欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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正しい私

敵は艦娘の鎮守府すら取り込んだことが判明した。艦娘の建造ドックも使い、無尽蔵に実験材料を得ており、その1人が島風さんである。実験のために生み出され、好きに弄られた挙句、不要になったために処分されかけた存在。また、元々その鎮守府にいた艦娘研究者である阿奈波さんは、北端上陸姫の手にかかり、命を落としていることが判明した。

私、朝潮はこの真相を聞き、一度は怒りと憎しみに呑まれそうになったが、アサの機転により暴走は免れた。雪さんと島風さんに抱きつかれたことで、今は完全に落ち着いている。

現在は調査が完了するまでは待機ということになった。状況があまりにも悪い。しっかりと地盤を固めた状態で攻略をしていきたい。

 

第十七駆逐隊の4人は、本来自分が所属している鎮守府が深海棲艦に乗っ取られている状況なため、少しの間、私達の鎮守府に身を寄せることとなった。事が済み次第、別の鎮守府に移籍、もしくはそのままこの鎮守府に籍を置くことになる。4人は『種子』を埋め込まれた経歴はあるものの、欠陥(バグ)もなく深海絡みの身体を持っているわけでもない。最終的には浦城司令官の鎮守府へ移籍することで収まりそうである。

 

「一時的だが、よろしく頼む」

「ほんまスマンねぇ。うちら、帰るとこ無くなってしもうたけぇ」

「ああ、好きに使ってくれて構わない。ここには君達の姉妹もいるから安心だろう」

 

会議終わりに時津風さんと萩風さんが待ち構えていただけあり、姉妹仲も良好。ただ、時津風さんの表情は未だに晴れない。磯風さんが罪悪感から切腹しようとしたのが許せていない様子。こればっかりは私が口を出すことでもない。姉妹のことは姉妹でどうぞ。

 

「今から帰投するのも遅くなるだろう。神通君と小さい朝潮君は、今日一晩ここに泊まっていってくれて構わないからね」

「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。うちの朝潮が遊ばれているようですし」

 

まだ外は明るい。神通さんもうずうずしているように見える。この鎮守府では得られるものが多いと、援軍の時も毎日のように演習をしていた。今回もそのつもりなのだろう。

 

「早速リベンジがしたいですね」

「姉様達に掛け合ってあげますから、私はそっとしておいてください」

「さすがに理解していますよ。先程心のバランスを崩したのを見ていますから」

 

それもあるから、雪さんと島風さんはずっと私に寄り添ったまま。初霜とウォースパイトさんも付かず離れずを維持してくれている。

自分の今の状態を嫌なくらい理解できた。心を強く持ちたいのに、想定外のことが発生するとそのまま呑まれる。心を穏やかにするだけではもはや足りない。すぐにでも心を無にする手段が欲しい。

 

「私は扶桑姉妹に演習をお願いしてきましょう。うちの小さい朝潮のこと、よろしくお願いします」

「はい、今は妹達が見てくれているので。これから合流します」

 

ここからは別行動。私は別の私との交流を優先することにしよう。正しく生まれた私はやっぱり興味がある。向こうも私に興味があるようだし、出来ることならいっぱい話がしたい。

 

 

 

少ししたら私は大分安定したということで、雪さんは自分の仕事に戻り、ウォースパイトさんは神通さんについていった。島風さんはというと、いろいろあった第十七駆逐隊の4人と交流するとのこと。割り切り方もレキ並。向こうの罪悪感なんて関係無しに仲良くなろうと行動する。

 

というわけで、私の側には初霜のみ。久々に2人きりということでやたらベッタリである。すぐに腕に絡みついて深海の匂いを堪能しようとする。手の繋ぎ方も、俗に言う恋人繋ぎというやつ。

 

「小さい朝潮さんは何処に?」

「今は談話室ね。大潮と霞と春風が一緒にいるみたい」

「定番の面子ですね」

 

別とはいえ私ではあるので、霞は特に面倒を見たがっていた。大潮にストッパーをお願いしているとはいえ若干不安なため、その足で談話室に向かう。

 

「あ、大きな私」

「こんにちは小さな私」

 

談話室には、小さい私にべったりな妙にツヤツヤしている霞と、その様子にハラハラしている大潮、そして我関せずとお茶を淹れている春風。小さい私に手を振ると、霞の距離の近さに若干困っている視線を投げかけてくる。申し訳なさもあるが、少しだけ我慢してほしい。

私の腕に絡みついている初霜を見て霞の表情が変わるが、小さい私の温もりで少しは気分がいいらしい。比較的穏やか。

 

「姉さん、会議は終わったの?」

「……ええ」

 

嫌なことを思い出してしまう。先程までまた暴走しかけていたのは私の汚点でもある。表情が暗くなったのだろう。それを察した大潮がすぐに反応。

 

「お姉さん、大潮がいますよ。痛みは分け合うって約束しましたよね」

「……そうね。話しておくわ」

 

小さな私もいる中で話すのは少し抵抗がある。知るべきことでは無いだろう。だが、それですら私のストレスになってしまう可能性がある。ただでさえストレスで体調を崩したことがある私だ。それもあって大潮には心配されている節もある。

 

「さっき、また暴走しかけたの」

「ちょっと、大丈夫なの!?」

「もう大丈夫。雪さんと島風さんに来てもらったから。それに、身体も変化は無いわ」

 

そうなった理由も話す。なるべくオブラートに包みたかったが、どうしても阿奈波さんの死については話さなくてはいけない。今までやられてきた中でも一番心に大きくダメージを受けたと思う。

正直な話、霞が洗脳されたことよりも気持ちが重かった。洗脳くらいなら取り戻す手段があるからまだいい。だが、命は取り戻すことは出来ない。それが一番苦痛だった。

 

「嘘……人間を殺したの……?」

「ええ……建造の素材にされたって……」

「何よそれ……滅茶苦茶すぎるじゃない」

 

また怒りが込み上げそうになった。それを感じ取ったアサが即座に主導権を奪う。

 

「すまん。また危なかった。この話をするのはやめておいてくれ」

「交代したのね。そっか……そこまで……」

 

思考の海が熱くなることはなかったが、だが表に出たらまた怒りが込み上げ、最終的には暴走する可能性がある。今は引っ込んでおいた方がいいだろう。アサに主導権を渡したままにし、心を安定させる。

 

『ごめんアサ、ちょっとこの件は私には辛い』

「構わん。お前が他人の死に敏感なのは理解した。少し中で休め」

『ええ。少しの間任せる』

 

少し間隔が短くなっている。心が不安定になっているのがわかる。それだけ衝撃的なことなのもあるが、それでも私は悪化していると理解できる。心を強くする訓練は急務な気がする。

 

「あ、あの、霞、大きな私はどうなったの?」

「ちょっとアサ、小さい姉さんにまだ話してなかったの?」

「向こうの鎮守府で話すタイミングが無かったんだよ。フソウ姉さんと一緒に戦った時にはこいつ気絶させられてたし、そもそも私は表に出てないんだ。顔を合わせるのは今が初めてだ」

 

大混乱の別の私。目の前の私の態度が180度変わったようなもの。むしろ突然記憶が消えたのではないかというような物言い。私にはよくわからないが、他の面々から言わせれば、表情が冷たくなるらしい。声が変わらない分、状況が状況だとかなり怖いのだとか。

 

「あー、小さい姉さん、落ち着いて聞いてね。うちの姉さんは、頭の中に深海棲艦が住んでるの。で、事あるごとに交代できるわけよ」

「そういうことだ。身体を借りてるみたいなものだな。私は深海朝水鬼のアサだ」

「へ、へぇ〜……そうなんですか……」

 

まだよくわかっていない様子。これは伝えるのに苦労をしそうだ。

このことで、私が暴走した理由についてがうやむやになってくれたのは良かった。あの話をずっと続けられたら、おそらく私は思考の海の中で暴走していたと思う。

 

「二重人格だと思えばいいですよ小さいお姉さん!」

「なるほど、なるほど……。個体差というのは凄いですね……」

 

ひとまずそれで納得してくれればいい。

 

「会議の内容は提督が正式に公表するまで待つ方がいい。ただ、その話は朝潮の前でしてくれるな。実際に被害者が出てる件だ。朝潮は命の件に敏感すぎる」

「わかった。その辺りは司令官にも伝えておくわ」

「助かる。私からも話しておく」

 

別の私の隣に腰を下ろした。すかさずお茶を出してくれる春風。初霜は私と腕を組んだまま。一波乱ありそうな構図。

私のことを思ってくれたのか、アサがここで話題を変えてくれる。

 

「小さいの、ここで演習してたんだろう。どうだった」

「皆さん強いですね……なかなか勝てませんでした。皐月さんには手も足も出ませんでしたね」

「あれは特別。というか深海艦娘に対応しただけでも充分よ」

 

さすが二水戦式の訓練を耐えている神通さんの教え子。吐くほど鍛えているだけはある。皐月さんは駆逐艦の中でも特殊なタイプのためあまり深く考えないとして、深海艦娘に対応できたというだけでも評価に値する戦績だろう。

 

「またここに来させて欲しいです。リベンジさせてください。まずは大潮に」

「今回は大潮が勝たせてもらいましたから! いつでもリベンジ待ってます!」

 

大潮だって駆逐艦の力を超えた深海艦娘の1人。並の力では手も足も出ないくらいの力を持っている。この鎮守府に並の力の艦娘がいないというだけ。小さい私も急ピッチの成長で並以上の力を付けたようだが、まだ届かなかった様子。早速リベンジ相手として大潮がターゲットにされた。

 

「少なくとも艦載機だけは対策してきます。まだまだ対応力が足りません」

「第二の神通になれるように頑張れよ」

 

アサが小さい私を抱き寄せた。労うつもりで引き寄せ頭を撫でたようだが、何やら小さい私の様子がおかしい。そういえばあちらの鎮守府で抱き上げた時も少し興奮していた。こういう扱いに慣れていないのだろうか。

 

「こんな褒められ方初めてで……ビックリしてしまいました」

「そうかそうか。いくらでもしてやるぞ」

 

小さい私の顔を胸に押し付けるようにしながら撫でる。恥ずかしそうに身をよじる小さい私だが、すぐに受け入れてされるがままに。その光景を見ていたうちの問題児3人が、ボソリと呟く。

 

「あの間に挟まりたい」

「わかります」

「霞さん、冴えていますね」

 

3人の言動が少し怖い。特に霞はさっきから瞳の中のハートマークがずっと消えていない。大潮もどうしていいか迷うような状況。

 

「ここの霞はなんだかおかしい気がするんですけど、これって個体差なんですか?」

「個体差といえば個体差だろう。そもそも重度のシスコンなんだが、半分深海棲艦になったことで本能が膨れ上がっててな。思ったことを行動で示してしまうことがある」

「ああ……なるほど。だから……」

 

小さい私も何かを察したらしい。私が離れていた時の演習やら何やらで、この霞の本質には気付いたのかも。妙にツヤツヤしていたのは、小さい私相手にいろいろやらかしてしまったからかも。

 

「こんな霞を見るのは初めてなので斬新ですね。少し怖いときもありましたけど」

「受け入れてやってくれ。ここのカスミはこれで成り立ってるんだ」

「はい。妹にこういう一面があったというのも嬉しいものですよ」

 

春風と初霜のことについては敢えて触れないようにしているのがわかった。この2人に関してはややこしいことが多い。説明に時間がかかるし、アサに説明させたらいろいろ面倒臭いことになりそう。

 

『アサ、大分落ち着いたから、表に出ていいかしら』

「ダメだと思ったら引っ込めるからな」

 

私も小さい私とは話がしたい。アサから主導権を貰い、表に出る。

 

「あれ、もしかして交代しました?」

「ええ。私もお話ししたいもの。交代したとよくわかったわね」

「瞳の光が弱くなったのでそういうことなのかなと」

 

そういった部分の観察力は先生譲りだろうか。これなら対応力の成長も期待できる。アサの言う通り、第二の神通さんになれるかもしれない。

 

「たわいないお話をしましょう。私のストレス解消に付き合って」

「私で良ければ。今日は一晩ここに泊まらせてもらえますし、いっぱいお話をしたいです」

「ええ、沢山しましょう」

 

たったそれだけの簡単なことでも、私の心は穏やかになるだろう。利用させてもらうようで申し訳なさもあるが、ただただいろいろと話したい。この子がどうやって成長してきたかなんて、面白い話になりそうだ。お互いの身の上話をして、お互いに癒されれば御の字。

 

 

 

しばらく小さい私を撫でた後、解放。それと同時に、霞が初霜に一言。

 

「それじゃあ初霜、そろそろ大きい姉さんの手を離しましょうか」

「いいじゃないですか。今日は私のターンでしょう」

「恋人繋ぎは有罪(ギルティ)

「私は朝潮さんの婚約者ですから。これくらいは許されます」

 

霞的には初霜の腕組みがそろそろ耐えられないらしい。春風もお茶を淹れてくれているものの、嫉妬しているのはわかった。自分のやったことのない行為を初霜がやっているのを見て、いつもの仏頂面になっている。

 

「初霜さん、ズルイです。わたくしも御姉様とそういう腕の組み方してみたいのに……」

「早い者勝ちですよ」

 

こういう諍いも見慣れてきたものだ。

 

「あの、大きい私、普通には聞かない言葉が出てきたと思うんですが……」

「気にしないで」

「婚約者って」

「気にしないで」

 




小さい(正常な)朝潮の実力は、加藤鎮守府で例えるなら、深海関係がない艦娘と同等くらい。浦城鎮守府では上位。二水戦式訓練の賜物である。
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