裏切り者が公表されたからか、北端上陸姫からの言伝を持った戦艦天姫と防空霞姫に襲撃された。それにより、北端上陸姫は元人間であることが判明。元帥閣下の仮説が正解であったことが確認できた。
怒りと憎しみに支配され破滅主義者となった姫は、裏切り者が弾劾されようが終わらないと宣言。まだ私は狙われ続けることが決まってしまった。
襲撃により戦場となってしまった工廠。提督の力を持つ戦艦天姫に戦力を集中させ、防空霞姫はガングートさんが1人で食い止めることに。防空霞姫との煽り合いには勝利を収め、いよいよ戦闘へ。
「ここで殺してやる! 雑魚の分際で私を嘗め腐って!」
「喧しい生ゴミ風情が。貴様など私1人で充分だ」
霞の顔であることが私の心を揺るがすが、本物の霞は私の隣にいる。おかげで私は崩れない。あれが偽物というわけではないが、あそこまで歪んでいる霞を見てしまうと、どうしても本物とは思えない。それに、もうあれは改心もしなければ洗脳が解けることもないだろう。辛いが、撃破するしか道がない。
「完膚なきまでに壊してやる!」
「かかってこいよぉ!」
4基8門が一斉にガングートさんに向くと同時に、尻から刺々しい黒の尻尾が伸びた。艤装まで混合。あの艤装は私は見たことがないものだ。あれが防空霞姫の本気の状態。
「あれは……」
「水母水姫の艤装だね。ということは……全ての性能を兼ね備えていると考えていい」
水母棲姫の上位種ということか。戦艦レ級の尻尾の艤装よりも細く、長く、硬く、痛々しい形状。鞭のようにしなる尻尾の先端には、レ級と同様に大顎を備えた蛇やウツボのような頭部。その頭頂部がカタパルトになっているため、艦載機も備えているだろう。
「母さんに貰ったこの艤装で、八つ裂きにしてやるわ!」
「なんだ、貰い物なのか。貴様は自分の力が何一つ無いのか」
「うるさい! これは、私の力だ!」
水母水姫の艤装を振り回しながら高射砲を乱射してくる。今はその全てがガングートさんを狙っているため、工廠が傷付く前に処理できるようだ。レ級の艤装よりも長く、攻撃力も高い艤装攻撃は艤装の腕により防御。砲撃はもう片方の腕で弾く。だが手数の問題でガングートさんも防戦一方に。弾く方向もその場で見極めないといけない。
「口ばっかなのはアンタじゃない! こちらに攻めることもできない雑魚が!」
「貴様はそれしか言えんのか。自分の弱さを大口で隠しているようにしか見えんな」
あちらには何も無いが、ガングートさんには鎮守府を守りながら自分も無傷で戦わなくてはいけないという制約が課せられている。慎重になるのも仕方がないことだ。だからだろう、ガングートさんは攻撃をよく見ている。致命傷を与えようとしてくる攻撃も、まったくの無傷で受け続けている。
「とはいえ、駆逐艦の身でこれほどの攻撃か。相変わらず敵の改造はインチキくさいな。なかなか攻撃も重い」
冷静に分析し、隙を探る。
いつもはまっすぐ突っ込む戦闘スタイルのガングートさんも、この時ばかりは慎重に事を運んでいた。初めて戦う敵から、自分も含めて目に映るもの全てを守らなくてはいけない。それだけで大きなハンデである。
「攻撃するのはアンタだけじゃないわよ!」
「だろうな。そちらは他の奴に任せる」
ガングートさんに水母水姫の艤装を打ち付けながらも、その頭部から魚雷を吐き出し工廠への攻撃もしてきた。高射砲もガングートさんだけでなく、こちらやドックの方にまで放たれた。
「レディ、提督の守備は任せるぞ」
「人使いが荒いわね。でも、任せなさい。提督と陛下がいるものね」
私達の防衛はウォースパイトさんが一任。陛下発言はスルー。放たれた高射砲はフィフでガードし、向かってくる魚雷は副砲で撃ち抜いていく。
「魚雷処理ー! いっちばーんいっぱい壊すよ!」
「砲撃は私達がどうにかするよ! 天龍、龍田、お願い!」
同じように別のところへ向かう魚雷は白露さんを筆頭に命中精度の高い駆逐艦娘が処理。高射砲による砲撃は明石さんまで総動員の残された白兵戦組が害のないところへ弾いている。艦娘総動員の鎮守府防衛戦の様相に。
私達は山城姉様に言われた通り、自衛に徹しつつ1箇所で待機。今はバラつくよりも纏まっていた方が邪魔にならないだろう。ウォースパイトさんもその方が守りやすい。
霞が少しイライラしているようだが、
「アンタもしかしてその腕でしか攻撃出来ないわけ? はっ、雑魚の上に欠陥まであるポンコツなのね!」
「ああ、私には
少しずつ、少しずつ、ガングートさんが接近していることに、防空霞姫は気付いていない。
煽り続けて冷静さを失わせ、攻撃を単調にしていることで防御もしやすい。周りまで狙ってくれているのなら尚更だ。戦闘中もお互いに罵り合うが、それに関してはガングートさんが一枚も二枚も上手であった。
「貴様よりは強いぞ。私はここで努力をしてきている。貴様のようにただ強い力を貰って粋がっているクソガキとは違うんだよ」
「誰がクソガキよ!」
「私は自分の弱さを知っているんでな。努力もするし、反省もする。貴様にそういったところはあるか?」
強めに艤装を弾き飛ばしたことで、防空霞姫の体勢が若干崩れる。その瞬間、一気に間合いを詰めた。高射砲からの砲撃を防御ではなく潜り抜けての接近。一度だけ、鎮守府防衛を完全に放棄した。
「跪け」
艤装の腕で上から叩き潰すような一撃。咄嗟に身を引こうとしたが、それも先読みしてのさらに直進し、鳩尾へ一撃。ついにまともに攻撃が入り、防空霞姫は蹲る。まさに、ガングートさんに跪いている形に。
「くそ! くそくそくそ! 全部壊してやるからぁ!」
蹲りながらも水母水姫の艤装を振り回し、艦載機まで飛ばしてきた。目の前のガングートさんは関係無しに、高射砲も無茶苦茶に放つことで、鎮守府破壊を優先した雑な攻撃に。嫌でも間合いを取らされて、ガングートさんは一息つく。
「まったく、駄々をこねるガキは手がつけられん。邪魔なその艤装を腐った性根と一緒に叩き折ってやらんとな」
溜息を吐きながら、改めて構えた。
一方その頃、山城姉様と榛名さんは戦艦天姫と対峙。今までにない、提督の力を持つ敵との戦いである。
「アマツと遊んでくれるんですよね。前みたいに、すぐに壊れないでくださいね?」
「ええ、楽しんでいってちょうだい」
前回はルーティンまで決めた渾身の一撃が片手で受け止められ、返しの一撃で腹を貫かれている。接近しても一撃が強力すぎ、離れても先程の主砲がある。遠近隙なし。だが特に近距離は厳しそうである。
だが山城姉様にはそれしかない。だからずっと鍛え上げてきた。弛まぬ努力は実を結んでいるはずだ。
「悪いんだけど、なりふり構っていられないのよ。こっちは数を用意するから」
「むぅ、いっぱい出すのはズルイと思いませんか!」
「自分を正統派だと思ってるなら頭がおかしいんでしょうね」
榛名さんも隣でAGPを起動。さらなる改良を加えているそうだが、相手が悪いのは確かである。攻撃の衝撃を海に逃がすあの防御も通用するかどうか。
「まぁいいです。アマツは優しいのでそれくらい見逃してあげます。それじゃあ、いーっぱい、遊んでくださいね!」
艤装の一部を展開。和傘が現れ、狙いを2人に絞った。あの和傘も艤装の一部ということは、何かあるということだ。油断できない。
本当に遊んでいるつもりなのだろう。鎮守府破壊など考えず、目の前の2人を殺すことだけしか考えていない。
「アマツは何でも出来ますからね。はい!」
「速っ……!」
艤装を展開しても速度は変わらず、缶とタービンを全スロットに装備した山城姉様と同じくらいの速度で突っ込んできた。そしてそのまま和傘を薙ぎ払う。あれも艤装の一部なのだから、見た目とは裏腹の強度を持っていることだろう。当たれば致命傷になりかねない。最初の狙いは山城姉様。
「っらぁ!」
それを殴り飛ばすことで和傘を弾き攻撃を回避。その時の音が、どう考えても和傘のそれでは無かった。表面が艤装と同じ質で出来ている。傘に見せかけた棍棒か何かか。
「榛名パンチです!」
視界を山城姉様に集中したことで榛名さんが死角へ移動。ほぼ真後ろからの艤装による白兵戦。以前にも見せた、主砲も同時に放つ一撃。
「それは一度見てますから、ダメでーす」
死角からの攻撃でも即座に対応される。笑顔で振り向くと、弾かれた反動を活かしてその攻撃をいなす。腕を弾かれたことで榛名さんの体勢がグラつくほどに。
「そっちもダメですよ」
反動をそのままに山城姉様と榛名さんを蹴散らしたところで、不意に艤装を展開し砲撃。砲撃の先にいたのは高雄さん。前回と同じように、ピンポイントの魚雷を放とうとした矢先に攻撃。ギリギリで龍田さんが間に合い、砲撃を弾き飛ばしたが、本当にギリギリだったため、工廠の一部に傷が。
「あとあの目潰しの子は何処です? 二度と受けませんから」
古鷹さんも警戒されている。一度見せた搦め手はもう効かないということか。
「さすがは提督の力、隙も無ければ傷もつかない」
「死角が少なすぎます。榛名も近付けません」
合間合間に高雄さんが魚雷を放とうとするが、その都度砲撃が飛んでくるため、龍田さんが高雄さん専任の守護者になってしまっている。今回の魚雷は演習用ではない本物の魚雷だ。工廠内で爆発させるのは控えたいが、もう四の五の言っていられない。ここで撃破するつもりで被害度外視。
「1人だけ狙えるタイミングが無い……!」
「場所が悪いのよね〜。山城さん、そいつ追い出してちょうだい〜」
「やれるならとっくにやってるわよ!」
どうしても白兵戦をしかけている2人を巻き込んでしまう。工廠が傷付くのは譲れても、仲間が傷付くのは譲れない。魚雷を放ったところでどうにも出来ず、結果工廠の外で爆発させるしかなかった。
「清霜が待機してるのはわかってるけど」
「撃たせることが……」
2人で戦艦天姫を食い止めているが、それすらも遊ばれているように感じてしまう。山城姉様の渾身の一撃も軽く払いのけ、榛名さんの艤装による攻撃も和傘でいなす。稀に攻撃してくるため何とか回避はしているが、相当分が悪いのがわかる。
「そうだ! 清霜ちゃん! 榛名に撃ってください!」
「うぇえ!? だ、大丈夫なの!?」
「榛名は大丈夫です! 早く!」
待機している清霜さんに榛名さんが予想外の指示。どうにか山城姉様が戦艦天姫の攻撃を耐える中、榛名さんは敵に背を向けた。
「わ、わかった! みんな我慢してよ! 撃ちまーす!」
工廠では普通聞くことのない轟音。戦艦天姫の主砲に負けず劣らずの超火力。空気を揺るがす砲撃が、敵である戦艦天姫ではなく、榛名さんへと向かう。
「榛名ガード! です!」
それを受け止め、足から衝撃を逃がした。以前に見たときは強烈な水飛沫が上がる程度だったが、今回は艦娘が出来る最高火力を受け止めている。その結果、その時とは比べ物にならない水飛沫が発生し、小規模な津波を引き起こした。戦艦天姫を飲み込み、津波のように工廠の外に押し流す。さすがの戦艦天姫も、波に飲み込まれたら為すすべが無かった。
ただの砲撃だと当たらない。当たったとしても弾かれ、工廠が傷付く。そこで榛名さんが考えたのがこれだ。波の力は艦娘といえども簡単には突破できない。津波なら尚更だ。深海棲艦なら潜るという手段もあるが、この瞬間にそれを思いつける者はそういない。
「な、なんですか今の!?」
「やっと外に出てくれたわね。高雄!」
「了解! ありったけを!」
5連装を2つ、合計10本の手動操作魚雷を放つ。波に呑まれ簡単に身動きが取れない隙を突き、直角に曲がりながら山城姉様と榛名さんを避け、全てが戦艦天姫に直行。1本が起爆した瞬間に全てが誘爆、工廠内だったらとんでもないことになるほどの爆発を起こした。
加えて、清霜さんが外に向けて砲撃を開始。魚雷の爆炎の中に砲撃が飛び込み、爆炎がさらに大きなものに。
だが、爆炎の中の反応は、変わらないどころか
「あーあ、見せたくなかったんですけど。そこまでされちゃうと、アマツもいろいろと出さなくちゃいけなくなるので」
爆炎がかき消されるほどの質量の物体が振られ、奥から無傷の戦艦天姫が姿を現わす。先程まではほんの少しだけ出していた醜く歪んだ戦艦大和の艤装は無く、その身体の数倍はあるのではないかと思える極太の尻尾が生えていた。また見たことのない艤装だ。あまりに大きいので折り曲げて乗り物にしている始末。
駆逐陽姫のレ級艤装といい、今の防空霞姫の水母水姫艤装といい、あちらでは尻尾がブームなのか。
「カスミちゃーん、大丈夫ですか?」
「あんまり大丈夫じゃないわよ! このポンコツがウザったい! ってか何艤装出してんのよ!」
「仕方ないじゃないですか。津波起こされた挙句に魚雷と主砲いっぱい撃たれたんですもん。自分の身体くらい守らないと」
防空霞姫の焦りよう、戦艦天姫が艤装を出すことに何か問題があるのだろうか。
「おいおい、無駄口叩ける余裕があるのか? 貴様はそのポンコツに手も足も出てないんだぞ? ん?」
「うるっさいわね! すぐにでもぶち殺してやる!」
「じゃあお手伝いしてあげます。たまには使ってあげないと」
今まで相手していた山城姉様と榛名さんから目を外し、防空霞姫と合流しようとする。さすがに看過できないと食い止めに向かうが、気にも止めずに謎の艤装を振り回して始めた。自分を軸にグルグル回り始める。
「それじゃあ、行きまーす」
「これは……まずい! 伏せろ!」
司令官が叫ぶと同時に、振り回した艤装に備え付けられている主砲が乱射を始めた。あの主砲も尋常ではない火力のせいで、工廠が否が応でも破壊されてしまう。防衛班もこればっかりは対処不能と退避。
見境なしの乱射なため、壁や天井が見る見るうちに崩れていく。私達はともかく、司令官がまずい。
「ウォースパイト! 提督を守ってくれ!」
「Certainly!」
無いよりマシと私達も艤装で身体を守りながら、瓦礫の落ちてこないところへ逃げ回る。まだ薬が効いていてくれてよかった。身体は何とか動いてくれる。
「こいつ……無差別か!」
「ガン子! その艤装止められる!?」
「無茶を言うな! 睦月のドラム缶より酷いぞ!」
サイズからして酷い質量兵器なのに、それが戦艦の主砲を撃ち続けているとなると、山城姉様ですら近付くのが困難。その状態で徐々にガングートさんに近付いていくので、砲撃を掻い潜りながら撤退し、打開策を模索しているほどだ。
と、同じ場所にいたはずの防空霞姫がいない。無差別攻撃を回避するために水中に逃げ込んでおり、徐々にこちらに近付いてきている。
『アサ、防空霞姫が近付いてきてるわ』
「わかってる! ガングート! 防空霞姫はこっちだ!」
「任せろ! 山城、そいつ頼んだ!」
「はぁ!?」
戦艦天姫を無視して、こちらに来てくれるガングートさん。司令官を守っているとはいえウォースパイトさんもこちらにいる。艤装不調で自衛は出来ないが、迎撃する準備は出来た。
「ったく、抵抗するんじゃないわよ朝棲姫!」
水中から飛び出すように私の前に現れる防空霞姫。瓦礫が落ちてくるこの酷い戦場の中でも、自分の目的は忘れていなかったようだ。
「おいおい酷いじゃないか。あれだけ仲良くした仲だろう!」
それを真後ろからガングートさんが殴り付ける。殺気に気付いて水母水姫艤装を振ったようだが、それを掴んだかと思うと、無理矢理引き千切った。
「ようやく潰したぞ。覚悟しろよ生ゴミが」
「よくもやってくれたわね……! だけど、それが最大のミスよ」
防空霞姫がニヤリと笑った時には遅かった。千切られた水母水姫艤装が自分の意思を持つかのようにガングートさんの手を抜け出し、事もあろうか一直線に私に突っ込んできた。本体から離れた艤装が動き出すとは誰も思っていなかった。あまりの不意打ちで誰も動くことが出来ず、吹き飛ばされるほどの衝撃で腹に噛み付かれる。
「くそっ、まずい……!」
『アサ、ごめん』
無理矢理主導権を奪う。
『何をする朝潮!? お前は引っ込んでろ!』
「アサはあちら側の感情を知っちゃダメ。戻れなくなるかもしれない」
噛まれた腹から強烈な快感が上ってくる。大量の『種子』が流し込まれ、次々と『発芽』しているだろう。吹き飛ばされたせいで誰からも中和を受けることが出来ず、自分で中和しようにも噛みつきながら私の動きを拘束してきている。
アサのまま裏切り行為をするのは絶対に食い止めたかった。純粋な深海棲艦であるアサが、艦娘を攻撃することに快感を覚えてしまったら、飲まれたままになる可能性はある。そもそもアサは黒の深海棲艦側だ。より飲まれやすいだろう。
「っぐ……抗うわよ……ギリギリまで……!」
『やめろ朝潮! お前こそ最後の変化を促されるぞ!』
「耐えるわよ、耐えてみせる、耐えてやる……!」
快感を与えられるのはこれで3度目だ。他の者より多少は慣れている。それに、これは一度受けた快感だ。必ず耐えてみせる。私が私であるために。