欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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悪夢

元帥閣下と無事とは言えないが合流することが出来たことで、敵鎮守府の攻略を大きく進めることになる。未だに内情を突き止めるまではいかないが、ここ最近で変わったことというのはやはり存在するらしい。

それが、上層部数人が姿を消したということ。阿奈波さんの鎮守府に目をかけていた上層部だけでなく、無関係な人間まで含めた数人。全員鎮守府運営をしている人ではなく、姿を消したところで艦娘が路頭に迷うようなことが無かったため、表沙汰になりづらかった。最近姿を見ないな程度で終わってしまっている。

まだ裏切り者はいるのだろう。少なくとも阿奈波さんの鎮守府に関わっている上層部は内通者と見て間違いない。そうでなければ、今回の元帥閣下の襲撃は起こり得ないからだ。

 

そう言った方面から、上層部を真っ二つに分断する作戦が実行されている。裏切り者を炙り出しつつ、こちらの後ろ盾を得ていく。今回の戦いが表沙汰には絶対に出来ないようなことなのは誰だって理解している。あくまでも秘密裏に進めていた。

私、朝潮はそのような少し黒いやりとりにはまったく関わることなく、マイペースに心穏やかに日常を過ごすことになる。事実、元帥閣下達が行なっているこの作戦は、鎮守府でも数限られた者にしか伝わっていない。私に知らされているのは、突然の情報で急遽心のバランスを崩してしまわないようにである。前以て知っておけば、ある程度は対処できるからだ。

 

「こんな重いことを背負わせてしまうようで、本当に申し訳ない」

「いえ、これも私の身体のせいでもあるので。そもそもいつも情報共有は早い方でしたし、今回も変わらないかと」

 

私がこの身体になる前から、索敵の予測のために前以てあらゆる情報を先んじて貰っていたのだから、軽かろうが重かろうがここまで来ると私には関係無かった。極秘事項なら誰にも話さないだけ。公開されるまでは内に秘めておくだけである。アサにもしっかり口止めしておいた。

 

「朝潮ちゃんは強い子じゃのぉ」

「いえいえ、一番弱いですよ。ほんの少しのキッカケで心を崩してしまいますから。今の戦場には出られませんしね」

「謙遜出来るというのは強いことじゃ。うちの上層部の愚か者共に、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいじゃよ」

 

上層部の人間というのは話にしか聞いていないが、少なくとも気が合うような人は少ないだろうと思う。春風のトラウマのキッカケなのを知っているが故に、最初から敵視してしまっている。

 

「なるべく早く事は済ませるが、それまでは内密にお願いするよ。事態が進まなくても、我々が極秘に調査しているということにしてくれればいい」

「了解しました。慎重に事を運んでいるということで」

 

私達には何事もないように済ませようとしてくれている。その好意に今は甘えさせてもらおう。

 

 

 

翌日。最悪な状況というのは前兆無しにやってくるものである。

朝食を終えて各々が訓練や哨戒の準備に勤しむ中、私達深海組に異変が起きる。強烈な吐き気と身体が重く感じるほどの倦怠感。それと同時に、深海の気配と、何もかもが混在した不快な匂いを感じた。

 

「これ、また……!」

 

耐え難い吐き気をなんとか飲み込む。前回よりも酷い。よりによって食べた後というのがより酷い。少し歩くだけで吐き気がぶり返し、どうにかトイレで吐く。

 

『大丈夫か朝潮!』

「気配は……東ね……」

『無理をするんじゃない!』

 

アサからの忠告もあるが、フラつきながら工廠へ。戦艦天姫が初めて襲来したとき以上に酷い有様だった。特に酷かったのはレキとシンさん。遊びにでも行こうとしたのか、海上でこの気配と匂いを喰らったせいで泡を吹いて倒れている。吐く以上の深刻な状態だ。一緒にいたクウも立ち上がれないでいる。

 

「朝潮様、肩をお貸しします。吐くときは仰ってください」

 

瑞穂さんがすぐさま私の支えになってくれる。前回の空母鳳姫との戦いの時もそうだが、気配はわかれど深海艤装を使っていないことが功を奏している。

 

「レキと……シンさんを……」

「かしこまりました。朝潮様も無理をなさらず」

 

すぐに海に浮かぶ2人を工廠に引き上げてくれた。こうなることを予測してから艤装を装備していた辺り、さすがである。

 

「電探に反応……2人……」

()()()の奴らがか!?』

「ええ……でも片方は……空母鳳姫じゃない……」

 

また込み上げてきて、海に吐く。喉が痛い。身体が軋む。高熱を出して倒れた時よりも症状としては酷い。

現れた反応は2つ。片方は一度見たことのある戦艦天姫の反応。だが、もう一つは初めてのもの。しかしこの匂いを撒き散らしているということは、この反応の人物も人間を素材に建造されたもの。

私達にもあるように、あちらにも相互作用があるようだった。2人重なったせいで、被害が今まで以上に酷い。

 

「朝潮……大丈夫……?」

「アンタ、フラフラじゃない! なんでここまで来たのよ!」

 

工廠に扶桑姉妹が駆け込んでくる。扶桑姉様は深刻なダメージを受けているが、まだ私よりはマシと言った雰囲気。半深海棲艦の方が、深海棲艦よりダメージは少ないのかもしれない。それでもかなり辛そう。

 

「鎮守府は阿鼻叫喚よ。霞が動けなくなったわ。春風は吐きっぱなしでトイレから出られないみたい。初霜はまだ姿を見てないけど」

「逆方向の外です……動いていないので……同じ状況かと……」

 

あとは島風さんも近しい場所でピクリとも動いていない。身体としては私と同じなので、被害が甚大。

 

「戦艦天姫と……謎の()()()が来ます……」

「2人!? ったく、すぐに私は艤装を装備する!」

 

山城姉様が大急ぎで工廠の奥へ。扶桑姉様は念のため私の隣にいてくれた。

訓練や哨戒の準備中だったおかげで艤装装備の艦娘はそれなりに多く、迎撃戦はまだやれそうな雰囲気。まだ誰も海に出ていなかったのは運がいいのか悪いのか。

しかし、戦艦天姫1人でも手に余るのに、謎のもう1人がいる。そもそも何のためにここに来たのかがわからない。

 

「あ、ここから入れるみたいですよ」

「見ればわかるわ。工廠の造りはうちと近いじゃない」

 

戦艦天姫が出入り口の端からヌルリと姿を現した。その後ろから現れたのは、戦艦天姫を若干縮めたような深海棲艦。服装も近いが、和傘は持っていない。反応的には軽巡洋艦なのだが、やはり未知数。

フラフラな私の姿を見た瞬間、満面の笑みでこちらに小さく手を振ってくる。とてもイラついた。

 

「あいつ……矢矧か」

 

艤装を装備した天龍さんがボソリと呟く。

最新鋭の軽巡洋艦、阿賀野型の3番艦、矢矧。第二水雷戦隊の最後の旗艦として活躍をしたという神通さんの後輩。

 

「いましたいました。朝棲姫ちゃんはやっぱりわかりやすいですね」

「ホントにね。甘ったるい匂いがプンプンするわ」

「いいじゃないですか。甘いもの、アマツ大好きですよ」

 

敵の陣地で世間話を始めるような輩だが、そのおかげで瑞穂さんがレキとシンさんの引き上げを完了させた。より酷い目に遭わずに済みそうではある。

 

「近いうちに来るって言いましたからね。来ちゃいました。今日はお友達も一緒です」

「友達っていうか、仲間ね。どちらかといえば護衛。アマツは放っておくと何しでかすかわからないし」

「酷いですよミサキちゃん、アマツもそれくらい我慢します」

 

ミサキと呼ばれた深海棲艦が、戦艦天姫の前に立つ。深海忌雷の寄生箇所は左腿。今は艤装を出していないが、何をしてくるかはわからない。フラフラだが要警戒。

 

「ミサキちゃん、お母様がこの人達には自己紹介って言ってました」

「はいはい。私は軽巡岬姫(ケイジュンミサキヒメ)。覚えておかなくてもいいわ」

 

随分とさっぱりした性格の様子。戦艦天姫が素体を妙に崩されてるのに対し、軽巡岬姫は素の性格そのままらしい。そこは空母鳳姫と似たようなものか。むしろ戦艦天姫だけ壊れすぎている。

 

「何をしに来たのかね」

 

少し遅れて司令官と元帥閣下も工廠に。危ないから下がっていてもらいたいところだが、ここまで来たらもう意味はないか。護衛艦娘の4人も艤装を装備して元帥閣下の周りを警備。緊急時は身体を張らなくてはいけない。

 

「朝棲姫ちゃん……うー、長いからアサちゃんにしましょう。アサちゃんの心を壊す方法を考えたんですよ。アマツ、閃いちゃいました」

「……何をしようと?」

「まずアサちゃんを捕まえます」

 

軽巡岬姫が即座に動き出す。同時に天龍さんと瑞穂さんが間に割って入った。まだ艤装は出していないが、その動きはやたら早い。

他の皆も動こうとはしたものの、工廠内というのが躊躇わせた。主砲も魚雷も艦載機も、この中でまともに使えば大損害だ。結果、白兵戦組しか動けない。

 

旧式(ボロ船)と半端者に私が止められるとでも?」

「おう、何してくるか知らねぇけど、止めてやるよ」

 

ここで初めて艤装展開。一般的な阿賀野型軽巡洋艦の艤装らしいが、出力が数倍に跳ね上がった姫仕様。それだけなら深海艦娘の深海艤装も似たようなものだが、深海忌雷が寄生した左脚だけゴテゴテしく変化していた。

工廠内での戦闘のため、どうにかして外に出したいところ。そのため、天龍さんも突っ込む形で迎え撃つ。あちらは平気で主砲を撃ってくるが、それをうまく弾き飛ばし、工廠に被害がないようにしてくれた。

 

「へぇ、老兵(ロートル)のくせに、なかなかやるじゃない」

「鍛え方が違うんだよ新兵(ルーキー)

 

その動きは目で追えないほどのスピードになりつつあった。誰も割り込むことが出来ず、天龍さんに任せるしかなくなってしまう。

 

「うーん、ミサキちゃん遊んでないでください。アサちゃんを捕まえるんですよ」

「少しくらい楽しんでもいいでしょう。骨のある相手なんてそうそういないんだから」

 

主砲に追加し、特殊な艤装に包まれた左脚での攻撃が始まった。よく見ればカタパルト状になっており、あそこから何かを出してきてもおかしくない。駆逐艦が艦載機を飛ばすような改造をするほどなのだから、軽巡洋艦がやらないようなことをやっても驚くことは無いだろう。

天龍さんもそこを大きく警戒し、左脚からの攻撃は弾くのではなく避けるようにしている。

 

「っふふ、楽しいわ。老兵(ロートル)と蔑んで悪かったわね。貴女は認めてあげる」

「そいつはどうも」

 

突如動きが変化。機関部艤装に接続された主砲がオートで動いている。ああ見えて自立型艤装か、もしくは遠隔操作か。どちらにしろ、軽巡岬姫の両手が空いた。

 

「貴女、刀しか使えないのね。惜しいわ」

「惜しかねぇよ。これがオレだ」

「手数は多い方がいいに決まってるじゃない」

 

空いた手で掴みかかってきた。これは捕まったらまずいタイプの攻撃。そこに主砲と蹴り、さらには軽く間合いを取ってからの魚雷まで追加された。魚雷に関しては、避ければ工廠内で爆発してしまう。放たれた瞬間に斬り捨て、爆破の瞬間に回避。

 

「クッソが! 危なっかしいもんはこん中で使うんじゃねぇ!」

「誰に指図してるのかしら」

 

魚雷を斬り捨てたタイミングを見計らって左肩を掴んだ。

 

「捕まえた。殺すのが惜しいわね。貴女、私の第二水雷戦隊に入らない? 姫様に頼めば、いい感じの深海棲艦に改造してもらえるわ」

「クソ喰らえだ」

 

刹那、天龍さんの後ろに目を光らせた龍田さんが薙刀を振りかぶって跳んできていた。流石の軽巡岬姫も危険と判断したか天龍さんを突き飛ばして間合いを取る。

 

「天龍ちゃん、加勢するわ〜」

「おう、悪ぃな。やっぱ()()()は強ぇ」

 

気を取り直して向き合った。2人揃えばより爆発力を得る天龍型姉妹だ。あちらが本気で無いにしろ、今より戦えるようにはなるはず。

 

「もう、遊んでるからそうなるんですよ」

「貴女もジッと見てないでやることやりなさい。こっちはこっちで楽しいんだから、もっと遊ばせてちょうだい」

「アサちゃんの心を壊すのが先決ですよ。じゃあアマツだけでやりますから遊んでてください」

 

戦艦天姫が改めてこちらを向く。今までだって1人でやる余裕はあったのにやってこなかった辺り、本当にお遊びのつもりで来ている。こちらは決死だというのに。

 

「改めまして、まずアサちゃんを捕まえます」

 

まっすぐこちらに向かってくる。こちらは未だに2人の相互作用により体調は戻らず、まだ頻繁に吐いている状態。昨日ぶりに胃の中が空っぽにされた。動くこともままならない。扶桑姉様も足が覚束ない。体調不良を撒き散らすのは正直狡いと思う。

 

「お引き取りください」

「ごめんなさい。お母様のお願いなので」

 

軽く払ったように見えたが、それだけで瑞穂さんが吹き飛ばされ、入り口付近の壁に激突。

 

「あ、でも上に上がると加藤提督に攻撃されちゃうんでしたっけ。なら、さっと奪ってさっと海の上に行けばいいですね。アサちゃん、ちょっと来てください」

「させるわけないでしょうがぁ!」

 

艤装を装備した山城姉様が飛び込んできた。私が掴まれる寸前に間に割って入り、強引に私から引き離してくれる。

 

「もう! みんな邪魔ばっかり!」

「何しようかなんて大概想像がつくのよ! どうせ朝潮の目の前で鎮守府を破壊して皆が死ぬところを見せつけるとかでしょうが!」

「なんでわかるんですか! エスパーですか!?」

 

子供のように怒る戦艦天姫。

 

「まぁいいです。アサちゃんの身体を壊さないように全部壊すのが難しいから捕まえたかっただけですし。アマツが今から1人ずつ、アサちゃんの目の前で殺していきますから」

「簡単に……」

 

山城姉様が左手にキス。相手がなんであろうと関係なしに全力を叩き込むルーティン。

 

「やらせるわけないでしょうがぁ!」

 

からの、全力の拳。寸止めなんてするわけなく、振り抜けるつもりで殴りつけた。あの武蔵さんですら一撃で轟沈判定になった攻撃だ。一撃で持っていけないにしろ、多少なりアクションがあると、私は思っていた。が、

 

「やられるんですよ。簡単に」

 

片手で受け止めてしまった。衝撃など何も無いかのように、握り拳を逆に握り潰す。

 

「っぐぅっ!?」

「えっと、山城さん。アサちゃんのお姉さんみたいな人なんでしたっけ。なら、一番最初に死んじゃいましょう!」

 

その瞬間だけは、周りの音が何も聞こえなくなった。

 

 

 

山城姉様の腹を、戦艦天姫の腕が貫いていた。

 

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