欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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癒される義務

『種子』の問題が解決した翌日から、北端上陸姫が支配している鎮守府の攻略方法を決めていくことになった。そのため、現在の敵鎮守府の状況が所属されている艦娘全員に公表された。私、朝潮は事前に聞いていたというのと、この話をするだけで不安定になるため、全体会議は欠席。神通さんと小さい私は、浦城司令官にこの件を伝えるために会議に参加。バックアップをお願いする可能性があるため、状況を知っておいてもらえるのは有用と判断した。

明確な被害者が出ているというのは大きく、会議は当然騒ついた。私ほど他人の命に敏感な人はいないようだが、吐き気を催す人がいたのは確かである。同時に、全員が北端上陸姫に対して怒りと憎しみを募らせた。

 

「もう朝潮君も大丈夫な話だから、入ってきてくれて構わないよ」

「はい……ご迷惑をおかけしました」

 

状況説明の後は私も含めて今後の方針を打ち合わせる。司令官は次の方針は決まったと言っていたが、どう攻めていくか。

 

「少なくともやらなくてはいけないことは、全員への『種子』の対策。これは定期的な予防接種でどうにかする。次に敵情視察。現在どの程度の規模なのかを調査する必要がある。最後に、戦力強化。今の敵の姫の側近が、過去最大級の脅威である。無傷で攻略は……ほぼ不可能だ」

 

今回最大の難関は、姫の側近が半深海棲艦の大和さんであること。最初から最強クラスの大戦艦が、深海化で大幅にスペックアップし、さらには姫による改造を受けている可能性があるということ。艦娘、深海、そして人間すらも素材にした、前代未聞の敵戦力である。

 

「敵情視察は元帥閣下にもお願いするつもりだ。元帥閣下にも少なからず脅威になるはずだからね。ただ、念のため元帥閣下の艦娘にも予防接種はしてもらうため、事前にこちらに来てもらう」

「状況次第ではまた援軍申請ですか?」

「そうだね。敵は深海棲艦だけじゃない。艦娘も支配されていると考えてもいい。勿論全員救出を目的にするが、イロハ級を相手するのとはわけが違う」

 

全員が姫の被害者だ。磯風さん達第十七駆逐隊は助け出すことが出来たが、他にも艦娘は所属していた。人間を使った建造が上手くいってしまったことで、より狂った実験をされていてもおかしくはない。

 

「敵情視察はゴーヤ達に任せてくだち」

「そのための潜水隠密部隊なのね!」

「ギリギリ限界まで見てくるから!」

 

確かにこういう時の潜水艦隊は頼もしい。死なないことに特化した訓練を続けている隠密部隊は、敵情視察にはもってこいな性能。深海潜水艦姉妹は敵に気付かれる可能性が非常に高いので、ゴーヤさんを筆頭とした潜水艦娘3人を送り込むことで調査することに。

 

「方針は決まった。まずは敵情視察。その間に皆はより一層の研鑽を積んでほしい。最大の難関は、半深海棲艦化した大戦艦大和だ。万全の状態で攻略を開始する」

 

怒りと憎しみというあまり良くない感情の下だが、皆の心は1つだ。北端上陸姫を撃破し、支配されている鎮守府を解放する。

 

 

 

会議の後、神通さんと小さい私は帰投。小さい私と一晩のたわいもないお喋りは、私の心をとても穏やかにしてくれた。そして霞は私と小さい私に添い寝されて一段とキラキラしていた。過去のトラウマを払拭したかのように明るい。

 

そして今私はというと、いつも通りの非番。昨日暴走しかけたというのが大きく、身体も心も休めろというお達し。

 

『今余裕あるんだよな』

「ええ。今どころか、敵情視察が終わるまでは余裕があるわ」

『なら久々に領海に行こう。海図作ってからはバタバタしてたから行けてないだろう。お前はまだ不安定だし、一度落ち着くべきだ』

 

穏やかにはなったものの、また不安定ではある。数日の間に暴走を2回しているのは確かに不安だ。アサの言う通り、一度落ち着くために領海に行くのはアリだと思う。

 

司令官に許可を貰い、あの場所に行くのならとアサの服に着替え、領海へ。今回の随伴は少し珍しい人。

 

「今日は控えめに、35.6cm連装砲で」

「何が控えめなのか」

「いつもは46cm三連装砲だからね! 威力が違うよ威力が!」

 

1人目の随伴はオーバースペック組の清霜さん。先程の会議で少し考えたいことがあるらしい。そういうことに使うにも適しているのが私とアサの領海だ。静かな海を見ながらだと、いろいろと考えが纏まる。

 

「佐久間さん、着きましたー!」

「ありがとー。大発動艇に乗せられるのは慣れないねぇ」

 

2人目は大潮。そして3人目は佐久間さん。大潮は不安定な私の監視ではあるが、佐久間さんをここまで連れてくるための大発動艇要員も兼ねている。佐久間さんは清霜さんと同じく考えたいことがあるのだとか。佐久間さんはこの島に来るのは本当に初めて。

 

「いい島だね。ここを拠点にしてるんだ」

「はい。深海棲艦としての私とアサは、この場所が最後の持ち物になりますね」

「人間が土足で踏み込んじゃって大丈夫?」

「良さは皆で共有してこそですよ。佐久間さんは踏み荒さないですし」

 

佐久間さんを大発動艇から抱き上げて島に上がってもらう。清霜さんは、装備妖精さんの力を借りて艤装を大発動艇に下ろし、身軽な状態で島に上がった。

 

「お腹空いた!」

「いつもの事ですよね。ちゃんとオヤツを持ってきていますから」

「ありがとー! あ、これあるんだ。美味しいし長持ちするしで最高なんだよね」

 

清霜さんのデメリット対策に持ってきた大量のお菓子を渡す。中には手作りのものまであり、なんでも清霜さんのために作られたお菓子だそうで、小さく見えてとんでもないカロリーを内包しているらしい。私にはただのスティック状のお菓子にしか見えないが、清霜さん以外が食べることを禁じられているほどである。

 

「あ、早速……」

「海が赤くなってきちゃいましたね。お姉さん、今日は気にせず真っ赤に染めちゃってください」

「うん、そうするわ。ああ、侵食が止まらない」

 

アサが表に出ている時にくらいしか発生しない侵食が、私が表に出ている時ですら発生するようになってしまっている。それほどまでに不安定なのだろう。鎮守府近海が赤く染まらないだけマシではあるが、自分の物であると自覚した瞬間にコレはあまりよろしくない傾向。

 

「この海の水も持って帰らせてね。一応研究してみるよ」

「はい、是非。生態系に直結してそうですしね」

 

気付けば以前にアサが侵食させたほどまで海が染まっていた。むしろそれ以上にまで拡がりそう。ここが自分の拠点であると実感出来ると、その分心が落ち着くようにも思える。私の方ですら、より深海棲艦に近付いているように思えた。

 

「ゆっくりしていきましょう。いつもここでは転寝するくらいですから」

 

いつも通り浜辺に腰掛ける。今日は隣に大潮。外2人は自由に島の中を動き回っていた。ここでは自然を破壊しない限り何をしてくれても構わない。

 

「お姉さん、大丈夫ですか?」

「……ええ。向かい合うことも出来たわ。もうあの話で突然壊れることはないと思う」

 

自信を持って言うことは出来ないが、思考の海が熱くなることは今のところ無かった。アサからも大分心配されたものの、どうにか回復はした。

 

「アゲアゲで行くのは難しいかもですが、一緒に頑張りましょう。大潮はお姉さんの側にいますから」

「そうね、ありがとう大潮」

 

やんわりと頭を撫でる。そういえば大潮を撫でたことはほとんど無かった。他のスキンシップが過剰なので機会が無かったというのもあるが。ここ最近はずっと私のことを考えてくれているようだったので、しっかり労ってあげたい。感謝している。

 

「前にも言いましたけど、お姉さんとは離れたくないです。壊れないでくださいね」

「ええ……敵の姫の思惑通りに行ってたまるもんですか」

「その調子です! アゲアゲで行きましょう!」

 

純粋に明るい大潮は本当に癒し。テンション高めでだったが、しばらくすると私に抱きついて眠ってしまった。大潮だって癒されてもらいたい。今はゆっくり眠ってもらおう。

 

「やっぱり姉妹は仲がいいね」

 

お菓子を頬張りながら清霜さんが後ろに。ある程度散策が終わったようで、結局浜辺に戻ってきた。ここが一番落ち着くのは、深海棲艦も艦娘も同じなのかも。

 

「大潮くらいがちょうどいいですよ。霞はちょっと過剰すぎます」

「楽しんでるくせにー」

「勿論。妹のすることですから」

 

清霜さんも隣に腰かけた。少し神妙な面持ち。考え事があるからついてきたと言っていたが、まだそれは終わっていない様子。

 

「考え事、まだ纏まらなそうなんですか?」

「んー、纏まってはいるよ。でもまだちょっと怖いんだ」

「怖い、ですか」

 

海を眺めながらツラツラと話す。

 

「今度の敵、大和さんなんだよね」

「……はい。磯風さんが言うには」

「名誉大和型として、あたしは大和さんを止めなくちゃいけないって思ったんだ」

 

元帥閣下のところの大和型姉妹から戦艦清霜、名誉大和型として扱われている。同じ人ではないとはいえ、大和さんが敵となっている事実を誰よりも重く受け止めていた。

 

「司令官にもお願いしててね。敵の大和さんをどうにかするってときは、必ずあたしを出してって」

「そうですか……私もお手伝い出来ればいいんですが」

「ならさ、戻ったら訓練とか手伝ってくれないかな。やれること全部やっておきたいんだ」

 

声は明るいが、手が震えているのがわかった。姉と慕っている人が敵になっているのは、それだけでも相当なストレスだ。艦娘という都合上、同じ顔の別人は何人もいる。それでも、辛いものは辛い。

 

「わかりました。私に出来ることなら、いくらでもお手伝いさせてもらいます」

「ありがとう!」

 

満面の笑みだが、震えは止まっていない。どうしても止められないのだろう。恐怖はそんなに簡単に払拭など出来ない。私も恐怖で引きこもった経験があるからわかる。

 

「清霜さん、この島では癒される義務があるんです。この島のルールなんですよ」

「あはは、何それ」

「この島の持ち主が決めたことですから。なので、清霜さんも癒されてください。こんなことで癒されるかはわかりませんが」

 

転寝する大潮を起こさないように、清霜さんも抱き寄せる。最近は自分の身体をこうやって使うことが多い気がしてきた。それで癒されてもらえるなら安いもの。

 

「……やっぱり怖いよ……大和さんと戦うなんて」

「大戦艦が敵に回ったなんて、並の深海棲艦と戦う以上に怖いですよ」

「でも……でも、あたしは立ち向かいたいんだ。助けられるかはわからないけど……それでも、やらないよりは……やりたい」

 

震えは止まらずとも、強い心を持っている。不安定な私より余程強い。見習いたいほどに眩しく、羨ましいほどに綺麗だ。

 

「勝てますよ。清霜さんなら」

「うん……あたし頑張るから……」

「はい。私も手伝いますから、頑張りましょう」

 

頭を撫でてやると、そのまま清霜さんも眠りについた。身動きが取れないが、私も癒される。

 

「……佐久間さん、どうしました?」

「いやぁ、ちょっと近付きづらくて」

「2人とも寝ちゃいましたから」

 

私の見えないところに佐久間さんが戻ってきていた。タイミングを見計らっていたようだが、結局出てこれずに私が声をかけることに。2人にほぼ拘束されており、振り向くことは出来ないが、なんだか顔を見ない方がいいように思えた。声がほんの少し震えていたからだ。

 

「でも今はありがたいかな。ちょっと見せられる顔じゃないし」

「……背中くらいなら貸せますが」

「男前な台詞ですなぁ。でも今はちょっとありがたいかな」

 

2人を起こさないように近付き、背中合わせに座る。

佐久間さんの考え事というのは予想がついていた。私は向き合うことが出来たつもりではいる。話くらいは聞いてあげられると思う。

 

「今なら大丈夫です。落ち着いていますし、向き合えています」

「そっか。察してるなら話してもいいよね。別に聞き流してくれても構わないから」

 

いざ話そうとすると、なかなか言葉が出てこないようだ。持参したお茶を飲んで、息を整えた後、ようやく口が開いた。

 

「彼とは同じところで研究してたじゃん私。ジャンルは真逆だったけど、お互いに研究成果を見せ合うのが楽しくてさ。議論とかも結構したなぁ。なんていうの、切磋琢磨できる仲間って感じでね」

 

佐久間さんはここに来る前、彼と一緒に同じ鎮守府で活動していた。私達の誰よりも付き合いは長いし、人となりも知っているだろう。居心地が悪いと言ってはいたが、彼との関係は別に悪くはなかったようだ。

 

「今は私の方の研究成果いっぱいあるから、次に会えたら物凄く自慢してやろうと思ってたんだよね。深海棲艦の研究とか簡単に行かないってずっと言ってたからさ、こんだけやってやったぞーって、目にもの見せてやろうってずっと考えてたんだ」

 

少し声のトーンが落ちた。研究成果を自慢できる相手が、今はもうこの世にいない。私達の因縁の相手に巻き込まれたせいで。

 

「……せめてさ、せめて弔えるような死に方してほしかった。今でも隠蔽されてるんでしょ。死んでるのに生きてる扱いにされて利用され続けてるなんて、残酷すぎるよ。なんだよ建造の素材って……影も形も残らないなんて……」

 

私からは何も言えなかった。ここで何か言ったら、また怒りと憎しみに呑み込まれてしまいそうだった。冷静にいるためにも、私はただ話を聞き続けた。

 

「私には力は無いから……朝潮ちゃん達に託すしかないんだよね。お願い、仇を取って。彼が浮かばれるように」

「勿論です」

「ん、ありがと。じゃあこの話はこれでおしまい」

 

いつものトーンに戻った。佐久間さんはこっちの方がいい。

 

「佐久間さん、清霜さんにも言ったんですが、ここでは誰もが癒される義務があります。なので、佐久間さんもしっかりと癒されてください」

「そうだなぁ。じゃあ、これ見よがしに晒されてる朝潮ちゃんのポンポンをナデナデして癒されようかなぁ」

「変なことすると2人が起きてしまうのでほどほどに」

 

そんなこと言いながらも、佐久間さんは何もせずただ背中合わせに座っているだけ。たまに鼻を啜る音が聞こえるくらい。今回の件は佐久間さんも相当堪えている。

 

ようやく私も暴走しないほどに向き合うことが出来たが、佐久間さんのこの姿は見ていて辛い。必ず仇は取ろうと、改めて決意した。




清霜は強い子。でも、たまには弱音を吐いてもいいでしょう。
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