欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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闇からの手招き

合同演習を終えた志摩司令官と艦娘達は、午後一で帰投することとなった。行きで襲撃を受けているため、帰りも警戒してこちらからも送迎部隊を出すこととなった。陽炎型を送るということで、昨日の救援部隊のうち時津風さんと萩風さん、そこに索敵役の響さんがついていくことでより警戒を厳とする。

 

「あの事はこちらでも内密にしておく。敵がああいうものってのはバレちまってるが、真相は知らない方がいいだろう」

「ああ、その方向で。公表出来るようになったらこちらからも話すよ」

「そんな日が来るかねぇ」

 

敵鎮守府の真相については、なるべく少数が内に秘めておくことにした。私、朝潮もそうだが、敵が人間であるとわかると抵抗が出る人もいるかもしれない。少なくとも私は一瞬だけとはいえ同情しかけた。

なら何も知らない方がいいだろう。相手の正体がどうであれ、あちらはこちらの命を脅かす敵であることには変わりない。同情の余地など何処にもないのだから。

 

「合同演習、有意義なものになったようだね。次は違うメンツを連れてくるよ。こちらもそれなりに艦娘はいるんでね」

「ああ、待ってる。いざこざが終わったらこちらからも向かいたいね」

 

むしろ一度雪さんを連れて全員予防接種した方がいいだろう。その計画も立てている。ここに来た6人には予防接種を受けてもらい、何事もないことは確認済み。だからといって鎮守府の全員が本当に何事もないかと言われれば何とも言えないのが現状だ。

今回の件で、鎮守府が襲撃を受けるようなこともあるかもしれない。念には念を。

 

「朝潮! 次は負けないから!」

「はい、お待ちしています」

『次もコテンパンにのしてやる。朝潮が』

 

あの後リベンジにリベンジを重ねられ、私もアサも音をあげるくらい演習を挑まれ、そしてその全てに勝利を収めた。休憩を望んでも勝ち逃げは許さないと認めてくれず、結局陽炎さんに休憩が必要なくらいに叩き潰すことでどうにかしたレベル。

私はともかく、アサが演習を挑まれて裏から出てこなくなったのは初めてのことかもしれない。

 

「次に会ったらもっと成長してるとかやめてよね。むしろ縮んでてよ」

「縮むのは難しいかもですが、現状維持はしますよ」

 

保証が出来ないのが辛いところ。だが、私は自分のためにも戦場には出ないようにしている。なるべく何も変わらずを徹底するつもりだ。

 

「それじゃあ、私らは帰らせてもらうよ。元帥閣下、まだここに滞在を?」

「そうじゃのう、もう少しで儂の安全が保障されるみたいだし、それまではの。鎮守府を1週間以上も空けておるし、そろそろ戻りたいのぉ」

「では、何かこちらであったらここに連絡しますので。いやぁ、ここで元帥閣下と繋がりを持てたのは良かった!」

 

そういう意味では、志摩司令官は信用できる仲間となっただろう。上層部との繋がりはなく、元帥閣下と繋がりを持ち、真相を知る数少ない協力者である。何かあったら相談出来る人が増えたことは、私達にもありがたいことだ。

 

「佐久間、アンタも気をつけなよ。何を思ってアンタが襲われてるか知らないけど、アンタはこの鎮守府でも重要な立ち位置だ。みんなに守ってもらいな」

「はい、志摩中佐。私からもそちらに行かせてください。村雨ちゃんと峯雲ちゃんの調査、もっと舐めるようにやりたいので」

「あっはは、待ってるよ! それじゃあ、帰投する!」

 

いろいろとあったが、合同演習はこれにて終了。新たに強い縁が出来、心強い仲間が増えた。頼れる人が増えたのはとても大きい。孤島の鎮守府で孤立無援という状況だけは避けられる。

 

 

 

静かになった鎮守府。午前中は合同演習だったため、午後からは哨戒任務担当以外は訓練か休息かを好きに選べるようになった。私はここ最近、訓練担当としていろいろと手を回してきたため、今日は休息の日とすることにした。昨晩にいろいろ考えたとはいえ、心が穏やかになったかといえばそうではない気がする。

 

「というわけで、今日の午後は領海に行くことにしました」

「ああ、行っておいで。昨日のことで心に負担がかかってしまったろう。ゆっくり休んでほしい」

 

司令官に許可を貰い、領海へ向かう準備。訓練担当をしない時は、練習巡洋艦の制服は脱ぐことにしている。なので今は戦艦水鬼の服。これが今のアサの服と言うべきか。

 

「朝潮ちゃーん、念のため、あの薬作っておいたよ。ほい」

「ありがとうございます。これすごく効きました」

 

過負荷の体調不良を抑える薬も佐久間さんから念のため貰い、早速出発。今回は本格的に癒されることが目的なため、随伴は雪さんと島風さん。雪さんが来るため保護者の叢雲さんも当然参加。ただでさえ現在艤装を下ろしている雪さんは、何かあったら本当に危険である。

 

「雪さんは大丈夫ですが、島風さんはお薬必要ですね。2本貰っておきましたので」

「これ飲めば気持ち悪くなくなるの?」

「はい、私で実績ありますから大丈夫ですよ」

 

とはいえ、これは念のためである。今のところ領海に混ぜ物が来たことはない。

 

「1人くらいまともに戦えるのを連れてくべきなんじゃないの?」

「そうですね……大人数になってしまいますが、それがいいでしょう。瑞穂さん、お願いします」

「お任せくださいませ。この瑞穂、粉骨砕身の覚悟を持って、朝潮様をお守りいたします」

 

相変わらず重い発言ではあるものの、頼りになるのは確かである。器用貧乏なイメージは強いが、万能戦力であることには変わりない。いつどのタイミングで訓練しているかもわからない、ある意味謎多き人ではあるものの、今までのことを考えると、やはり連れていって損はない人だ。

 

「では行きましょう。今日はゆっくり休みたいです」

 

島ではただただボーッとしたい。考え事も出来るが、今は考えても仕方がない。なら、癒されるためだけに自分の場所に行こう。

 

 

 

癒しを求めて領海を含めた哨戒任務へ。だが、今回は私が癒されることは無さそうであった。近付いた途端に深海の気配。さらには混ぜ物の匂いまで。それを感じた途端、すぐに吐き気が押し寄せてくる。私と島風さんが体調不良を訴えたので急ブレーキ。本当に雪さんは体調不良になっていないようだ。

 

「混ぜ物の気配……うぷ」

「気持ち悪ーい……」

 

早速私も島風さんに被害が出てきた。口を押さえながら込み上げてくるものを何とか耐える。

よりによって私の領海で待ち構えているとは思わなかった。電探で場所まで把握出来たわけではないが、気配の方向からして完全に島にいる。

 

『よりによって私の島にだと』

「一度戻りましょ……」

『クソ、艤装がまともに動けばそのままやってやるってのに』

 

島風さんと一緒に薬を飲む。酷くなってきた吐き気が嘘のように無くなるが、相変わらず艤装は不調。叢雲さんも出力不足で動きづらそうにしていた。今十全に機能を発揮しているのは瑞穂さんのみである。

 

「わ、ホントに気持ち悪くなくなった! すごーい!」

「よし、今のうちに撤退しましょう。今関わりたくありませんから」

『1発ぶん殴ってやりたいところだ』

 

電探に反応が入る前にさっさとUターン。心を癒すどころかただ疲労感が溜まるのみの時間になってしまった。少しイラついてしまったが、気付くのが早くてまだ良かった。

が、私達が気付いているということはあちらも気付いているということ。急激に遠ざかるのもすぐにわかったのだろう。島から出てこちらに向かってくる。薬を飲んでいるから私達はまだいいが、撤退しながら近付かれると、鎮守府に被害が出てしまう。足止めくらいはしたいが、攻撃されたら為すすべもない。

 

「ま、まずは司令官に連絡じゃないかな」

「そうですね。急いで援軍に来てもらいましょう」

 

撤退しながら司令官に連絡。

現在、志摩司令官を送るために響さんが鎮守府にいない。そのため、索敵役が全員出払ってしまっていることを考えての撤退ルート選択をしている。大体の人が私の領海への哨戒ルートを知っているはずなので、その道を通れば合流は出来るはずだ。

 

「こら、待ちなさい! 来るかどうかもわからない島で待っててやったってのに、何即座に帰ってんの!」

 

フルスペックのあちらの方が当然速く、すぐに視認できる位置にまで来てしまった。そこにいたのは、駆逐陽姫との戦いの最後に現れた、もう1人の黒コート。改めて確認しても駆逐艦のサイズであることがわかる。1人でいるようだが、突然何が出てくるかわからない。電探とソナーをフルで回して、最大の索敵で撤退する。

だが、今までの混ぜ物との戦いにあった危機的状況から一転、あちらから殺意が見えない。こちらを罠にかけるつもりで待ち構えていたわけではないのだろうか。いや、信用できない。全力で警戒。

 

「関わりたくないだけです。さっさと帰ってください」

「そうだー! 帰れ帰れ!」

「近くにいるだけで吐き気がするんですよ。来ないでください」

 

島風さんと悪態をつきながら全速力で撤退しているが、機関部艤装に不調がある上に、十全な瑞穂さんは低速艦。どうしても追いつかれてしまう。

 

「まったく、話くらい聞きなさいよ」

「聞くような話ではないでしょう。お引き取りください。お帰りはあちらです」

「悪い話じゃないと思うわ。貴女達の鎮守府、見逃してあげる」

 

今までやってきたことを思い返して、それでこちらが信用すると思っているのなら、どれほどいい加減なのだろうか。

 

「朝棲姫、貴女、真相を知ったわね?」

「……仮説の段階なので確定ではないですが」

「なら話は早いわ。私達に協力しなさい。貴女がこちらに協力して、上層部のクズの命を取ってくれたら、もう私達は鎮守府にちょっかいかけたりしないわ」

 

真相をある程度知っているからこそ、何をしたいかはわかる。恨みを晴らすために、まず自分を陥れた上層部6人をこの世から消し去りたいのだろう。

だが、それが終わった後、大人しくしているとは到底思えない。私を暴走させて全てを破壊しようとする破滅主義者が、恨みを晴らすだけで終わるわけがないのだ。

そもそも私を被験体(モルモット)と称し、私以外も自分の実験のために使い潰す気満々で、使えなくなったらゴミと言って処分する輩の何を信じろと言うのだ。仲間ですら平気で捨てるような者を。今に行き着くまでに、頭がおかしくなっているのはわかりきっていることだ。

 

「お断りします」

「なんでよ。うちのお姫様に同情したんじゃないかしら。酷い境遇でしょう?」

 

苛立ちが強くなった。だからだろう、言葉が溢れ出た。

 

「同情しかけましたが、それ以上にこちらの被害は甚大です。破壊を娯楽か何かと勘違いしている破滅主義者に、協力する義理はありません。それに、誰がそんな言葉を信じると思います? やる事やらせたら後ろから撃つんでしょう? それとも、仕事をさせている間に鎮守府を総攻撃ですか? どちらも考えられますね、今まで自分達がしてきたことを鑑みてくださいよ。信用される要素ありますか? 無いですよね? どの口が言うんですか。頭お花畑ですか。そもそもその真相を聞かれたくなくて志摩司令官を襲ったんじゃないんですか。真相を聞かれたら私が怒りを失うとでも思ったんですか。ちゃんちゃらおかしいですね。貴女のお姫様は狂ってしまったことで余程愚かになったと見えます。出直しなさい」

 

昨日からのイライラをぶちまけるかの如く悪態をついた。以前晴らした後から溜まりに溜まった鬱憤が口からスラスラと出て行く。胸ぐらを掴んでぶちまけてやりたかったが、早くこの場から立ち去りたいので、間合いはなるべく大きく開けて。

 

「残念ね。そこまで悪態つかれるなんて」

「それだけ鬱憤が溜まってるんです。わかったらさっさと帰ってください」

「そういうわけにはいかないわね。こちらは穏便に済ませてあげようと思ったのに、こちらの気持ちを無下にしたんだから、その報いを受けてもらわないといけないわ」

 

時間稼ぎはここまでか。まだ電探に援軍の反応は無い。

 

「朝棲姫だけは残すように言われてるの。こちらの切り札だから」

「何故私が敵の切り札にならないといけないんですか」

 

なるべく時間を引き延ばすように話をしていく。その間も電探フル稼働。さらには未来まで予知して最善を選んでいく。フードで顔が半分以上隠れているため視線がわからない。それがわかればもっと対策が立てやすいのだが。

 

「だってそうでしょう。暴走させればいいだけだもの。こうやって」

 

コートの袖から主砲が出てくる。狙いは雪さん。これは予測済みだ。それに、瑞穂さんと叢雲さんも行動予測は得意分野である。即座に叢雲さんが雪さんの前に立ち塞がる。

 

「仲間が死ねばいいんだものね」

「させないわよ!」

 

砲撃を槍で弾く。駆逐艦とは思えない威力なのはいつも通り。さらには叢雲さんも機関部艤装が不調にされているため、一撃弾くだけでもかなり厳しそうだ。行動予測のおかげで計算は出来ても、連続で撃たれるとそれだけでジリ貧。

 

「朝潮様、時間稼ぎをすればいいのですね」

「はい。撤退しながら援軍を待ちます。まだ薬の効果は大丈夫です」

「了解致しました。無理だけはなさらず」

 

瞳を金色に輝かせ、瑞穂さんも戦闘開始。相手は1人だが、こちらで戦えるのは2人。3人が完全に足手纏いになってしまっている。雪さんは薬が無くとも体調不良にはならないが、私と島風さんは完全に枷だ。

 

「連装砲ちゃん、動いて! お願い、動いて!」

 

状況が悪いのは誰だってわかっている。少しだけでもよくするため、撤退戦をしながらも艤装が動かないものが挑戦していた。島風さんも連装砲ちゃんを出しては試し、出しては試しでどうにかしようと頑張っているが、頼みの綱の連装砲ちゃんは目がバッテンになっておりまともに動かない。

 

『ダメだ、やっばりまともに動かない』

「せめて自衛くらい出来ればいいんだけど……!」

『なら代われ! 白兵戦の方なら私の方が覚えがある!』

 

なるべくなら仲間を守りたいが、今はそれどころでもない。アサに交代して、私が艤装の操作を試みる。本来なら感覚のない思考の海の中からのコントロールだが、重く感じるほどに不調。ギシギシと音を立てるのみで、まともに動こうとしてくれない。まるで錆びついたようだった。

 

「シマカゼ! 厳しいか!」

「連装砲ちゃんやっぱり動かないよぉ!」

『私でやっても動かないわ!』

 

この艤装不調が一番の問題だ。これがどうにか出来れば勝ち目はまだあるのだが。

 

「こいつ……ウザい!」

 

いつも私の補佐をする時の移動方法を攻撃に転化し、低速艦という不利を完全に帳消しにしながら、攻撃ではなく撹乱するための行動。

今回の瑞穂さんの装備は主砲、水上機、爆雷。如何様にも使える。黒コートの足下に爆雷を設置しては消えるように離れ、私の護衛として即座に守りに徹してくれた。

 

「鬱陶しいわね。素直に死ねばいいのよ。抗わないでくれるかしら」

「悪いわね。姉を守るのは妹の本懐なのよ」

「申し訳ございません。主人を護るのは従者の務めですので」

 

だがここで体調不良がぶり返してきてしまう。薬が切れるまでにはまだ時間があるはずだが、艤装をさんざん動かそうとしていたせいか、身体に余計な負担がかかっていたらしい。特に島風さんは自立型とはいえ連装砲ちゃん3体の操作だ。負荷も相当である。

 

「っぶ……やべ……吐き気が戻ってきた」

「あぅ、気持ち悪いよ……吐きそう……」

 

途端に動きが悪り、余計に足手纏いになってしまう。

 

「こちら側に来たらそれも治るわよ。ほら、協力したくなってきたんじゃない?」

「クソ喰らえだ」

「青い顔で言っても説得力無いわよ。あとそこ! ウザいって言ったわよね!」

 

頻繁にアタックをかける瑞穂さんに対して砲撃。行動予測の範囲内であるため、華麗に避けてはあの手この手を使う。この場で倒せるとは最初から考えていないため、あくまでも時間稼ぎの行動だ。それでも充分に仕事が出来ている。動きが鈍くなった島風さんからも注意を逸らしてくれていた。

 

「ったく、仕方ないわね」

 

今まで主砲しか使ってこなかったが、突如背中に巨大な高射砲が現れた。4基8門、その全てが生体パーツのように蠢き、瑞穂さんに狙いを定めた。

あの艤装は見たことが無いが、何処と無く照月さんのものに近いように見えた。この黒コートは防空仕様か。

 

「逃がさないわよ。貴女はここで死ぬの。そうしたら朝棲姫の心が揺らぐんでしょう」

「ならば尚のこと死ぬわけにはいきません」

 

消えるように移動。気付けば黒コートの真後ろに。高射砲の唯一の射程外らしく、真後ろだけは砲門が移動させられないようだ。

 

「的が大きくなりましたね」

 

爆雷を出現した高射砲の口の中に放り込み、即座に離れる。こればっかりは回避出来なかったようで、高射砲1つを爆破。破壊は出来なかったが、その衝撃でフードが捲れた。

 

奥から現れた顔を見て、息を呑んでしまう。そうなのでは無いかと予想していたが、最悪なところで当たってしまった。

 

 

 

黒コートの敵の正体は、霞だった。

 

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