欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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悪夢再来

万全の状態で敵鎮守府を攻撃するため、策を巡らせ、淡々と準備がなされていく。

その間に大本営の方でも動きがあり、残された裏切り者2人の処分が全鎮守府に公表された。過去の事件に裏で糸を引いていたことを発覚させ、上層部としての地位を失落させたとして、相応に重い処罰を与えられる。戦火を現状維持しようとする行為は大罪も大罪。元帥閣下が言っていた通り、生かさず殺さず、行いを後悔させ続けられるのだろう。

しかし、その結果、人間が深海棲艦に変化した可能性があることは未だに伏せられている。少なくともそれを公表したら混乱は免れない。これを知るのは、元帥閣下と我が鎮守府で会談した数人のみとなっている。

 

全鎮守府に公開されたということは、現在乗っ取られている敵鎮守府にも公開されたということ。こうなったことは北端上陸姫にも伝わっている。本来なら、寺津という男はこれで報われるはずである。自分が殺された事件が時間はかかったが公になり、正当性を証明され、復讐相手も刑に服すことが決定したのだ。何かしらの動きはあるだろうと踏んでいる。

 

だが、おそらくこれでは終わらないだろう。相手は殺されたことで気が触れてしまった破滅主義者だ。事件が明るみになり、報われたのだとしても、一度振り上げた拳は止められない。そして、それはもう悦楽の一つとなってしまっている。

 

戦いは終わらない。決着がつくまでは気が抜けない状態である。

 

 

 

領海に向かう際に襲撃を受け、早1週間。一度北に行きミナトさんとヒメさんと再会したことでリフレッシュした私、朝潮は、訓練担当として比較的順風満帆な日々を過ごしていた。アサも領海には行けないものの、隙間の平和を謳歌している。

その間に教え子も増え、非深海組の駆逐艦には全員何かしらの訓練をしている。師事されるというのは、なかなかどうして嬉しいものである。

 

「お疲れ様です、朝潮様。本日の訓練はこれで終了になります」

「ありがとうございます。瑞穂さんもお疲れ様です」

 

訓練担当補佐として、瑞穂さんも安定してきていた。悪夢を見ることはあれど、あの時ほど魘されることは無いようだ。今は消えている洗脳されていた時の記憶は戻る気配もない。

 

「訓練のプランニングも慣れてきましたし、いろいろなことが知れて楽しいです」

「最近の朝潮様はとても充実しているように見えます。楽しんでおられるようで何よりです」

 

訓練結果を書類に纏めながら瑞穂さんと話す。訓練担当としてこの上なく充実した毎日。ずっとこれが続いてほしいとまで思える。例えば、他の鎮守府で教えてみたり。こういう生き方が性に合っているのかも。

 

「よし、では司令官に書類を提出して、今日の業務は終わ……うぶ……な、なに……」

 

報告書を提出するために執務室に向かおうとしたところで、突然体調が悪くなる。強烈な吐き気と倦怠感。間違いない、混ぜ物が鎮守府に近付いてきている。

口を押さえてフラついたため、瑞穂さんが即座に薬を処方してくれた。体調不良はすぐに消え、吐き気も治まる。

 

「気配は瑞穂も感じました。混ぜ物が接近してきているのですね」

「はい。工廠へ急ぎたいところですが、レキとシンさんにも薬を処方してあげてください」

「かしこまりました。朝潮様は工廠ですね。こちら処置が終わり次第合流いたします」

 

電探で位置は把握している。2人揃って外だ。クウも近くにいる。瑞穂さんに場所を伝えると、消えるように向かってくれた。子供達の安全を確保してもらっている間に、私は工廠へ向かう。

 

『薬の効きがいいな』

「ええ、佐久間さんには感謝しかないわ」

 

一切の体調不良を感じず、工廠へ到着。

 

「姉さん、身体は」

「大丈夫。そっちも薬は飲んだようね」

 

ちょうど哨戒を終えて工廠にいた霞や初霜と合流。さらに既に司令官も待ち構えていた。たまたま工廠で業務していたときにセキさんが体調を崩したため察したようだ。

 

「朝潮君、大丈夫かい」

「体調は大丈夫ですが、艤装はまともに動きません」

「時間が時間だ。所属している艦娘は全員鎮守府にいる。戦力となれるものは艤装を装備し、深海組と佐久間君には速やかに避難指示をした」

「瑞穂さんに子供達への薬の処方を任せました。完了次第こちらに合流します」

 

気配と匂いは近付いてきており、電探にも反応が入った。人数はまたもや2人。前回と同じく戦艦天姫はわかる。もう片方は、よりによって防空霞姫。当てつけか。

出来ることなら工廠にも近付けたくなかったが、準備しているタイミングで来られた挙句、あちらのスピードは異様に速い。大和さんは低速艦だったはずだが、その辺りも無視してきている。

 

「お久しぶりでーす。アマツがまた来ちゃいました」

 

誰も艤装が装備出来ていない状態で辿り着かれてしまった。出入り口の端、やたら明るく子供っぽい話し方の戦艦天姫。来ただけでこちらは被害甚大であることをわかっているのだろうか。

 

「ふん、センスのない工廠ね。雑魚が使うにはちょうどいいってことかしら」

 

その後ろから防空霞姫。もう黒コートで素性を隠す必要がないということか、普通に朝潮型の制服姿。ところどころ違う辺り、あれは改二乙のもの。相変わらず態度が大きく、全方位に喧嘩を売るような物言い。

私の隣にいる霞が気分悪そうにしているのがわかった。自分と同じ顔の敵があの態度だと仕方ないか。

 

「あ、加藤提督、お久しぶりです」

「何をしに来たのかね」

「お母様から加藤提督に言伝があるって言われたので来ちゃいました。直接話すのもいいかなーって思ったらしいんですけど、やっぱりアマツが行く方が楽しそうっていうことで」

 

ニコニコしながら懐から紙を出す。

 

「えーっと、『私の憎しみはまだ終わらない』ですって。どういうことですかね?」

 

()()()()()と言ったことが重要。やはり人間が深海棲艦に変化したと考えて間違いは無さそうだ。どういう原理でそうなったかは知らないが、とにかく、元帥閣下の仮説は正しかった。

 

人間として死に、深海棲艦として生まれ変わり、それが黒だったせいで怒りと憎しみに飲まれ、破滅主義者へと堕ちた。恨みを持つ上層部6人を殺したところで終わらない。以前、軽巡棲姫がこの世全てが憎いと言っていたが、人間としての知能と知識、そして記憶を持ったままそうなってしまったのだろう。

理性もないから私を実験台にして遊ぶし、要らなくなったらすぐに捨てる。無駄に知識だけはあるからやりたい放題。鎮守府運営の方法も、研究者ならある程度知っているだろう。司令官との兼業だったかもしれない。

 

「アマツ達はこの言伝と、もう1つお母様から指示されてます」

「どうせ来たんだから、今度こそ朝棲姫を貰ってくわ」

 

わざわざ足を運んだのは、私が狙いだったわけだ。最後の変化を促し、今以上に壊される。理性も何もないただの殺戮兵器に成り下がるのかもしれない。それだけは断固拒否だ。

 

「自分の意思で来てくれれば悪いようにはしないわ。前にも言ったわよね。協力してくれたら、もうこの鎮守府にはちょっかいかけないって」

「私も前に言いましたよね。誰がそんな言葉信じるかと」

「信じるとか信じないとかじゃないの。こちらに来いって言ってるのよ。逆らうのなら逆らえないようにするだけ。アンタに最初から拒否権なんて無いのよ」

 

戦艦天姫が満面の笑みを浮かべてゆっくりと私に歩み寄ってくる。前回の戦いでもそうだが、私と友達になりたいと言って洗脳をしてくるからタチが悪い。価値観がまるで違うせいで、もしかしたら自分のやっていることが正義であるとでも思っているのでは無いだろうか。

 

『自衛だろ。代われ』

「ええ、お願い」

 

アサと交代。相変わらず艤装はまともに動いてくれない。

 

「待たせた。朝潮を守ればいいのよね」

 

最速で準備を終わらせてきてくれたのは山城姉様。前回の戦いで戦艦天姫に成す術なく敗北を喫したが、今回は準備もしてある。ゴリ押しで勝てるかわからないが、山城姉様なら行ける。

 

「あ、山城さんですね。前にアマツに一発でやられた人です」

「ええ、あの時は酷い目に遭ったわ。でも、今回は違うわよ」

 

相変わらず工廠内での戦いだ。高火力を放つと工廠自体に傷がついてしまう可能性が高いため、否が応でも白兵戦組に頼るしかない。

 

「アサ君、君はこの場から離れなさい」

「いいのか提督。あいつは多分無差別に攻撃するぞ。下手したら鎮守府を破壊する」

 

戦艦天姫は山城姉様が食い止めてくれている。残った防空霞姫は今は展開していないものの大型の高射砲を持っている。戦艦並の火力を備えた高射砲などという規格外を工廠で放たれては、いくら建て直した時に若干頑丈にしたとはいえ、長い時間は保たない。

 

「今は君の防衛戦だ。ここにいる方が却って危ない。霞君、初霜君、アサ君を連れてここから避難。私も退避する」

「逃がすわけないでしょうが。朝棲姫以外はみんな死ねばいいから、容赦なく撃つわよ」

 

早速防空棲姫の艤装を展開。狙いは私の側にいる司令官である。接近戦さえ出来れば司令官が負けることは無いだろう。だが、それを見越しての砲撃。

私の艤装が動いてくれればあの程度の砲撃なら弾けるのだが、今は過負荷による不調。自衛のためにアサに代わったものの、両腕両脚の艤装は機関部のパワーアシストが無ければ殆ど意味をなさない。

 

「出てきたのが山城しかいないならこの場で皆殺しよ。朝棲姫がここで死んだらそこまでの雑魚ってことでしょ」

「そんなことさせると思っているのか」

 

防空霞姫の前に立ちはだかるのはガングートさん。山城姉様が出張ったからこそ率先して戦場へ。白兵戦故にこの場では都合が良く、充分すぎるほどのパワーもある。

砲撃全てを弾き飛ばし、無害な海へと落とす。8門全てが司令官に向いていてくれたおかげで、簡単に弾けたようだった。

 

「アンタ妙な気配がするわね。ああ、瑞穂と同じ半端者か。死んだくせに無様に足掻いて艦娘なんていう雑魚に成り下がったのね」

「ほう、私を無様と笑うのか。なるほどなるほど」

 

あまり興味なさげな顔で防空霞姫を見つめる。侮辱されても態度は変えない。

 

「ならば貴様は生ゴミだな。人間の死体を混ぜ込んで臭いを放っているそうじゃないか。(きたな)らしいからここから出ていってくれないか。我々の鎮守府が汚れる」

 

艤装の手も込みでシッシッと手を振る。

 

「雑魚に何言われても痛くも痒くも無いわね」

「その雑魚に敗北する貴様はなんなのだろうな。魚にもならない塵か。なんとも臭い塵だな」

 

煽る煽る。相手が霞の顔であろうが容赦なくボロクソに言い放つ。防空霞姫の額に青筋が立ったのがわかった。煽る割には煽られるのに弱いようだ。

 

「山城を殺すために来たけど、先にアンタを殺してあげる。雑魚は雑魚らしく無様に死ね!」

「痛くも痒くもあるようじゃないか。所詮は見た目通りガキだな。悪いな霞、同じ顔だがここで沈めるぞ」

「許可得なくていいわよ!」

 

あちらは完全にガングートさんが引き付けてくれた。山城姉様も戦艦天姫との戦闘が始まろうとしている。

 

「あ、山城さん、ちょっといいですか。加藤提督達に逃げてもらいたくないので、出入り口を封鎖しますね」

 

こちらが退避しようとしているのが見つかった。山城姉様を軽く弾き飛ばし、射線を作る。腕を伸ばすと、背中から大和型の艤装が現れた。深海に侵され禍々しく歪んだ艤装が錆び付いたような音を立てたかと思うと、ほぼノータイムで工廠からの出口に砲撃。

ただでさえとんでもない火力の大和型の主砲が、深海化によりさらに酷いことになっている。だがそんなことはどうでもいい。問題はその付近に佐久間さんの部屋があることだ。出入り口を封鎖されるどころではない。

 

「っくそ!」

 

砲撃の瞬間、山城姉様が主砲を蹴り、角度を大きく上に。おかげで部屋に直撃とはならなかったが、工廠の壁が抉られるほどの衝撃。佐久間さんの部屋の破壊は免れたかは見えず、瓦礫が出入り口を完全に封鎖してしまった。登れば脱出できるかもしれないが、現状ではかなり厳しいのは確かだ。

瑞穂さんが合流出来なくなってしまったが、防空霞姫の姿を見せるよりはいいだろう。

 

「わぁ、凄いです凄いです。よく反応出来ましたね」

「おかげさまで、鎮守府破壊は初めてじゃないのよ……! 提督、脱出出来ないから大人しくしていなさい!」

「すまない!」

 

艤装をしまう戦艦天姫。嘗めているのか理由があるのかはわからないが、今のところこれ以上の砲撃はしないということか。

 

「わかってんのよ……アンタ、()()()()が使えるのよね」

「そうみたいですね。アマツに混ざってる人間さんがそういう人みたいで。おかげで佐久間さんのこととかもわかるんですよ」

 

戦艦天姫に混ぜ込まれた阿奈波さんは、研究者業務をメインにしているものの、鎮守府を統括する司令官でもあった。艦娘には無類の力を発揮するその力まで継承してしまっているため、戦艦天姫は最強最悪の存在。深海棲艦の要素が何かは未だわからず、まだ手を抜いているのがわかってしまう。

だからこそ、山城姉様もキチンと対策を考えている。司令官との戦闘訓練を懇願したほどだ。その成果が、今も出ている。

 

「榛名、準備完了しました! 山城さん加勢します!」

「ええ、お願い。艦娘の身で提督を越えないといけないだなんてね。面白くなってきたじゃない」

 

戦艦天姫とは2対1の状況。ここからさらに増える。対してガングートさんは防空霞姫と1対1。どう考えても優先度は戦艦天姫の方が高い。下手をしたら何人がかりで戦っても勝てない可能性がある。

 

「あんなにアマツさんに群がっちゃって、雑魚は数がいないと戦えないのね。可哀想に」

「貴様には私1人で良いそうだぞ。相手にもされないようだな。可哀想に」

 

ガングートさんはもうニヤニヤし始めている。煽るのが楽しくなっている顔。

 

「奴は我々が束になっても敵わんような提督というものが混ぜ込まれているからな。悪いがなりふり構っていられん。だが、貴様に混ぜ込まれているのは口と態度だけは達者な上層部のゴミなんだろう? 貴様にお似合いじゃないか。ゴミから生み出された生ゴミなんだからな! はっはっはっ!」

 

さんざん煽り散らしてついには大爆笑。ここまでされれば、防空霞姫も怒り心頭の様子。それで調子を崩してくれれば御の字。

 

「ここで殺す! お前だけはここで殺してやる!」

「やってみろよ生ゴミ。臭いを撒き散らして無様に沈め」

 

どれだけ卑怯なことをやってくるかはわからない。私達は身を呈してでも司令官を守ることに専念する。幸い体調不良は薬のおかげで止まっているのだ。やれることは全てやらなくては。




ガングートは煽るのが似合うキャラに思えて今回こういう役目に。ロシア人だからでしょうか、物騒な物言いが凄く似合う(偏見)

おかげさまで艦これ2019春イベ、甲丙丙丁丙で突破しました。あとはフレッチャー掘りだけです。
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