欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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穏やかな心を

元帥閣下が鎮守府を訪れてから少し時間が経ち、潜水艦隊による第一次調査が完了。時間としては少し遅い時間だが、事が事だけに全員がその調査内容を聞くこととなり、急遽会議が開かれることに。元帥閣下も含めた全員が集まった。

 

「おー、なんか圧巻でちね。ゴーヤ達の調査報告に全員集まるなんて」

「それだけ今回は重要だということだよ」

 

少し照れながらも、書き出したデータを発表していく。

 

「えーっと、今回はゴーヤ達は、(くだん)の鎮守府付近まで行ってきたでち。領海のこともあったけど、今回は緊急ということで大目に見てほしいでち」

「元帥の名の下に、オッケー」

「爺さんがこう言ってるから問題ないよ」

 

元帥閣下は割とアポ無しでこの鎮守府にやってきてしまうが、本来なら領海に入る時点でなんらかの許可が必要。顔パスで通れる秋津洲さんも、事前にいろいろと手を回しているからそういうことができる。

が、今回は許可を取る相手が深海棲艦になってしまう。隠密行動をしたいのだから、こっそり中に入って、必要な情報だけ手に入れて帰るのがベスト。

 

「磯風ちゃんから聞いていた敵の側近でちが、とりあえず今の段階では姿は確認出来なかったでち。側近って言うだけあって、姫の近くにいるのかも」

「自ら海に出ることは少ないのかもしれないね」

「近海に深海忌雷は見たでち。どっちのタイプかはわからなかったけど、どっちにしても危険でち。対策は必要だと思う」

 

鎮守府内部で実験を繰り返しているからなのか、周辺警護に関しては深海忌雷に一任しているようだ。曲がりなりにも鎮守府として運営されているので、無闇矢鱈に襲うこともない。敵として認識したもののみを襲うように設定されているのかもしれない。

 

「あと海底だけど、前に北の陣地で見た不自然な形の場所を見つけたでち」

「あちらの鎮守府と融合する形で北端上陸姫の陣地が存在する……ということかな」

「多分。あっちが元々どんなところかは知らないけど、地下の深海鎮守府の施設は全部あそこにあるんじゃないかなって」

 

あちらの鎮守府は本土沿岸に設立されたもの。陸上型の陣地が付近に浮上してきたら、私達でなくても異常だと感じるだろう。それが何も言われていないということは、本土と完全に融合する形で出現したと考えられる。

陸上型の陣地が浮上するときは、海が揺れるほどの衝撃があるが、本土に現れた時にそういったことは無かったのだろうか。

 

「爺さん、前回の戦いが終わった後、大本営で地震があったとか聞いてないかい?」

「そういえば……小さいが地震があったと言っておったのぉ。この国はそういうものがちょくちょくあるから気にも留めておらんかったが……まさかそれが敵の浮上だったと?」

「そう考えるのが妥当だろう」

 

元帥閣下曰く、今までに出現した陸上型の深海棲艦は、海の真ん中に突如として現れるものしかなかったらしい。もしくは無人島がそのまま拠点になっている程度。今回のように、直接本土に乗り付けてくるようなことは初めてだそうだ。

そもそも、深海棲艦が鎮守府を乗っ取るなんてこと自体が初めてのこと。さらにはそれすらも隠蔽するほどに賢い。まるで()()()()()()()()()()()()()()ような敵である。

 

「鎌をかけたのに逆に騙されたというのは悔しいのぉ。確かにあのとき、阿奈波は出てこんかった。見たことのない女性研究員に対応されたんじゃよ。研究員は入れ替わりくらいいくらでもあるし、普通に新人かと思っておったが……」

「変装していたとしたら完璧でしたね。我々は北端上陸姫の姿を見ていますから」

 

護衛の艦娘どころか人間すら欺く北端上陸姫に、言いようのない恐ろしさを感じた。

 

「姫が女性研究員のフリをしてたと思うと、ちょっと怖いですね」

「人間のフリをする深海棲艦なんて聞いたことがない。今まで見てきた深海棲艦の中でも段違いに賢いぞ」

 

本能のまま行動をするからこそ残忍で容赦がないというのが敵なのに、北端上陸姫だけは全く別。理性を持って考えた結果、こちらに対して最も効く残忍な行為をしている。

今のところその全てを解決出来ているとはいえ、その度にあちらも知恵をつけているだろう。深海棲艦と知恵比べをすることになるだなんて思わなかった。

 

「そうだ、海は赤くなかったでち。さすがに本土近海が赤く染まってたらバレちゃうでちからね。でも念のため海水持ってきたでちよ」

「ありがとう! 昨日採った朝潮ちゃんの領海の海水と比べてみるよ」

 

色が変わっていないだけで何かあっても困る。むしろ何かあったらゴーヤさん達に影響がありそうだ。この解析だけは早急に進めるとのこと。

 

初日の敵情視察の結果はこれくらい。より踏み込んで調査するには、まだ材料が足りない。ここからは元帥閣下も一緒に敵情視察をしてもらい、より攻め込みやすい状況を作っていく。

 

 

 

翌朝、元帥閣下は帰投。最後まで大戦艦から助言を受け続けた清霜さんは、また元気に訓練に励む。今回は同じように強化に励む榛名さんがお相手。戦艦を相手にすることが一番いいと言う清霜さんにはうってつけの相手である。なんでも榛名さんも新武装のテストらしい。

ガングートさんやウォースパイトさんも後に控えており、全戦艦を相手に立ち回りを覚えることになるようだ。私と扶桑姉様にもまたお呼びがかかる。最終的な目標は海峡夜棲姫と渡り合えるようになるとのこと。

 

その私はというと、山城姉様と一緒に司令官を労っていた。いつも頭脳労働に勤しんでおり、執務室に篭ることもしばしば。肩でも揉んであげたい気分。

扶桑姉様は今は艤装の定期メンテナンス中。機関部しかないが出力を維持するためにはとても重要なこと。

 

「貴方も少しは休みなさい。ほら、お茶」

「いつもすまないね山城君」

 

金剛さんに習った紅茶もここ最近はずっと淹れ続けているため腕もグングン上達。休憩に無くてはならないものになっているようだ。その度に山城姉様は少し顔を赤らめている。もうケッコンカッコカリをして長いが、まだまだ初々しい。

 

「大淀、アンタの分もあるわよ」

「ありがとうございます。いただきます」

 

執務室は休憩の空気に。私も事前に用意されていたお茶菓子を皆の机に置いて、まったりムード。戦況としては謎が多く切迫している状態ではあるのだが、ここで焦っていてはいい結果は出せない。落ち着いて、冷静に物事を判断しなければ。

その点、司令官はいつも冷静だ。私達部下の前で取り乱すわけにはいかないといつも気を張っているようにも見えるが、とても頼もしい。所属している艦娘全員に慕われているだけある。勿論、私も慕っている。

 

「元帥閣下は陸路から視察に行くようだ。何も知らないフリをして、定期監査として潜入するらしい」

「あの人の立場だからこそ出来る方法ですね。何事もない事を祈ります」

 

敵情視察を真正面から行くという、元帥閣下自身の立場を利用した作戦。見てもらうのは、鎮守府の内情。おそらくまた女性研究員に化けた北端上陸姫に対応されることになるだろうが、うまく話を合わせて状況を確認するそうだ。予防接種済みの護衛の4人も同伴ではあるが、私も何事もない事を祈るしかない。

そもそも研究がメインの鎮守府運営のため、所属している艦娘はそこまで多くないらしい。艦娘の数だけで言うなら、私達の鎮守府よりも小規模なのだそうだ。

 

「その連絡次第で出撃ね」

「ああ。朝潮君は出撃しない方向で考えているよ」

「ですよね。自分でもわかってます」

 

敵鎮守府の攻略に私が出た場合、ようやく落ち着いた心がまた不安定になり、最悪の場合暴走する。雪さんも島風さんもいない状況でそれはあまりにも危険。それなら出撃しない方がいいだろう。

 

「北の時は毎回出撃してたんだから、今回は休んでなさい。爆弾抱えてるのはみんなわかってるんだから」

「そうさせてもらいます。皆さんに私の想いを託します」

 

事実上の戦力外通告。わかっていたこととはいえ、自分の手で決着がつけられないのは少し残念である。あちらが確実に私を狙っていることがわかっている以上、私が出る必要は無い。

 

『今お前、姫を自分の手で殺したいって思っただろ』

「……ええ」

『危険な兆候だ。私が表に出るぞ』

 

主導権を奪われる。一時期鳴りを潜めていた過激な思考が、度重なる暴走で戻ってきてしまったように思えた。決着を自分の手でという考えが、今の私には危険な思考。ひょんな事から暴走してしまうかもしれない。

 

「危険だと思ったから私が表に出た。朝潮、相当キテるぞ」

「話題が出るだけでも危ないのか……」

「深海の匂いが欲しいと思えるほどでは無いが、念のためだ。朝潮に壊れられたら困る」

 

時間が経つごとに心が壊れている気がする。

 

「そうだ、アサ君。心を穏やかにするために、朝潮君に手伝ってもらいたい作業があるんだが、頼んでもいいかな」

「戦闘とは関係ないのか?」

「ああ。実はだね、昨日からずっと続いている清霜君の訓練があるだろう。あの手作りのオヤツの在庫がかなり減ってしまったんだ。それを作るのを手伝ってもらいたくてね」

 

つまり、私に料理をしてほしいということ。朝昼晩の食事当番で料理の腕前は並程度にはなっているが、お菓子作りは初めてだ。是非やらせてもらいたい。

 

「朝潮、やりたいのか」

『ええ、是非。楽しそうだもの』

「そうか。ならやればいい。嫌なら私がこの身体を筋トレに使うだけだからな」

「料理もして、筋トレもしなさい。身体を頑丈にすれば暴走なんてしなくなるわ」

「ヤマシロ姉さん、朝潮のこれは残念なことに筋肉理論が通用しないんだ……」

 

久々に山城姉様の筋肉理論を聞いた気がする。

 

 

 

息抜きも兼ねた料理任務。清霜さんのためのオヤツの大量生産。作り方は簡単だが、とにかく量がいるということで、人手が欲しいようだ。

お菓子作り初心者の私と、雑務はお任せの雪さん、こういったことの速さに関してもピカイチの島風さん、さらにはおこぼれ狙いでレキとクウが参加。5人の深海棲艦でただひたすらに作り続ける。

雪さんが当たり前のようにメイド服なのはもう突っ込まないことにした。

 

「島風さん本当に速いですね」

「でしょー? この前、雪のお手伝いでこれやったんだ。その時にコツ掴んでるから、モリモリ作るよー!」

 

材料を順番に混ぜながら捏ねて、整形して並べていくだけという単純作業。その材料を見ただけで、おそらく萩風さんが卒倒するほどの高カロリーかつ不健康。なんだか油と砂糖をこれでもかと入れているようなものに味付けして美味しくしているような、なんというか身体に悪そうなものである。

でもこれが清霜さんには必須のもの。身体への良し悪し以前に、カロリーが摂れないと倒れる。それならせめて美味しく食べられるものを作ってあげる必要はあるだろう。

 

「レキちゃんもクウちゃんも上手だね」

「そうか! ならもっと作るぞー!」

「わたしも頑張る」

 

レキもクウも真剣に、だけど楽しそうに作っていた。すごく和む。心が穏やかになっていくのがわかる。娘達との共同作業がこんなに楽しいなんて。もっと早くやっておけばよかった。

 

「楽しいですね、これ」

「だよね。途中で別のものも作ったりして気分転換もするから安心してね。わたし達用のオヤツも作るからね」

「うおーやったー! レキもっと頑張るぞー!」

 

黙々と作るよりはお喋りしながら楽しくやる方がいい。私もそのおかげで何も考えずに作れる。アサは思考の海で転寝中。穏やかな時間だ。

 

「アサ姉ちゃん、最近元気無かった」

「うん、姫様しょんぼりしてた感じ。元気出た?」

 

子供達にすらそのように見られていたらしい。心が素直に顔に出ていることは喜ぶべきか反省するべきか。

 

「うん、元気出た。また一緒にこういうことしましょうね」

「そうか! ならもっと作ろう! 美味しいもの食べよう!」

「作ろう作ろう」

 

なんだか泣きそうになってしまったが、ぐっと我慢する。今泣こうものならレキとクウをまた心配させてしまう。この場くらいは笑顔で。共同作業を楽しもう。

 

「癒されたかったら、私達に言いなよー」

「いつでも駆けつけるからね。暴走止めるためだけじゃなくていいから」

「今も癒されてますよ。いつもありがとうございます」

 

深海の匂いの相乗効果はいてもらうだけで癒される。暴走どうこう関係なしに、2人の力で強制的に癒されたいときもあるだろう。

 

「結構作りましたけど、あとどれだけいるんです?」

「倍はいるね。清霜ちゃん、本当に際限なく食べちゃうから。それに、これをあと焼く作業があるからね」

 

机の上にズラリと並んだオヤツ。これで完成ではなく、オーブンで焼いて完成だそうだ。出来たものから焼いているようだが、これだけの量を一気に焼くことは流石に出来ない。こればっかりは人数がいても関係ないため、私達は焼く前の状態をひたすら作るのみ。

 

普通の艦隊運用ならまず間違いなくやらないような作業も、部隊のためになる作業だ。不安定な私は、少しの間、雪さんと一緒に雑用をこなしていくべきなのかもしれない。楽しくやれるなら万々歳だ。




朝潮達が作っている清霜専用超カロリーオヤツは、揚げバターを凝固してカロリーメイトにしているような架空のオヤツです。艦娘の戦闘糧食は、1本満足なんて言ってられないレベル。
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