外部の鎮守府にて『種子』による洗脳を受けている神通さんの対処を任された私、朝潮。扶桑姉妹と一緒に鎮守府に赴くも、神通さん経由でさらに『種子』が拡がっており、現在、その鎮守府の明石さんと、駆逐艦5人が犠牲に。その5人が、援軍に来た4人と、別の私。戦いづらいことこの上ない。
神通さんはそのライバルとなる北上さんに任せ、私は扶桑姉様と一緒に駆逐艦4人を相手取る。別の私は山城姉様が処理してくれたので問題なし。
「私達は……2人で1つの深海棲艦……海峡夜棲姫」
「ここは通れないし……通さないわ」
動き出しは同時。一番厄介なのは、この中でも最も戦闘のセンスが高い夕立さん。別の私以上に神通さんの訓練に適応している生粋の武闘派。狂犬と言われているだけあり、滅茶苦茶な動きと荒っぽい戦闘が特徴。
だが、その戦闘方法を
『フソウ姉さんと組むのは久しぶりだよな確か』
「ええ……こんな切羽詰まった戦場だけど……楽しくなってきたわ」
『お前も結構染まってるよな。気持ちも1つにってか』
艦載機を全機発艦。怪我をさせるわけにはいかないので、装填されているのはダミーの弾。海峡夜棲姫は航空戦艦らしいが、扶桑姉様が純粋な格闘戦特化なため、『航空』の部分は私が賄う。
艦載機を使って無理矢理1人ずつ相手にしていく方がいいと思うが、扶桑姉様との共闘を楽しみたい。
「ソロモンの悪夢、見せてあげる!」
「悪夢……悪夢ですって……姉様」
「そうね……面白いことを言うわね……」
駆逐艦の中では悪夢のような性能だろう。
だが、それは私達が相手でなければだ。
「本当の悪夢を……」
「教えてあげましょう……」
ほんの少しだけ跳び、扶桑姉様の振りかぶる脚の上へ。手を繋いでなくても私達は擬似的な一心同体。海峡夜棲姫として、お互いのやりたいことは以心伝心出来ている。私は扶桑姉様の艤装であり、扶桑姉様は私の艤装。お互いの出来ないことを補いながら、お互いの出来ることをより伸ばす。2人で1つ、されど5人分の戦力は賄おう。
扶桑姉様の一蹴りで私は海面と平行に飛び、まっすぐ夕立さんの眼前へ。撃つ暇すら与えない。
「ぽい!?」
艤装の腕で掴み上げ、正面に艦載機で足場を生成。即方向転換して夕立さんを時雨さんに投げ飛ばす。
この相手の中で厄介なのは夕立さんだが、残しておくと面倒なのは時雨さんだ。敵味方の区別なく背部大型連装砲を撃ってくる可能性がある。ダミーの弾ならまだしも、実弾でそれをやられたらいくら私や扶桑姉様でも、
「夕立、邪魔!」
「時雨こそ邪魔っぽい!」
「姉妹は仲良く……しましょうね」
そこには既に扶桑姉様が立っている。私がここに投げることは伝わっている。
2人の首を掴んだかと思えば、叩きつけるように水没させた。溺死させるつもりなんて無いが、戦力として再起不能にさせるには充分な攻撃。
「テメェ!」
「ダメでしょう……姉様の邪魔をしちゃあ」
扶桑姉様に主砲を向けた長波さんの顔面に艦載機を押し付けた。急に視界を封じられ、撃つこともままならなくなり、まとわりつく艦載機を振り払うことに必死だ。それだけの隙を見せてくれれば、私が背後に回ることも出来る。
「くっそー! なら全部まとめて!」
「姉様」
「ええ……この子達も纏めてかしら……なら……守ってあげないとね……」
敷波さんの方向から魚雷。狙いは扶桑姉様。夕立さんと時雨さんも同じ場所にいるというのに、御構い無しに放ってきた。私のせいで洗脳された者が、同じように洗脳された者に殺されるなど、完全に私の神経を逆撫でする行為。
「朝潮……来なさい」
長波さんを掴み上げ、再び艦載機を足場に跳ぶ。その間に扶桑姉様は水没させていた2人を引き上げ、海面を踏み込む。霞の雷撃を回避する時に使った技。津波のように海面が波打ち、魚雷が全て打ち上げられる。爆発する前に私がもう片方の腕で全てキャッチし、誰もいない方に捨てておいた。
「そ、そんなのアリ!?」
「妹の前で……格好悪いところ見せられないもの……」
長波さんも扶桑姉様のところに捨て、敷波さんを捕縛。そのまま投げて扶桑姉様のところへ。これで4人が同じ場所に固まった。
「艤装が邪魔ね……破壊するわ」
あえて恐怖を与えるように、4人の目の前で夕立さんの主砲をデコピンで粉砕した。相変わらず意味不明な威力。次々と邪魔そうな艤装は粉砕し、全員を無力化した。
数的優位など関係なしに瞬殺。扶桑姉様は終始楽しそうに戦っていた。脚を使わなかった辺り、手加減も出来ている。
「ふぅ……お疲れ様です、扶桑姉様」
「ええ……楽しかったわ。妹と戦うのは……本当に楽しいわね……」
扶桑姉様が喜んでくれて何より。
一方その頃、北上さんは神通さんと激戦を繰り広げていた。今回は北上さんの圧倒的不利。主砲による攻撃で傷を負うダメージを受けると、その時点で『種子』が埋め込まれると考えてもいい。いくらダミーの弾とはいえ、今までのことを考えると傷は負う。
「弾速上げてるんだっけ。その分衝撃が強くなる筈だけど、それも耐えられるように鍛えてんのか。はーっ、真面目ちゃんだねぇ」
「毎度毎度能書きばかり垂れて、天才様は格が違いますね」
「うわ、神通のそういう物言い面白いな。ずっとそのままでいなよ。その方がいいって」
お互いに砲撃に掠らず、完全に回避に特化した動き。私の知っている動きと違う。お互いに速く、しなやかで、冷静だ。北上さんは当たってはいけないということは把握しているようで、ほんの少しだが回避が大きい。
「二水戦旗艦様が洗脳されるとか恥ずかしくないの?」
「別に何も。貴女も受けてみればわかります」
「誰が受けるかバーカ。一緒にすんなよ」
北上さんもわざわざダミーの弾で応戦している辺り、神通さんのことを考えてきている。仲があまり良くない相手だとしても、同じ鎮守府の仲間。一緒に出撃し、背中を任せ合う戦友でもある。
「ダミーの弾……弾を抜いておけと言っておいたのに」
「お前さぁ、明石もそっち側ってあたしが気付かないと思ってんの? 胸ぐら掴んで
「言わせておけば。吠え面かかせてあげますよ」
神通さんからの攻撃がより苛烈になる。今までは距離を取った砲雷撃戦だったが、私達の鎮守府で覚えた近接戦闘に移行。間合いがだんだんと縮まっていく。弾速が速くなっているということは、近距離になればなるほど回避が難しくなる。
「そろそろ躱せなくなるんじゃないですか?」
「マジで節穴じゃん。擦り傷1つついてないだろうに」
不意に顔面狙い。当然回避するが、顔面狙いは得てして回避行動が大きくなる。その隙を狙って別の場所に掠らせようと撃ってきていた。神通さんの狙いはあくまでも
「北上さん! こっち終わりました!」
「あいよー。さっき言った通り手出ししないように」
神通さんの動きが速くなるほど、北上さんまで速くなっていく。対応に対応を重ねて、その場で成長していく。主砲で攻撃しているのに、もうほとんどゼロ距離だった。それでも、お互いに未だ無傷。まるで白兵戦組の訓練を見ているようだった。
「私の教え子は、皆やられたようですね」
「先生がそれだから教え子もやられるんじゃないのかね」
「減らず口を。そろそろ貴女の顔を歪ませたいですね」
攻撃の読み合いと応酬。私達にはついていけない高レベルな戦い。私達はああいう状態になったら力押しで突っ込んでしまうが、北上さんは違う。相手の出方を見て、確実に勝てるタイミングを待っている。
「それなら、これは」
神通さんの主砲が、不意に戦闘の外に向いた。その方向にいるのは大井さんだ。目の前に北上さんがいるにも関わらず、横に撃てるほどに余裕があるということか。
「扶桑姉様」
「ええ……行ってきなさい」
戦闘には介入しないが、大井さんがやられるのは見過ごせない。倒した駆逐艦の処理は扶桑姉様に任せ、私は大井さんの下へ。
「大井っち!?」
「北上さんは自分の戦いをしなさい! 私に気を散らせている場合じゃないでしょう!」
自分が狙われることも想定していたようだった。手を出さず、見届けると言いながらもじっと戦いを観察していた大井さんも、北上さんとコンビを組めるほどには手練れだ。戦いの合間にやってくる自分への攻撃程度なら軽く躱す。
「神通……それは無いわ。あたしゃこの戦いも割と楽しんでたのに」
「楽しまれては困るんですよ。貴女より向こうを先にこちらに引き込みます。邪魔なので退きなさい」
既に目の前の北上さんを見ていない。嫌がらせを優先するために、大井さんを狙い始めた。北上さんも大井さんが狙われ始めたことで動揺し、攻撃の精度が鈍っている。あれでは神通さんが片手間で大井さんを攻撃することが出来てしまう。
「っつ……掠った……」
ついに大井さんに攻撃が掠めてしまう。擦り傷が出来たということは、この時点で『種子』が埋め込まれたということ。今すぐ洗脳はされないが、干渉が何かがわからない以上、すぐに治療しないとまずい。
「朝潮!」
「任せてください! 大井さん、すぐに治療します。かなり辛いですが我慢してください」
「え、ええ」
残っていた薬2本の内1本を大井さんに投与する。その間も攻撃が飛んでくるが、私が艤装で守りながら何とか時間を稼いだ。
「っあ、ぐぅぅ!?」
「耐えてください! 『種子』を中和させるためにはこうせざるを得ないんです!」
「北上さんの敵になるくらいなら……苦痛を選ぶわ……!」
歯を食いしばりながら中和の苦痛を耐えている。ダミーの弾に『種子』が仕込まれているのはわかっていたが、『発芽』していない状態でも苦痛になるのは申し訳ない。
「北上さん、もう大丈夫です! 大井さんは私が守りますから!」
「ありがとね。こっちはこっちで片付ける」
北上さんの雰囲気がまた変わった。戦闘前の真剣な顔から一転、一切の無表情。まるで、潜水艦を相手取る潮さんのような、感情が消え去った瞳。
「残念ですね。大井さんが引き込めれば、こちらは俄然有利になったんですが」
「神通、ちょっと黙れよ」
北上さんの只ならぬ雰囲気に、神通さんも余所見が出来なくなった様子。大井さんは私が守り、北上さんに余計なことを考えないようにしてもらう。
「甘いこと考えるのやめよう。出来れば神通に見せたくなかったんだけど、仕方ないか」
言葉だけならいつもの調子。だが、動きも精度も先程までと全く違う。
「援軍に行って良かったよ。朝潮、ちょっと見てな」
「何を……」
「ここからは神通に何もさせない」
瞬間、北上さんが神通さんの真横にいた。
「なっ……!?」
「やっぱ負荷がキッツイ! なんでアイツはこの動きが冷ややかにできるんだろうねぇ!」
こめかみ狙いの一撃。紙一重で避けられ反撃を受けるが、その時には今度は神通さんの真後ろ。薬を振りかぶって首筋に突き立てようとするが、これも紙一重で避けられる。
今の北上さんは、私の電探を凌駕していた。こんな移動が出来る人を、私は1人しか知らない。
「相変わらずのインチキを……!」
「だから見せたくないんだよ! お前も真似してくるだろうに!」
神通さんが振り向いた時には、また北上さんは神通さんの真後ろに。また電探を凌駕。ここまで来たら何をやっているかは理解できる。
今の北上さんは、
「いい加減に!」
「するのはお前だよ!」
振り向きざまに撃とうとするが、北上さんは
脚を腕に引っ掛け、関節技に入った。これは天龍さんの技。身動き1つ取れなくなり、無理に動くことすら出来なくなる。
「頭痛ぁ! 朝潮なんつーことしてんだよ! なんでこんなの耐えられるのさ!」
「う、嘘でしょ……私の『未来予知』まで……」
『なんなんだアイツ……今だけで3人分使ったのか』
アサですら呆気にとられていた。天才とは思っていたがここまでとは。見様見真似で出来るような技術ではないはずだが。
特に私の行動予測の最終形『未来予知』は、長い時間かけて負荷に耐えられる脳を作り上げた挙句、アサとの連携も可能になったことで完全にマスターした技術だ。それを酷い頭痛があるにしろ扱えるだなんて考えられなかった。
「ったく、あたしゃもっと楽に艦娘やってたいんだよ。毎度毎度神通のせいで必死に動き回らされて、ウザいったらありゃしない」
首筋に薬を打ち込んだ。これでようやく神通さんは解放される。
「っぎ、あぁあああっ!?」
「よっぽど痛いみたいだね。こっちは身体と頭が痛くてガタガタだっつーの」
「北上さん、念のため薬を投与していいですか」
「あいあい、知らない間に何かやられてたら嫌だしね」
神通さんを押さえている北上さんに薬の最後の1本を投与。苦痛を感じていないようなので、『種子』が埋め込まれていることはないようだ。これで一安心。
「ふぅー、これで終了。あとは薬待ち?」
「はい。最低でもここにいる駆逐艦5人分の薬が必要です。それは届けてもらえるので、それを待つだけですね」
その駆逐艦は扶桑姉様が積み上げて同じ場所に捨て置いてある。その全員の額から煙が上がっているため、デコピン済みなのだろう。こうなると簡単には起きない。
「大井っち、大丈夫?」
「はい、体力を大分持っていかれましたが、自分で動くくらいは出来ます。あんなに治療が痛いとは……」
「こちらでガングートさんが悶え苦しんだレベルです」
「戦艦でそれなら神通も悲鳴をあげるわ」
その神通さんも、ようやく治療が完了したのかグッタリしていた。終わったということで北上さんも解放する。大きく消耗し、身動きも取れないようだった。
「屈辱です……敵の手に落ちるだなんて……」
「ホントだよ。しかも教え子まで利用してさ。何してんのマジで」
「面目次第もございません……」
珍しく落ち込んでいる神通さん。洗脳され、味方に被害を出した挙句、北上さんに完膚なきまでに敗北するという二重三重の屈辱にかける言葉もない。
「私だけが屈するだけならまだしも、子供達まで利用したのが許せません……」
おそらく教え子というのも、『発芽』する前から神通さんを慕っていたメンバーなのだと思う。洗脳されていたとはいえ、慕われていた駆逐艦すらも利用したというのは、神通さん的には最も恥ずべき行為。
「はいはい神通は悩み出したら馬鹿みたいに悩むんだから巻き込むんじゃないよ。あとから好きなだけ演習相手してやっから」
「北上さんも大概不器用よね。素直に心配だから自分で気を晴らせと言えばいいのに」
「大井っち、余計なこと言わない」
少し顔が赤い北上さん。いつも喧嘩ばかりしているようなこの2人も、なんだかんだ仲がいいわけだ。喧嘩するほど仲がいいとはよく言ったもの。こういう信頼関係というのもいいものかもしれない。
狡い神通なんてなかなからいないので新鮮。でも何処かズルくなりきれてないのは、神通の根っこの部分がしっかりしているからかも。