欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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堕ちた鳳凰

こちらの鎮守府に向かっている元帥閣下が襲撃を受けてしまった。その救援に出撃したところ、人間が素材に使われただろう第二の深海棲艦、空母鳳姫に襲われる。空母鳳姫は龍驤さんと因縁のある軽空母、鳳翔。瑞穂さんの大発動艇に乗っての出撃で激戦を繰り広げたが、艦載機を使い切ったところで砲雷撃戦を始められてしまった。

 

「さぁ、次は何を?」

「言うてくれるやんけ……!」

 

使い切った艦載機は、互換性のある雲龍さんから補充。しかし、不意をつく一撃で、龍驤さんは右腕諸共甲板を破壊されてしまっている。艦載機はあれど、発艦するための装備が無いとなると、話は変わってくる。

 

「甲板が破壊された程度でもうおしまいですか。艦娘とは……脆いですね」

「なら2人がかりになるだけよ!」

 

制空権を考えなくてよくなったため、蒼龍さんも空母鳳姫への攻撃に参加。こちらはまだ艦載機が潤沢に残っており、攻撃の手段はいくらでもある。同じ弓での攻撃に、空母鳳姫も少しだけ間合いを取った。

空母らしからぬ主砲による砲撃は、こちらの状態を崩すのには最適だった。ただでさえ大発動艇を使っての戦闘だ。回避は全て瑞穂さんに一任されている状態。それにすら合わせて当ててきているという事実は、瑞穂さんにも焦りを生む。

 

「おらぁ! こっち終わったぞ!」

 

天龍さんから空母棲姫を全滅させた旨が届く。これで元帥閣下側にいる7人の艦娘がフリーに。

 

「……またわらわらと。この数を相手にするのは骨が折れますね」

「抜かせよ鳳翔! お前もギリギリやろが!」

「そう見えますか? 節穴ですね」

 

主砲を変形させ甲板の形状に。矢が無くなった今、甲板はもう関係無いだろう。だがこの場でそれをやったのだから、何か隠し球が。

 

「あくまでも貴女と同じ舞台に立ってあげただけです。今の私が何か、忘れてしまいましたか?」

 

手を払う。瞬間、深海の艦載機がズラリと現れた。その数は白吹雪さんが発艦した数より段違いに多い。やはり本職ということか。

深海棲艦の空母なのだから、私達と同じように矢など要らずに艦載機は出せたのだ。それをあえてやらず、それでも互角の戦いを演じた。土壇場でこれを出して、心を折るためか。

 

「矢を全て使わせたのは褒めて差し上げましょう。こうなっては私も次を出さざるを得ません。油断と慢心が良くないことはわかっていますから」

 

ちらりと赤城さんの方を見てから、改めて龍驤さんに向き直る。戦況はあちらの方が不利のはずだ。なのにあそこまで余裕があるのが気になる。まだ手段がいくつもあるのかもしれない。混ぜ物故に、ただの空母と思ってはいけない。

 

「さて、では改めて第2ラウンドです」

 

深海の艦載機が一斉に攻撃を始めた。龍驤さんを見ているが、攻撃は全員を狙っている。勿論、元帥閣下も視野に入っている。空母棲姫の艦載機が無くなったところで先行しようとしたのがバレていた。あくまでも標的は元帥閣下、私達はついでという認識なのだろう。

 

「天龍さん! 対空砲火再開します!」

「おう! オレも再開だ! 龍田、本体頼む!」

「ええ、援護お願いね〜」

 

2人の対空要員を後ろ盾に、龍田さんが空母鳳姫へ突っ込む。龍驤さんのことはもう気にしていられない。早くこの艦載機をどうにかしなければ、ジリ貧になる。

 

「邪魔すんなや龍田ぁ!」

「攻撃出来るようになってから言ってね〜」

 

艦載機を掻い潜って自分の間合いへ。主砲による攻撃も怖いが、今は砲撃は無いと断定した。

深海忌雷が寄生している甲板の形状で攻撃方法が変化している。今は甲板だから空母。先程は主砲なので重巡。他にもあるかもしれないが、少なくとも今は艦載機しかないはず。

 

「戦況が見えているのは感心します」

「敵に褒められても嬉しくないわ〜」

 

龍田さんが薙刀を振るう。艦娘の見た目であろうが関係ない、殺すために急所を狙った一撃。だが、空母鳳姫が不意に手を後ろに回したことで攻撃をキャンセルし、間合いを取った。

 

「あら残念。無鉄砲に攻撃するわけではないのですね」

「天龍ちゃんじゃないもの〜。私は自分の身体が大事よ〜」

 

空母鳳姫が後ろ手に握っていたのは匕首。このまま白兵戦を始めていたら、不意打ちでやられていたかもしれない。武器の長さは違えど、警戒は必要。

戦況は膠着。尋常ではない数の艦載機は、対空砲火と空母隊の尽力で再び互角に持っていけてはいる。だが、本来隙だらけの本体が白兵戦でカバーしてきているせいで、攻撃出来るチャンスが無い。白兵戦が出来るのが現状龍田さんだけになってしまったのも辛いところ。

 

「雲龍、甲板貸してくれや!」

「無茶苦茶言うわね。でも、嫌いじゃないわ」

 

攻撃を回避するために動き回る大発動艇に器用に飛び乗った雲龍さんが、龍驤さんの隣に立つ。互換性がある2人だからこそ出来る裏技。雲龍さんは手に持つ杖に龍驤さんと同じような巻物状の甲板を吊っているため、少し支えるだけで龍驤さんも発艦可能。

 

「往生際が悪いですね。甲板が破壊されたのなら素直に隅で震えていればいいものを」

「敵がお前やなかったらそうしとるわ!」

 

艦載機の数が増えたことで、ほんの少しだが優勢になった。

 

「爺さん、今だぁ!」

「すまない! 離脱させてもらう!」

 

そのタイミングを逃さず、元帥閣下が大和さんと武蔵さんと共に海域を離脱。万が一帰り道に敵が待ち受けているようなことがあっても、あの2人がいるのなら安心できる。こちらの戦力は減ってしまうが、今回一番大事なのは元帥閣下の救援だ。

 

「……逃しましたか。では何人かを潰してから帰ることにしましょう」

 

突然艦載機が消える。同時に甲板が主砲に変形していた。やはり艦載機と主砲を同時に使うことは出来ないようだ。入れ替える瞬間に隙が出来るようなので、そのタイミングで砲撃が出来れば倒せるかもしれない。

砲撃の狙いは相変わらず大発動艇に乗っている私達。瑞穂さん任せではあるものの、私を守るためと普段の瑞穂さんからは考えられないようなテクニックを見せている。

 

「艦載機が無いのならこっちのもんだぜ!」

「天龍ちゃん、慢心はダメ。これ、本当にまずいわ」

 

一度接近している龍田さんはかなり慎重になっている。後ろに手を回しただけで力を理解してしまったようだ。稀に来る砲撃は弾いているが、それ以上の攻撃が出来ない。

 

何度かの砲撃の後、また主砲が甲板に変形。同時に、先程と同じほどの艦載機が現れる。制空権は奪われ、対空に専念。

そのタイミングが絶妙すぎた。砲撃を捌いた瞬間に切り替え、発艦後に接近、対空をある程度終わらせたと思ったらまた主砲に切り替え。こちらの隙を引き出すのが上手い。

 

「姫様の寵愛を受けている貴女は、私達には邪魔なんですよ。ここで死ねばそれまでの女として見限るでしょう」

 

隙を見て大発動艇に接近してくる。天龍さんと龍田さんは大発動艇を守る位置に陣取ることになってしまう。うまくポジションを確認して周囲を囲うようにしているのだが、それでも無傷を維持されている。

 

「矢が……!」

「こちらも無くなります」

 

一航戦の2人は私達がここに来る前から戦闘している。龍驤さんのような戦闘では無かったために消耗はゆっくりだったものの、ここでついに艦載機が尽きてしまった。蒼龍さんもギリギリ。龍驤さんも借り受けた雲龍さんの分を使い切っている。

酷い持久戦だった。戦艦天姫はあの性格と性能からして、おそらくゴリ押しタイプだろう。それに対して空母鳳姫は、堅実に持久戦を仕掛けてくる。まるで天龍さんと龍田さんのようだった。勝ちに行く戦いではなく、確実に負けない戦い方。

 

「終わりですか。では1人ずつ、じっくりと行きましょう」

 

大発動艇に乗っている私を含めた5人は、現在瑞穂さん以外が攻撃を出来ない状態。加えて(アサ)は体調不良でまともに動けず、龍驤さんは右腕が破壊されている状態。

 

『瑞穂さんに撤退を指示』

「ミズホ……」

「撤退いたします。あと少しだけお待ちください」

 

指示を聞き終わる前に、大発動艇が空母鳳姫から下がるように移動。さすが瑞穂さん、察するのが早い。だからこそ助かる。

 

「逃がすと思っているのですか?」

「一航戦も逃げてくれ! オレ達が時間を稼ぐ!」

 

戦力としてカウント出来ない空母組はこの時点で撤退。後は天龍さんと龍田さん、そして吹雪さん。たった1人白兵戦ではないが、この場では搦め手役として機能している。最高の補佐要員。

 

「よく頑張った!」

「撤退のしんがりを務めます!」

 

元帥閣下の撤退が確認できたため、大和さんと武蔵さんが戻ってきてくれた。これなら確実に撤退できる。

 

「……分が悪いですね」

 

不意に主砲を吹雪さんに向け、避ける間も無く腹に一撃。その混乱に乗じて龍田さんを斬り裂き、天龍さんを主砲で殴りつける。これがやれるのに今までやらなかったのは、あくまでも今まで手を抜いていたということなのだろう。

 

「大戦艦様は面倒ですから、この辺りで。また会いましょう」

 

甲板に変形後、艦載機が目くらましとなり、それが無くなった時には姿を消していた。ようやく戦闘が終了したが、被害が甚大であった。最後の一撃で吹雪さんは腹を抉られて大破。龍田さんはよりによって片目を斬られており中破。天龍さんは一番軽傷なものの骨をやられ中破。特に吹雪さんは急いで入渠してもらわないと危険だ。

 

元帥閣下の救援は完了したため作戦としては成功である。だが、戦闘としては大敗である。途中からは1人にここまで持っていかれた。戦艦天姫はこれ以上だろう。部隊は絶望に包まれていた。

 

 

 

撤退後、龍驤さん、天龍さん、龍田さん、吹雪さんはすぐに入渠。私は体調不良でそのまま休息。帰投するまでもさんざん吐き続け、ある程度はスッキリしたものの、まだまだ体調は悪い。一番酷い状態をアサに肩代わりしてもらっているため、ここからは私が引き受ける。

 

「ありがとうアサ……さんざん吐いてくれて……」

『前回はお前が全部引き受けたろ。今回は私が引き受けただけだ。ただ、姫としての尊厳は無くなったな』

「まだ持ってたの……?」

 

なんとかお風呂も入ることが出来たので、今は体調が戻るまで私室で横になることに。

 

「……アサ、あれに勝てると思う?」

『体調が良ければ負けん。動きは把握した』

 

思考の海でじっと観察していたわけだが、空母鳳姫の動き自体は理解した。まだまだ隠し球があるかもしれないが、戦闘を組み立て、自分の有利に立つ作戦を組むことは出来ると思う。

だが、指示が出来るほど体調が良くない。戦闘に参加しただけであのザマだ。大発動艇から一度も動かず、回避も瑞穂さん頼り。せめて自分で動けるのならまた変わるのだが。

 

「……キツイわ。近付かれるだけでこれだもの」

『艤装が動かなくてもいいからこれさえ無ければな』

「そうね……電探は動くものね」

 

電探は私の内蔵装備であるために、どれだけ深海艤装に干渉されても影響は無い。やはり深海艤装を下ろすのがベストなのだろうか。自分の身を一切守れなくなるが、それは結局今日の戦闘と同じだ。大発動艇に乗ったまま、何もせず指示だけ飛ばす。

果たしてそれは戦闘をしていると言えるかはわからない。機材として戦場に出て、その効果を発揮しているだけ。

 

『深く考えるなよ。そんなことより自分の身体を大事にしろって話だ』

「わかってるわ。……わかってるつもりよ」

 

今回は怒りと憎しみに呑まれずに済んだが、また何かあるかもしれない。やはり戦場に出るのは慎重になった方がいいだろう。体調不良で憎しみが抑制されているようにも思えたが。

 

『まぁゆっくりしておけ。吐き気は治まったかもしれないが』

「前にあった高熱の時を思い出すわ。フラフラして、身体が怠い」

『食欲は』

「ようやく出てきたかも。胃の中空っぽだし」

 

アサに言われて意識した途端、恥ずかしいくらい大きな腹の虫が鳴った。今食べても吐いてしまうことは無いと思う。だが、部屋から出て行くのも少し辛い。こんな時こそ……と思ったが、瑞穂さんも戦闘の後だ。きっと疲れている。あまり手を煩わせたくない。

 

「何か……食べに行きましょうか」

『だな。危ないと思ったら誰か呼べよ』

 

フラフラと部屋を出る。壁に手をつき歩いて行くと、ちょうどお見舞いに来てくれようとした赤城さんと加賀さんに出会う。ありがたいことに、ちょっとしたご飯まで持ってきてくれていた。大本営所属の最強の艦隊である一航戦にそんなことまでさせてしまい、恥ずかしいやら申し訳ないやら。

 

「部屋に戻りなさい。まだ体調は良くなって無いのでしょう」

「朝潮さん、お腹が空いてると思って軽食を持ってきました。はい、部屋に戻って」

 

2人に押され、今来た道を逆戻り。ベッドの中にも入れられ、最初のスタイルに。

 

「お粥、出来立てですからすごく熱いんです。なので、冷めるまで少しお話しましょうか」

「お話ですか」

「ええ、今回の敵のことよ」

 

龍驤さんがあそこまでの怒りを見せ、他に手を出させないようにしてまで自分で決着をつけようとした相手、空母鳳姫。軽空母鳳翔について、2人も思うところがあると言う。

 

「私達は、討つのを躊躇ってしまいました」

「鳳翔さんは私達にとっても母と呼べる人なの。敵となり、容赦なく私達を殺そうとしてきたとしても、私はあの人に弓を向けることを躊躇してしまったわ」

 

同じ顔の別人が何人もいるような艦娘だとしても、自分の尊敬する人に対して攻撃をしなくてはならないというのは、大きな大きなストレスとなる。いくら最強の艦隊の一航戦だとしても、そこは変わらない。

 

「どれだけ割り切っても、私達では勝つことが出来ないかもしれません。それもあちらの策略なのかもしれませんが」

「……そうですね。こちらの心を崩す作戦ばかりをしてきます」

「貴女達はその点強いわね。あの状態でも戦意を失わなかった」

 

深海艦娘のときは、助ける手段が確立出来ていたから、躊躇せずに立ち向かうことが出来た。だが今回は、おそらく助けることは出来ない。撃破し、沈めることが救済となってしまう。なるべくなら救済方法だって見つけたい。

 

「龍驤にも因縁があるもの、怯んでもおかしくなかった」

「でも、そんなことなかったんですよね。あの子は、私達よりも充分に強い。きっと鳳翔さんのことも救済してくれる」

 

目を覚ましたら、また龍驤さんと話をしなくては。

 

「詳しい話はまた皆が起きてからにしましょう。ゆっくりできるのは今くらいしか無さそうですし、良ければたわいのない話でも」

「こうやって話すことが無いもの。機会は使いたいわ」

「そうですね。前回来てもらった時にもそういう話は出来ませんでしたし」

 

この2人とは戦い方も違うため、あまり話す機会が無かった。加賀さんとはちょくちょく演習で話をさせてもらっているが、実用性のない世間話なんてものはまだしたことがない。それならと、ご飯をいただきながらたわいないお話をさせてもらった。少し沈んでいた空気が明るくなったような気がした。




遠距離……艦載機
中距離……重巡主砲
近距離……匕首
空母鳳姫に隙は無し。
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