欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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真相へ

浦城司令官の鎮守府の全員に薬を投与し、これで疑いが無くなった。この中で最も長い期間洗脳されていたのは神通さん。その間に春風と通信しており、北端上陸姫との通信もしている可能性がある。そのことについて、こちらの鎮守府で話をしてもらうこととなった。

最初に来た時より大人数になってしまったが、何事もなく帰投。山城姉様は私達から離れて行動をしていたため、念のため中和の薬を投与し、何事もないことを証明。全員無事という形で今回の出向任務は完了とされた。

 

「出向してくれてありがとう、神通君」

「いえ、こちらこそご迷惑をおかけしました。私の知り得る情報は全てお話しさせていただきます」

「感謝する。これで真相に近付ける」

 

その後ろ、神通さんの付き添いとしてやってきた別の私がソワソワとしながら工廠を眺めていた。おそらく別の鎮守府にやってくることなど初めてのこと。ただでさえこの鎮守府は他の鎮守府とはまったく違う構成だ。興味も出ることだろう。

 

「そちらは付き添いかな?」

「はい。私の教え子の中でも経験を積ませたい筆頭なので、是非見学させたく」

「朝潮型駆逐艦1番艦、朝潮です! 本日はよろしくお願いします!」

 

皆の思っていることは手に取るようにわかった。『そういえばこれが本来の朝潮だ』と。今の私の姿に見慣れてしまった人達は、小さい朝潮は見るのも久々という認識だろう。特に私は改二でいた期間も少し短い。

 

「困った。朝潮君が2人になってしまった」

「では私のことは大きい方とでも。ここでの私はいろいろと呼び名はありますし。不名誉なものも……」

「さすがに私が君を女帝と呼ぶのは忍びないよ。では今だけ大きい朝潮君ということで」

 

おそらく司令官にまで女帝呼ばわりされたら私は折れる。

 

「では神通君。早速で悪いが会議室へ。小さい朝潮君は……」

「司令官、私が相手しておくわ」

 

少しウキウキしたような霞が名乗りをあげる。本来の姿の私を見て、少しよろしくないスイッチが入っているように見えた。正直な話、任せることに不安を覚える。

 

「ふむ、わかった。霞君、頼んだよ」

「ええ。サイズは違っても姉さんは姉さんだもの。悪いようにはしないわ」

 

久々に瞳の中にハートマークが見える。やっぱり不安。後ろにいた大潮に目配せして、霞のストッパーになってもらう。

 

 

 

司令官を先頭に会議室に入ったのは私と神通さん。あと念のためということで瑞穂さんが同席。既に中には初霜とウォースパイトさん、そして第十七駆逐隊の4人が着席していた。

第十七駆逐隊の4人は、目を覚ました時に長く洗脳されていた記憶が蘇り発狂しかけたと聞いている。特に武人然とした磯風さんは腹を切ろうとまでしたらしい。それを止めたのが、他ならぬ実姉、時津風さん。姉は強し。

 

「気分は落ち着いたかい?」

「ああ、すまない。取り乱してしまって」

 

少しだけ自傷行為の痕跡が見えるが、お風呂で治る程度のものだ。それだけ深刻に悩んだことなのだから、それについては触れないことにした。

 

「君達には辛い話をしてもらうことになる。何せ、洗脳され敵に与していたときの記憶を話してもらうからだ。辛いようならすぐにじゃなくてもいい。話したくないこともあるだろう。無理はしなくてもいい」

 

それだけ前振りをした。ここに集められた人は、早い段階から洗脳を受けていた人達のみだ。長く人間と艦娘を敵として見ており、鎮守府の全員を騙し続けていた。特に神通さんは、他と違って『種子』を増殖させ配下を増やすという行為までしている。

 

「では、最初にまず知っておかなくてはいけないことがある。第十七駆逐隊の隊長は磯風君だったね」

「ああ、私が率いさせてもらっている」

「島風君のことについて教えてほしい。不躾な聞き方になってしまうが、彼女は()()なんだい?」

 

深海忌雷に寄生され、重傷を負って私の領海に漂着していた島風さん。目覚めた直後は理性もギリギリで、負の感情に支配されていたが、私と雪さんの深海の匂いでどうにか回復し、今に至っている。

その島風さんを攻撃したというのが第十七駆逐隊。さらに霞の発言から、島風さんを始末し損ねたということがわかる。消しておきたい理由があったはず。

 

「島風は我々の鎮守府で建造された艦娘だ。洗脳された後に建造されている」

 

つまり最初の考え方が間違っていたわけだ。島風さんはドロップ艦ではなく建造艦。ということは、私達が警戒していた深海忌雷の無差別配置も考え違い。

では何故深海忌雷に寄生されたか。答えは1つくらいしか思い浮かばない。鎮守府に北端上陸姫が存在していた。

 

「姫は鎮守府の内部に潜伏していたんだ。そこで我々の『種子』が『発芽』させられた。建造艦を実験台にするために、我々の鎮守府が利用されたんだ」

 

ドロップ艦が結局8人しか集まらなかったため、建造に切り替えたということなのだろうか。それなら鎮守府を制圧し、そのシステムを無理矢理使う方が効率がいい。

 

「だが、島風は姫のお気には召さなかったらしい。あいつは特殊な個体だったんだ。建造で生まれたにも関わらず、通常の艦娘とは違っていた。薄っすらと聞いたのは、島風には『種子』が埋め込めないということだ」

「『種子』が効かない……?」

「埋め込んだところで『発芽』することなく消滅するらしい。姫は島風のことを『特異個体』と呼んでいたな。だから深海忌雷を寄生させた。だが、それでも言うことを聞かなかった。万が一そちらの鎮守府に与することがあっては面倒と考えた姫は、我々に処分を言い渡したんだ」

 

建造で生まれたが特殊な体質だったという島風さん。最初の入渠の時に欠陥(バグ)は発見されていないので、ただただ耐性があるということだろう。個体差はどんな艦娘にもあるが、対深海棲艦として本来不要な耐性がこんなところで役に立つとは。

 

「すぐに処分する予定だったが、島風のスペックはそちらもよくわかっているだろう。我々4人でも大分苦戦した。トドメを刺したと思っていたが、そちらに流れ着いたようだ。こちらでトドメを刺したというのが、谷風だ」

「いやー、ありゃあ殺したと思ってたんだけどねぇ。うまく急所から外れてくれたんだねぇ」

 

ニコニコしている谷風さん。島風さんが生きていることを心の底から喜んでいる。洗脳されているとはいえ、艦娘殺しは後に引くほど気分が悪いことだ。例え島風さんが深海棲艦に変わり果てていたとしても、元は自分の鎮守府で建造された艦娘。当然仲間意識はある。その当時は無くても。

谷風さんの言動でこちらは疑いをかけることが多かった。むしろ、谷風さんが少しだけドジを踏んでくれたおかげでここまで来れた。全てうまく騙し続けられたら、おそらく今頃最悪な事態になっていただろう。

 

もしかしたら、谷風さんが無意識ながらもこの危機を私達に伝えてきたのかもしれない。

 

「うむ、ありがとう磯風君。これで次の方針は決まった。……ちなみに阿奈波君は今どうしているんだい?」

 

4人が顔を伏せてしまった。まさか……

 

「彼はもう……この世にはいない」

「……姫の仕業かい?」

「ああ。最悪な実験を見せられた。()()()()()()()()()()だ。生身の人間を使い……艦娘を建造するんだ。深海の素材も入れられていた……」

 

吐き気がしそうだった。少なくとも、阿奈波さんは姫の手によって殺されている。ジワリと、心の奥に憎しみが滾った。それを感じ取ったからだろう、アサが無理矢理私が主導権を奪った。正直ありがたかった。怒りと憎しみが私の心を埋め尽くそうとしている。

 

「て、提督、すまない。シマカゼとユキを呼んでくれ……朝潮がまた呑まれそうになっている……!」

「すぐに呼ぼう。瑞穂君」

「お任せください」

 

念のため同席してもらっておいてよかった。いなかったら間に合わないかもしれない。

 

「朝潮、落ち着け。お前の怒りはわかるが、ここではいけない」

『人間にまで手をかけるだなんて……許セナイ……殺サナイト……アノ姫ヲ殺サナイト……!』

「頼む朝潮、台無しにするな……!」

 

またもや骨が軋む音。アサがどうにか抑え込んでくれているが、今回は怒りが少し深い。実際に死者が出てしまったことが私に火をつけてしまっている。今すぐにでもあの姫を嬲り殺しにしたい。それこそ、同じように建造の素材にでもしてやりたいほどだ。

 

「っぐ……今回は早い……!」

「アサ君、どうにか耐えてくれ。すぐに2人が来る」

「お待たせしました!」

 

雪さんと島風さんが会議室に駆け込み、飛びつくように抱きつかれた。煮え滾るような怒りと憎しみがスーッと冷えていく。

 

「危なかった……」

『ウ……うぅ……私また……』

「構わん。今回は私も気に入らない。不安定なお前がこうなるのも理解している。間に合ってよかったぞ」

 

落ち着いたことがわかったため、主導権が返される。直に2人の深海の匂いを感じることでより一層落ち着く。

 

「この話はやめた方がいいか……?」

「大丈夫です。2人が居れば落ち着けるので」

「難儀な身体だな……」

 

話を続けてもらう。少なくとも阿奈波さんは北端上陸姫に殺されており、この世にはもういない。ということは、鎮守府運営すらも北端上陸姫がやっているということだ。そもそもあの鎮守府に所属している艦娘は洗脳、もしくは深海棲艦化していると考えた方がいい。最悪全員何かに使われ死んでいる可能性すらある。

 

「元帥閣下から鎌をかけられたときは姫がごまかしたんだ。彼が研究室にこもっていることにして、データを明け渡した。使途不明の資源が無いのは当然なんだ。姫の持つ資源を使っているからな。鎮守府の資源は減っていない」

 

外部の資源を使って実験をしているのだから、嘘はついていない。監査が入るところまで考えて行動している。研究者であるという立場まで使ってくるとは。さらには上層部の息がかかっているにも関わらず回避しているとなると、どこまで狡猾なのだ。

 

「……ちなみになんだが……阿奈波君を使った建造はどうなったんだい?」

「深海の素材が入ったからかもしれないが、半分深海棲艦の艦娘が生まれた。今は姫の側近として動いている。人間が素材となったことで安定しているのだと思う」

 

半深海棲艦が建造出来たというだけでもおかしな話なのだが、ここにいる半深海棲艦全員に共通する不安定な心が無いというのが恐ろしい。それをさらに洗脳なりしているのだろう。

 

「その艦娘というのは?」

「……大和だ。よりによって、大戦艦が敵に回るとはな」

「半深海棲艦の大和さん……強敵すぎますね……」

 

ただでさえ素の状態でも殆ど勝てなかった大和さんが、半深海棲艦となり、かつ北端上陸姫の改造を受けている可能性もあり、忠実な側近として動いているのなら、今までで一番の難敵となる。

それ以外にも艦娘を何人も敵に回すことになるだろう。誰も殺すことは出来ない。救出可能なら救出しなくてはいけない。

 

「それについては後から考えよう。話を進めた方がいいね。次は……初霜君、通信であちらの姫に何を伝えていたんだい?」

 

次は初霜の証言。この鎮守府では最も早く洗脳されていたと話している。この鎮守府の内情を全て話していると言っても過言では無いだろう。

 

「基本的にはこの鎮守府の内情を詳らかに伝えていました。私が通信を始めたのは島風さんが漂着してからなので、それが主です。先程磯風さんが話した通り、島風さんは特異個体なので、その行動が不利に働く可能性を考慮していました」

 

ウォースパイトさんも同様。初霜のバックアップとして通信をしていたらしい。そのため、3人が扶桑姉様に大破させられた後に動き出した。それにすぐ気付くことが出来たから、私達は工廠で対処している。

 

「私が特異個体? どゆこと?」

「島風さんは私達に出来ないことが出来るってことです」

「おうっ! 私って凄かったんだ!」

 

無邪気なことが唯一癒される部分。緊迫した会議の空気も若干弛緩する。特に初霜は今回の件で大分落ち込んでいる。こういう場でも話しやすい空気にしてもらえるのはありがたい。

 

「あとは、どのタイミングで朝潮さんにダメージを与えるかの相談です。基本はギリギリまで潜伏だったんですが、秋津洲さんの件で鎮守府が北端上陸姫に支配されていることを隠すことが一番大事だったので、それを利用するという話になりました」

 

深海臭気計の件も筒抜け。鎮守府にそれを持ってこられたらいろいろ計画が破綻するというのがあるのだろう。秋津洲さんの殺害を急務にされたようだ。

 

「ありがとう。概ね話してくれた通りだね。では最後に神通君。君はどのような指示を受けていたんだい?」

 

最後に神通さん。こちらが一番謎である。まったく無関係なところにたまたま『種子』が『発芽』しただけだが、それをどう使おうとしたのか。

 

「私はこちらの春風さんと共謀し、独自に動く方向にさせられました。私の鎮守府に『種子』をばら撒き、全員を支配下に置いたところでこの鎮守府を総攻撃する予定でした」

「ふむ……なるほど。それで朝潮君以外を殺し、心にダメージを与えようと」

「はい。ここまで呆気なくバレるとは思っていなかったのでしょう。『種子』の治療法が確立されるなんて想定外だったようですので。未だに伝わっていませんが、私達からの通信が無くなっているので向こうにもバレたでしょう」

 

第三者だからこその作戦だったらしい。無関係だと思っていたら背後から刺され、心のバランスを崩したところに追い打ちで仲間が殺されたら、私は間違いなく暴走する。アサですら叩き潰すと確信できる。見境なく全員を殺すだろう。

 

「『種子』は3度埋め込まれると即座に『発芽』するんです。なので、まず明石さんに埋め込みました。その後からは教え子を優先し、駆逐艦から拡散させる予定でした」

「即『発芽』の方法がわかったのはいいことだね。予防接種はしているが、回避するに越したことはないわけだ」

 

それ以外の情報は神通さんには伝えられなかったそうだ。そういう部分は慎重である。

 

「埋め込まれてしまうと、治療しない限り『発芽』の回避は不可能かと思います。あれは耐えられません。ここにいる方々は大体眠っている間に価値観が変化しているのだと思いますが、私は『発芽』の瞬間を体験しています。恐ろしいほどに()()()()()んです」

 

深海艦娘に変えられるときのようなものだろうか。身体の変化に対し幸福感を得るようになり、抗えなくなる。私も体験しているが、理性が飛ばされそうな幸福感だった。

 

「深海艦娘化と同じですね。抗えないように幸福感にすり替えられるんです」

「さすが全部の経験者、実体験が活きますね」

「嬉しくない経験ですけどね」

 

神通さんからの情報は以上。深刻な状況がわかるのは、やはりあちらの鎮守府に所属していた4人くらい。いくら信用のできる洗脳だったとしても、必要以上の情報は出さないようだった。

少なくともわかったのは、あちらの鎮守府は完全に支配下に落ちているということと、半深海棲艦の大和さんが側近として控えているということ。そして、艦娘の建造ドックを押さえられているため、敵の陣営は無尽蔵に増えると言っても過言ではないということ。

 

「目立っても面倒なことになりそうだ。攻め込むにしても慎重にいかなくてはいけない。これも元帥閣下と相談していく」

「それがいいでしょうね。事前に調査してもらえれば御の字です」

 

まずは情報収集。そこから攻略に入る方がいい。ここまで来るとすぐに行こうが時間をかけようが関係ない。艦娘の鎮守府すら取り込んだ深海棲艦の陣地なのだ。ここは慎重に行かなければ。

 




初めて明確な被害者が出てしまいました。死は、朝潮をより歪ませる材料。
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