欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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変化の影響

霞のおかげでゆっくりと眠ることができた私、朝潮。いつも霞が感じている温もりはこれなのだろうと実感しつつ、今はまだ罪悪感の払拭が出来ていない霞には必要なものなのだろうと理解出来た。こういう経験もしておいて損はないかもしれない。前言撤回。しなくていいのならしない方がいい。

 

「朝潮様、お目覚めでしょうか」

「はい、起きてますよ」

 

部屋の外から瑞穂さんの声。私が起きたタイミングを見計らってやってくるので、総員起こしよりも前に目覚め、それを聞いた後に部屋の前という状態だろう。相変わらずの献身に頭が上がらない。

 

「お召し物をお持ちいたしました。昨日の戦艦水鬼のもの以外のものもご用意させていただきましたので、お好きなものをお召しくださいませ」

 

いつものように三方に載った服。今回は数が多く、持ってくるのも少し大変そうだった。見た感じでわかるのは、いつもの朝潮型制服、海峡夜棲姫の着物、元々のアサの服、そして昨日も着た戦艦水鬼の服の4着。

ひとまず普段来ている朝潮型の制服を着てみるが、このスタイルになったことで前以上に似合わない気がして仕方ない。駆逐艦という艦種を捨てさせられたのと同時に、朝潮型であることすら捨てさせられた気がしてしまった。

 

「……これ、やめた方がいい気がする」

「朝潮型の私が言うのも何だけど……この制服、大人が普段着るものじゃないわ」

 

龍驤さんが以前例えた『いいとこの中学校』の制服は、今の私には酷く不恰好。残念ながら記念品として持っておくことに。

全部着てみて、一番しっくり来るのはやはり戦艦水鬼のもの。次点が海峡夜棲姫のもの。元々のアサの服も、アサ自体が『これは無いな』と諦めた。胸の辺りが大変なことになっていたためである。

朝潮らしさが何処かに欲しいのだが、残ったのは改二丁に改装されて以来いつも穿いていた黒のストッキングだけ。艤装もかけ離れてしまっているため、前以上に初見で朝潮とわかる人はいなくなってしまった。それは普通に悲しい。

 

「せめて一番最初に戻りたいわ……アサと出会った直後くらいに」

『そうだな……だが、私としてはこの服もそれなりに動きやすくて嫌いじゃないな。戦艦水鬼のものだったか』

 

最終的に、昨日も着ていた戦艦水鬼の服に収まった。まさに白兵戦のためと言わんばかりにスカート丈が短くされている。それに関してはアサも喜んでいた。

 

「朝潮型の制服、コスプレ臭凄いものね。でも、こっちはこっちで、胸の谷間が……」

 

平気で胸の素肌側を触ってくる霞。触り方が佐久間さんのようになりつつあるので注意した方がいいかもしれない。あと、私がこの服を着ている間、ずっとハートマークが浮かびっぱなしになるので、一緒に行動するのが少し怖い。

 

 

 

一晩経ち気持ちも落ち着いた私は、変化した艤装の調査に入ることとなった。確認してくれるのは明石さんとセキさん。それを見守るのは霞と清霜さん。

清霜さんは駆逐艦である私が戦艦になってしまったことをそれはもう羨ましがっていた。清霜さんの目標を体現してしまったのが私だ。近くにいても遠くにいてもジッとこちらを見てくる。

 

「いいなぁ……戦艦になれるなんて……」

「清霜、姉さんは好きでああなったわけじゃないの」

「わかってるって。でも、羨ましいなーって思うくらいはいいでしょ」

 

霞と清霜さんは艦の時代から関係があるらしく、それなりに仲がいい。霞のお節介の対象にもなっている。

今の清霜さんは少しだけ危うかった。駆逐艦が戦艦になれる方法が深海棲艦化であると見出してしまった場合、下手をしたら自分の意思であちら側に行ってしまいかねない。夢を取るか、仲間を取るかの天秤である。

とはいえ、清霜さんが仲間を見切るほどのことをする人ではないことくらい、皆わかっている。名誉大和型として、ここに来てさらに洗練されていた。大和さんと武蔵さんに鍛え上げられ、心も強くなっている。

 

「いいなー、いいなー、あたしも戦艦の身体と戦艦のおっぱい欲しいなー」

「私は安定した身体が欲しいです」

「姉さん、その発言は闇が深いからNG」

 

さて、ここからは艤装の確認。以前と同じように艤装を展開すると、腕と脚が包まれ、背中に上半身だけの自立型艤装が出現する。

 

『朝潮、これ私が完全に操作できるぞ』

「あ、やっぱり。ならこれからは、2人で戦えるのね」

 

私の意思に関係なしに自立型艤装は動く。暴走中にも理解はしていたが、改めてやってみるとなかなか凄いことに。これはウォースパイトさんや島風さんもこうなのだろうか。

意思のある自立型艤装というのは稀なものではあるが、その意思と会話できるというのは便利だろう。

 

『私が表に出ているときはどうなるんだろうか』

「やってみようか?」

『そうだな』

 

アサと入れ替わり、私が思考の海へ。

 

「おお……やっぱりいいなこの艤装。動きやすいぞ」

『裏側にいるのに身体が動かせるって何だか変な感覚ね』

 

入れ替わると私が自立型艤装の核として行動することになる。腕が動かせるだけでなく、艤装自体をある程度移動させることができた。とはいえ動けるのは身体を中心に上下左右に少しだけ。身体の真横まで行けない程度。後ろを向くこともできないため、こちら側を防御に使うのなら便利かなという程度。

もう一度入れ替わり、改めて私が表に。アサがガチャガチャ腕を動かす。今のこの状態を一番楽しんでいるのはアサかもしれない。

 

「艤装としては凡そ戦艦棲姫のようなものだ。ここで言えば、ウォースパイトのフィフに近い」

「とはいえ少し浮いてるの凄いよね。こういう艤装の深海棲艦っているの?」

「いないことはない。本体が浮いている奴もいるからな」

 

私が自由に動くのを見て、工作艦組がいろいろ調査してくれている。

少し浮いているというのがキモらしく、そのおかげか急な動作をしても身体側に負担がかかりづらいようだ。ただし、身体と艤装を繋いでいるケーブルが、今までにない弱点となってしまっている。私はもう本体側でも行動が出来るし、未だ艦載機も持ったままなため、戦艦棲姫のように戦闘不能になることはないが、それでも充分に気をつけなければ。

 

「カッコイイ! 朝潮ちゃんやっぱりその艤装すごくカッコイイよ!」

「ありがとうございます。異形感はありますけど、そう言ってもらえると嬉しいですね」

『本当にな』

 

アサの発言に呼応して、艤装側が親指を立てる。そういう意味では、裏側にいても他の人と意思疎通が出来るようになったのはかなり大きい事かもしれない。

 

『いえーい、ぴーすぴーす』

 

艤装がガチャガチャ動いてはVサインを出したりとやりたい放題。思考の海の中からでも自由に動かせるというのを知り、言葉は出せないが感情を表現していた。頑張れば手話なんてことも出来るかも。

 

「それ動かしてるの、もしかしてアサちゃん?」

「はい。裏側にいる方がこっちの艤装を動かすことになります。表側でも戦闘が出来るし、今の私は2人がかりみたいなものですね」

「姉さんも大概インチキよね……」

 

戦闘の手段も今までと変わらず。艤装自体が動くようになったため、以前よりもリーチが伸びた感じ。進化させられたことで生じるデメリットは、ケーブルという弱点が増えたことくらいだった。

 

戦闘訓練はまた別のタイミングでということに。暴走状態だったとはいえ一度戦闘を経験している分、その辺りは心配していない。操作性は前と同じだし、戦闘方法も大して変更が無いからだ。

 

 

 

艤装の調査をある程度終え、清霜さんは自分の訓練へ。大和型姉妹がいる今、清霜さんは大戦艦直々の教えを受け続けている。自他共に認める名誉大和型として、この鎮守府の最強クラスの力を遺憾なく発揮してくれるだろう。

 

私はというと、さらなる心の休息が急務のため、雪さんと島風さんに取り囲まれることになった。領海に行くことも考えたが、それは後日ということで。少なくとも扶桑姉様と山城姉様が目を覚ますまでは鎮守府にいたい。

 

「……姉さんそれすごく見た目が悪い」

「出来れば言わないで」

 

ソファに座り、両サイドから雪さんと島風さんが抱きついているため、女を侍らせる女帝という構図が完成されてしまっている。今もまだ戦艦水鬼の服のため、拍車がかかっている。

霞経由で私の心に大きなダメージを受けていることが伝えられたのだろう、春風と初霜も私の下に駆けつけていた。霞達が負った心の傷に近いものを私も負ってしまったのは自分でも理解できる。今は1人で眠るのが怖い。

 

「やっぱり朝潮の匂いが一番いいよー。なんか匂い強くなったもんね」

 

横から胸に顔を押し付けてくる島風さん。以前よりボリュームが増してしまったため、それをより堪能するために顔面で私の肉感を堪能しようとしている。雪さんも似たような状態。少しくすぐったい。

 

「あんな気持ち悪い臭いの後だから、朝潮の匂いがホント癒しだよー。落ち着くなぁ」

「あちらにも相乗効果があるみたいで、私も何度も吐きました。あ、雪さんは大丈夫でしたか? レキやシンさんが大変なことになっていましたけど」

 

深海ちびっこ組に属する雪さんは、あの時現場にいなかった。電探で位置を確認する余裕が無くなってしまい、そのまま暴走してしまったため、どうなっていたかはわからずじまい。

 

「実はね、あれ回避できてたの。だから、あの時は倒れてたみんなを介抱してたんだ」

 

艤装を外せば、あの地獄のような体調不良からは回避できるということ。つまり、艤装への負荷がダイレクトに身体に伝わっていたということだ。臭いは後付けみたいなもの。

ということは、敵に接近されただけで機能不全を起こす深海艤装に関しては、艤装側に何かしてもらわないといけないのかもしれない。雪さんが身体を張ってくれたおかげで、また1つ謎が解けた。

 

「戦えない代わりに、みんなのサポートができるのは嬉しいね。もう少しの間は艤装を下ろしておくよ」

「その方がいいでしょう。いざという時は私達が守りますから」

「うん、ありがとう」

 

2人が近くにいてくれるととても落ち着く。今まで以上にそれを感じられるように思えた。これも身体の変化の影響だろうか。以前より匂いを強く感じられる。

 

「姉さん、無理しちゃダメよ。その2人が必要になるようなことばかりしないように」

「ええ。そもそも私は今、戦力外通告を受けてるんだから。敵鎮守府絡みのことは、皆に託してここで待つわ。深海艦娘と一緒に訓練担当でもしようかしら」

「なら練習巡洋艦ね。いいんじゃないかしら」

「駆逐艦なんだけど」

「戦艦ですよね」

 

アサは不服かもと思ったが、穏やかに暮らしたいと思っているのはアサも同じ。何もしないなら何もしない方がいいという考え方だ。日がな一日ボーッと海を眺めて過ごすことを理想とまでいうのだから、何も問題はないだろう。

だが、私もアサも、この手でやりたいという気持ちはある。こんな身体にされた恨みはあるのだ。だから、私達の思いは、出撃する仲間に託したい。

 

「朝潮様、お召し物をお持ちしました」

「え、頼んでないんですけど」

「練習巡洋艦の制服になります。戦艦水鬼のものより今の朝潮様には必要かと思いました」

 

手際が良すぎる。今持ってこれるということは、朝の段階で既にあったのだと思う。なら朝に持ってきてもいいのに。しっかり黒塗りな辺り、深海らしさを出そうと手間もかけられている。

 

「……着替えてきます。戦艦水鬼でいるよりはまだ鎮守府に馴染むでしょう」

 

霞達3人からの期待の視線が痛かった。雪さんや島風さんすらこれを着ることを望んでいるように見えた。深海棲艦が当たり前のようにいる鎮守府とはいえ、戦艦水鬼にはあまりいい思い出がない。こちらの方がいいだろう。

 

というわけでさらりと着替えてきた。制服というがこれは儀礼用の軍服。露出度は極端に低く、ネクタイやらタイトスカートやら初めて身に付けるものばかりであった。やはり朝潮として残ったのは黒のストッキングのみ。身が引き締まるような感覚だ。

 

「よくお似合いです朝潮様。一段とお美しくなり、瑞穂、感動しております。駆逐艦をやめさせられ、戦艦になってしまわれたこと、さぞや悔しい思いをされたことでしょう。ですが朝潮様はそれにも挫けず、新たな道を見出しました。先んじてこの衣装を用意させていただいたことは申し訳ありません。ですが、この道を選ぶのではないかと思っていたのです。朝潮型の制服の件、残念に思います。ですが、新たな道を進むにあたり、装いも新たに歩き出すのもよろしいかと思います。もしよろしければ瑞穂のお洋服も……い、いえ、申し訳ありません。瑞穂の欲が、欲が溢れてしまいました。忘れていただけるとありがたいです」

 

最後の方はまた機会があればやるとして、この服は私としては全然アリ。

 

『カッチリしすぎじゃないか? 深海棲艦らしくもない』

「いや、そもそも私は」

『私より深海らしくなった奴がよく言う』

 

アサは動きづらいから戦艦水鬼の方がいいと言うが、私主体の時はこちらを着ることにしよう。むしろ気に入ったまである。

 

「真面目な先生みたいだね。練習巡洋艦!って感じ」

「おうっ! 朝潮似合ってるよー」

 

また定位置について2人に抱き付かれる。軍服のおかげで気は引き締まっているものの、穏やかな心は維持できている。抱きつく感触が今まで違うようではあるが、概ね好評。

 

「……春風、初霜、どう思う」

「似合いすぎてて怖いです。御姉様に軍服は盲点でした」

「露出度が低いのに煽情的だなんて……」

「私も概ね同じ感想ね……姉さんの新しい魅力を発見してしまったわ」

 

3人は絶賛暴走中。あまり触れたくないところ。

 

「あれ、そういえば朝潮さん、ネクタイの結び方知ってたんですね」

「いや、その……実はたまたま通りかかった天龍さんにお願いしたの。でも、自分で結ぶのはまだ慣れなそうね。リボンにしようかしら」

 

ここで目が輝く初霜。深海の右目は閃光を放つほどに。

 

「朝潮さん、明日からは私が結んであげます。私も今でこそノーネクタイですが、改二になる前はネクタイしてましたから」

「あ、そうね。じゃあお願いしようかしら。アサが主体の時は戦艦水鬼の服を着るから、私が主体の時にね」

 

初霜ガッツポーズ。霞と春風はリードされたと膝から崩れ落ちる。私としては自分の苦手なことをやってもらえるのはありがたいが、なるべくなら自分でも出来るようになりたい。だが、こうも爛々とした目で見られたら断りきれない。

 

「朝に旦那のネクタイを結ぶ嫁……理想の姿です」

「そ、そう……」

 

緩んだ顔の初霜。喜んでもらえているのならいいだろう。初霜も深い心の傷を持ってしまっているため、ケアは必要だ。私のネクタイを締めるだけでケア出来るのなら何も問題ない。

 

この後、私の時はこの服で行くと司令官に伝えたところ、是非ともと返答が来た。戦艦水鬼の姿はどうしても慣れないらしく、露出度やら何やらの問題から一番適していると言われ、より気にいることとなる。

 




戦艦の身体の駆逐艦が練習巡洋艦の服というとっ散らかった状態。ちなみに制服(軍服)は香取の方です。
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