欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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同じ顔の別人

数日後、私、朝潮の領海周辺の海図が完成したと聞き、それが展開されている会議室へと向かった。大喜びのアサは無理矢理私から主導権を奪い、さらには自分の服にまで着替え、深海棲艦の姫として、領海周辺は知っておきたいと鼻息を荒くしていた。

 

「海図が出来たと聞いたぞ!」

「アサ君の方で来るとはね。ああ、青葉君が完成させた」

「早速見せてくれ! 楽しみにしていたんだ」

 

机に拡げられた大きな紙には、事細かく書かれた領海の情報。島を中心に海流や海底のことまで書かれていた。島の中の詳細まであったため、アサが感動しているのがわかる。

 

「これが私の島なのか……すごいな!」

「恐縮です!」

 

海図から島風さんが流れ着いた場所の海流を確認すると、割といろんなところから流れ着いてもおかしくないような状態だった。先日疑った、第十七駆逐隊がいるであろう東の鎮守府方面からも、領海から南にある浦城司令官の鎮守府方面からも、そこから離れた志摩司令官の鎮守府方面からも流れてきそうな感じ。

島風さんが何処から流れてきたかは結局判断がつかないことに。海域調査をしたものの、謎は1つも解決せず。

 

「いやぁ、こんな形で自分の島の全容がわかるとはな。素直に嬉しいぞ」

 

いつもの無愛想な顔だが、内心は普通以上に喜んでいるのがわかる。これも複製してもらって部屋に飾るまで考えているだろう。

 

「満足した! 朝潮に代わる!」

 

やる事をやって私に主導権を渡してきた。本能の化身本領発揮。やりたいことをやって思考の海でニヤニヤしている。余程嬉しかった様子。

 

「お騒がせしました」

「いやいや、あんなにアサ君が喜んでいるのを見るのは初めて見るからね。あれだけ喜んでくれたのなら作った甲斐があるんじゃないかな」

「本来の目的としては不発でしたけどねぇ。まさか海流が集まる場所の島だとは」

 

結局のところ、虱潰しになりそうだった。今一番有力なのは、島風さん自身が反応した第十七駆逐隊。私達の鎮守府には誰1人として配属されていないが、他の鎮守府にはいてもおかしくない。浦城司令官の鎮守府には見当たらなかったが、志摩司令官のところにはいるかも。

 

「ゴーヤ君から話は聞いているよ。第十七駆逐隊のことだったね。先日は阿奈波君のところの部隊と出会って島風君が反応したようだが、そちらは爺さんに少し鎌をかけてもらうことにする。我々は志摩君の鎮守府と交流しようかと思っている」

 

私の考えを読んだかのような反応。あちらとはここ最近の関係だが、何かあるかもしれないのは何処も同じ。また会いに行くのもいいかもしれない。元深海棲艦を運用しているために、こちらへの理解力も高く、いい関係ができるはずだ。

 

「朝潮君、行きたいと顔に書いてあるよ」

「えっ、そ、それはまぁ、峯雲がいますから。悪い影響を受けていないかが心配で」

「あはは……志摩君の鎮守府は武闘派揃いだからね。基本大人しい子まで好戦的になっているから心配するのも無理はないよ」

 

それもあってか、志摩司令官の鎮守府に再び向かうことができるようになった。今回は援軍でもなんでもなく、調査。島風さんも一緒に行ってもらい、隠蔽していないかを確認するためとなる。

 

 

 

割と最近行ったばかりだが、またここに来ることになるとは思わなかった。今回の随伴は調査の主役である島風さんと、前回一緒に来ている霞、そして峯雲に会いたいと言うことで大潮。あちらの鎮守府に朝潮型がどれだけいるかは結局わからなかったが、峯雲に姉妹の姿を見せてあげたいというのもある。ただし、我が鎮守府の朝潮型にまともな艦娘は1人もおらず、全員が深海棲艦関係である。峯雲も元深海棲艦なので、ある意味コンプリート。

 

「また来たね。待ってたよ」

 

相変わらず豪傑っぷりを見せてくれる志摩司令官。今回は私達が来ることがわかっていたため、村雨さんと峯雲も一緒に待っていてくれた。峯雲が白露型の制服を着ていたのを見たときには流石に驚いたが、真の意味で一心同体である村雨さんと揃いの服を着たいという気持ちはわかる。それに、深海棲艦の服を着ている私が言っても何の説得力も無い。

 

「お久しぶりです、朝潮姉さん、霞ちゃん。あと、初めましてですね、大潮姉さん」

「わー! 峯雲、村雨ちゃんとアゲアゲですねー!」

「はい、村雨さんと一緒でアゲアゲです♪」

「峯雲さんとアゲアゲだよ♪」

 

しっかり手を握って離さないのも前と同じ。むしろ、より強く結ばれているようにも思える。以前からまだそう日にちも経っていないが、村雨さんとのコンビプレーはうまく出来ているようだ。

霞と大潮には峯雲と話をしてもらっておいて、こちらは本題に入ろう。

 

「それで、今回は調査って聞いてるが、何が目的だい」

「この島風さんのことで少し」

 

今は怯えるものも何も無いので表情も明るい島風さん。私と同様、完全な深海棲艦と化した島風さんを見て志摩司令官も少し驚くが、先に私を見ているというのもあり、すぐに表情を戻す。

 

「深海棲艦化した島風かい。うちにも島風はいるが、これはまた」

「とある海域でこうなったらしく、その時に同じ制服の艦娘4人に襲われたと話しているんです。その有力な候補が第十七駆逐隊……磯風さん、浦風さん、浜風さん、谷風さんなんですが、こちらには配属されていますか?」

「陽炎型はうちには揃ってるよ。うちの秘書艦(かげろう)が躍起になるもんでね。呼び出そうか」

 

そう言って鎮守府内に放送をかける。

何処の艦娘も、妹を集めたいというのは同じであることがわかった。ここの陽炎さんも妹が見つかったと聞くや否や、どうにかしてでも配属させたがるようだ。結果、この鎮守府は発見されている陽炎型全員が配属しているらしい。私達のところにもいる時津風さんや萩風さんもここにはいるそうだ。

 

「どうした司令、磯風は訓練で忙しいのだが」

「こういう召集は珍しいですね。どうかされましたか」

 

先行して来たのは磯風さんと浜風さん。その姿を見て島風さんがビクンと震えたが、阿奈波さんのところの第十七駆逐隊を見たときよりは反応が違う。一度目にしたことで薄かった記憶が開いてきたのかもしれない。

ここの磯風さんも浜風さんも、乙改装がされていなかった。そういう意味では誤差レベルだが制服が違う。

 

「この島風がね、十七駆に襲われたらしい」

「なるほど、我々艦娘の難しいところだな。同じ顔の別人がいるのだから」

「黒い島風……提督、彼女と演習は可能なのでしょうか」

「話が終わってから頼みな」

 

浜風さんが早速演習希望。やはりここの艦娘、冷静そうでいても戦いを求めている。大人しい子でも好戦的になっているのがこの鎮守府なわけで、誰であっても例外ではないということなのだろう。ますます峯雲が心配になってきた。

 

「すまん、遅れてしもうた」

「何だい何だい、何か用かい?」

 

少し遅れて浦風さんと谷風さんがやってくる。先の2人と同様、丁改装がされていない。現在それに向かって訓練中だとか。

 

「へぁあ! この前の黒い朝潮じゃあないかい! こっちは黒い島風! 演習は、演習は出来るのかい!?」

 

私の知っている谷風さんのテンション。止める間もなく島風さんの角を握りに行って、志摩司令官に襟を掴まれていた。島風さんもビックリしたものの、これで自分を襲った相手ではないとここで確信したようだ。

 

「朝潮、この人達じゃないよ。私を襲ったの」

「わかりますか?」

「狂ってた時だし、記憶は薄っすらだけど、こんなに明るくなかった。すっごい冷たい顔だったと思うの。私を殺すことに何の躊躇もないっていうか」

 

ここの人達は好戦的で演習をすぐ望んでくるが、敵を殺すことに関しては抵抗があるような()()も感じる。ただただ強い相手と戦いたいだけ。だから深海雨雲姫と激戦を繰り広げた挙句に、満足させて浄化するまで行ったのではなかろうか。

 

「そうですか。島風さんがそう言うのならそうなのでしょう。申し訳ありません。あらぬ疑いをかけてしまって」

「いや、仕方ないだろうさ。艦娘ってのはそういうものだからね。同じ顔の別人が悪いことをすりゃあ、同じ顔のこちらが疑いをかけられてもおかしくないさ」

 

谷風さんに続き、浜風さんも島風さんには興味を持っているようでそろりそろりと近付いていた。それも見逃さず志摩司令官が頭を掴む。

 

「あ、そうだ、一応念のため、これを使わせてください」

「それは?」

「深海棲艦関係者だと反応する装置です。深海臭気計と言います」

 

事前に元深海棲艦の値も調べておいた。一番私達の鎮守府が長いガングートさんで15。明石さんよりも少し高いが、身体は艦娘なだけあり、深海の匂いは殆ど漂わないようだ。

 

「えぇと、志摩司令官は0ですね。深海の匂いが一切なし。他の方々も0。村雨さんと峯雲は5、元深海棲艦ですから多少はあってもおかしくないです」

 

これで完全に疑いは晴れた。島風さんが深海忌雷に寄生されている以上、何かしら深海棲艦絡みの案件なのではと疑いをかけている。島風さんを襲った誰かも、もしかしたら何か関係しているかもしれないと考えている。

 

「朝潮、その装置少し貸しておくれ。今から全員に使う」

「了解しました。簡単な身体測定のようになってしまいますが、念のためよろしくお願いします」

「その代わり、また演習頼むよ」

「それくらいならお安い御用です」

 

そこから配属されている全員が呼び出されては、装置の素性を隠した状態で値を計測されていった。幸い、誰からも反応が出ず、この鎮守府は真っ白、私達の鎮守府に対して清廉潔白であることが証明された。

そもそも、第十七駆逐隊の4人が、島風さんを初めて見たような反応をしたので安心している。演技とはとても思えない態度だった。

 

 

 

全員の調査が終わったため、今回の任務はこれで終了。ここからはフリーとなるのだが、先程お願いされた通り演習に付き合うことに。臭気計による計測で、私の顔を見た全員から挑まれるという快挙。流石に全員とやるのは無理だが、多少はやらせてもらう。

 

「朝潮姉さん……その……」

「どうしたの霞、大潮まで」

「……峯雲姉さん……手遅れだった」

 

がっくり肩をおとしていた。手遅れということはまさか。

 

「大潮姉さんが演習を挑まれたわ……。村雨と一緒に武闘派の仲間入りしてた……」

「あれだけ忠告したのに……」

「た、楽しそうだからいいと思います! アゲアゲでした!」

 

大潮も口ではそう言うものの、顔は少し引き攣っていた。例に漏れず、この鎮守府の空気にすっかり呑まれ、通常の個体とは違う好戦的な性格に変わり果ててしまったようだ。笑顔が絶えないのはいいことではあるが。

 

「まぁ……ここの峯雲はそういうものなんでしょう。私達も人のこと言えないし、祝福してあげるべきね」

「そうですね! ちょっと喧嘩っ早い感じはしますけど、峯雲は峯雲ですから!」

 

名誉白露型とも言われているらしく、その辺りは私も共感できる部分がある。私も名誉扶桑型だし。

 

「島風は早速演習してるのね。1対4って」

「島風さんはあれくらいでないと無理よ。この前漣さんが為すすべなくやられたわ」

「1人駆逐隊って聞きました! ああいうことだったんですね!」

 

最初に演習を挑まれた島風さんは、現在第十七駆逐隊との演習中。自分を襲ったのがこの人達ではないという確証を得るため、襲われた時と同じ条件での演習をしている。それが、1対4。島風さんは1人で4人分働けてしまうので、むしろこうでないと一方的になりかねない。

遠目で見ていても、島風さんは4人に対して有利に戦えていた。欠陥(バグ)有りの扱いだとしても、火力は全て姫級の深海棲艦。さらには機動力が異常。生半可な攻撃では掠ることすら無く、連装砲ちゃんすら同程度の移動をするため、苦戦は必至。

 

あの戦闘を見る限り、島風さんを襲ったのは、やはりここの第十七駆逐隊ではない。狂っていたとはいえ、島風さんが為すすべなく敗北を喫し、傷だらけで流されているのだ。今の演習、島風さんは全くの無傷である。あちらが手加減しているようには到底思えない。犯人とは実力が違いすぎる。

 

「すごいの連れてきたわね」

「陽炎さん、島風さんとも戦いたいですか?」

「勿論よ。朝潮にはリベンジしたいしね。当然、霞もね!」

 

同じように演習を見に来た陽炎さん。後ろには村雨さんと峯雲もついてきている。演習を見ているだけでも学ぶことが多いと、率先して見学しているようだ。もう武闘派集団の仲間入りしているのがそれだけでわかる。

 

「峯雲の調子はどうですか」

「順調かな。常に2人ってどんなものかと思ったけど、なかなか面白いね」

 

演習を見ている村雨さんと峯雲の距離感は異常に近い。手を握るだけでなく腕を組むまでしている。同じ情報を2人で共有するために一番近付ける状態を作り続けているようだ。

 

「あ、朝潮姉さん、演習の相手、お願いします」

「白兵戦できる子なんて見たことないしね」

「私達、すごく興味があるんです」

「後から体験したくって」

 

交互に話してくるのも慣れた。妹たっての願いだし、ちゃんと聞いてあげようとは思う。相手するのはアサだが。

とはいえ私に対しても演習を申し込んでくるとは。もう生粋の武闘派になってしまったのだろう。複雑な気分である。

 

「わかりました。後悔しないように」

「大丈夫。負けるのも訓練のうち」

「負けから学ぶことはいっぱいありますから」

 

本当に好戦的になってしまった。

 

ということで早速、村雨さんと峯雲のコンビプレーを見ることに。相手は私がすることになってしまった。白兵戦が見たいと言っていたくらいだし、仕方あるまい。

 

「よし、やるか」

「ん、んん? なんだか性格変わってない?」

「陽炎さんが言っていたもう1つの人格ですね」

 

アサと直接話していないために若干混乱しているが、その程度。

 

「自己紹介しておく。朝潮の中に住んでいる深海棲艦、深海朝水鬼のアサだ。よろしくな」

「朝潮姉さんの中に、ですか」

「面白いね、峯雲さんのお姉さんは」

 

面白いで済ませられる辺り、意外と豪胆。そういう意味では、ここの人達は皆肝が据わっている気がする。

 

「白兵戦がご所望らしいからな。朝潮は守りに特化してるんだ。だから私が表に出てきた。覚悟しろよ」

「はいはーい。それじゃあ、始めるよ!」

「参りましょう!」

 

2人同時の砲撃で幕を開けた演習。本来なら回避をするところだろうが、アサも白兵戦を()()()()と意気込み、真正面から突っ込む。回避せずとも、砲撃は弾けばいい。この辺りは山城姉様にさんざん教えられていた。自衛のためにも、攻撃のためにも使える。

 

「うっそ!」

「突っ込んでくるんですか!?」

 

艤装の腕で砲撃は全て弾いている。これを私の身体でやっているのかと思うと、ヒヤヒヤしつつも頼もしくもある。自分でもやれるということだし、試してみようかとも思えてしまった。私がやったら間違いなく怪我する。

 

「け、牽制!」

「魚雷です!」

 

雷撃と同時に移動開始。移動も2人同時のため村雨さんが引っ張る形。その間も峯雲が砲撃を緩めず、常にこちらから間合いを取ろうとしている。悪くないが、相手が悪い。

 

「魚雷も効かないぞ」

 

艦載機の射撃で魚雷は全て破壊し、一切止まらずまっすぐ2人の下へ。想定外が重なりすぎて、既に戦いになっていない。2人がかり、さらには元深海棲艦とはいえ、生まれて1ヶ月も経っていない艦娘には簡単には負けない。

 

「砲撃はもう少し足下を狙うといい。それなら回避しか出来ないから、行動が制限出来るぞ。ついでに言うなら、残念ながら私にその類は効かない」

 

砲撃を全て弾いて、眼前まで肉薄。最後は2人同時にデコピン。艤装ではなく素手で。ダメージらしいダメージにはならないが、心を折るには充分すぎる一撃。

 

「参りました……」

「出直してきます……」

 

これでもう少し好戦的な部分が控えめになってくれればいいが。

 

「息はあってるんだが経験が足りんな。もっと精進するように」

 

言いたいだけ言って私に主導権を渡してきた。満足げなのがわかる。

 

「私達、もっと頑張る!」

「朝潮姉さんにも勝てるように!」

 

余計に火をつけてしまったようだった。アサめ、余計なことを。

 

そこからは演習希望者が殺到してしまい、なんだかんだ全員と相手をすることになってしまった。1人でやるのも辛いので、霞と大潮も巻き込み、鎮守府全員を薙ぎ倒すまでに。

おそらくこれが時雨さんも経験したものなのだろう。疲労感がとてつもない。でも充実していた。こういう経験も悪くはない。

 

この演習で、私も第十七駆逐隊の4人と戦わせてもらったが、島風さんを襲った人達ではないと、改めて確証を得られた。戦い方から性格が滲み出ている。この人達は隠し事が出来ないタイプだ。もし襲っていたとしたら、島風さんを見てあんな反応は出来ない。

それだけは安心した。この鎮守府に疑いをかけてしまったのは申し訳ないが、これからもいい関係を続けていきたい。大概狙われるのは私だろうが。




元深海棲艦は気配はするけど匂いはしないというのを大分前に書いたかと思います。臭気計が5なのは、普通では感じられないくらい微量な匂いが出ているという具合。なので、深海棲艦が絡んでいれば臭気計は反応します。ちなみに深海艦娘からも反応は出ます。
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