるということだ。島風さんは毎日何度か抱き着いてくるので、その度に危険なことにはなっている。扶桑姉様プレゼンツの忍耐力訓練で理性が突然飛ぶことは無くなったものの、なんというか、トイレを必死に我慢しているような表情になるのは見ていて辛い。私に対しての欲情を突然()()と言っていたので、あながち間違いではないのかも。

 

 

 

その翌日、1つの部屋に集められる元艦娘3人と半深海棲艦4人。重なった時点でアウト。3人重なったら扶桑姉様すら危険。

 

「ようやく完成したよ。深海の匂いをシャットアウトする装置!」

「佐久間さんの協力で、ついに深海の匂いの謎が解けたよ! そのおかげでいろいろ作ってきたから、みんなで試してほしいんだ」

 

扶桑姉様すら拍手喝采。私の安全が保たれそうということで、皆が喜んでくれた。これに関しては自衛が出来ないので助かる。

 

「まず段階を追って説明するね。最初に作ったのはこれ。深海臭気計」

 

臭いの判定をするための機械らしい。深海絡みの人は大概これに反応するらしく、この鎮守府にいる限りは誰しも何かしらの数値が出るらしい。現に、深海棲艦どころか艦娘でもない佐久間さんですら、臭気計には『5』と出ていた。本当に無関係なら『0』と表示されるとか。ちなみに明石さんは『10』。深海艤装を触ってる分、少しだけ高め。

 

「春風と扶桑姉様が50、初霜さんが60、霞が80、ですか」

「根深ければ根深いほど数字が上がるんだよ。霞ちゃんのことは聞いてるけど、8割近く深海棲艦な上に、常に朝潮ちゃんと添い寝してるんでしょ。匂いも移るよ」

 

深海忌雷が絡んでいる初霜さんは、同じ半深海棲艦でも先天性より数値が高め。霞は深海艦娘に変えられてからの変化だから、深海忌雷が絡んでなくても初霜さんより高いという。これはおそらく純粋な深海棲艦、レキやクウだと100くらいになるのではないだろうか。

 

「では問題児達の測定に入ります。まず雪ちゃん」

「は、はい」

 

雪さんに深海臭気計を向ける。出た数値は『350』。段違いに高い。

 

「あー、雪ちゃんでこれかぁ。じゃあ次、島風ちゃん」

「はーい。雪よりも大きいかな?」

「体感で雪より島風の方が匂い強いわ」

 

霞がそういうだけあり、島風さんの数値は『500』。雪さんは縮んだときに匂いが少なくなっているので、元々は島風さんと同じくらいだったはず。

 

「では一番の問題児の測定を」

「否定できないから困るんですが」

 

今の身体になって匂いがより濃くなったとは言われたが、自分自身の匂いはわからないのでこういうところで数値化してもらえるのは少しありがたい。島風さんが500となったのなら、私はそれより少し高いくらいだと思う。

 

「えーっと、朝潮ちゃん、心して聞いてね」

「はい。島風さんより少し高い程度だと思うんですけど。600くらいですか?」

「1200でーす」

 

文字通り桁違いだった。自分ではそんな気は無かったのだが、島風さんの倍以上。そんなものが鎮守府内にいるのだから、初霜さんは変化した途端に狂うし、霞もやたら添い寝を望むようにもなる。ちなみにアサに交代すると1300に上がる。

 

「次が重要ね。これが匂いをシャットアウトする装備。なるべくファッション性を上げるためにチョーカーにしてみました。シャットアウトできる値を設定できるようにもしたからね」

 

見た目は普通のチョーカー。喉元にアクセサリーのようなものが付いているが、これが値の設定が出来る部分の様子。洗脳電波キャンセラーのイヤリングのように妖精さん要らずになっているのはありがたい。

 

「今は朝潮の値の1200に設定しておくね。現状維持がいいでしょ」

「勿論。朝潮さんの匂いを常に感じていたいですから」

「相乗効果が無ければああはなりませんし」

 

1200以上の値を1200の値として留めるということだろう。それなら現状維持だ。値を設定されたチョーカーを各々が装備。ここで春風、とんでも無いことを言い出す。

 

「これ、首輪に出来ないでしょうか」

「春風諦めてなかったの……」

「わたくしは御姉様の忠犬ですから。チョーカーよりは首輪がいいですね」

 

外部の人に見られると誤解されそうな外見になってしまうので出来れば控えてもらいたい。それに、春風を許すと全員がそれを望みそうだからよろしくない。こうなってしまうと、全員並行線でないと不和が生じる。

 

「それは朝潮と相談しておいて。はい、つけたね。じゃあやってみよう。雪、朝潮と抱き合って」

「はい。これで何ともならなければ成功なんだよね……えいっ」

 

飛びつく形で私と重なりあう。いつも通りならこれでトぶ。が、何事もないようだ。これで安心できるようになった。

 

「すごい、ただ見てられる」

「大丈夫そうですね」

「我慢もしていないですから、装備の効果は上々というところです」

 

深海臭気計で相乗効果を計測したところ、まさかの『5000』という数値。倍とかそういうレベルでは無かった。

 

「じゃあ最後、島風」

「はーい!」

 

そこに島風さんも飛びついてこられたことで体勢を崩しかけた。3人が重なったことによりさらに数値が上昇。

 

「うわぁ……これギリギリとはいえ扶桑さんよく耐えられましたね……30000超えてますよ」

「妹を傷付けたくないもの……愛しくて愛しくて堪らなかったけど……どうにか我慢したわ」

 

扶桑姉様の忍耐でギリギリというのもわかるとんでもない値。私単体の時からまた桁が変わってしまっている。私には伏せられているが、霞達はこれで佐久間さんに弱みを握られるレベルの豹変を見せてしまっているわけだ。数値化されると本格的に危ないとよくわかった。

 

「わかってると思うけど、それも外さないように。不意打ちで暴走しても知らないから」

「当たり前よ……またあんなことになるわけには……」

「霞さん、外してみましょうよ。朝潮さんに痴態を見せてないの霞さんだけですし」

「いいですね。霞さん、御姉様に見せてもいいのでは」

 

霞にジリジリと近寄る春風と初霜さん。自分達の言動を痴態と認識した上で、霞にそれをやらせようとしている。あまり褒められることではない。今は深海の匂いにもやられていないので、素面のままこの行動。もう少しシャットアウトした方がいいのではなかろうか。

 

「はいはいやめなさい貴女達。霞のことは後から聞いておくから」

「御姉様に従います」

「霞さん、命拾いしましたね」

 

霞は本当にホッとしていた。余程のことをやらかしているのだろう。後からこっそり聞きたいレベル。

 

「いやぁ、でもこれで1つ課題は終わったね」

「ありがとうございます。安心して普段を過ごせます」

「姉さん、初霜はわざと外す可能性あるわよ。何かあったらちゃんと罰するように」

「そんなことするわけないじゃないですか!」

 

霞と初霜さんはなんだかお互いに当たりが強いように見える。春風は妹分として扱っているが、初霜さんは自称嫁。霞にとっては私の所有権を競い合う一番のライバルとなる存在なのだろう。そも私の所有権というものは誰のものでもないのだが。強いて言うならアサのもの。

とはいえ仲が悪いわけではないので安心して見ていられる。喧嘩するわけでもないし。潮さんと漣さんの仲に近いか。

 

「はい、とりあえず私達はもう大丈夫だから、離れて離れて」

「えー、朝潮の身体あったかくて気持ちいいのにー」

「うん……すごく落ち着くの」

 

島風さんはともかく、雪さんも離れる気配がない。くっついていても誰にも害が無いとわかったことで、今の満足感をもっと味わいたいと思ってしまったようだ。いつも罪を償うために奔走している雪さんも、今この時だけは緩んでもいいだろう。

正面から来たので、頭を撫でてあげる。島風さんと同じように胸に顔を押し付けてくる。身長差もあるので、雪さんも娘みたいな感覚に。

 

「これだけ長時間カットできてるなら、この装備は大成功だね。朝潮の寄せ餌効果はそのままに、味方への影響だけは全部無くせてるんだから。佐久間さんホント助かったよ」

「いやぁ、こっちも感謝だよ。これ凄い成果だからね。深海の匂いって新種の成分がわかったから、ここから生態系のことがもっとわかるよ」

 

開発組は装備の出来に大満足な様子。私も本当にありがたかった。これで普段からの不安が取り除かれたわけだ。

 

「あの、明石さん、1ついいですか」

「ん? 初霜どうしたの?」

「これ、全部カットって出来るんですよね。やってもらってもいいですか?」

 

一切匂いを感じないという状態を試してみようと思った初霜さん。確かにそれがどういう状態になるかは気になる。

 

「はい、これで全部カット。何も匂いを感じなくなったと思うけど」

「ありがとうございます」

 

チョーカーのアクセサリーをちょっと弄ったことで設定が完了したみたいだが、見た目としては何も変わらない。今はまだ雪さんも島風さんも私と接触している状態なので、外れていたら狂うような状況。

その状態で私達を眺めた初霜さんが、急に取り乱す。匂いを感じなくなるというのは感覚が違うのだろうか。

 

「ごめんなさい、すぐに元に戻してください。逆に狂いそうです」

「えっ、何か不具合あった?」

 

初霜さんに言われて明石さんが大慌てで設定を戻した。落ち着いた初霜さんが大きく息をつく。

 

「目の前にいるのに匂いを感じないというのがすごく怖いです。朝潮さんの存在が途端に希薄になったような、そんな錯覚がありました。あの感覚は二度と感じたくないです」

「えっ、明石さん私にもお願い」

 

霞も体験。設定を変更された後、急に震え出して設定を元に戻す。

 

「姉さんが目の前から消えたかと思ったわ……」

「ですよね。これ本当に怖いので、扶桑さんは絶対やらない方がいいです。今の設定が変わらないようにロックした方がいいと思います」

 

扶桑姉様に同じことが起こったら、おそらく発狂してこの場で暴れ出す。ただでさえ危うい精神状態のままなのだから、何事もなく済ませる方がいいに決まっている。

 

「忠告ありがとう……明石……できるかしら……」

「できますよ。今のうちにやっておきましょうか」

「お願い……私……何するかわからないもの……」

 

何かの手違いで匂いを全てカットするような状態になっても困ると、皆も次々とロックをしていった。性能が良すぎるのも考えもの。

 

「初霜、よく気付いたわね」

「私がこの身体になって、常に朝潮さんの深海の匂いを感じ続けていたので、それが途切れたら嫌な感じがするんじゃないかと」

「別の任務とかの時は匂いなんて無いのに」

()()()()()()()()()というのと、()()()()()()()()というのは、まるで違うんですよ。今のでわかったでしょう」

 

それだけ初霜さんが私の深海の匂いに依存しているとも思えて、少し申し訳ない気待ちに。ただ、今の初霜さんを作っているのもこの深海の匂いだと思うと複雑な気分である。

 

 

 

事が済み、各々自分の持ち場へ。私は扶桑姉様の心の安息のために談話室で抱きつかれている状態。いつものように膝に乗せられ、後頭部に頬擦りされている。今日はその場に霞も便乗している状態。山城姉様は白兵戦組の訓練に行っているため、ここには来れない。

 

「癒されるわ……定期的に朝潮の匂いを近くで感じたいの……」

「扶桑さんは本当にそれ好きよね」

「ええ……これが一番満たされるの……霞もやってみればいいわ……」

「身長差があるから難しいわ」

 

定期的にこれをやって満たされてくれているので、扶桑姉様もずっと幸せそうだ。危なそうならそうなる前に山城姉様に連絡されるので大丈夫。

 

「扶桑さん、ここに来た時から変わったわよね」

「そうね……居心地がいいし……朝潮の匂いで落ち着けるの。前までの私とは……全く違うわね。少なくとも前までなら……こんな風に霞と話もしないもの……」

 

本当に最初の頃は、私と山城姉様以外に全く興味を持っていなかった。だから春風と大喧嘩になったわけだし。私の記憶障害が、それを無くすキッカケとなったというのも皮肉な話ではある。

 

「扶桑姉様はここで艦娘の心を知りましたから。今の扶桑姉様、私は好きですよ」

「ありがとう……朝潮の愛を感じるわ……」

 

抱きしめる力が少し強くなる。霞が羨ましそうな顔をするが、今は扶桑姉様の時間だ。何も文句は言えないし、言ったら私が説教することになる。

 

「私はね……何とか耐えられたの。だって私が朝潮を滅茶苦茶にしたら……今までやってきたことが……ね?」

「ありがとうございます、そこまで考えてくれて。ちなみになんですが、扶桑姉様は私に何をしようと……?」

「ペロペロじゃ終わらないわね……グチョグチョにしてるわ……朝潮の知らないことを全部教えて……求めて求められてを繰り返すようにして……朝潮も狂わせるわね……」

 

本当に耐えてくれてよかった。されていたら私もどうなっていたかわからない。下手をしたら鎮守府に影響の出る大喧嘩になっていたかもしれない。

 

「安心していいわ……あの時に想像しただけだから……」

「扶桑姉様普通に怖いです」

「……大丈夫よ……今はこれだけでも満たされるもの……あの時はそこまでしないと満たされないと思ったの……」

 

相乗効果の恐ろしさを改めて知った。霞は相変わらず黙秘を続けているが、おそらく佐久間さんの部屋に縛られていた3人も扶桑姉様と同じようなことになっていたのだろう。縛られてもそれをしようとしていたから、佐久間さんも引くほどのことになっていたわけだ。

 

「霞については聞かないから。話したくなったら話して」

「墓まで持ってくわ。あれは話せないわよ……」

「それがいいわ……朝潮に嫌われたくないものね……」

 

そこまでの考えに至ってしまう相乗効果が防げるようになって本当によかった。佐久間さんと明石さんにはつくづく感謝である。

 




臭気計の値ですが、朝潮が1200、雪とくっついて2倍ではなく2倍の2乗で4倍として5000、さらに島風がくっついて3倍ではなく3倍の3乗で27倍として30000超えとなっています。扶桑姉様が耐えられる値は35000までくらい。それを超えるとR18になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。