欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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因縁の姉妹

情報提供をしてもらうために鎮守府に来てもらうことになった志摩司令官が敵の襲撃に遭った。襲撃をしたのは混ぜ物の1人、駆逐陽姫。奇跡の駆逐艦雪風と、最悪のイロハ級戦艦レ級を掛け合わされた難敵である。外見が雪風さんであるため、その妹である時津風さんと萩風さんが筆頭となり、ここでの撃破を目指して戦闘を開始する。

私、朝潮は未だに艤装不調。佐久間さんに渡された薬のおかげで体調不良は払拭出来ているものの戦闘には参加出来ないため、戦闘は皆に任せて『種子』の治療で消耗した村雨さんの側にいることにした。

 

「朝潮、艤装動かへんのよな」

「はい、まともには動きません。自衛もままならないかと」

 

艤装は展開するものの、アサもうまく動かせないようだ。動かないとなると、他を守るどころか自分も守れない。電探による指示は出来るものの、体調不良がいつぶり返してくるかもわからない。私の仕事はここまで。いざという時はどうにかして艤装を動かし、村雨さん達を守ることになる。

 

「龍驤さん、艦載機の位置だけ伝えます」

「おう、任せたで。無理はすんなや」

 

状況を把握するために、電探をフル活用。今一番守らなくてはいけない志摩司令官は、私達の乗る大発動艇の後ろにいるためまだ安全。

 

「志摩司令官、先にここから離れてください」

「私ゃここで見届けてやるさ。少なくとも、陽炎達があんなザマじゃあ気分良くそっちの鎮守府に行けやしないね」

 

おそらく何を言ってもここで見続けるだろう。ならもう私達が守るしかない。出来ることなら離れてもらいたいが、この人はこうやって部下の士気を上げている人だ。

 

「危険だと思ったら引きずってでも撤退します」

「好きにしな。私はここで全部見る」

 

その志摩司令官が心配する陽炎さん達は、鬼怒さんの指示の下、強引に戦場から離されていた。まともな精神状態でない仲間は、ここにいても足手纏いにしかならない。それは私も同じだ。冷静に判断できても、戦力としては最下級。私達の身の安全は響さんに全て任せる。

 

「そっちの目的はなんなのさ、雪風」

「志摩しれぇを殺すことだよ時津風。余計なこと話されたくないって、()()から言われてるの」

 

駆逐陽姫も北端上陸姫のことを母親だと思い込まされているようだ。あの時の嫌悪感を思い出してしまう。あの時、那珂ちゃんさんが間に合わなかったら、私もあんな風に振る舞っていたのかもしれない。体調不良は無いが吐き気がしそうだ。

目的が志摩司令官の殺害なら、むしろここから離れない方がいいかもしれない。守りやすくなる。急に離れられても戦場が無茶苦茶になるだけだ。それに、あの言い方からして、志摩司令官はこちらの知りたいことを知っていそうだ。必ず守らなくてはいけない。

 

「でも、アサちゃんいるし、ここにいるみんなを殺せば、もっと褒められます。だから、死んでね?」

「誰が死ぬかっつーの」

 

とはいえ、レ級の艤装ということは、何もかもがやれる万能戦力だろう。両手に持つ軽巡主砲もあるため、手数がやたら多い。早速レ級艤装が天を向き、口から艦載機が吐き出される。

 

「龍驤さん」

「おうよ。制空権は心配すんな! トキツ、かましたれぇ!」

「りょーかい! 馬鹿な姉貴はあたしがぶっ潰してやる!」

 

大量の艦載機は龍驤さんが食い止めてくれる。一番的確な場所は私が電探を使い指示し続ける。空からの攻撃は考えないでいい。

 

「榛名姉ちゃん、きよしー、お願いね。まずあの艤装をぶっ壊す」

「了解。榛名、フェイズ2」

 

榛名さんはAGPを起動。接近戦の様相。清霜さんは萩風さんを隣に置く。

 

「萩風ちゃん、合わせて!」

「了解! 一斉射だね!」

「行くぞぉ! 一斉射! てぇーっ!」

 

長門さん直伝の胸熱アタック、一斉射を皮切りに開戦。あちらは1人に対し、こちらは6人がかり。それも、制空権を龍驤さんが均衡に持っていけること前提である。

一斉射で集中砲火を浴びせかけても、それに対しレ級艤装の砲撃をぶつけつつの回避で無傷で終わらせてくる。清霜さんは当然最高火力の51cm連装砲装備だ。それを含めた一斉射にも臆さないその火力、あまりにもいい加減。

 

「邪魔しないでくださいね。どうせみんな死にますけど」

「死にませんよ」

 

一斉射に紛れて榛名さんが至近距離へ。低速の欠陥(バグ)を帳消しにするために、相手の死角をついて移動していた。

欠陥(バグ)と向き合い、確実に敵を倒す方法を皆が取り入れているが、榛名さんが考えたのがコレ。仲間の攻撃に視線を誘導し、隙を突く。戦艦からは少し離れた戦術ではあるが、接近戦もそれを活かすための手段。

 

「榛名パンチです!」

「させませんよ。こんな至近距離で」

 

レ級艤装が榛名さんのアームを払い退ける。レキとの度重なる訓練で戦艦レ級の戦い方は皆身にしみているはずなのだが、そこに雪風さんの直感が加わっているせいでタチの悪いものに変化している。今の回避も、榛名さんが攻撃する前に動いていた。

回避と同時に榛名さんに腕の軽巡主砲で砲撃するが、もう片方のアームでガード。その砲撃も異常な火力なのだが、元がシールド状の艤装のため、それを受けてもまだ少し傷がつくだけで済んでいる。

 

「白露、脚を狙おう」

「あいよ、響は?」

「先生と龍驤さんを守りながらの戦いは結構キツイ。なるべく状況を見て動く」

 

火力最小である響さんと白露さんはまず足止めを狙う。榛名さんが至近距離にいるため攻撃しづらいが、そこは白露さんの精密射撃が火を噴く。ちょっとした隙間からでもしっかり狙っていく。

 

「むー、邪魔ばかりしますね。もっとばら撒きますか」

 

レ級艤装を思い切り振り回して榛名さんから強引に間合いを取った後、白露さんの砲撃も軽巡主砲の砲撃により弾いた。

精密射撃の弱点は防御という行動が取れる相手に不利なところである。避けられないのなら防げばいい。もっと不意打ちでなければ、当たるものも当たらない。

 

「それじゃあ、悪足掻きしてくださいね」

 

もう一度レ級艤装を振り回すと、周囲に尋常ではない量の魚雷がばら撒かれていた。鎖を繋げられて洗脳された霞の時以上の無差別攻撃。密度もあり、回避がしづらい。さらには本当に無差別なせいで、回避すると大発動艇の方にも流れてくる場所。

 

「白露」

「わかってるよ。全部撃ち抜いちゃる!」

 

精密射撃を魚雷処理に使い、回避せずともどうにかしていく。響さんも魚雷を処理しながらそのラインに大発動艇を移動させてくれたので一安心。

しかし、その処理をしている間にもこちらを狙って攻撃してくる。合間を縫って艦載機をさらに増やし、砲撃は戦艦並で飛ばされてくるため、近付くどころか反撃すらままならない。命中精度も異常。今はまだ辛うじて回避が出来ているが、いくつか擦り傷が出来ていた。予防接種が無ければ危険な状況。

 

「清霜ちゃん、もう一度一斉射出来ますか!」

「頑張りたいけどタイミングが無いよぉ!」

 

一斉射をするためには回避せず数秒間その場に停止しなくてはいけないが、砲撃やら魚雷やらが乱射され続けているためにその余裕がない。駆逐陽姫に消耗も見えず、このままだとジリ貧に持っていかれる。

そこで時津風さんが強引な戦術へ。相手が雪風さんの外見をしているからこそ、無理な行動もしてしまう。予防接種済みのため少しくらいの『種子』は対策出来ているが、私の時のように大量に埋め込まれると成すすべがない。

 

「榛名姉ちゃん、ちょっと投げて」

「投げるって何を」

「いいから。雪風の真上」

 

駆逐水鬼と戦った時にも見せた、らしくない真剣な顔。遊びなんて何処にもない。手加減もする余裕がない。殺すつもりで行かなければ、こちらがやられる。逃すわけにも行かない。

榛名さんのアームの上に乗る時津風さん。当然そこを狙ってくるが、狙いが定まれば定まるほど、白露さんの精密射撃が光る。時津風さんを狙う主砲のみに狙いを定め、僅かに照準をズラすように撃ち抜く。主砲そのものが頑丈ではあるものの、少し照準がズレればもう当たらない。

 

「4方向から行けばどれか当たるっしょ。んじゃあ、やって!」

「もう、後からお説教ですよ! 榛名、投げます!」

 

アームを使って時津風さんを投げる。私が扶桑姉様の蹴りに乗って移動した時と同じように、猛スピードで駆逐陽姫の真上へ。砲撃が当たらぬよう、艤装を盾に。高く飛んだわけでなく、目が合うほどの至近距離。貼り付いた笑みの駆逐陽姫に、怒りに歪んだ表情を向ける。

投げると同時に榛名さんも動き出していた。さらには清霜さんと萩風さんも一斉射の準備。響さんまで接近を開始。時津風さんの特攻をキッカケに、全員が特攻を仕掛ける。

 

「雪風ぇ!」

「ヒナタだって言ってるでしょ!」

 

一番危険なのを時津風さんだと判断したのだろう。上に軽巡主砲を片方。榛名さんが近付いていることも勘付いているためにもう片方の軽巡主砲。さらには一斉射を見越してレ級艤装が清霜さんの方へ。それでも響さんがフリーに。

 

「私がフリーになるのは想定済み。一番雑魚だからね。だから、私が搦め手を使うんだ」

 

時津風さんを迎撃し、腕に一撃。榛名さんへは砲撃が効かないと踏んだのか回避をしつつの脚狙い。清霜さんと萩風さんの一斉射にはレ級艤装による砲撃をぶつけ、響さんの攻撃にはただ回避する。その流れは見えた。

が、電探訓練をして、私の教え子となった響さんには、それ以上のものも当然教えている。自分への負荷を考えないのなら、1回くらいは使えるだろう。

 

「ここだよ。君の隙間」

 

行動予測。ほんの一瞬先を見る『未来予知』。砲撃が回避されるならと、対人で爆雷を放った。回避先まで見越し、自分以外の全員を囮にした、魚雷が使えない駆逐艦による渾身の一撃。直感さえも乗り越えて、手で払えないタイミングを作り出した。

 

「この……!」

 

両腕は使っている。レ級艤装も一斉射回避に使っている。それならと残った脚で爆雷を蹴り飛ばす。響さんはそれも当然狙っていた。

 

「白露」

「最高のタイミング!」

 

ここまでも囮。最後に白露さんが残った脚を撃ち抜こうとする。だが、

 

「ヒナタ1人に6人がかりとか恥ずかしくないんですか!」

 

レ級艤装を振り回して、強引に全てを弾き飛ばしつつ、先程と同じ量の魚雷をばら撒く。無理矢理すぎるが効果的。また白露さんと響さんが魚雷処理に追われる羽目に。やはりあの艤装をどうにかしないと止められない。艦載機も残り続けており、龍驤さんが手一杯。さらには未だに傷1つ付けられていない。それに対してこちらは時津風さんが中破。片腕が使えない。

 

「ヒナタも怒っちゃいます。時津風は特にダメ! 今すぐ死んでもらいます!」

 

一斉射が止まったところを見越してレ級艤装が時津風さんへ向く。身体は清霜さんの方へ。見ずに狙うなど、私と同じような電探が内蔵されているのだろうか。

 

「時津風ちゃん! 榛名が、守ります!」

「死んでください!」

 

レ級艤装の口が大きく開き、艤装の支えなしに大型主砲が放たれた。避ける方向まで見越された強力な火力に、消耗した時津風さんは回避が出来ない。そこにいち早く回り込んでいた榛名さんが盾になる。時津風さんと清霜さんに視線が向いていたことでまた死角をついて移動済み。

 

「耐えられると思ってるんですか!」

「榛名は大丈夫です!」

 

主砲による砲撃をそのアームで受け止めた。だがそのままだと衝撃だけでアームが破壊されてしまうほどの火力。弾くのではなく受け止めるなんて本来は無謀だが、榛名さんはあえてそれを選んだ。受け止められる自信があるからだ。

榛名さんが砲撃を受け止めた瞬間、榛名さんの真後ろで強烈な水飛沫が上がった。衝撃を脚から逃がしている。艤装の前に身体が壊れてしまいそうな技だ。

 

「余所見すんなよ」

 

その水飛沫の奥、完全に頭を狙った時津風さんの一撃。救出なんてカケラも考えていない、殺すためだけの一撃。直感で避けたようだが、視界の外からの攻撃は直感以外では避けられないようだ。

 

「もう一回! 一斉射! てぇーっ!」

「撃ちます!」

 

3度目の一斉射。清霜さんは今までオヤツの補給をしておらず、そろそろ限界に近い。

 

「ああもう! 鬱陶しいですねぇ!」

 

連続で砲撃をされ、その都度回避するためにレ級艤装をふりまわし、駆逐陽姫も頭に来たようだ。砲撃をぶつけて弾くのではなく、ついに回避を選択した。回避しながらも清霜さんに近付き、処理しようと動き出した。

他の混ぜ物と違い、身体から子供の駆逐陽姫だからこそ、執念深く攻撃し続けることで痺れを切らすのを待った。冷静さを失ってしまえばこちらのものだ。

 

「背中見せるとかさ、嘗めてんの」

 

清霜さんに向けてレ級艤装まで向けたところを見計らって、時津風さんが背後から一撃。直感で避けたようだが、またここで視線が清霜さんと時津風さんに集中した。

 

「榛名パンチ、です!」

 

そうなれば、榛名さんが間合いに入ることが出来る。艤装を捥ぎ取るように殴りつけ、追加の砲撃でついにレ級艤装を半壊させた。

 

「あ、ま、ママから貰った艤装が……」

「そんなに大事な艤装なら、そもそも出てくんな」

 

放心しているところを、トドメと言わんばかりに時津風さんが砲撃し、根元から破壊した。途端に貼り付いていた笑みが消え、涙目になる駆逐陽姫。海に浮かぶ壊れたレ級艤装を抱きしめるように拾い上げ、こちらを睨み付けてくる。

何故こちらが悪者みたいになっているのか。そうやって精神的に追い詰める作戦なのか。そうだとしたら、余程陰険である。

 

「許せない……ママから貰った艤装を壊して……許さないんだからぁ!」

 

戦術がいきなり変わった。これまで私を追い詰めるために周りの艦娘を殺すことを優先していたが、主砲が志摩司令官のみを狙うようになった。最優先の目的を達成するために動くように切り替わった。

こうなったら危険だ。撃破よりも撤退を選ぶべき。守り切ることが出来ない可能性もある。

 

「志摩司令官! 退きます!」

「こいつぁ仕方ないね。おらぁガキども! まだへこたれてんのかい! 撤退だよ!」

 

未だ気持ちに整理がつかない陽炎さん達に一喝いれ、戦場をジッと見続けていた志摩司令官も撤退を選択。この場から早々に離れることを優先した。

 

「許さないんだから……! 時津風ぇ!」

「こっちのセリフなんだよ雪風! 志摩しれぇが逃げ切るまでに決着つけてやる!」

「はいはい、ストップ」

 

駆逐陽姫の後ろからヌルリと誰かが出てきた。途端に体調不良が悪化する。薬が切れてしまったのか、吐き気が途端に激しくなり、人目憚らず思い切り海に吐いた。

2人目が出てきてしまったことで相乗効果が発生。薬でも追いつかないレベルになったのかもしれない。ただでさえ効果時間が短いと言っていたのだから、ここまで持ってくれただけでも良しとしよう。

 

「ヒナタ、一旦撤退よ」

「なんで! 志摩しれぇを殺せばいいだけです!」

「あっちが撤退を選択したの。そんな状態でどうにか出来るの? むしろやられて余計なことまで起こるわ。今回は失敗」

 

2人目も黒いコートを被った小柄の敵。駆逐艦だろうが、当然混ぜ物。何者かはやはりわからない。2人がかりで襲われたらこちらも逃げ切れるかはわからなかった。

 

「艤装を直して出直しましょ。ヒナタは私達の中でも一番の新人なんだから、もっと強くなれるわ。そうしたら改めて皆殺しにしましょ」

「うぅぅ……わかりました。今日のところはこれくらいにしておいてあげます」

 

駆逐陽姫が海に沈んでいった。2人目の黒コートも、顔を見せないがこちらを見ながら沈んでいく。最後にニヤッと笑ったように見えた。

 

最後はお情けなような気がしたが、なんとかこの戦場を対処することが出来た。志摩司令官の命は助かり、私も暴走せずに済んだ。またもや相手はほぼ無傷。ついに艤装を破壊するくらいまでは行けたが、消耗は激しい。逃してしまったため完勝とは言えないが、初めてまともに戦闘できたと言える。

戦闘が終わった途端、時津風さんは後回しにしていたデメリットのため、昏睡したかのように眠りについた。腕の傷も酷い。早く戻って治療しなくては。

 




途中で榛名がやった、受け止めながら脚で衝撃を後ろに逃がすという技、わかる人がいるかは知りませんが、万象の杖です。
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