私、朝潮に接続された結果、再構築されて私のものとなってしまった水母水姫艤装。その中に入っていた意思、ヨルが私の頭の中に同居することとなった。
艤装の再調査と佐久間さんの再検査が終わり、一旦休憩。2人の結果待ちとなる。今は私室で待機。その間に、同じ立ち位置の先輩であるアサが姉貴分として一般常識を教え込んでいる。深海棲艦が人間の一般常識を教えるというなかなか無い状況だが、アサももうこの世界に生まれ落ちて長い。説明は少し荒っぽいが、適切な指導で世界に順応させていく。
『壊していいのは、敵だけなんだね』
『そうだ。敵が誰かは私と朝潮が指示してやるからな』
『はーい』
教育が物騒なのはもう仕方がないことかもしれないが、私の中で私達の敵に回らなければそれでいい。
『朝潮、艤装を出してもらっていいか』
「いいけど、何をするの?」
『ヨルが尻尾を動かせるかを確認しておく。出来ないなら別にいいんだが、出来たらいろいろ教えておかないとな』
確かに。知っておきたいことは先に知っておく方がいいだろう。これに関しては戦闘の幅に繋がるし、表側が尻尾をコントロールするという今までの感覚が狂うというのもある。
何かあってもいけないので、一旦工廠に移動。アサに頼まれた通り、艤装を展開。背部の自立型艤装と尻尾艤装を両方出した。
『ヨル、どうだ。動かせそうか』
『うーんとね、あ、動かせるかも』
私の意思と関係なく尻尾が動き出した。先端の頭部が私の方までやってきて擦り寄ってくる。
「上手ね、ヨル」
『これでご主人を守れってアサ姉に言われたよ。仲間を壊しちゃダメだけど、敵を壊したら気持ちよくなれるって聞いたから、頑張るね』
「ええ、お願いね」
尻尾の頭部を撫でると、感覚が繋がっていないにも関わらず、裏のヨルが少し気持ち良さそうな声をあげた。この艤装が自分自身だからか。
『褒められるのって、気持ちいいんだね。壊すよりも気持ちいいかも』
『ああ、そうだろう。いいことをすればいっぱい褒められるぞ』
『そっかー。なら頑張る!』
アサはこういう教育方針のようだ。褒めて伸ばす。ヨルにはそれが合っている。破壊で快感を得ているのは流石に問題がありすぎる。
この子が活躍する場は今後の戦場では少ないかもしれないが、ゆっくりと教え込んで共存できるようにしてあげたい。状況が良ければまた表に出てもらい、他の艦娘との交流もさせていきたいところだ。
ヨルが悪夢で遊んでいたせいで、私は酷く寝不足であった。そのため、お昼はそれを払拭するほどにお昼寝。夜に眠っているのではないかというくらい深く眠り、気付けば夕暮れ。昼食後すぐに眠りについたので、ざっと5時間ほど。普通に夜寝る分を昼に寝たようなものである。
夢の中で2人に出会うこともなかった。私が眠ると夢の世界が形成されるようだが、そこはアサが気を利かせてくれたらしい。今の私には心身ともに休息が必要だ。
「姉さん、随分とグッスリだったわね。昼寝でそれって余程疲れてたんじゃないの?」
「昨日は眠れなかったようなものだしね。久しぶりにこんなに眠れた気がするわ」
昨晩とは打って変わって身体が軽い。熟睡出来たおかげだろう。目も冴えている。
「これで魘される心配は無くなったわ」
「尻尾の艤装の意思だったのよね。どんな子なの。レキみたいなものって言ってたけど」
「話してみる?」
アサに聞くと、今までの数時間の教育のおかげで表に出してもひとまずは大丈夫となった。万が一の時はすぐに裏に引っ張り込むことが出来るため、手綱を握った状態で表に出てもらうことになる。
ということで、霞の前でヨルを表に出す。裏側に入るのにアサがいるというのはまだ慣れないものだ。
「んん、やっぱり変な感じー」
『まだ表には慣れられないか』
『元々が艤装だもの、これはゆっくり慣れていけばいいわ』
少しフラついたがなんとか安定。キョロキョロと周りを見回す。手をグーパーして身体の感覚を確認。やはり艤装の意思に肉体を与えると普通とは違う感覚になるのかもしれない。それでも動かし方がわかるのは、ベースが私の記憶だからか。
「あ、えーっと、か……すみ、カスミ!」
「あら、ちゃんと名前教えられてるのね」
「夢の中で首絞めた人って覚えてたらご主人とアサ姉に怒られた」
「私も怒るわそんなもの」
当たり前である。
ヨルは鎮守府の全員を『どうやって壊したか』でしか覚えていない。霞は特にネチネチと殺したため、印象が強いのだろう。他にそんな殺し方をした人はいない。霞は私の記憶の中でも特に立ち位置がいいが故に、そんな殺し方をしたのだと思う。私の中に入った時に目の前にいたということもあり、ヨルもすぐに顔と名前が一致した。
「私、ヨル!」
「姉さんの外見でこのテンションは凄い違和感あるわ。本当にレキみたいな子供なのね」
霞は私の妹だということもちゃんと教えてある。少なくとも敵対行動は取らないだろうし、仲良くすることに躊躇いも無いだろう。コミュニケーション能力がレキと同じほどに振り切れているみたいだし。
「よろしくねー」
霞を引き寄せて思い切り抱きしめる。感情表現が島風さんのようになってしまっている。さらには私やアサと違って力加減がめちゃくちゃ。添い寝の時以上に霞の頭が胸にめり込んだ。よりによって今は戦艦水鬼の服であるため、胸の上の部分は素肌。最初はジタバタしていた霞も、そのうち恍惚とした顔で堪能し始めてしまった。
「よ、ヨル、だっけ……この挨拶は私以外にしない方がいいわ……」
「えー、なんで? 首絞めるより抱き締めろってアサ姉に言われたんだけどなー」
「これヤバイ……多幸感凄い……」
アサが言っていることはこういうことでは無いと思うのだが、子供にはまだ難しかったか。とはいえ、魘されている私を介抱してくれた霞にはご褒美になった模様。力なくなすがままにされ、ビクンビクン震えていた。鼻息も荒い。
『カスミがヤバイことになってるが』
『そうしたのはヨルだし、教えたアサのせいでもあるんだけど』
霞、再起不能。
と、今度は春風が近付いてくる気配。まっすぐこちらに向かってくる。何か私に用がありそうだが、表にいるのはヨルのまま。
「御姉様、お目覚めですか。佐久間さんが……って、あの、何をしているのですか」
「あ、えーっと……はる……かぜ?」
『正解だ。ヨルは記憶力もいいな。朝潮をベースにしているだけある』
部屋に入ってきた春風は、中の光景に驚きながらも、次第にいつもの嫉妬顔に。
ヨルの存在を知っているのは、調査した工廠メンバーと霞、名前をつけてくれたガングートさん、あとは娘達だけ。尻尾の艤装のことすら、今はまだ知っている人の方が少ない。春風は洗脳された私を知っているため、尻尾のことは知っているが、ヨルのことは当然初見。艤装の意思が表に出られることなど露にも思っていない。私が私の意思で霞を抱き締めているのだと思っている。
『ヨル、ハルカゼにもやってやれ』
『ちょっとアサ』
「はーい。カスミは横に退けてっと……ハルカゼ、私、ヨル! よろしくねー」
霞をベッドに寝かせ、今度は春風を引き寄せて抱き締める。霞は霞で至福の表情でグッタリしている。多分抱き締める力も強い。
「お、御姉様!? なんのお戯れを!?」
「おねーさまってご主人のこと? 私はヨルだよ。ご主人の艤装なの」
「ふぇっ、ぎ、艤装ですか!? ど、どど、どういうことでしょう……」
春風も同じように胸に埋められた。ワタワタしつつも次第に静まり、霞と同様堪能するように。
『アサ、春風は尻尾のことは知ってるけどヨルのことは知らないわ。ちゃんと説明してあげないと』
『そういえばそうだな。ヨル、一度交代だ。朝潮が出るか』
『その方がいいわね』
「交代? はーい」
春風を抱きしめたまま私が表へ。感覚が手に入ると、春風側からも顔を押し付けてきているのがわかった。
「御姉様……わたくし、とても幸せです……」
「はいはい。私の話聞いてくれる?」
これは1人1人説明するのが面倒くさそうである。こうなった春風はおそらく私の話を聞いてくれない。
春風が私の部屋に来たのは、佐久間さんの再検査が完了したことを伝えるため。春風にざっと説明した後、そのまま佐久間さんの研究室へ向かった。春風は案の定心ここに在らずという感じだった。相変わらず抱きつく力も強く、春風もグッタリしている状態。霞と春風は部屋に放置していくことにした。
「あ、来た来た。検査の結果出たよ」
「どうでした。何かまずいことありましたか」
「いや全然。セキちゃんとも協力していろいろ調べたけど、特に異常無し。ただ頭の中に増えてるだけだね」
研究室でまず結果報告。異常無しと聞けてほっと一安心。やはり何事もないことが一番である。
「身体自体も健康そのもの。前に貰った血から何も変わってないし、細胞も大丈夫。ちょっと前と比べるとホント全回復したって感じ。薬漬けの状態、私も見てるけどホント酷かったからね」
さらにはよく眠ることが出来たので体調も万全。私はこれで完全に回復したと言える。
「艤装の方も異常無し。あのなんだかよくわからない機能、やっぱり何もなってないみたいだね」
「何もないならそのままであってほしいですね」
時間が経っても身体に支障がないということは、本当に何も無いのだと思う。稼働しているとしても、材料のない生産工場では何も作られるわけがないのだ。
「とまぁ呼び立てた割には何も無くてゴメンね。検査の結果は直に伝えた方がいいでしょ?」
「はい、ありがとうございました。何事もないことを早く教えてもらえて安心しました」
「ところでさ、ヨルちゃんはどう?」
むしろそっちが本題なのでは。
1つの身体の中に3つの意思が入っているというだけでもおかしな話なのだが、その1つは寄生している深海忌雷で、もう1つは後付けの艤装。おかしいを通り越して奇跡。
普通の艦娘どころか深海棲艦からも逸脱しているのは確実であり、佐久間さんの研究対象にもなり得る。敵の攻撃の解析ではあるものの、それ自体が深海棲艦の生態に繋がる部分もあるだろう。
「元気に一般常識を学んでいます。アサが姉貴分としていい仕事をしていますよ」
「そっか。なら心配ないね。やっぱり深海棲艦よりもわからない部分が多いからさ。問診みたいになるけど、いろいろ教えてもらえる?」
意思を持つ艤装は数あれど、本体側にまで意思が乗り込んでくることはあり得ない。深海棲艦だからといってもこれは普通では無い。佐久間さんにはそこが一番の興味の対象だろう。
「なら本人と話しますか」
「お、いいの? 是非是非。さっきはあんまりお話しできなかったからね。世間話がしたいよ」
またヨルを表に出す。3回目ともなると、表に出た瞬間にフラつくことも無くなった。今回は少しは面識のある佐久間さんが相手だ。
「あ、一度会った人! サクマサン!」
「そうだよ佐久間さんだよー。ヨルちゃん、ちょっとお話ししよう。いろいろ聞かせてもらえる?」
「いいよ!」
相変わらずスキンシップはハグから。こればっかりは教育を間違えたのではないかとアサに視線を送るが、知らぬ存ぜぬの一点張りである。子供には難しい例えの表現はしてはいけないという教訓が出来た。
「お、おお、成長した朝潮ちゃんの身体でこれされると刺激的ですなぁ。身体は大人、中身は子供、そのギャップ、素晴らしい。で、でもね、ちょっと力強いかな。佐久間さん人間だから折れちゃう、折れちゃう!」
霞や春風と違い、佐久間さんは一般人である。力加減を知らない大人の身体をした深海棲艦のハグでは骨が危ない。裏からもヨルに忠告して、ハグをやめさせた。あのまま続けていたら、佐久間さんが真っ二つになっていたかもしれない。
「お話って何をすればいいの?」
「何でもいいよ。話したいことを話してくれれば。好きに話して」
少し首を傾げた後、最近起こったことをただただ話していくヨル。
まだヨルとしての意思を持って間もないからか、話す内容は本当に簡単なこと。悪夢の中でやっていたことに関しては、佐久間さんも少し引き気味だった。とはいえ、深海棲艦の、さらには自立型の深海艤装の話だ。聞いているだけで参考になるのだろう。
これをキッカケに、ヨルを積極的に表に出すようになる。夕食の時に紹介され、配属されたばかりの艦娘の如く交流を深めることとなった。
元々、私のトラウマを素材に破壊衝動を満たしていたほどだ。深海棲艦としての本能はまだまだ強いだろう。だが、この交流でその衝動が抑えられているようにも思えた。それならば、裏に押し込めておく必要はない。どんどん会話をするべきだ。
「よろしくー!」
「強い強い痛い痛い痛い! ハグするならもう少しやんわりして!」
ただ、力加減は覚えた方がいいだろう。大人の力を持った子供というのが恐ろしいと実感した。
朝潮の変遷
1話〜: 朝潮(無改造)
13話〜: 朝潮改
24話〜: 朝潮改二
32話〜: 朝潮改二(電探眼鏡装備)
35話〜: 朝潮改二丁
60話〜: 朝潮改二丁(未来予知覚醒)
117話〜: 朝潮壊二帝(深海艦娘化)
136話〜: 深海朝棲姫(深海棲艦化)
166話〜: 深海朝水鬼(第1段階成長)
202話〜: 深海朝水鬼(第2,3段階成長、戦艦化)
206話〜: 深海朝水鬼(練習巡洋艦業務請負)
224話〜: 深海朝水鬼(水母水姫艤装装備)