欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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それぞれの心情

翌朝、気持ちのいい目覚め。睡眠時間自体はいつもより短くなってしまったが、とてもスッキリしていた。適度な運動と、ちょっとした思想の変化。悩みがほんの少しいい方向に解決したことで、私、朝潮は少しだけ余裕を取り戻していた。

 

「おはようございます朝潮さん」

「おはよう初霜。ネクタイお願いしていい?」

「そのために来ましたから♪」

 

いつも通りネクタイを結んでもらう。霞もさすがにこれに関しては諦めた様子。楽しそうな初霜を横目に、霞も自分の準備をしている。既に着替え全てが私の部屋にある時点でいろいろおかしい。霞自身の部屋は、それはもう綺麗なものだった。

 

「はい、アナタ。出来ましたよ」

「ありがとう。どうも苦手なのよね……」

「人には得手不得手がありますから。ネクタイはずっと私が結んであげますからね」

 

朝からご機嫌な初霜。今日の合同演習に参加するかはわからないが、いい成果を出しそうである。

 

「そうだ、昨日朝潮さんが休息を取っている間、妹さんとお話しさせてもらいました。変わった元深海棲艦ですね」

「初霜、峯雲姉さんに朝潮の妻ですって抜かしたわ。その場で引っ叩いておいたけど」

 

あらぬ疑いが向きそう。弁解しておく必要があるかもしれない。

 

「ずっと手を握ったままというのはなかなか難儀なものですね」

「離せるらしいけど、落ち着かないらしいわ。元々1人だった深海棲艦が2人に分かれてしまったんだもの。そういうものなのよ」

「本当にずっと一緒だものね」

 

白露さんは妹が増えたように思えたらしい。あちらの峯雲は白露型制服を着ているので尚更である。

 

「ウォースパイトさんやガングートさんと仲良くなっていましたね。やはり元深海棲艦はそういうシンパシーを感じたりするのでしょうか」

「どうなんだろ。でも仲がいい人が増えるのはいいことよね」

 

あちらの鎮守府では唯一のちょっと他と違った艦娘だ。もしかしたら内心で何か思うところがあるのかもしれない。ここに来たことで何かしら解消出来たのなら、それは喜ぶべきことだろう。もう少し好戦的でなければ良かったのだが。

 

 

 

合同演習は朝食後すぐに始まった。あちらが水雷戦隊のため、こちらから出すのも水雷戦隊。また、深海組からは1人も出さない、敵鎮守府との決戦仕様での演習である。そのため、基本的に私は見ているだけ。それだけでも充分に楽しい演習となった。

 

以前戦った時から、比べ物にならないほどに成長していたのが元深海雨雲姫の2人、村雨さんと峯雲のコンビ。2人1組であるという特性を活かし、話さずとも意思疎通し、回避も狙いも完璧に同調。的が大きくなるかと思いきや、自分達の立ち位置でその辺りもカバー。1人では絶対に出来ない360度の視界を擬似的に再現し、一切の死角が無くなっていた。もしかしたら死角を突いた移動をする榛名さんの天敵かもしれない。

 

「訓練頑張っているってわかりましたよ」

「いい感じでしょ?」

「ようやく形になりましたからね」

 

休憩中の2人と雑談。白露型の制服が様になってきた峯雲。今でもしっかり手を繋ぎ、ひと時も離さない。

 

「どうでしたか、白露さん」

「いや、凄いよ普通に。1人なのか2人なのかわからなくなるの。同時に撃ってきたかと思ったらタイミングズラしてきたりさ。いやぁ、妹が強くなってるのは嬉しいよ!」

 

相手をした白露さんがそういうのだから、余程のものなのだろう。我が鎮守府のコンビプレーといえば深雪さんと電さんだが、それ以上のものと語る。やはりテレパシーのような意思疎通はとんでもないらしい。

 

「白露姉さんの精密射撃おかしくないかなぁ」

「視界が360度あっても意味がないです……」

「朝潮先生のおかげだね。大分出来るようになってきたよ」

 

それだけ褒めちぎっていても勝ったのは白露さんだというのだから恐ろしい。回避しながら綺麗にヘッドショットを決めていた。教え子の1人がここまで成長してくれて、私も鼻が高い。

 

「でも、あれだけはっちゃける駆逐艦5人を纏め上げる鬼怒さん凄いなぁ。陽炎とか全員振り回してるでしょ」

「あれはあれで扱いやすいらしいよ」

「鬼怒さんも旗艦が長いらしいですから」

 

あちらの鎮守府の水雷戦隊は基本、鬼怒さんが旗艦らしい。武闘派揃いで峯雲ですら割と無謀な突撃をすることがあるこの部隊を綺麗にコントロールしていた。本来の鬼怒さんというのはむしろ突撃するような人だそうだが、ここでは周りがそれ以上のために鳴りを潜めているみたいだ。

その鬼怒さんは姉である長良さんと個人演習中。取り纏めるものもなく、姉が相手というのもあり、意地になって撃ち続けている。

 

「長良姉マジパナイ! なんでこんなに当たらないのー!?」

「当たったら終わりだからだって言ってるでしょ! 紙装甲なんだっての!」

「こうなったら意地でも当てちゃる!」

「水鉄砲でも大破するんだからやめてー!?」

 

とはいえ、ムキになったら皆と同じのようだった。姉に攻撃を当てようと躍起になり、やっぱり突撃。旗艦らしからぬ動きではあるものの、あちらの鎮守府らしい動きではある。

 

「まぁああなっちゃうんだけどね」

「集中していればああはならないんですが」

 

長良さんに当てるのは私達でも至難の技なので、ああなるのは仕方ないことである。結局1度も当てることが出来ず、持久戦に突入。タイムアップが無いものだから、2人ともゼエゼエ言いながら撃ち合っていた。長良さんも相当だが、それについていく鬼怒さんも相当。長良型というのはそういうものなのだろうか。

 

「楽しい人が多いですけど、このメンバーが一番楽しいですね」

「うんうん、私達新人だけど、みんな仲良くしてくれたね」

「陽炎さんはちょっと暴走しがちですけど、とても優しくて」

「ねー。私達の相手を率先してやってくれたりね」

 

2人とは型が違うが、さすがは19人姉妹の長女と言ったところか。面倒見のいい性格なのはなんとなくわかっていた。秘書艦もやっているようだし、真の意味で鎮守府の中心なのだろう。

その陽炎さんだが、清霜さんに見事に吹き飛ばされていた。水雷戦隊であるから駆逐艦を出したわけだが、清霜さんは例外も例外。非深海組の中では山城姉様に次ぐ火力。トップが素手というのがなんとも言えないが。

 

「うわぁ……あれはまた」

「ここの鎮守府は何でもありですね」

 

苦笑しているが、この2人はどちらかといえばこちら寄りの存在だ。

 

「そうだ、村雨さん。治療の後は大丈夫でしたか? あの後私も倒れてしまったので」

「うん、大丈夫大丈夫。物凄く痛かったし、あの後身体が動かなかったけど大丈夫だよ」

「私にも少し影響がありました。村雨さんと繋がっているからでしょうか、物凄く疲れたように思えました」

 

2人1組というのはそこまで繋がっているらしい。万が一村雨さんが間に合わず洗脳されていたら、峯雲も洗脳されていた可能性がある。これはこれで佐久間さんが目を輝かせるようなものである。

昨日のうちに少しだけ調査されたらしい。今までにない例が来てしまったため、テンションが酷いことになっていたそうだ。

 

「私もあの苦痛は体感してますからわかります。キツイですよね」

「ホント朝潮って何でもやってるよね。いいことも悪いことも」

 

『種子』の『発芽』から中和まで体験するのは二度と御免である。ただでさえ、この鎮守府で味わえる全ての苦痛を味わっている私は、状況次第では廃人になっていたかもしれない。私が私でいられるのは、仲間達のおかげだ。

 

「さて、休憩は終わりです」

「朝潮に相手してもらいたいね」

「姉さん、リベンジさせてください」

「前にコテンパンにされてるし」

 

言われるんじゃないかなとは思っていたが、本当に言ってくるとは。昨晩に合同演習を楽しみたいとアサとも話していたし、確かにこの2人の成長は身を以て知っておきたい。

 

「ちょっと、私達も朝潮にリベンジしたいんだけど!」

「はい、不知火達も負けていますので」

「せやなぁ。ここいらで朝潮倒しておきたいわぁ」

 

ここで陽炎さん達まで私にリベンジマッチを申し込んできた。演習の様子を見ている限り、私が知っている時よりも格段に成長しているのはわかっている。相手をするのも悪くない。

 

『いいじゃないか。楽しむんだろ?』

「そうね。アサもやる?」

『ああ。朝潮、艤装側やるか?』

「そうしようかしら。あちらはまだあまり慣れてないし」

 

アサに主導権を渡す。

 

「リベンジは私にするべきだろう。お前らをのしたのは朝潮じゃなく私だぞ」

「あ、入れ替わったのね。都合がいいわ、アンタに借りを返す!」

「かかってこい。5人同時でもいいぞ」

 

なんだか調子に乗っているようにも思えるが、アサが楽しいのなら構わないだろう。私が楽しむのなら、アサも楽しまなければ。

 

「朝潮の戦いって最近なかなか見られないからね。あたしもちょっと楽しみだよ」

「シラツユも参加していいぞ。全員纏めて」

「あたしは遠慮しておく。まだ濡れたくないし」

 

白露さんは観客に徹するようである。まぁいつでも機会はあるし、今しかないこの5人と楽しませてもらおう。

 

そして演習の結果、5人を相手に全員水没させるという快挙。1対5でも無傷の勝利。アサの戦闘力も普通におかしなところに来ているようだ。

艤装の動かし方も少し慣れてきた。動かせるのが上半身だけとはいえ、裏側にいても動かせる身体があるというのは、アサと一緒に戦っているのだと実感出来てとてもいい。5人のうち3人は私が艤装を使って沈めているため、実質私の方が楽しんだといえる。

 

「お前、まだストレス溜まってんのか?」

『そうかも……』

「もう少し手心ってのをだな」

 

5人相手だとそんなこと考えている余裕が無いのだから仕方あるまい。半端に手を抜いたら負けてしまいそうなくらいチームワークがいいのだ。この5人、そうやって戦い慣れている。

 

「うわぁ……朝潮そこまで……」

 

白露さんも少し引き気味。どうにか艤装の腕を使って弁解しようとするが、身振り手振りだけでは意思が伝わらない。結局この後弁解に若干時間を使うことになってしまった。

でも、とても楽しかったのは確かだ。またやりたいと思えるほどに。

 

 

 

 

そこから、なんだかんだ演習は深海組も参加するようになっていき、トドメは元帥閣下の護衛艦娘の方々まで乱入。ノリノリで艦載機を飛ばしてくる加賀さんと、群がられては全員薙ぎ倒す武蔵さんが印象的だった。合同演習というより、ただただ遊んでいる感じに。そんなのもいいだろう。

 

『演習って何だっけか』

「いいじゃない。楽しそうなんだもの」

 

私は岸に座って休憩。皆はまだ楽しく演習中である。霞や春風も、今までのストレスを発散するかのように楽しんでいた。ああいうところで気が晴らせるのなら、いくらでもやればいいと思う。

 

『楽しんだか?』

「ええ、充分に。こんなにはしゃいだのは久しぶりかも」

 

私も子供のように楽しんでしまった。さっきまで無傷だったのに、今では水浸し。何もかも加賀さんの空爆のせいだ。お返しにこちらからも艦載機をけしかけておいたので、今濡れていない人はいないと言えるほどに。

 

「たまにはいいわね。こういうのも」

『ああ。何も考えずに遊ぶのはいいな。今度レキの訓練参加させてもらえよ』

「それもいいわね。いつも遊びの延長戦上だし」

 

息抜きも大事だと思い知らされる。ただでさえストレスで高熱を出したことがある私だ。頻繁に息を抜くことくらいしてもバチは当たらないだろう。きっとそう。

 

「お疲れ様。いやぁ、疲れた疲れた」

「お疲れ様です、陽炎さん」

 

私以上にびしょ濡れな陽炎さんが隣に座る。さすがの陽炎さんも一旦休憩なようだ。

陽炎さんも先程の私と同じように、今回の演習でストレスを発散していたように思える。人一倍励み、人一倍楽しんでいた。勝っても負けても笑顔。昨日見せた落ち込んだ顔も、今は見せていない。

 

「ここの子はみんな強いわ。鍛えられてる」

「そちらも強いですね。普通に対等とは」

 

通称が武闘派集団なだけあり、こちらの非深海組とは対等の実力を見せてくれた。勝ったり負けたりの五分五分。特にチームワークが素晴らしい。見習うべきところがいくつもある。

 

「時津風とも話したんだけどさ、やっぱあの子も抵抗があるんだって」

「……そうですか」

「でも、やらなきゃみんな殺されるってんだから、そういうの見せないで戦ったって。私達より全然強いよ、ホント」

 

あの時のことをツラツラと。

割り切ったように思えたが、やはり誰もが辛い。私だって辛い。助けられるのなら助けたいが、あれはもう不可能な域だ。撃破も考えなくてはいけない。それは、いくら敵とはいえ、艦娘を殺すことに他ならない。

 

「あの子、いつもあんなだけどさ、結構ストレス溜め込んでると思うの。だからさ、なんかあったら相談に乗ったげて」

「勿論。今の私は非戦闘艦みたいなものです。メンタルケアもお仕事のうちですから」

「助かる。手伝えるのなら私らも手伝うからさ。あの雪風が出てくるってわかったら、呼んでもらえると嬉しい」

 

前以て出現を予測することは難しいことなので確約は出来ないが、駆逐陽姫の撃破が任務として挙がった時には、是非とも手伝ってもらおう。姉妹艦として、その長女として、陽炎さんは力を貸してくれると約束してくれた。心強い。

 

「こうやって繋がりが出来ました。そちらが大変なことがあれば、是非呼んでください」

「そうね。お互い助け合わないとね」

 

拳をぶつけ合う。戦友として、好敵手として、陽炎さんとは長い付き合いにしていきたい。

 

「よし、休憩終わり! 朝潮、またリベンジするよ! 1対1(サシ)で勝負!」

「わかりました。なら今回は私が表でやりましょう」

「勝つまでやるんだからね!」

 

お互いにぶつかり合うことで育まれる友情もあるだろう。ならばこちらも全力で。




19人姉妹の長女ってだけで過剰なストレスが溜まってそうな陽炎。その全員が武闘派で喧嘩っ早い志摩司令官の鎮守府では、そのストレスも酷いものに……と思ったけど、陽炎自身が輪をかけて武闘派になっているのでそこまでではないのかも。
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