司令官の帰還が早まったと連絡が入った鎮守府。なんでも、元帥閣下が鎮守府を査察したいと言い出したらしく、予定より早くガングートさんの報告が終わったそうだ。
「今日の食事当番はお休みでいいそうです。帰還後、提督が作るとのことです。あと、
こなれているのか、大淀さんの指示は簡単。それでも陸からの来客は私、朝潮にとっては初めてのこと。以前の神通さん達は来客ではなく保護なので少し違う。
「大淀さん、元帥閣下はどのような人なんですか?」
「そうですね……私も会ったことは無いのですが、あの提督が信頼できると思った方なので、余程の心配は無いと思いますよ」
それでも失礼のないように、と念を押される。そう言われると少し緊張してしまう。
「ヨド、もう提督帰ってきおったで!」
「はい!? またあの人は船で連絡入れてきましたね……準備とか何もさせないつもりで!」
龍驤さんの哨戒機が司令官の船を確認したらしい。予想以上に早い帰還になっている。まだ外は明るい。しかも、連絡は『今から帰る』ではなく『今帰っている』らしい。用意も何もあったものじゃない。
「ただいま! 今帰投した!」
「早く帰るなら連絡は陸でしてきてください! ああもう急過ぎです!」
龍驤さんが船を見つけてわずか数分後、司令官が鎮守府に帰ってきた。私含め、数人の艦娘が提督を出迎える。
提督に続いて少し疲れた顔の明石さんとガングートさん。経過観察の報告だけでもいろいろあったらしい。2人とも即座にお風呂へ向かった。
「ここがおぬしの鎮守府か。結構結構」
さらにその後ろ。4人の護衛艦娘をつけたお爺さん。この人が司令官が信頼できるという元帥閣下。見た目は普通のお爺さんだが、その地位を持っているということは、見た目では判断できない能力を持っているのだろう。
「賑やかな場所じゃ。こんなに明るい大淀もなかなか見んぞ」
「お、お恥ずかしい……」
「構わん構わん。儂はただのジジイだと思って、普段通りにしてくれればいい」
そう言われる方が緊張するというものだ。司令官の上司と言われれば、私達にとってはさらに上。本来ならこうして姿を見ることも無いような高見の人。
だが、司令官の接し方で空気が変わる。
「そうは言うがね爺さん、アンタの階級でみんな萎縮してしまうよ」
「ならもう少し敬わんかいガキンチョ」
「対等に接しろって言ったのはアンタだろう耄碌ジジイ」
ヒヤヒヤする会話だ。上司に向かってなんて口の利き方。だが、お互いに信頼し合ってるからこそ許されているのだろう。護衛艦娘の方々も一切手を出さない。いつものやり取りだと苦笑しているほどだ。
ふと、元帥閣下と目が合う。ニコリと笑い、手招き。行っていいものか迷っていると、隣にいた天龍さんが背中を押してくれた。
「ここ最近で入ったという朝潮じゃな」
「は、はいっ、駆逐艦、朝潮ですっ」
初めて司令官に会ったときのように声が裏返りかけた。また恥ずかしいことになるところだった。
「よく鍛えられておる。
「あ、ありがとうございますっ」
元帥閣下も最初は欠陥艦娘は解体すべきとしていた人だ。だが、司令官の成果を見て考えを改め、今は護衛艦娘の方々に投げかけるような慈しむ目で、私達を一つの命として見てくれている。
「爺さんはわかっていたものな。
「そうじゃな。こんなに可愛い命を奪う権利など、儂らには無いのぉ」
元帥閣下に頭を撫でられる。司令官とは違う温かさ。司令官が信頼しているのもわかる。
この人は考えを改めたわけでなく、元々間違っているとわかっていた人だ。軍規上仕方なく、他の部下に示しを付けるためにも、上に立つものとして解体を承認していたのだろう。
「加藤、おぬしこの子らを愛娘と言っておったな」
「ああ、全員我が子、愛しい娘達だ!」
「なら儂にとっては孫娘のようなものじゃな」
話が拗れる音がした。同時に護衛艦娘の方々が動き出すのを感じた。
「朝潮ちゃんや、今日から儂のことを『おじいちゃん』と呼んでくれんか」
「おいジジイ」
「えっ、えっ?」
「おじいちゃんと、親しみを込めて」
言い切る前に護衛艦娘の1人、赤城さんが頭をはたく。仮にも上司と部下である。今とんでもない場面を見たのでは無かろうか。
「おじいちゃん、駆逐艦相手にそれはよくないですよ。せっかく大本営の堅苦しい場から抜け出せたのに、今度は豚箱がお望みですか?」
「だってうちの艦娘、即戦力だから君達みたいな大人な艦娘ばっかりじゃん? たまにはこういう幼い娘と」
「加賀さん、全機発艦。このロリコンジジイの頭を治して差し上げて」
「了解」
もう1人の空母、加賀さんに合図を出す。本当に弓を構えた。
「ごめんなさいね。この人こういう人だから」
「すまん、阿呆なんだこいつは」
上司と部下の壮絶な喧嘩を横目に、護衛艦娘の大和さんと武蔵さんにそっと距離を取らされた。元帥閣下、こういうことがよくある人らしい。護衛の方々も大変そうだ。
でも楽しそうだ。私達のように仲がいいんだろう。
一通り鎮守府を見て回った元帥閣下とその護衛艦娘4人。夕食も終え、そのままフリーの時間に。全員が鎮守府で一晩を明かすということで、護衛艦娘の方々に興味が殺到した。その様子を司令官と元帥閣下が遠目で眺めている。
「ほぉ、ここの清霜は戦艦なのか」
「装備だけとはいえ私達と同じ主砲が装備できるだなんて、すごいわ清霜ちゃん」
「だ、大戦艦と対等……清霜の夢はほとんど叶った……!」
一番盛り上がっているのは清霜さん。朝から話をしたいと言っていたが、2人に囲まれて幸せそうにしている。少しだらしない顔になっているが、それは大目に見よう。
大和型戦艦姉妹は、当然だが決戦仕様。全艦娘で見ても最高クラスの力を持つ、最強の戦艦である。特に妹の武蔵さんは改二実装済みで、名実共に最強の座を手にしている。
「だが、こんな小柄な身体で我々の主砲のパワーに耐えられるのか?」
「はい! そこは大丈夫!」
「
以前の戦闘で見たが、清霜さんの攻撃は駆逐艦の威力ではない。その反動も凄まじいもののはずだが、清霜さんは難なく撃っていた。それこそ、最高峰の戦艦と同等の力を持っているのだ。オーバースペックにも程がある。大和さんも目を丸くしていた。
「でも、物凄く燃費が悪いんです。いつも食べてるくらいで」
「大和も大食いだよな」
「貴女に言われたくないわ。改二になってからより一層食べるようになって」
「燃費を良くすることって、できないんですか?」
基本的に燃費を良くする手段はない。私達の知らない手段があるかもしれないが、少なくとも私は知らなかった。そのため、清霜さんはこの最悪な燃費とは一生付き合うことになる。
大和型姉妹も同じくらい燃費は悪く、一度出撃すると大量に燃料を摂ることになるそうだ。私達の知っている清霜さん以上なのだろうか。
「私達も燃費に関しては困っているわね」
「こればかりは仕方あるまい。それだけの力を貰ってるんだ、代償も必要だろう」
「そうですよね……食べれば何とかなるし、諦めるしかないかぁ」
残念そうにしているが、言いながらもオヤツを食べている清霜さん。出撃どころか訓練すらしていないのにこれとは、本当に燃費が悪いことが伺える。
一方、一航戦の2人に蒼龍さんが絡まれていた。艦としては、かの有名な戦場で散った最後の仲間同士の3人だ。ここにはもう1人の二航戦である飛龍さんがいないのが残念である。
「浮き砲台って……どうやって戦ってるんです」
「他の誰かに曳航されながらですよ。曳航くらいなら駆逐艦でもできますから。発艦は移動する必要がないですし」
「無茶苦茶言ってますよ」
蒼龍さんの戦闘方法に驚きが隠せない赤城さん。確かにやっていることは無茶以外の何物でもない。だが、それで戦果をあげているのだから、蒼龍さんにはベストの戦い方である、
「龍ちゃんも浮き砲台なんですよ」
「……ここの空母は2人も浮き砲台ですか。それでよくここまでの戦果が出せるわね」
加賀さんも怪訝そうな顔をする。疑問にも思うだろう。対空や索敵、先制攻撃など、空母はやる事がいっぱいだ。甲板がやられたら手段が無くなってしまうが、戦艦の次にパワーのある艦種と言ってもいいほどである。
それが移動不可の浮き砲台。どのような戦術か、興味が出るのは必然だった。
「慣れって恐ろしいですよ。例えば曳航してくれるのが天龍だったら、こう、速攻で近づいてきてガバッと担ぎ上げて移動してくれるというか」
「そんなんじゃ弓が撃てないじゃない」
「移動先で撃つんですよ。駆逐艦の子は背中から引っ張ってくれるので撃ちながら移動できますし」
一航戦には想像を絶する戦い方だったようだ。私達は蒼龍さんを曳航するのが当たり前のことになってしまっているため違和感はないが、本来ならあり得ない戦術だ。天龍さんを筆頭にした白兵戦の戦闘を見たら卒倒するのではないだろうか。
「まだまだ私達の知らない戦い方がありますね、加賀さん」
「そうね赤城さん、
「あ、それなら演習とかしちゃいます? 直に見てもらった方が早いですし!」
司令官達に目配せする蒼龍さん。今はもう暗いので、空母の方々は基本的に戦闘行為ができない。この鎮守府では夜間に訓練することもそんなにないこと。哨戒任務はあるらしいが、私は参加した事がない。駆逐艦は明るいうちにしか哨戒しないようになっているそうだ。
「夜戦訓練が無いことは無いが、空母の君達が何をするんだい。やるなら明日にしなさい」
「はーい。赤城さん、加賀さん、明日演習しましょう! そこで、私達の戦い方見てください!」
空母勢の流れで明日の朝、演習をすることになってしまった。部屋に皆いるため、元帥閣下に自分達を見てもらえるとやる気になっていた。
「加藤、一番通常とは違う6人を見せてくれんか。聞いている限り、浮き砲台の空母、戦艦性能の駆逐艦、あとは白兵戦専門の艦娘だったかの」
「そちら戦艦と空母2人ずつでしょ。なら対空もちゃんと使わせてもらうよ」
相手は最強クラスの戦艦と空母。それが最高練度。いくら4人だとしても、こちらが勝てる可能性はかなり低いように思える。だが、こちらも最前線を任せられた艦隊だ。一矢報いるくらいはできるだろう。勿論、皆勝つつもりで戦う。もし私が部隊に選ばれたら、勿論勝つつもりで戦う。
「じゃあ、儂の艦娘が勝ったら朝潮ちゃんにおじいちゃんって呼んでもらうからの」
「ロリコンジジイ、いい加減にしろよ」
私が勝手に賞品にされたように見えたが、そんなに言われたいのだろうか。だったら
「勝ち負け関係なしに大丈夫ですよ。
「ーーーーー」
元帥閣下の呼吸が止まったように見えた。いや、止まっていたらまずい。
そのまま流れるように両腕を上げ、幸せそうに震える。そんなに嬉しいことなのだろうか。私にはわからない。
「儂、生きていて一番幸せかもしれん」
「朝潮君、爺さんを甘やかさなくてもいい」
「そ、そうですか」
遠目に溜息をつく護衛艦娘の方々。まずいことをやってしまったのだろうか。なんだか申し訳ない気分になってきた。
燃費を下げるシステムであるケッコンカッコカリは、司令官の方針的に存在を伏せています。朝潮一人称のためそういうこと書けないので、ここでちょっとだけ補足。