翌朝、元帥閣下直属の護衛艦娘の方々との演習が執り行われる事になった。相手は大和さん、武蔵さん、赤城さん、加賀さんの4人編成。練度も装備も最高。戦艦と正規空母なので、火力も高ければ耐久も高い。駆逐艦の火力では傷一つつけられない可能性がある。
「編成を決めた。今から発表する。まず蒼龍君。言い出しっぺの君には出てもらうよ」
「勿論! 一航戦に私達を見てもらわなくちゃ!」
まず決まったのが蒼龍さん。司令官の言う通り言い出しっぺ。浮き砲台の戦い方に興味があるという一航戦の方々の話から演出が決まったようなものだ。
「次、清霜君。向こうの大和君と武蔵君がとても見たがっている。君の本気を見せてやりなさい」
「はい! 清霜、大戦艦に一矢報います!」
「勝ってくれても構わないよ」
元帥閣下は一番通常とは違う艦娘と言っていた。それを言われると、清霜さんは確実に入るだろう。戦艦の火力と駆逐艦の速力を両立させたオーバースペック艦娘なだけある。
「3人目、山城君。わかっているよ、武蔵君のことずっと見ていただろう」
「ええ、あの筋肉、素晴らしいわ。理想の鍛え方、維持も完璧よ」
白兵戦担当として山城さんが採用。天龍さんだと万が一あの火力に襲われた時に耐えられる可能性が低いからだろう。だが、山城さんはそういうところではなく武蔵さんの筋肉にしか興味が無いように見えた。
「4人目……出したくないんだが、朝潮君。爺さんの熱烈なラブコールだ。蒼龍君の曳航もお願いしたい」
「一航戦の艦載機……少し怖いですが、全身全霊頑張ります」
4人目は私。元帥閣下は私を余程気に入ってくれたらしい。喜んでいいものかどうかはわからないが、一航戦の艦載機からの攻撃は興味がある。全機撃ち落とすくらいの覚悟で向かわなくては。
「5人目、那珂君。出撃は山城君に手伝ってもらってくれ。君の速さで空母を攻撃だ。期待している」
「オッケー♪ 那珂ちゃんにまっかせてー♪」
5人目は那珂ちゃんさん。ブレーキがないというのは計算を崩す可能性がある。撹乱役としては最適。明らかに定石ではない戦い方をするだろう。那珂ちゃんさんの戦い方には私も興味がある。
「最後は吹雪君。朝潮君だけでは一航戦の艦載機は荷が重いだろう。頼んだ」
「お任せください。なら今日の私は対空特化ですね」
「ああ、低速で辛いかもしれないが、よろしく頼んだ」
最後は吹雪さん。私よりも熟練した対空能力を持っているのだから頼りになる。さらに私は蒼龍さんの曳航も任されてしまっている。基本の対空は吹雪さんだろう。
「以上6人。爺さんの艦隊に目にもの見せてやれ!」
「了解!」
「姉さん、頑張って」
工廠での出撃準備中、皆に激励される。特に霞は一番に来てくれた。演習とはいえ、こちらより人数が少ないとはいえ、相手は強大だ。怪我が無いとは限らない。
「ええ、ありがとう霞」
「健闘できるはずよ。姉さんは努力してるもの」
龍驤さんや蒼龍さんからの訓練も日に日にハードになっている。それだって耐えられるようになっているのだ。初陣からも日は経っているし、それだけ前進しているはずだ。
「朝潮ちゃん、準備できた?」
装備が完了した吹雪さんがやってくる。
最古参の吹雪さんはすでに改二。対空に特化している私よりも対空性能は高い。だが、低速であるために咄嗟の判断による機動性は私の方がどうしても早い。だからこそ、曳航を任されているのだと思う。
「はい、大丈夫です」
「相手はあの一航戦だからね。多分、龍驤さんの艦載機よりも激しい攻撃してくると思う。お互い、やれることやろう」
「はい!」
私は以前と同じ完全に対空仕様。たが、蒼龍さんの曳航があるため、少しでも速力を強化するためタービンを装備した。今回はやることが多い。
そもそも曳航なんてやったことがなかった。水上なら駆逐艦でも引っ張ることができるとは聞いているが、引き方にもいろいろあるだろう。艦載機以外にも、蒼龍さんの安全確保や移動経路も見ていないといけない。緊張感も増した。
初めての曳航はそこまで難しいものではなかった。割と強く引っ張っても蒼龍さんは安定している。
「大丈夫だね。緊急時は矢筒を引っ張ってくれればいいから」
「了解しました。その時は多少強引に引きます」
所定の位置に着く。今回は山城さんも制服姿。やる気が見て取れる。那珂ちゃんさんは山城さんの肩に座った状態で出撃してきた。開始と同時に飛び降りるのだろう。
「到底戦う状況には見えませんね」
苦笑する赤城さん。だが、話しながらも視線は清霜さんの方を向いていた。気持ちはわかる。駆逐艦にそぐわぬ46cm三連装砲。サイズが違いすぎて、武装だけで清霜さん2人分くらいはある。
「あはは……でも私達は今までずっとこれでやってきましたから」
自信のある笑顔の吹雪さん。今回は山城さんが那珂ちゃんさんのブレーキ役をしているため、旗艦は吹雪さんとなっている。
遠目に見える護衛艦娘の方々は、私達の
「では、お互い力の限りを尽くしましょう」
「はい、よろしくお願いします」
握手をして艦隊が並ぶ。演習の緊張感。訓練とは比べ物にならない。吹雪さんも旗艦として少し緊張しているように見えた。
静まり返った後、演習開始の合図が鳴った。同時に山城さんの肩から那珂ちゃんさんが飛び降りる。
「じゃあ那珂ちゃんが先攻するよっ!」
いつもの那珂ちゃんさんじゃない。真剣な、第四水雷戦隊旗艦だったころの少し怖い表情に。最高速で特攻し、空母に向かう。
「加賀さん、攻撃隊発艦。全て蒼龍へ」
「了解、攻撃隊発艦」
その那珂ちゃんさんがたどり着く前に、赤城さんと加賀さんが矢を放った。撃った矢は蒼龍さんと同様に艦載機へと変化するが、その数が尋常ではない。ぱっと見だけでも30は超えている。
「朝潮ちゃん! 対空用意!」
「了解! てぇーっ!」
「艦上戦闘機も飛ばすよ! 発艦始め!」
私と吹雪さんの対空攻撃、さらには蒼龍さんの戦闘機で艦載機に対応する。3人がかりならある程度は撃ち落とせた。それでもすり抜けてくる爆撃機が数機存在する。
「蒼龍さん、曳航します!」
「お願い! 強引でいいから!」
最大戦速で蒼龍さんに突っ込み、矢筒を掴んで無理矢理引っ張る。蒼龍さんの息が詰まったように聞こえたが、今は気にしていられない。爆撃の着弾点から離れ、ダメージも軽微。
対空は一旦吹雪さんに任せ、蒼龍さんが攻撃隊を発艦できるように速力を落とす。
「ありがと。今度は攻撃隊、発艦始め!」
曳航中に次の矢を用意していた蒼龍さん。戦闘機ではなく、攻撃機と爆撃機を発艦させる。あちらよりは数が少ないものの、訓練の時には見たことがない数だ。それを、一航戦に向かって放った。
同時に那珂ちゃんさんが空母の近くまで接近。上と下から同時攻撃だ。
「一航戦が接近を許すとは、なかなかやるなぁ!」
だが、那珂ちゃんさんに対し、武蔵さんが照準を定めていた。このままだと直撃ルート。もちろん那珂ちゃんさんもそれに気づいている。
「退避! 山城さん、そっちはよろしくっ!」
「アンタの相手は私よっ!」
空母から離れることにはなるが、射線上から外れる。それと同時に山城さんが武蔵さんに白兵戦を仕掛けていた。
「はっ、山城が殴りかかってくるとは、痛快だな!」
「これしか戦い方が無いのよ。おとなしくやられなさい!」
武蔵さんは白兵戦の心得があるのか、山城さんの攻撃をヒラリヒラリと避けていく。合間に主砲をゼロ距離で撃とうとするが、山城さんは砲を直接叩いて向きを変える。
「厄介だなぁ! 大和ぉ! 私ごと撃てぇ!」
「無茶苦茶言うわね! でも、それが早いなら……!」
「清霜も忘れないでねっ、撃てぇっ!」
戦艦の戦いは混沌を極めていた。山城さんを引き剥がすために大和さんが撃ち、それを止めさせるために清霜さんが動き回りながら砲撃。武蔵さんは白兵戦でも気にせず主砲を放つが、山城さんはそれを処理しながら白兵戦を続ける。すでに那珂ちゃんさんには気を留められないほどになった。
戦艦(とそれに匹敵する駆逐艦)が一つの場所で戦ってくれているので、こちらは空母に専念できる。
「軽巡洋艦がちょこまかと……!」
「加賀さんの方が搭載数が多いからね! こっちに粘着するよ!」
蒼龍さんの戦闘機と曳航係の私が艦載機を確実に撃ち落としながら、那珂ちゃんさんのヒットアンドアウェイで狙っていく。そのおかげで艦載機が戦艦側に向かう事もない。吹雪さんが稀にする攻撃も撹乱になっているようで、戦況としてはこちらがかなり有利だ。さすがに4対2、数的優位でこのまま押しこみたい。
「加賀さん、手加減はダメね。増やしましょう」
「ええ、全機発艦します。手は抜きたかったけれど……ここまでのものとは思わなかったわ」
那珂ちゃんさんと吹雪さんの攻撃を回避しながら、蒼龍さんの戦闘機と私の対空砲火でギリギリ均衡を保てるレベルの艦載機を発艦している状態。蒼龍さんの曳航をしながら逐一対空なので、こっちは全力を出し続けている。しかし、あちらは余裕がまだあるらしい。
「攻撃隊、全機発艦」
目を疑った。突然、空を飛ぶ艦載機が倍以上になった。今までだけでも対空がギリギリだったのに、さらに追加は私だけではもたない。
「来た! 清霜ぉ!」
「こっちぃ!」
混沌とした戦艦の戦いの中でも蒼龍さんは状況を見据えていた。清霜さんに合図をし、全機発艦の隙をついた戦艦主砲による一撃を空母に撃ち込む。
最初からこの作戦を考えていたのだ。発案者は蒼龍さん。
この戦場で一番厄介なのは、2人から飛ばされる大量の艦載機だ。それを早期に押さえ込めば勝機が見える。そのため、隙を突いて清霜さんの一撃を叩き込む。あわよくば2人ともリタイアさせられれば完璧だ。
隙のタイミングは全機発艦のタイミング。少なくとも蒼龍さんはそれが自分の隙だと言っていた。そして、一航戦は最初から全力で来ることはないと確信していた。
「っくっ!?」
「加賀さん!」
清霜さんの攻撃は加賀さんに直撃。リタイアまで追い込むことに成功。ただし、
「いい作戦ですが、余所見は良くないですね」
「うえっ!?」
その清霜さんが大和さんにやられリタイア。こちらの高火力が1人やられてしまった。戦艦2人を山城さんに任せるのは難しいだろう。
「朝潮、吹雪、赤城さんの艦載機よろしく!」
「は、はい、対空砲火は続けてます!」
蒼龍さんが方針を変更。山城さんの援護に艦載機を使う方向へ。だが、その間に大和さんがそこから居なくなっていた。これはダメだ、と思った瞬間だった。
「武蔵が楽しそうなので、他は私がやりますね。那珂ちゃん、そろそろ止まってください」
「えっ、うそっ!?」
主砲の一撃で動き回る那珂ちゃんさんがやられた。突然のことで思考が止まってしまった。その隙を見逃される事もなく、
「対空を止めてはいけませんよ」
赤城さんからの指摘と同時に艦載機からの爆撃が私は直撃。
そこからはもう一方的だった。残った対空の吹雪さんも大和さんにやられ、蒼龍さんは赤城さんとの一騎打ちに敗北。私がリタイアしたせいでその場から動けなかったのが敗因。
「貴様だけのようだぞ山城」
「そうみたいね……さすがに1人で3人は捌けないわ」
山城さんが白旗。これで演習は幕を閉じた。
一方的ではないにしろ、それに近い敗退だ。相手がどれだけ強いとしても、やはり悔しい。
「爺さん、どうだいうちの子は」
「全然なっとらん……と言いたかったが、いやはや、面白い戦い方じゃ。
満足げな元帥閣下。私達の戦い方はお眼鏡にかなったということだろう。それだけは安心した。
「というか、ここで儂の艦娘に負けられたら元帥失格になるわい」
ドヤ顔で言われた。
言われてみれば、ここで私達が勝っていたら、こちらとしては自信に繋がるが、あちらにとっては恥どころではないのだ。同じ艦娘に負けているようでは、万が一クーデターを起こされた場合に大本営が潰されてしまう。それを防ぐためにも、この4人は最強で無くてはいけない。
「加賀さん、やられちゃいましたね」
「正直不本意だわ。あれは蒼龍の策?」
「全機発艦直後は硬直しますからね。狙わせてもらいました」
空母の事は空母が一番わかると思うが、この作戦だけは上手くいったと思う。一矢報いることができただろう。
「清霜ちゃん、よく見せてもらったわ。これはもう、私達の妹としてもいいわね。大和型戦艦清霜として、今後も活躍してね」
「大和型戦艦清霜!? ああ……あたしもう轟沈してもいい……!」
清霜さんは大和さんに褒めちぎられていた。結局6人がかりで加賀さん1人を倒せただけだが、それは清霜さんの火力が無ければ実現できなかったこと。大戦艦に戦艦と認められた清霜さんは、本当にそのまま轟沈してしまいそうな勢いで喜びに咽び泣いている。
「武蔵、また勝負しましょう。それまでにまた鍛えておくわ。私の筋肉でその筋肉を超える」
「ここの山城は凄いな。また戦いたい!」
こちらはこちらで友情が芽生えていた。同じ系統の人なんだろう。完全に同調している。
「……吹雪、朝潮」
「は、はい、なんでしょう、加賀さん」
「貴女達の対空は良かったわ。よく私達2人の艦載機をあれだけ止めたわね」
「あああありがとうございます! 今後とも精進します!」
私達の対空も、最強の部隊には褒めるに値するものだったようだ。それだけで、勝敗が関係なくなるくらい嬉しかった。これからも頑張れる。
「じゃあ、最後の仕事ね」
「わかった。この武蔵も手伝おう」
「那珂! こっちに突っ込んできなさい!」
これだけ感想戦をしていたが、その間もブレーキが効いていない那珂ちゃんさんは動きっぱなしである。しかも大和さんの一撃を貰っているので、消耗も激しい。
「じゃあ行くよーーっ」
「っぐぅぅっ!」
「こいつはなかなかの重いタックルだ!」
那珂ちゃんさんの最大戦速のタックルを二人掛かりで受け止め、強引にブレーキ。そのまま山城さんが担ぐことで、本当に演習は終了となった。
負けてはしまったが、有意義な演習になったのは間違いない。最強の部隊にもある程度は対応できる対空が出来るようになったことが実感できた。
でも慢心はできない。あれを全滅させるくらいにまで成長しないと、私は満足できないだろう。
武蔵に