欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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念には念を

志摩司令官の鎮守府に赴き、島風さんが流れ着いたことには無関係であることの確証が得られた。ついでにさんざん演習させられたのも費用の内だと考えておこう。峯雲の成長も見ることが出来たし、いい関係が続けていけそうだと実感した。好戦的になってしまった峯雲には、いっそのこと、もっと戦闘についていろいろと教えてあげてもいい気がしてきている。

 

私、朝潮達が志摩司令官のところで疑惑の払拭をしていた頃、鎮守府でも少しだけ動きがあった。司令官が元帥閣下に事情を説明し、今一番怪しいと思われる阿奈波さんの鎮守府に鎌をかけたらしい。結果としては大した情報を得られることはなかった。新たにドロップ艦を発見したという情報はなく、使途不明な弾薬や燃料も確認されなかったようだ。

 

「お帰り、朝潮君。そちらはどうだった?」

「無関係である確証が得られました。第十七駆逐隊の方々とも演習させてもらいましたが、嘘をついているようには到底思えません。深海臭気計も使って調べましたが、無反応です」

「そうか、それなら安心した」

 

こちらのことで本当に安心したようだ。

 

「あとは浦城君のところだね。念のため明日向かってもらっていいかい?」

「了解しました。……疑うのは辛いですね。一緒に戦った仲間なのに」

「事が事だからね。念には念を入れておいた方がいい」

 

司令官もあまりこういうことはしたくないと言う。気持ちは同じ。だが、疑わしいものは調べておいた方がいい。何かあっては遅いのだ。

今のところ、私達が向かう海域で深海忌雷も見ていない。なら島風さんは何処で寄生されたのか。謎が全く解決しない。

 

 

 

翌日、今度は浦城司令官の鎮守府へ出向。随伴は島風さんの他に、春風とウォースパイトさん。あちらの鎮守府にいる照月さんを見てみたいということで便乗した。あちらには事前に連絡を入れて車椅子を用意してもらっている。

 

「他の鎮守府は初めてね。I can’t wait」

「たまには外に出るのもいいですよ。とはいえ行けるところは限られてしまいますが」

「私は、アサシオのあの島も好きよ。また行きたいわ」

 

ウォースパイトさんは脚が不自由ということでなかなか外にも出られない。こういう機会で外との交流が出来るのはいいことだ。今回は目的が目的なので複雑な気分だが、私としては何事もないと思っているので、息抜きの一環として考えている。

 

「あ、深海の気配を感じました。照月さんが出迎えてくれるみたいですね」

「会うのは久々ですし、楽しみでした。相当前ですし、練度も大分上がっていることでしょう」

 

今日は霞も初霜さんもいないので春風が私にベッタリである。チョーカーのおかげで突然トぶこともないので安心していられる。さすがに外の鎮守府であの様を見せたら、春風は立ち直れないだろう。

 

「あ、おーい! 春風ちゃーん!」

「照月さん、お久しぶりです」

 

海上で照月さんが手を振っていた。そういえば初めて見る艤装装備状態。聞いていた通り大型化しているが、島風さんの連装砲ちゃんに似た自立型艤装、長10cm砲ちゃんがガチャガチャと音を立てて手を振っているのが見えた。あちらもマスコットのようで可愛らしい。銃弾を葉巻に見立てて咥えているのがまた可愛い。

 

「えっと、そちらは」

「わからないかもしれませんが朝潮です」

「……え? えぇーっ!? 朝潮ちゃん!? 見違えたっていうか面影が殆ど無くてビックリしたよ! 深海の気配もするし!」

 

照月さんと出会った時は、まだまともに艦娘をやっていた時代だ。その時からもう3度の変化をしている。話くらいは聞いていたかもしれないが、実際に見たらこんな反応にもなるだろう。

記念写真は送ったはずだが、それでもこの反応は仕方あるまい。写真で見るのと直に見るのでは印象が違いすぎる。

 

「貴女がこの鎮守府の元深海棲艦なのね。Nice to meet you! 私はQueen Elizabeth class Battleship Warspite!」

「あわわわ、え、英語は苦手で。あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ」

 

ウォースパイトさんはテンションが上がると英語がすごい速さで出てきてしまうので、照月さんもタジタジ。

 

「ああ、ごめんなさい。元戦艦棲姫改のウォースパイトよ」

「元防空棲姫の照月です。よろしくお願いします!」

「よろしくテルヅキ。仲間に会えて嬉しいわ」

 

やはり同じもの同士というのは相性がいいのか、すぐに仲良くなった2人。照月さん自体、同族に会うのはおそらく2人目。ガングートさん以来の元深海棲艦である。別に疎外感などは感じていないと思うが、同じものというだけでも親近感は湧くものだろう。

 

「私の連装砲ちゃんにそっくり!」

「あ、ホントだ。でも長10cm砲ちゃんの方が少し小さいかな?」

「小が同じくらいかも! 大は重巡主砲だから大きいんだぁ」

 

同じような自立型艤装を使っているということで島風さんもすぐに仲良くなっている。連装砲ちゃんも長10cm砲ちゃんと仲良くなった様子。あちらも島風さんと同じで社交性が高いようだ。

 

「じゃあ行こっか。叢雲ちゃんも待ってるよ」

「そうですね。挨拶しておかなくては」

 

照月さんに連れられて鎮守府に入る。事前に知らされていたおかげで、浦城司令官と叢雲さんも工廠で待っていてくれた。

 

「……写真通りとはいえ、実際に見ると驚くわね……」

「艦娘だろうが深海棲艦だろうが、成長するなんて有り得ませんからね。いやはや、これは本当に驚きましたよ」

 

私の姿を事前に知っていたとはいえ、照月さんと同じように実際に見ると驚きを隠せないようだ。

 

2人に会えたので、早速本題に入る。

志摩司令官の時と同様、まず島風さんを見てもらう。こちらの鎮守府には島風さんは配属されていないようだが、本来との違いに驚くものの、それだけで終わった。第十七駆逐隊のことを聞いたが、この鎮守府にはメンバーが誰も配属されていない。私がここに来させてもらった時にも姿は見ていなかった。それは今も同じのようだ。

ついでに深海臭気計も使わせてもらったが、照月さんが5、浦城司令官や叢雲さんは0と、これも志摩司令官の鎮守府と同じような結果に。

 

「便利な装置ね。これ、他の子達にも使っていいかしら」

「どうぞどうぞ。念のため全員見たいと思っていましたから」

「ならサクッと終わらせちゃいましょ」

 

念には念をということで、私達の監視下の下、配属された艦娘が呼び出されては臭気計の値を確認していくことに。全員0なら深海絡みの疑いは無くなる。

深海に関係無しに隠蔽しているとなるとまた振り出しに戻るわけだが、今はそこまで調査することではない。考えないでおこう。

 

 

 

艦娘の深海の匂いを調査するのは浦城司令官と叢雲さん、そして私が担当。その間、暇になってしまう随伴のウォースパイトさんと島風さんは、照月さんとティータイムをしつつお話をしたいと談話室へ。春風は私の後ろに待機。艤装が無いウォースパイトさんに代わり、私の守護者を買って出た。頼もしい妹分である。

 

「おう、久しぶりだな朝潮」

「お久しぶりです長波さん」

「雪はどうよ。何もしてないか?」

 

調査中、長波さんにこちらの近況を聞かれる。雪さんの処遇について反対意見を出したために、現状が気になったらしい。ほんの少しのわだかまりも、ここから大きな溝になりかねない。

 

「ずっと雑務に追われていますよ。罪の意識を忘れずに、鎮守府に貢献したいと、やれることは全部やりたいと走り回ってます。ただ……」

「ただって、やっぱ何かあるのかよ」

「うちの叢雲さんが物凄く溺愛してまして……今メイド服を着せられてます。ああなると艦娘も深海棲艦も関係ないかなと」

 

予想外の解答だったのだろう、キョトンとした後、言葉の意味をようやく飲み込めて大爆笑。

 

「そいつはいいや! 心配して損したぜ!」

「ええ、皆と仲良くやってますよ。ポーラさんだけはどうしても無理ですが、この1ヶ月でわだかまりもほとんど無くなりました。それでも雪さんは自分の罪を忘れていません。見届けてあげるのが私達に出来ることです」

 

あれだけ身を尽くして反省しているのだ。見かけだけの献身でないことは皆わかっている。だからと言って全部許せなんて言えないし、雪さん自体がそれを望んでいない。皆が納得するまでは現状維持、見届けるのが一番の処遇だろう。

 

「反対意見言った手前気になっててさ、それが聞けただけでも充分だ。それにしても叢雲が吹雪を溺愛って、くくく、それだけでも面白いな」

「個体差でしょうが。あっちの叢雲はそういう叢雲ってだけでしょ」

 

こちらの叢雲さんは不服そう。前に敷波さんが話していた通り、吹雪さんに対してそこまでの敬愛は持っていない様子。

 

「話としては聞いてるけど、そっちの鎮守府は個体差が激しいのが多すぎよ。私といい、アンタといい」

「それが取り柄ですから」

「違いねぇ。アレが一番わかりやすいよな」

 

長波さんが指を指す先。長波さんより先に深海の匂いの計測が終わった夕立さんとじゃれあう春風。春風はあちら側に傾き、せっかくだから終わったら演習しようと計画を立てている。古姫側の春風を見るのは久しぶりに思えた。最近は素の状態でトんだし。

 

「今度お邪魔させてもらいたいくらいね」

「お待ちしていますよ」

「あたしらもまた行かせてくれよ。少なくとも神通さんが行きたがってる」

 

おそらく私と扶桑姉様が狙い。勘弁していただきたいのだが。

 

「久しぶりね、別の私」

「えっ、もしかして、以前の別の私ですか!? その、気付きませんでした。すみません」

「気付かなくて当然よ。前と違いすぎるんだから」

 

その次、ここに来たら会いたかった人物。()()()()()()()私。

 

以前に会った時は実戦経験0の生まれたばかりの状態だったが、あれからかなり時間は経っている。別の私も今や改二となり、その惜しみない火力で戦いに貢献しているようだ。

主砲も魚雷も装備できる朝潮というのは、いつ見ても少し羨ましい。特に、改二での運用は私の出来ないことのオンパレードだ。こうなりたかった自分を見ているような感覚。

 

「あの時の経験を胸に、日々精進しています。また会えて嬉しいです」

「そうね……私はこんなに変わり果ててしまったけど、また会えて嬉しいわ」

「変わり果てても、朝潮は朝潮、別の私に代わりありません。でも、その身長と胸は羨ましいところですね」

 

こちらの朝潮は小柄な自分が少しコンプレックスになっている様子。最初の霞のようなものか。

 

「今日は神通先生と演習するのですか?」

「するつもりは無いけど……というか、先生?」

「ここの朝潮は神通さんに教育されてんのよ。おかげで練度はグングン上がって、今では一軍レベルよ」

 

叢雲さんがそう言うのだから、この別の私は強く逞しく成長したのだろう。それにしても神通さん直々の教育とはまた恐ろしい。二水戦式の訓練は、確かあの人に弱みを見せない龍田さんが倒れたもの。それに耐えられているのだから、実は油断できないほど強いのでは。

 

「神通先生からはお話を聞かせてもらっています。駆逐艦の身でありながら、あの神通先生に土を付けたと」

「まぁ……私はいろんな例外があるけど。神通さんから売られた喧嘩を丁寧に買わせていただいただけで」

「むしろ私が演習していただきたいくらいです」

 

神通さんに教育されているということは、それだけ好戦的に育てられているということ。峯雲といい、別の私といい、何故こうも好戦的になってしまうのか。朝潮型はそういう方向に行ってしまうように出来ているのだろうか。

 

「神通さんに勝ったっていうのは私も興味があるわね。今、アンタどういう状態なの。前に見たときは後方支援だけだったわよね。指示だけで新人が私に勝ったんだから充分すぎるけど」

「艦載機が12機飛ばせるのと、艤装による白兵戦が出来るようになったくらいですよ。ああ、あと行動予測で戦場の数秒先の未来が見える程度で。神通さんに勝てたときは白兵戦無しですね。避け続けて艦載機でダメージを蓄積させたただけで」

 

叢雲さんが黙ってしまった。別の私も顔が引き攣っている。

 

「朝潮、演習したいんでしょ。犠牲になって私達にアレの情報を開示させなさいよ」

「いや、あの、あまりにも予想の斜め上過ぎて。別の私は別の何かになってしまったようで……」

 

これだけの情報を聞いて、それでも演習を望んでくるのは神通さんと夕立さんくらいだろう。

 

 

 

調査終了。全員の臭気が0であることが確認できたため、深海絡みではないことが確定。潔白が証明された。疑うのはやはり辛いが、ここの鎮守府は以前から交流があるため尚のこと辛い。

終わったことをいいことに、春風は夕立さんと演習に行ってしまった。入れ違いになるようにティータイムを興じていたウォースパイトさんはこちらへ。島風さんは途中で春風についていったらしい。車椅子を押してきたのは照月さんだった。

 

「この鎮守府も楽しいところね。いろんな子と話せたわ」

「それは良かったです」

「コンゴウやビスマルクとも久し振りに会えて良かったわ。ついてきて正解だったみたいね」

 

息抜き出来て満足げなウォースパイトさん。照月さんも色々話せて楽しめたようだ。この鎮守府には当然だが元深海棲艦は照月さん1人しかいない。出会った直後から仲が良かったが、今ではより親密になっているように見えた。

 

「調査の結果はどうだったの?」

「全員深海の匂いは0でした。なので、深海絡みなのは照月さんだけですね。元深海棲艦だから仕方ないですよ。数値は小さいですし」

「よかったぁ。ホッとしたよ」

 

こちらもホッとしている。あらぬ疑いはかけたくないものだ。

 

「朝潮は数値いくつなのよ。深海棲艦なんだから相当高いんでしょ?」

「えぇと、普通の深海棲艦は100です。こちらにいる深海棲艦で計測しました。それを踏まえて、私は1200です」

「せんっ……桁違いなのね……」

 

これはもう笑うしかないだろう。私も驚いたものだし。

 

「とはいえ、これでアンタ達の目的は達成ね。息抜きがてらここで休憩していってちょうだい」

「ありがとうございます。そうさせてもらいます」

 

これでまた1つで安心できた。こうなると、深海に関係無しに隠蔽していることを考慮しないならば、もう疑うべきところは1つしか無くなる。ここで活動をしている時に、さらに疑問が増えたからだ。

 

海域で第十七駆逐隊と出会った時、谷風さんが私を即座に朝潮として判別出来たことだ。朝潮が大きくなったと、見ただけで判断している。照月さんや、別の私ですら、私が朝潮であるとわからなかったのに。

いくら深海棲艦化した私を知っているといっても、艦娘、ないし深海棲艦が成長していたらすぐに判断はつかない。別の艦娘と間違える可能性だってある。それすら無かった。

 

これはもう、あそこが黒だと断定出来ると思う。鎌をかけても何も出てこなかった辺り、用意周到だ。私が直接行けるかはわからないが、次の調査は阿奈波さんのところ。これで決着をつけたい。




別の朝潮も好戦的。つまり朝潮型は好戦的。これはもう疑いようのない事実になりつつある。

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