最大の敵、戦艦天姫の能力により、今後の戦場には深海艤装を使う艦は使わない方針に決まった。戦場で艤装不備に陥り、まともな戦闘をすることが出来ずに敗北するのは、大きすぎる問題。深海棲艦の場合はその場で嘔吐するほどの体調不良にも襲われるため、戦闘にすらならない。
今の方針が決定した翌日、いつものように霞と朝食を摂りに朝の食堂へ向かうと、疲れ果てた顔の磯風さんが食堂でご飯を食べていた。佐久間さんへの初めての襲撃から今日で3日目だが、戦艦天姫が言っていた通り、毎晩襲撃があるらしい。前回と同じように潜水艦による暗殺。タイミングはバラバラだが、確実に全員寝静まった時間に来るそうだ。それを確実に、かつ誰も起こさないように処理していた。
「おはようございます。お疲れ様です磯風さん」
「ああ……おはよう朝潮、霞……」
「えらく疲れてるわね……また襲撃があったの?」
「ああ……ここまで神経を使う戦闘は初めてだ」
鎮守府内に侵入される前にケリをつけるために、電探とソナーをフル活用。陸に上がると同時に処理できるよう、常に鎮守府の周囲をグルグルと回り続けるという過酷な任務である。
「あの妙に賢い潜水艦は鬱陶しいな……雷撃が無いだけマシだが」
「暗殺に特化していると」
「おそらくな。佐久間研究員を殺すためだけに来ているぞ」
大きく溜息をつく。疲れ果てているのは確かだ。これを早く終わらせるためにも、なるべく早く現状を良くして行きたい、
元帥閣下の準備が整い、本日中にまたこちらにやってくるという連絡を貰った。状況整理も兼ねた作戦会議を行い、敵鎮守府攻略作戦を立てていくのが今回の目的。頻繁にこちらに来ることが出来ない立場にいるからこそ、このタイミングでなるべく多くのことを決めておきたい。
全員集めての会議をまた開き、方針を皆に伝える。ここ最近は、朝は必ず全体会議を開いているように思える。
「元帥閣下はもう鎮守府を発ち、いつも通りならあと1時間もしないうちに到着するそうだ。間を空けていないため、上層部も不審に思っていそうだが、今はそんなことを言っていられる状況ではない」
焦りたくはないが、早期決着を目標にしなくては、状況が悪化するだけだ。あちらは無限に深海棲艦が生み出せるだけでなく、艦娘まで建造出来るようになってしまっている。戦力はいくらでも拡大出来ると言ってもいい。鎮守府そのものを制圧しない限り、こちらは時間が経つだけ不利になる。
「提督、元帥閣下からの通信です! すぐに!」
大淀さんから緊急連絡。その態度からして、元帥閣下がまた危険に晒されているように思える。
「どうした爺さん!」
『すまん! 援軍を寄越してもらえんか! 襲撃を受けておる!』
通信の向こう側、聞こえるのは爆撃の音。そして、一航戦の弓を引く音。海の上では十全に行動が出来ないどころか、元帥閣下だとしてもただの人間になってしまうことを見越した襲撃。余程元帥閣下が邪魔と見える。
だが元帥閣下が鎮守府から出るところを見計らい襲撃してくるということは、やはり上層部に裏切り者がいるというのは間違いなさそうだ。
「了解した! どうにか粘ってくれ! 出来ることならこちらに近付いてきてほしい!」
『抜かりないわ! 敵は空母だらけじゃ! 対空と制空権確保の部隊で頼む!』
通信が切れる。余程切羽詰まっているのがわかる。護衛艦娘の4人がいるとしても援軍を求めてくるほどなので、余程数が多いか、余程強いか。
「制空権が必要っちゅーことは、うちら空母隊の出番や」
「でも浮き砲台の私達がどうやって急ぐのさ」
「そんなん決まっとる。
制空権確保のための空母隊は、2人が浮き砲台という辛い状況。今でこそレキのような万能戦力がいるためもう少し増やせるが、今回の戦場は深海艤装組を出撃させるのはなるべく控えたい。そうなると、浮き砲台の龍驤さんと蒼龍さんに出張ってもらうしかない。
今までは曳航しか手段が無かったが、今なら大発動艇がある。かなり強引だが、2人を積載することで航空戦力を持つ装備として運用する。龍驤さんは大発動艇を手に入れてから、ずっとこれを考えていたようだ。
「司令官、ええな!」
「ああ、頼んだ。大発動艇担当は龍田君。対空は吹雪君と天龍君に任せる。天龍君、旗艦をお願いするよ」
「おう、任せろ。だけど、元帥の爺さんの居場所がわかんねぇぞ」
東であることはわかっているが、敵の攻撃を掻い潜りながらの撤退戦のようなもの。本来いるべき場所にはいない可能性があるし、そもそも私達は元帥閣下の航路を知らない。
それなら、道案内が必要だ。ある程度の範囲に入れば感知できる、道案内に適したもの。
「司令官、私が電探で反応を見ます。道案内が出来るかもしれません。大発動艇に私を搭載してください」
「朝潮君、だが君は」
「脚部艤装はまともに動きます。体調を崩すかもしれませんが、そういう敵がいることの確認になります。それと、元帥閣下の口振りからして、戦艦天姫はいません」
海上なら北端上陸姫の顔を見ることもなく、戦艦天姫と会話しても耐えられたことを鑑みるに、今なら暴走の可能性もかなり低い。戦闘行為をせず、ただひたすらに電探として機能することを条件に、私は出撃を望んだ。対空砲火もせず、艦載機も使わない。この身体になる前にやっていた戦闘方法だ。あの時は対空砲火くらいはやっていたか。
「悪い提督、オレからも頼む。早いところ救援に出向かないといけないなら、朝潮の電探は必要だ。暴走しそうならオレが殴って気絶させる。朝潮もそれでいいな」
「一思いに殴ってください」
「でしたら瑞穂もお供致します。朝潮様を気絶させるのには一家言ありますので。対空砲火のお手伝いも可能です」
悩んでいる暇はない。救助の確実性を求めるのなら、これがベストのはず。誰も死なない手段だ。そのせいで私がまた吐く程度なら安いもの。
「今回は緊急性が高い。朝潮君、頼んだ」
「了解です。瑞穂さんも、いざという時はお願いします」
「お任せ下さい。痛みなく意識のみを刈り取ります」
本当にやってくるから恐ろしい。
「そうなると、大発動艇の運用は瑞穂君に一任した方がいいね。龍田君は天龍君と白兵戦をする方がいい」
「了解いたしました。瑞穂を含めた輸送が必要な方全員を積載させていただきます。龍驤さん、蒼龍さん、瑞穂に命をお預けください」
「任せたで」
私も瑞穂さんに命を預けることになるだろう。だからこそ、心配など全くしていない。
大急ぎで準備をして出撃。旗艦は天龍さん。随伴に龍田さん、吹雪さん、龍驤さん、蒼龍さん、雲龍さん、瑞穂さん。なかなか無い7人編成。私はあくまでも大発動艇に搭載された機材である。
瑞穂さんが運用する大発動艇に私、龍驤さん、蒼龍さん、瑞穂さん本人、そして低速化
「反応はまだ見つかりません。深海の気配もまだです」
「もう少し北寄りにしてください。大本営に近付くならそちらへ」
吹雪さんの指示の下、若干北寄りへ。
「うちらも哨戒機飛ばしとるからな。朝潮の電探よか範囲は広いはずや」
「助かります」
「最近出番あらへんかったからな。燻っとってん」
浮き砲台はどうしても鎮守府防衛に回されがち。曳航しながらの戦闘は訓練したものの、やはり危険度が段違いだ。だが今回はその辺りを払拭している。大発動艇なら、運用者次第な部分もあるが、共倒れなんて事はない。いざという時は押して帰ることも可能だ。
そのおかげで、龍驤さんと蒼龍さんは今ここに立っていられる。大発動艇様々であった。これを持ってきてくれた秋津洲さんには、また皆が足を向けられなくなった。
「気配を確認」
「哨戒機からも連絡! 元帥閣下達見つけたって!」
「深海の匂いも確認……っぐ……またこのパターン……」
気配から察するに戦艦天姫ではない。だが、深海の匂いはいろいろなものが混ざった臭い。途端に体調が悪くなる。艤装もうまく動かなくなったため、一旦消しておく。口を押さえながらも進行方向を見据える。
「戦艦天姫ではないです……ですが……深海艤装に干渉してきます……」
「了解。朝潮は無理しなくていい」
「電探としての……仕事をこなします……」
電探に反応が入る。通信で言われていた通り、空母ばかりが5体。4体はよりによって空母棲姫。残った1体は謎の存在。反応としては艦娘とも深海棲艦とも取れる。これが私の体調不良の原因。吐き気を何とか飲み込んで、状況を皆に伝える。
「会敵……空母5体……4体姫……もう1体は謎です……」
空母棲姫4体の後ろ。私達からすれば一番手前に、謎の女性が存在した。髪をポニーテールに結び、着物の喪服を着た空母の女性。今までの深海棲艦とは少し違う。
その敵の姿を見て、空気が凍り付くような感覚。実際に寒気もした。体調が悪いからとか、そういうことではない。真後ろにいる龍驤さんの雰囲気がガラリと変わった。
「あいつはうちがやる。周りの艦載機に邪魔させんでくれ」
「龍ちゃん私も因縁あるんだけど」
「蒼龍よかうちの方が付き合い長いわ。そこは先輩に譲らんかい」
いつもの朗らかな空気が何処かに行ってしまっている。持っている式神の枚数もいつも以上。最初から全力で、且つ、助けるまでもなく殺す気で戦おうとしている。
ここまでになっている龍驤さんは初めて見る。戦艦水鬼の時ですら、真剣だったが怒ってはいなかった。戦場だから仕方ないと割り切っていた。が、今回ばかりは話が違うらしい。
「援軍ですか……致し方ありません。纏めて沈めましょう」
喪服の女性がこちらに弓を向け、一矢放つ。それは本来なら艦載機へと変化し、こちらへ攻撃してくるところだが、変化なく矢としてこちらに放たれていた。
「嘗めんなよ、うちにそんなもん効くかい」
同時に式神を3枚飛ばす。本来なら艦載機へと変化するところが、紙のまま矢を受け止めた。その1回で式神は塵となるが、矢も勢いを止め、海に落ちた。お互いに空母とは違う戦闘方法を使っている。龍驤さんのこんな戦術、初めて見る。
「瑞穂、空母隊のこと頼んだ」
「お任せ下さい」
吹雪さんを下ろした後、蒼龍さんが雲龍さんと連携しながらの制空権確保を始めた。こちらに来る艦載機は、瑞穂さんが撃ち墜とすことに。機銃ではあるものの、回避しながらの対空砲火と、空母隊の艦載機でどうにかなるはず。
「龍田、吹雪、オレらは元帥の爺さんだ。それじゃあ、行くぜぇ!」
ここから部隊が二分した。龍驤さんが喧嘩を売ったおかげで、あちらの喪服の女性はこちらに付きっきりになってくれる。元帥閣下の護衛艦娘と天龍さん達で、残りの空母棲姫4体を相手取ってもらうことになる。
「そんじゃあ、やるかぁ! 鳳翔!」
「その名で呼ばないでもらえますか、龍驤」
喪服の女性、鳳翔。軽空母の中では最も旧式ではあるが、最初から空母として建造された、世界初の空母。全ての空母の母。あの一航戦の先輩にあたる、最も空母を知る艦娘。
それが、北端上陸姫の手により深海棲艦に変化。さらにはこの匂いを持つということは、建造に人間を使われている。深海忌雷は左肩に寄生しており、甲板を侵食して禍々しい形状へと変化していた。
「
「大層な名前貰ったようやな。クソほど似合わんぞ、鳳翔!」
さらに一射。今度は艦載機へと変化したが、普通の空母と違い、超低空飛行。こちらへの突撃を視野に入れた、確実に殺すための艦載機運用方法。
対して龍驤さんも式神を放つ。艦載機に変化し、敵艦載機へ対応。練度の差は無く、ほぼ互角。空母同士の戦いとは思えないほど、至近距離、且つ、低空での撃ち合い。艦載機が発艦しては墜とされる。
「弓道部が式神に追っついてくるんかい!」
「貴女が遅いだけでしょう」
そういう空母鳳姫は矢を3本番えて放っている。むしろ3本同時に放たれているのに追いついている龍驤さんの方が凄い。
「くっそー! 制空権全然取れない! 瑞穂、もっと回して回して!」
「朝潮様の体調を考えればこれが限界です。充分出てます」
「ミナトの艦載機も使えないわ……深海の艦載機もダメみたいね……」
頻繁に会いに行くのに結局まだ返していないミナトさんの艦載機は、雲龍さんが発艦しようとしてもうんともすんとも言わないようだ。そういえばと思い自分でも艦載機を発艦しようとしたが、同じように動かなかった。
『無理するな。吐き気が酷いんだろ。何もしないのなら私に代われ』
「ごめんなさい……アサ、一回お願い……」
耐え難い体調不良を一旦アサに肩代わりしてもらう。表に出た途端込み上がってきたらしく、口を押さえて蹲る。
「お、お前よくこれが耐えられるな……」
『かなりギリギリよ。事が済んだら吐いた方がいいわ』
姫としての尊厳があると必死に耐えているアサ。一時的にでも体調不良から解放されたおかげで戦況を細かく見る事が出来る。
龍驤さんと空母鳳姫は互角。ここは押さえておいてもらう。4体の空母棲姫と戦う残りのメンバーは、こちらはこちらで互角の戦いを強いられている。
「空母の数は同じなのに、あちらの方が数が多いのね。こちらは全力なのだけど」
「弓が間に合わないんですよ加賀さん。発艦最速の雲龍さんが
一航戦と蒼龍さん、雲龍さんが常に発艦し続けているにも関わらず、常に劣勢。天龍さんと吹雪さん、瑞穂さんの対空砲火でギリギリ互角。
「図体がデカい割には避けるじゃないか! 大和、同時に行くぞぉ!」
「ええ、確実に1体ずつね。全主砲、一斉射!」
「撃てぇーっ!」
大戦艦2人の強烈な主砲攻撃もひょいひょい躱している。艦載機を発艦しながらあの動き、空母棲姫なのに並ではない。改造されているだけではなさそう。それでも2人同時の砲撃は直撃したようだ。
「はい、隙だらけ。怯んでくれないと戦いづらいわ〜」
大戦艦2人の砲撃をまともに受けたにも関わらず大破で止まっていた。その首を龍田さんが容赦なく刎ねる。艦載機の数が一気に減り、均衡状態に。
「うし、吹雪、対空任せたぞ」
「了解です! この量ならもう1人で行けます!」
天龍さんも攻撃へ移行。1体を着実に撃破するため、大戦艦との連携を優先した。また、天龍さんが攻撃に参加し始めたことで、龍田さんの動きがより良くなる。1体、また1体と撃破していき、残り1体に。この時にはもう制空権は完全にこちらのもの。
「お前の
「不甲斐ない。私が鍛えたのですが、所詮はただの姫ですね」
「鳳翔のツラで抜かすなボケ」
お互いに最後の艦載機が墜ちる。龍驤さんの手元には式神は無くなり、空母鳳姫の矢筒には矢が1本もない。
「雲龍!」
「互換性があるのはいいことね」
龍驤さんには同じ艦載機発艦が出来る雲龍さんがいる。艦載機を多めに持てるようなもの。大発動艇から動けない龍驤さんに向かって、式神を手渡す。雲龍さんの艦載機が減ってしまうものの、今は龍驤さんに渡すべきと判断したのだろう。
「やらせると思っているのですか?」
が、空母しかいないこの場では聞こえるはずのない砲撃音。瑞穂さんが大発動艇を動かし続けているにも関わらず、龍驤さんのその一瞬の隙を突き、巻物の甲板を
「いっ……クソがぁ!」
「艦載機が無くなったのなら、砲雷撃戦くらいしますよ」
禍々しい甲板が主砲に変形している。威力からしておそらく重巡洋艦辺りが混ぜ込まれている。主砲完備の空母だなんて、陸上型のような性能に。
「第2ラウンドです。あれだけ宣ったのだから、勿論抵抗してくれるのですよね?」
「随分と言うようになったやんけ!」
甲板が無ければ艦載機は発艦出来ない。龍驤さんはもう攻撃手段を持っていない。万事休す。
大和の相方と言われると何人も思い浮かぶと思うのですが、私の中では鳳翔との史実が好きなので、今回の状況と相成りました。名前は勿論、