欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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女王と女帝

霞達の『種子』の摘出の目処は立った。今佐久間さんと明石さんが全力で取り組んでくれている。早ければ今日中にでも、『種子』の『発芽』した場所が判明した霞は復活を遂げるだろう。

だが、新たな問題が。白吹雪さんとの戦闘で砲撃を受けた者全てが『種子』を埋め込まれていると判断された。援軍に来てもらった人にも怪しい人がいるが、今はそれより前に自分達の鎮守府を守ることが先決。

 

そして今、『種子』を埋め込まれているであろう2人と対峙している。

 

「帰投直後で申し訳ないですが、艤装と身なりを調べさせてください。構いませんよね。ガングートさん、ウォースパイトさん」

 

この2人は白吹雪さんとの最終決戦で砲撃を受けている。ガングートさんはまともに受けて大破しており、ウォースパイトさんは私の盾役をしてくれている間に中破している。その時に埋め込まれている確率は非常に高い。ウォースパイトさんは微妙ではあったが、ガングートさんと行動を共にした時点で黒。

 

「突然何を言い出すんだ」

「理由は聞かずに。疚しいことが無ければ拒絶はしませんよね。睦月さん、2人の艤装の調査をお願いします」

「任せるが良いぞ」

 

ほんの少しだが、ウォースパイトさんの表情が冷たく変化した。戦艦棲姫改の頃のものが戻ってきたかのように錯覚した。事実として受け入れたくなかったが、もうこれが現実だ。

 

「レディ」

「ええ。仕方ないわ」

 

いきなりガングートさんが艤装で殴りつけてきた。自分が黒であると証言したようなものだ。昔の私なら予測も出来ずただただ殴り飛ばされていただろう。少し前の私ならどうにか回避していただろう。

だが、今は違う。アサのおかげで、私も変わった。私も艤装を展開して迎え撃つ。

 

「こうしてくるのは予測してました。残念です」

 

艤装の腕は艤装の腕でガード。慣れているのはあちらだが、膂力は近しいもののはず。さらにはアサが筋トレをしていてくれたおかげで、私でも止められる。

だが、その攻撃は重い。体勢を崩さないようにすることで精一杯だった。私の一朝一夕の技術ではこれが関の山か。

 

「止めるか。本当に駆逐艦をやめているな朝潮。レディ、やれ」

「少なくとも、カスミにだけは死んでもらわなくちゃいけないの。女王(クイーン)の前に平伏しなさい」

「お断りしますよ」

 

やはり霞狙い。私の精神を揺さぶることに特化した作戦。霞達が失敗したことを聞き、早速次の手段に出たようだ。霞の裏切りでガタついた私の心を、霞の死により完全に崩壊させる。

そんなこと、私で無くともわかっている。敵のやり方がわかり始めているのなら、誰だって霞を狙う。私の守護者は、私が守る必要がある。

 

(こうべ)を垂れよ」

 

フィフの頭部が変形し、超大型主砲が現れる。『発芽』したウォースパイトさんに接続されているが故に、意思を持つ自立型艤装のフィフも敵対してしまっているのだろう。

ウォースパイトさんも春風と同様、『種子』の効果で傲慢な女王と成り果ててしまっている。攻撃されることよりもそちらが辛い。ウォースパイトさんは人を見下すような人ではないし、あんな嫌らしい笑みを浮かべるような人ではない。

だが、イラつきよりも憐れみが先んじた。大潮に溜まった鬱憤を吐き出したからか、心に少し余裕がある。

 

「レディの邪魔はさせんよ。朝潮、私の相手で手一杯だろう?」

「そうですね。手一杯どころか必死ですよ。ですが、ここに私しかウォースパイトさんを止められる戦力がいないと思っているのなら愚かですよ」

 

私が1人でガングートさんを相手しているのだ。ウォースパイトさんがガラ空きになるのも承知の上。だからこそ先に睦月さんに事情を説明しているし、大潮に艤装を装備してもらっている。

 

「明石さんほどじゃないけど、睦月もみんなの艤装触ってるんだよ? 弱点くらい、知ってるにゃしぃ」

 

奥に隠していた鎖付きドラム缶を、手首のスナップだけで主砲に叩きつけた。今ドラム缶に詰まっているのは、燃料でなく鋼材。爆発しない代わりに質量を増した、睦月さんの必殺兵器。

過剰な質量をぶつけられた超大型主砲は、いくら整備してあってもひしゃげてしまい、発射したら自爆するほどに損壊。睦月さん、いいところを狙う。

 

「粗野な武器で私の邪魔をするのね。下賤な野蛮人め」

「ならもっと野蛮に行きますよ」

 

睦月さんの攻撃に乗じ、大潮も動き出している。先んじてウォースパイトさんを支えていない方の腕に攻撃。攻撃の手段が無くなれば、その腕を直接使った攻撃もしてくるだろうし、少なくとも自分の身を守るために使うはず。とにかく腕が邪魔なのは間違いない。関節部分を重点的に攻め、脆くなったところを蹴り折った。雑に、荒っぽく、強引な攻撃で、反撃する隙も与えない。主砲は健在だが、2人がかりの攻撃で撃つ暇すら無かった。

 

「今は入渠ドックが空いてないから怪我させたくないです。でも、霞を殺すと言いましたよね」

「ええ、言ったわ。何か、問題でも?」

「アリアリです。霞のお姉ちゃんは、朝潮お姉さんだけじゃないんですよ。大潮も、割と限界近いです」

 

いつもと違う大潮。真剣にウォースパイトさんを見据え、乱雑ながらも的確な攻撃。霞が後ろにいるというだけで実力が増している。霞が見ていないというのが残念でならない。

 

「まずここから出て行ってもらえますかね」

「女王たる私に何を言うのかしら」

 

大潮のパワーだけではウォースパイトさんを後退させることは出来ない。そこで、我が鎮守府でも屈指のフィジカルタイプの駆逐艦に力を借りる。

 

「工廠から出てってもらうぞよ! うりゃああ!」

 

睦月さんがドラム缶を振り回し、強引に後退させていく。自分を守るための腕を大潮に破壊されているため、フィフを玉座へと変形させて後退せざるを得ない状況。

 

「ガングートさんも下がってもらえますか。ここで戦われては困るんですよ。ちゃんと相手してあげますから」

「つまり今工廠では重要なことをやっているわけだ。それなら無理にでも突っ込まないといけないな」

「下がれと言っているでしょう」

 

こちらも雑に、強引に。大潮があそこまでやっているのだ。姉の私が後れを取るわけにはいかない。せっかくの白兵戦可能な身体だ。有効に活用していく。

 

「素人が私に適うと思っているのか!」

「なら素人じゃない方が相手してあげるわ」

 

工廠の奥から影。戦闘の音を聞きつけて飛び込んできたのは山城姉様。扶桑姉様の治療を見に来ていたのは知っている。ここで山城姉様の援軍はありがたい。

睦月さんが戦闘に出ており、明石さんは手が離せない。セキさんがいなかったら出撃もままならなかった。工廠3人体制というのはそれだけでも役に立つ。

 

「朝潮、アンタはスパ子の方頼むわ。いくら深海艦娘でも駆逐艦に戦艦の相手はキツイでしょ」

「ありがとうございます山城姉様」

「それに……こんな形だけどガン子と再戦できるのは私としても、ね」

 

元々、北方水姫(ガングートさん)は山城さんをライバル視して敵対していた深海棲艦だ。戦艦ガングートとなってからはライバルだとしても敵ではない。だが今は、完全に敵として、命を取りに来ている。またとない機会を、嫌な形だが手に入れてしまった。

 

「ガン子、ひとまず工廠から出て行きなさい。存分に相手をしてあげるわ」

「はっ、ドックに行かせたくないのはわかっている。貴様の姉も治療中だったな。霞共々、そのまま殺してやろう」

「出て行けと……」

 

左手にキス。まずい。本気の拳だ。

私は先に出た大潮達を追うように急いで工廠を出る。

 

「言っているでしょうがぁ!」

 

当てる気のない、寸止めの拳。ただし本気の拳。当ててこないと踏んだガングートさんは避けもしなかったが、目測を誤っていた。その拳圧だけで、その場に立っていられないほどの衝撃。体勢を崩しながら徐々に後退していく。

 

「ポーラさん! そのまま入渠ドックを守ってください! 私達があの2人を引きつけますから!」

「よ、よくわかんないけど、Comprensione(りょーかい)!」

 

私達が全員出払った後、万が一のためにポーラさんには入渠ドックの防衛に当たってもらう。ここに来るまでに先んじて瑞穂さんにもお願いしているので、合流してもらえれば幸い。

現状を説明している暇はない。突然の仲間同士の戦いに困惑しているだろうが、今は最後の防衛線としてここにいてもらう。幸いポーラさんが黒になる要素はない。

 

私が考えている『種子』を埋め込まれる条件は、霞達のように直接埋め込まれたもの以外には、『発芽』した深海棲艦絡みの艦娘から主砲による攻撃を受けることだと思っている。それなら初霜さんの主砲から『種子』が確認されてもおかしくない。

ポーラさんは現在埋め込まれているであろう人と訓練も演習もしていない。自分の仮説を信じるのなら、ポーラさんは確定で白。信用できる。

 

「相変わらずデタラメな攻撃力だな! 私に傷をつけたいのか?」

「そんなヤワじゃないでしょうが! さっさと出て行きなさい!」

「山城姉様、任せますから!」

 

こちらは主砲も撃てるウォースパイトさんを早めにどうにかしなくてはいけない。あれを容易に撃てるようになり始めると、2人は愚か、工廠も途端に危険になる。今でこそ、反撃できる余裕を与えずに猛攻を仕掛けているが、突然ひっくり返る可能性だってある。

 

「加勢します」

「女帝様ナイスにゃしい! 3人なら行けるぞよ!」

 

ドラム缶を乱雑に振り回し、回避に専念させている睦月さん。備え付けられている主砲を重点的に攻撃し、あちらからの砲撃を牽制し続けている大潮。今のままでは攻め手が足りない。ここで私が追加されたことで、誰か1人を攻め手に変えられる。

 

「アサシオ……また腕を捥いであげましょうか」

「記憶があるまま洗脳されているのは面倒ですね。では……私は貴女に屈辱を与えましょう。女王様」

 

途端に主砲を稼働させてきた。私が来たことで強硬策に出始める。自分のダメージを突然意識し始めなくなった。その方が私の心にダメージが与えられると思っているのだろう。

仲間を傷付けたくないのは当然のことだ。今のような入渠ドックが1つも空いていないような状況なら尚更。今の状態で轟沈寸前のダメージを受けようものなら、時間経過で衰弱し、最終的に死に至ってしまう。

 

ならばどうするか。洗脳されていようが、その心を屈服させ、膝をつかせる。これが誰も怪我を負わない解決方法。

 

「私に屈辱を? 貴女のような下賤な民に、高貴な私が? 冗談にしては笑えないわ」

「笑わなくて結構。どうせ、笑えなくなりますよ」

 

未来を予測、全ての動きを頭に入れる。行動範囲を絞り、味方は私を含めた3人、敵はウォースパイトさん1人に固定。全映像を確認。久々でも、精度は以前よりも格段に上がっているように思えた。

 

『行けるか?』

「大丈夫。アサのおかげで体力も筋力もついてる。それに、これは私がやらなくちゃ。霞の命がかかってるもの」

『お前は責任を持とうとしすぎだ。まったく、ダメだと思ったらすぐに代わるからな』

「心強いわ」

 

アサの表情がわかるように思えた。こんなことを言いながらも、心配なんて殆どしていない。それだけでも自信がつく。

 

「なら、お望み通り捥いであげる」

 

全主砲が私に向いた。私の挑発に乗ったのか、私を精神的に壊すための作戦にも関わらず、物理的に壊そうとしてきた。それこそこちらの思う壺だろうに。

 

「睦月さん、背中側から」

「りょーかいにゃしい!」

「大潮、主砲を重点的に」

「了解です! お姉さんは!?」

「心配無用よ。この程度」

 

一斉砲撃。全てが私狙い。大潮も睦月さんも完全無視。高潔な血を愚弄した下賤な者に鉄槌を、などと思っているのだろうか。あのウォースパイトさんが。怒りよりも、憐れみよりも、悲しみが先立った。堕ちた女王は、こうも可哀想に見えるのか。

 

「対処できる」

 

冷静に見れば当たらない。それにこちらは予測済み。撃つ向きが単調。威力は知っている。避ければ工廠に行ってしまうことも織り込み済み。

アサとここ数週間で培った自衛手段を最大限に発揮し、その砲撃全てを防ぐ。さすが戦艦の主砲、軽くはない。受け方を間違えれば艤装が破壊されてしまう。が、私とアサをみっちり鍛えてくれたのは、何を隠そう扶桑姉妹である。実戦も交えたスパルタ特訓に、私はダウン、アサはイキイキ。その成果が出ている。

 

「私にばかり構ってていいんですか? 女王様、視野が狭いようで」

 

私に集中してしまったせいで動きが止まった。ならばもう、私の掌の上だ。

 

「はい、ドーン!」

「なっ」

 

睦月さんのドラム缶が玉座の背板に叩きつけられた。その衝撃で砲撃がグラつく。

 

「そーれ、ガツーン!」

「このっ」

 

そのブレを見逃さず、大潮の主砲が玉座の主砲を破壊していく。なかなかの精度。私の見ていないところで頑張っていたようだ。依頼で訓練に出ずっぱりの深海艦娘なだけある。あらゆる艦種の訓練に付き合ったことで、あらゆる対処が可能になっていた。

 

「もいっちょドーン!」

「調子に乗らないことね!」

 

さすがに許容出来なくなったのだろう。睦月さんの方に視界をうごかす。私から集中を切らしたということは、まともに攻撃してもいいということ。

 

「砲撃をやめてくれてありがとうございます。やっと私の距離ですよ。感謝してください。わざわざ私達、貴女に傷がつかないように艦載機使うのも控えていたんですよ」

 

片手で玉座を押さえ、もう片方の腕で本人の腰を掴む。

 

「その汚い手を離しなさい!」

「汚いですか、なら洗いましょうか」

 

強めに握り、強引に引っ張り、

 

「はい、ザブーン」

 

そのままの勢いで海中に沈めた。玉座との接続部分が限界ギリギリまで伸びているのがわかる。まるで戦艦棲姫と自立型艤装を接続するうなじのケーブルのようだった。こんな戦闘でも得られる知識がある。

 

「大潮、ここ」

「がってんです! 接続を切っちゃいます!」

 

玉座の座面を破壊しつつ、接続を切った。これでフィフもストップ。ウォースパイトさんは攻撃の手段を一切失ったことになる。不自由な片脚もあり、戦力外と言ってもいい。無傷でここまで来れたのは良しと出来る。

 

「終わりです。まだ抵抗しますか?」

 

ウォースパイトさんは私の顔を睨みつけた後、怯んで目を逸らした。多分私は自分でも形容しづらい表情をしていたのだと思う。

 

 

 

こちらは終わったが、山城姉様はどうなっただろう。

 

「山城姉様、こっちは終わりました!」

「もう少し待ってなさい」

 

山城姉様はガングートさんとの戦闘をわざと伸ばしている節があった。あちらは必死だというのに。

北方水姫との戦いの時には、山城姉様はまだ今ほど鍛えられておらず、艤装による攻撃は全て避けていた。実際、攻撃には駆逐艦の小型主砲を使って威力をカサ増ししていたほどだ。掴まれた時に強引にこじ開けるのが精一杯だったようにも思える。

それが今、その攻撃を片手で受け止めていた。私がついに艤装の腕で出来るようになったことを、山城姉様は素手で。

 

「つまらないわ、ガン子。北方水姫の方がまだ手応えあったわよ」

「ぬかせ! お互い無傷だろうが!」

「当たり前よ。私が無傷にしているんだもの。もう少し楽しめるかと思ったんだけど、ダメね。洗脳されてると、所詮この程度か」

 

軽く艤装を殴った。艤装の腕の関節が逆方向に曲がる。

 

「姉様のなかなか真似られないわね……どうやれば粉砕まで行けるのかしら。衝撃を逃さず攻撃……言うのとやるのと全然違うわ」

 

事もあろうに、こんな戦場ですら自分を高めるための訓練に使ってしまっている。

 

「残念ね。得られるものが無かったわ。洗脳解いてから出直してきなさい」

 

撃ち抜くようなデコピン。我が鎮守府の扶桑型が誇る伝家の宝刀。一撃で脳震盪を起こし、ガングートさんの意識を吹き飛ばした。こちらはちゃんと出来るらしい。私も名誉扶桑型として覚えておきたい技能である。

 

「終わりよ。ついでに艤装を破壊しておくわ」

 

私達深海棲艦と違って、ガングートさんもウォースパイトさんも艤装を破壊しておけばこちらを攻撃することは出来ない。今のうちに全ての手段は削いでおく方がいいだろう。

 

「山城姉様、こっちにもデコピンいいですか」

「ええ。そこの高慢な女王様にはお仕置きが必要だものね。朝潮に充分やられたみたいだけど、そのままにしておくと喧しそうだし」

 

ガングートさんを引きずってこっちにやってきた山城姉様、ウォースパイトさんに何も言わせずにデコピン。黙らせることにかけては天下一品である。

 

「……はぁ……憂鬱ですよ」

「アンタが気にすることじゃないわ」

 

あのウォースパイトさんの変わり果てた姿は、霞に裏切られた時ほど堪えた。すぐに治してあげたいが、それに関しては佐久間さん頼り。縛り付けて置いておくしかないかもしれない。

 




戦闘している最中、裏側では明石&佐久間ペアは全神経を集中して妖精さんに指示を出しているのでした。
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