皆さんの改二実装から数日後、霞がついに水上移動をマスター。初めての機関部艤装装備からの、お風呂での醜態まできっちりこなした。しかもよりによって深雪さんに見られた。
「屈辱だわ……あんな蕩け顔を深雪に見られるだなんて……」
霞は淡々と仕事をこなす、どちらかといえばクールなタイプの艦娘だ。私の前でこそこれだが、他人の前ではあまり笑うこともない。そんな霞のダルンダルンな姿は、深雪さんにとって最高のネタとなってしまった。
「私もああなったわ。深雪さんには見られなかったけど」
「しばらく弄られるわね……ああ面倒!」
とはいえ最初の段階は終わり、翌日から戦闘訓練、私の知らない雷撃の訓練が始まることが決まった。これもある程度こなせば哨戒任務、つまり私と一緒に戦場に出ることになる。さすがに私のように哨戒任務より先に戦闘に入ることは無いだろう。あのときは本当に緊急だったのだ。
「雷撃訓練、何をするのかしらね」
「スパルタなんでしょう? 当たるまで撃ち続けるとか?」
「対空はそんな感じね」
魚雷は海中を進み、足元を爆破する武器だ。だったら、的が水面にあってそれを狙うとかだろうか。それとも的自体が動くかもしれない。主砲訓練のように移動しながらの射撃もあるだろう。
「やってみればわかるわ。私は、攻撃できない姉さんの武器になるんだから」
「なら私はサポートできない霞をしっかりサポートしないとね」
翌日、霞の雷撃訓練が始まる。だが、雷撃できない私と皐月さんも
「集まったわね。じゃあ、皐月と朝潮は先行して訓練の海域に行ってちょうだい。そちらの担当が待ってるわ」
雷撃訓練担当、高雄型重巡洋艦1番艦、ネームシップの高雄さん。
「朝潮、なんかボクすごく嫌な予感がしてるんだけどさ」
「奇遇ですね、私もです」
先日の演習から訓練がよりハードになったのは皆気付いている。私と吹雪さんが打診したというのもあるが。
例えば対空訓練は主砲訓練と同時に行うことがある。艦載機を撃墜するのは以前から変わらないが、横槍が入るようになった。こちらは主砲の攻撃を避けながら艦載機を撃墜、あちらは艦載機を撃墜されないように動き回る対空要員を撃破。時間短縮に加え、回避行動、周囲を把握する能力も同時に鍛えられる。
「対空訓練と同じことですよね、これ。的が生身になったっていう」
「だよねぇ。ボクらが魚雷で狙われるってことでしょ」
ただでさえ攻撃できない私達。今回はただただ回避に専念しろということだろう。機関部だけを装備させられていた。皐月さんには改二になって手に入れた刀もあるが、さすがに攻撃には使わない。
「あ、来たね。回避訓練にようこそ!」
待っていたのは長良型軽巡洋艦1番艦、ネームシップの長良さん。
「やっぱり……」
「今まで無かった方がおかしいんですよ。回避訓練が」
「だよね。攻撃ばかりが戦闘じゃないって、長良思うな!」
説得力が凄い。事実、長良さんは戦闘で一度も被弾していない。ちょっとした被弾でも大破撤退なので、緊張感も数倍。
「長良の場合は撃墜の破片とかでも危ういからね。うん、回避は大事だよ!」
紙の装甲と言ってもそこまでとは思っていなかった。まさに紙。
「今回の訓練はすっごく簡単! 制限時間内を逃げ切るだけだよ」
「制限時間ってどれくらいなんですか?」
「向こうが音を上げるまで」
それは時間とは言わない。
つまりは、相手のギブアップまで逃げ切れということだ。戦闘とは違い、こちらにはまだ余裕がある。意識も回避にだけ使えばいい。それでも時間制限ほぼ無しとなると話は変わる。
「こっちはみんなで避けるよ。勿論、長良も参加します」
「じゃあ、3人のうち1人やられたらアウトってこと?」
「そういうこと! 向こうは1人ずつ来ると思うから簡単簡単♪」
簡単なわけ無いんだろうなと皐月さんと苦笑する。霞は初めての雷撃訓練だが、初霜さんは雷撃の熟練者だ。まだギリギリ改二の練度にたどり着いていないらしいが、そろそろ打診されるというのも聞いている。
「魚雷の回避方法なんだけど、好きに避ければいいよ。あ、でもジャンプして避けるのは控えた方がいいかな。緊急時だけ」
「何故ですか? 跳んでいる内に通過させてしまえば」
「着地狙われて死ぬよ」
まるで経験したかのような話し方。長良さんもここでは大先輩、魚雷で痛い目を見たこともあるのだろう。忠告には素直に従った方がいい。
こちらの準備が出来たところを見計らって、あちらから初霜さんがやってくる。霞へのお手本を見せるということだろう。
初霜さんは脇腹周辺に魚雷発射管を装備するタイプ。霞は手持ちなので少しタイプは変わってくる。
「よろしくお願いします!」
初霜さんの掛け声で回避訓練が始まる。
狙われないようにするために3人がばらけて周囲を回る。これは対潜訓練のときの潜水艦の方々と同じ。纏まっていたら避けきれない可能性がグッと増えてしまう。
「それでは、行きます!」
その場から前方への魚雷発射。最初の狙いは長良さん。勿論それは当たることなく避けられる。
魚雷は複数本を纏めて扇型に発射するため、大きく避ける必要がある。そしてこちらへの到達も主砲ほどでは無いがそれなりに速い。長良さんは急速前進。それに合わせて私達も間隔を狭めないように移動。
発射と同時に、初霜さんは後退していた。長良さんを狙いつつも、後ろの皐月さんへ接近。今のまま魚雷を撃たれたところで当たりはしない。間隔を狂わせてきている。
「おっと、そうはいかないよ!」
改二となった皐月さんは機敏さも上がったらしく、その場からすぐに離れるように下がる。だが急速に下がったため、皐月さんは長良さんに接近してしまっていた。
「皐月ちゃんもう少し離れて!」
「うぇっ、そんなに近くに!?」
機動力の増加に皐月さん自身が追いついていない。それもあってか下がりすぎている。思った以上に長良さんと近付いたせいで、魚雷の射線上に2人とも入ってしまった。
「あれっ?」
初霜さんもこうも上手くいくと思ってなかったらしい。2人を同時に狙える方向へ魚雷を複数回発射。避けられないと判断したのか、長良さんは皐月さんに一気に近づき、
「皐月ちゃん、改二になった自分のスペック、ちゃんと知っておこうね!」
「うわぁん! ごめんなさぁい!」
羽交い締めにして魚雷の盾にした。
当然魚雷は訓練用のダミーのため爆発はしない。当たったところで怪我もしない仕様だ。だが、当たったらどうなるかを私達は知らない。
申し訳ないが、私は遠目でどうなるか見せてもらおう。
「ぎゃーー!?」
魚雷が当たる直前に長良さんは離れているのでダメージ無し。皐月さんの脚部艤装に当たり、水柱が立った。本来だったらあれは火柱だ。そう思うとゾッとした。
キョトンとしている初霜さん。本来だったら翻弄するために近付き、徐々に2人の距離を狭めていく算段。皐月さんが進んでいたら私と皐月さんがターゲットだったのではなかろうか。今回は下がったから長良さんと皐月さんがターゲットになった。
「魚雷が当たるとああなるんですね」
「そうですね……こんなに呆気なくはないんですけど」
「あれは皐月さんのミスです」
ビショビショになった皐月さんが項垂れていた。いつも通りの動きをしたら行きすぎたということは、相当スペックアップしている。心強いと思うと同時に、今回の訓練がまともに出来るか不安になった。
「霞には成功例が見せられたのでいいんじゃないですかね」
次にやってくる霞を見ると、ガチガチに緊張していた。訓練とはいえ初めての戦場、初めての武器だ。気持ちはわかる。だが、そのままだとまともに戦闘もできないだろう。
「初霜さん、霞をお願いできますか。あれはさすがに緊張しすぎです」
「ええ、最初ですしね。高雄さんと緊張をほぐしておきます」
にこやかに去っていく初霜さん。あの人なら霞を任せても大丈夫だろう。
「ちょっと動き速くなりすぎじゃないかなボク」
「改二ってのはそういうものなの! 昨日しっかり慣らさなかったでしょ!」
「うぅ、ごめんなさい……」
皐月さんは長良さんにこっぴどく叱られていた。整備不良ではないが、今できることができていないのはさすがによろしくない。回避訓練を通して、皐月さんも自分のスペックを改めて見つめ直せるだろう。
「よ、よろしくお願いするわ……」
武器を構えて前に出る霞。多少は緊張がほぐれたようだが、まだ少し震えているように見える。慣れてしまえば勇猛果敢に戦ってくれるだろうが、今すぐそれをやれというのも酷というもの。
それを察した長良さん、とんでもないことを言い出した。
「霞ちゃーん、誰かに当てたら朝潮ちゃんがご褒美くれるってよー!」
「長良さん!?」
「姉さんのご褒美……ご褒美! 霞、出るわ!」
一転やる気満々になった霞。緊張が無くなるのはいいが、私を犠牲にしないでほしい。長良さんを睨むが、舌を出しておどけていた。というか、あちらが諦めるまでが訓練なのに当てたらご褒美とは如何なものか。こちらが不利過ぎやしないか。
「霞ってすっごいシスコンだよね……ここに他のお姉さんいないからわからなくもないけど」
「そうなんですかね……私にはわかりませんが」
霞はまず誰を狙えばいいか迷っているように見える。周りを回っているのだから、タイミングも取りづらいのだろう。
「いっ、行くわよ!」
気合を入れて、魚雷を放つ。初霜さんと違い、手持ちの魚雷発射管は反動もそれなり。撃った瞬間に大きく仰け反っていた。
魚雷自体は割と正確に皐月さんの方向へ。さすがに同じ失敗は繰り返さず、すぐに射線上から外に出た。それに合わせて私達も動くが、皐月さんは思った以上に速い。今度は私の方へ近付く。
「皐月さんスピード落としてもらえません?」
「も、もう少し時間貰える?」
霞がワタワタしていたから助かったものの、これが初霜さんだったらさっきと似たようなことになっていただろう。先が思いやられる。
何回か撃つことで、霞も反動に慣れてきたようだ。今度は移動しながらの発射に移行する。一番近かったのは長良さん。
「おっと、長良に目をつけちゃった?」
「やっと慣れてきたの! だから、沈みなさい!」
「長良の場合ホントに沈む可能性あるから勘弁してね」
急加速により距離を稼ぐ。それに向かって魚雷を撃ってもなかなか当たらない。
慣れてきたことで、今度は焦り始めた霞。避ける方向や距離などが見えなくなってきている。相手も今は長良さんしか見えていない。私達はすでにその場から動いていないというのに。
「朝潮、朝潮、ちょっと見てて」
「何するつもりですか?」
熱くなった霞を見かねた皐月さんは後ろからゆっくり近付く。回避訓練なのに近付くのは自殺行為だが、今の霞には皐月さんが近付いているのも見えていないようだ。その様子を見た長良さんもさりげなくオッケーを出している。
「なんで当たらないのよ!」
「そりゃあ頭が熱くなってるからだよね」
すでに真後ろまで近付いていた皐月さん。刀の鞘で霞の膝を軽く小突く。急にされたせいで霞はその場で転倒してしまった。霞自体はギブアップしていないが、これを見た高雄さんが一度訓練を中断した。
「もう少し冷静になりましょう。当てたいのはわかるけど、敵は3体。朝潮と皐月が武器を持っていたら、貴女は蜂の巣よ?」
「うぐ……」
「頭を冷やしてから、もう一度やってみましょうね」
だが、この後も霞は私達に魚雷を当てることは出来なかった。頃合いを見て初霜さんに交代し、誰かに当たったらまた高雄さんが中断するまで霞が時間を使う。これの繰り返し。
最後の方は霞も意気消沈していた。初めての訓練はそう上手くいかない。私だってそうだった。運良く1回目を当てられたが、その後はしばらく不調続きだ。顔面キャッチも後を引いた。
「初霜さんすごいですね。見事に追い込まれますよ」
「逃げ道を塞ぐのを最優先にしてますから。ここに主砲が組み合わされば、もっと速く終わらせられます」
「なるほど、確かに進行方向ばかりに魚雷があった気がします」
霞は高雄さんにいろいろと説明してもらっているため、私は初霜さんに雷撃のコツを聞いていた。私からも霞に何かしてあげられるかもしれないという一心で。
私も一度大きな失敗をしているからこそ、今の霞のことは理解できる。でも、霞は私とは逆だ。私は自分が出来ないことに落ち込み続けたが、霞は自分が出来ないことに苛立ち続けている。こればっかりは、頭を一度冷やさないと入らない。
「今日は一度終わりにしましょうか。そちらもやりたい事は出来たでしょう?」
「そだね。皐月ちゃんはちゃんと反復練習すること! 最後は慣れてきてたけど、ちゃんと自分のスピード理解してよね!」
「はーい。後から水上訓練やりまーす」
結局、そのまま訓練も終わってしまった。霞は燻ったままだ。かける言葉も、私には思いつかなかった。
艦これの魚雷って当たるのかと思ってたけど、艦これアーケードでイメージが付きました。