欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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許されぬ感情

逃してしまったものの、志摩司令官の命を守ることは成功した。損害も一部擦り傷はあるものの、時津風さんの中破で止まったくらい。勝ち目自体は見えた戦いであった。だが、あれだけの戦いをした駆逐陽姫は敵の中でも一番の新人だという。これ以上強くなって帰ってくる可能性も高く、次はより苦戦することは確定であった。

 

意気消沈する陽炎さん達も連れ、志摩司令官を鎮守府に送り届けた私、朝潮達。デメリットによる眠りについた時津風さんはすぐに入渠してもらい、戦闘に出たメンバーはお風呂へ。私は過負荷による体調不良のため、お風呂には入らず休息をとる。

 

「御姉様、御気分は如何でしょうか」

 

今日は春風に看病されながらの休息。

鎮守府に戻るまでもさんざん吐き、胃の中は空っぽ。相乗効果の過負荷は本当に辛い。佐久間さんの薬効がギリギリで切れてしまったのも不運だった。

 

「吐き気は治まったけど……まだ身体が怠いわ……」

「今日はわたくしがお側に侍らせていただきますので、何かありましたら仰ってくださいまし。外には瑞穂さんも待機しております」

 

万全の態勢。ありがたい限りである。敵の攻撃を受けているとはいえ、こうも頻繁に体調を崩していると、気分が滅入るもの。それを和らげるために誰かが私の近くにいてくれる。

春風はまだ罪の意識が強い。朝潮型の制服は未だに着ていない。こういう形で償いたいという気持ちの表れ。私は気にしていないのだが、春風が気の済むまでやらせてあげるのが姉心だろうか。

 

「お腹が空いちゃった……何か……食べるものないかしら」

「まだ本格的に食べるのも辛いと思うので、ゼリーをお持ちしました」

「じゃあ……それを貰うわ」

 

身体を起こして食べさせてもらう。そういえば人に食べさせてもらうなんて初めてだ。これは春風、一歩リードとか思ってそう。現に少し口の端がニヤニヤしている。表情に出さないように堪えている感じがする。

 

「春風……ありがと」

「いえ、わたくしは御姉様と共にありますので」

「そんなに気負わないでね……私は何も気にしてないんだから」

 

頭を撫でてあげる。堪え切れなくなって表情が緩んだ。私達の知る春風はこうでなくては。

 

『さすがにもうこの体調不良はゴメンだな』

「本当に……。相乗効果のは特にキツイわ……後を引くし」

 

アサも懲り懲りなようだ。今回も救援対象の捜索という重要な任務があったので私が出たが、その辺りも響さんに一任出来るように教えていこうと誓う。訓練担当としての目標も出来た。

 

 

 

夕食時には体調も戻った。私が倒れ休息している間に、志摩司令官との情報共有も終了していた。心の安寧のために事前に知っておく必要のある私は、こっそりとその内容を教えてもらうことになる。

 

「心構えはいいかい?」

「大丈夫です。何かあったらすぐに雪さんと島風さんを呼びますので」

 

執務室に呼び出された。そこには私達の司令官の他に、元帥閣下と志摩司令官、さらには佐久間さんと、この鎮守府にいる人間全員が揃っている状態。佐久間さんもこの話を聞くのは今からが初めてらしい。いつも閃きで解決してくれることもあったため、教えられる情報は教えてもいいという判断がされている。

私のためにもう一度話をしてくれるということになっていた。2度目となれば、さらに考えもまとまるだろうと、志摩司令官も乗ってくれた。

 

「話は聞いたよ。アンタも随分難儀な身体のようだねぇ」

「はい……ご覧の通り、以前よりまた成長してしまいました」

 

志摩司令官は私の身体のことも詳しく聞いたようだった。

 

「それが敵の攻撃だってのなら仕方ないねぇ。いいじゃないか、そんな朝潮がいても。世の中の朝潮全員が嫉妬しそうだけどね」

「あはは……私がまともな身体なら嫉妬してたかもしれませんね。浦城司令官のとこの別の私にも羨ましがられました」

「はっはっ、そいつはいいねぇ。うちの連中も羨ましがるかもしれないねぇ」

 

このままだと話は脱線したままなので、改めて司令官達に向き直る。私のためだけに作ってくれた機会だ。

 

「さて、では改めて話をしていこうか。朝潮君は、姿を消した上層部と、裏切り者だと判断される上層部の共通点は知っているね?」

「何かの事件の関係者だと聞きましたが」

「その事件ってのが、私の友人が行方不明になった事件だ。寺津っていう男でね」

 

現状、上層部で北端上陸姫と関係を持っているであろう6人の上層部の人間……内4人はもうこの世にいないようだが、その共通点は、志摩司令官の友人だった寺津(てらづ)清志(きよし)という研究員が行方不明になった事件に関係があるということ。

阿奈波さんと似たような立ち位置だったらしく、艦娘や深海棲艦について調査をしている研究員だったそうだ。人当たりがよく、艦娘からも慕われていたとのこと。

 

「調査中に深海棲艦に襲われて行方不明になったんだ。護衛の艦娘を数人付けて、少し遠い海に調査をした時にね。その護衛の艦娘ごと消えちまったんだよ」

「あの……その関係者ってことはもしや……」

「朝潮ちゃんは察しがいいのぉ。寺津はその上層部6人に殺されたんじゃろう。南が今調査しておるがの」

 

人間が人間を殺したと知り、ドクンと心臓が高鳴った。その瞬間にアサが私から主導権を奪った。何かあるといけないから先んじて私を思考の海に隔離したようだ。反応が早くてありがたい。

 

「すまん、交代した。少しでも危険を感じたら表に出ることにしている」

「命のことが関わると揺らぐというのは理解している。まだ大丈夫かい?」

「ああ、まだ問題ない。続けてくれ」

 

志摩司令官の目の前で交代を見せるのは初めて。態度が180度変わったことに驚いているようだが、今は話の腰を折らないように触れないようにしてくれた。

 

「そうやって聞いたら、殺された理由も見当がつくんだ。私は特に仲良くさせてもらってたからね。その調査に向かう前日くらいに、楽しそうに話してたんだ。深海棲艦の謎が解けるかもしれないーってさ」

 

その寺津という男は、佐久間さんの目指しているところにいち早く辿り着いていたのかもしれない。友人の志摩司令官には、行方不明になる前日まで、楽しそうに研究結果を話していたそうだ。今はもう真相は闇の中だが。

 

『なんで殺される必要が……』

「なんで殺される必要があるんだって、朝潮が疑問に思っている」

「簡単じゃよ。裏切り者連中はな、()()()()()()()()()()()()んじゃよ」

 

つまり、深海棲艦の謎を解いてもらいたくないということだ。共存なぞしたくないという強硬派か何かか。だからといって、自分と同じ人間を口封じをするかの如く殺す必要は無いだろう。

また少し怒りが沸いた。元帥閣下が以前、人間を嫌いにならないでほしいと私に頭を下げた。人間は嫌いにはならないが、その上層部の人間は大嫌いだ。少なくともまだ生きているであろう2人の裏切り者のことは、上層部ということも含めて絶対に許せない。

 

「寺津君というのは私も名前は聞いたことはあった。私がこの鎮守府を設立してしばらく経ってから行方不明になったからね」

「儂も知っていたのは名前くらいじゃ。阿奈波や佐久間のように儂が唾をつけたところにおったわけではないからの」

 

それほどの研究をしているにも関わらず、あまり表沙汰になっていなかったような人のようだ。

 

「私、話をしたことがあります。私の研究を見て、褒めてくれました。寺津さん、最近話を聞かなかったけど、そんなことになってたなんて……」

「寺津、アンタの名前も偶に出してたよ。嬉しそうにね」

 

同業の佐久間さんは顔も知っていたみたいだ。研究対象も同じのため、当然話も合う。頻繁に話せるような立場では無かったようだが、方向性は同じ。一緒に研究出来ていたらさぞや楽しかっただろう。

 

「寺津が敵となんの関係があるんだい。行方不明になったのは半年近く前だよ」

「それは南が手を回している残った裏切り者に吐かせるわい。儂はある程度あたりをつけているが」

「爺さん、その辺りはさっき話さなかったよな。朝潮君もいるんだ。ここで話してくれないかい」

 

少し渋る元帥閣下。出来れば私も話してもらいたい。

 

「爺さん、朝潮も求めてる。話してくれ」

「朝潮ちゃんの外見で言われるとちょっと怖いのぉ。まぁあたりをつけてるだけで、佐久間みたいに言えば仮説じゃよ。正解ではないからな?」

 

コホンと咳払い。

 

「仮説は3つ。1つ目は、寺津は死んどらん。上層部に殺されかけたことに恨みを持ち、北端上陸姫と共謀。人間側の技術を提供し、今に至る、だから、北端上陸姫の裏側に奴がいる」

 

それが一番妥当な線。元より技術力のある北端上陸姫に、研究結果を使い、協力しながら上層部に復讐を目論んでいる。それをするためにいろいろなものを犠牲にしすぎな気がしないでもないが。

 

「2つ目は寺津が死に際に北端上陸姫と出会い、全てを託して死んだ。死ぬまでに時間があればそういうことも起こり得る」

 

これもありそうではある。大本営の要所要所を教えられれば、まだ今のような動きは出来るかもしれない。それにしては搦め手ばかりを望んでいる気もする。

 

「そして最後。()()()()()()()()()()()

「どういうことだいそりゃ」

「何らかの手段で、寺津自身が深海棲艦へと変化した」

 

とんでもない仮説ではあるが、理に適ってはいる。今までの攻撃、深海棲艦にしては()()()()()()。手の回し方や精神攻撃の陰険さがあまりにも汚い。

それは北端上陸姫の裏側にいたとしても同じことではあるが。作戦指揮と実行を役割分担をしているか、人間であり深海棲艦でもある北端上陸姫が全てをやっているかの違い。

 

どの説であるにしても、やっていることはわかる。寺津という男が、自分の死の真相をバラされたくなければ言うことを聞けと脅し、内通者として操っている。反発した4人は殺し、混ぜ物の素材に。残り2人は命惜しさに従っている。最終的には皆殺しなのに、それに気付かず裏切り者になっている。

 

『じゃあ……北端上陸姫は……』

「朝潮、同情の余地はないぞ。上層部とやらの内輪揉めに関しては知ったことではないが、それをするためにお前を利用しようとしているのは確かだ。ヤツを肯定するのだけはやめろ」

 

一瞬、思考がダメな方向に向かった。殺されかけたのだからやり返そうとしている寺津という男が憎めなくなってしまった。真に悪いのは上層部の6人だ。自分の利益のためかは知らないが、殺された男は、ただ深海棲艦の謎を解き明かそうとしただけだ。私達には願ってもないことだし、むしろ支援したいほどの人。

だがアサの言う通り、自分の復讐のために私を利用しようとしているのは確かである。私を壊し、復讐を成し遂げるために世界すら滅ぼそうとしている破滅主義者。

 

研究者気質が残っているから、私が壊れる実験が楽しいのだろう。艦娘を深海艦娘に改造し、それをさらに深海棲艦に改造し、世界を滅ぼす存在へと進化させる。何もかもが実験の一環だというのも理解出来てしまった。

 

『……ごめんなさい。ちょっと危なかった』

「あまり酷いようなら表に出さないからな」

 

復讐者として、破滅主義となったことで、やってはいけないことをいくつもしている。その内の1つが、今回の襲撃。元々仲が良かったという友人である志摩司令官の口封じをしようとしたこと。その時点で同情の余地無し。

そもそも目的のために私の妹達を利用したことも許せない。内輪揉めで同士討ちしてほしいほどに気に入らない。

 

「朝潮が北端上陸姫に同情しかけた」

「相変わらず優しい子じゃなぁ。だが、今回ばかりは同情出来ん。寺津が生きていようが、深海棲艦となっていようが、今の奴は狂った破滅主義者であることには変わらん。人のままなら儂が裁こう。深海棲艦なら頼まなくてはならん」

 

自分の思考に嫌悪感が出てきた。私にここまでのことをしでかした相手に同情しかけてしまったなんて、なんて考えを起こしてしまったのだろう。許してはいけないのに、上層部の連中を皆殺しにするのは肯定してしまう。

 

今の私は、よろしくない。

 

 

 

今後の作戦自体は変わらない。裏切り者の上層部の炙り出しは終わっている。南司令官が裏切り者2人を確保し、今の仮説が確定したら本格的に攻略方法を考える。私はそれまでは通常通り訓練担当だ。

思考の海で考え直した結果、同情しかけたのは気の迷いだと思えるほどに、許せる要素がないことを自覚した。気持ちも落ち着いたため、また表に出してもらう。

 

「ごめんねアサ。可哀想とは思ったけど、考えたらやっぱり許せる要素無かったわ」

『だろう。奴は事もあろうかカスミ達まで手にかけてるんだ。それで同情出来たらただの馬鹿だぞ』

「そうね。雪さんとはまるで違うわ。自分の意思でここまでしたんだもの」

 

意思を捻じ曲げられた結果暴れまわった白吹雪さんと、自分の意思で狡猾な手段を使い続けている北端上陸姫は雲泥の差だ。寺津という男が生きており、北端上陸姫を操って今までのことをしてきたのだというのなら同情出来るかもしれないが。

まずは元凶を全て洗い出してもらおう。今頼れるのは人間の皆さん、特に南司令官だ。どんな人かまったくわからないが、今一番頼りになる人に思える。

 

『だが私も気になってることがあるんだ。私が思うんだから、お前も本能で疑問に思ってることだぞ』

「……うん、多分同じこと思ってる」

『テラヅとかいうのは男なんだよな。もし爺さんの仮説の1つ、北端上陸姫になったってのなら、性転換したってことか?』

 

そこは確かに。それこそ、建造の素材になって生まれた北端上陸姫が記憶を引き継いだとかならまだわかる。戦艦天姫が阿奈波さんの記憶を持っているという前例もあるわけだし。何らかの影響で、死ぬ寸前に深海棲艦になったというのなら、男から女に変わるというとんでもないことが起こっている。

 

「こればっかりは本人に聞かないとわからないわよね……」

『殺す前にそれだけは聞き出したいな』

 

当然この事も機密中の機密。誰にも口外出来ない。悩みは司令官や佐久間さんに話すことになるだろう。些細なことでもあまり溜め込まないようにしようと思う。

 

「私達にはもう関係ないわ。戦場に出ないんだもの」

『そうだな。明日の合同演習とやらには参加したいとは思うけどな』

「私達は不参加のはずだけど、挑まれたらやりましょ」

 

演習で憂さ晴らしをしそうな勢いだが、私もやりたいと思ってしまった。あの敵に同情しかけたという自分への憤りを晴らしたい。




そろそろ北端上陸姫の真相が解き明かされようとしています。まずは人間サイドの頑張りから。
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