欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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急成長

「電探反応無し、異常ありません」

 

霞も立ち直り、不安要素が無くなった私、朝潮は今日も定期の哨戒任務に勤しんでいた。今回は対空担当、電探による制空権の索敵だ。今の私には一番の得意分野である。

 

「ん、ソナーに感アリ。潜水艦が近くにいるね」

 

対潜担当の響さん(ヴェールヌイさん自身が響でいいと言ったのでそちらで統一する)が敵の反応をキャッチした。ここ最近は潜水艦の偵察や敵艦載機の哨戒が多いらしい。まれに駆逐艦級程度も出るほど。私の参加した哨戒任務でも見つかるとは。

 

「哨戒部隊旗艦の初霜です。提督、ソナーに感アリ。敵潜水艦を発見しました」

 

目視確認かつ主砲と雷撃担当の初霜さんが司令官に連絡を取る。本来であれば撤退から実働隊を待つが、潜水艦の場合はそのまま私達駆逐艦の部隊が殲滅した方が早い場合がある。

 

「はい、了解しました。響さん、対象は」

「1体、偵察機だろう」

「ではこの場でお願いします」

「да. ヴェールヌイ、出るよ」

 

手早く索敵し、即座に撃滅。改二となった響さんも、皐月さんと同様全ての能力が飛躍的に向上していた。対潜に関してはスペックアップが大きく、1体程度なら追い込む必要もなく終わらせる。

 

「殲滅終了、哨戒任務に戻る」

「了解。提督、処理しました」

 

この後も何体かの潜水艦の存在を確認し、その都度、響さんが処理している。思った以上に多い。

私の戦闘経験は、未だに初陣の救援任務しか無かった。平和なのはとてもいい事だと思う。だが、戦闘経験が少ないと、いざ実戦となった時にまともな戦闘ができないかもしれない。ただでさえ単独戦闘ができないのだ。経験はなるべくしておきたい。

 

「近頃は多いですね」

「ああ、昨日も出たらしい。空母隊も哨戒機を多く飛ばしているそうだよ」

 

近々、敵の大規模な侵攻があるのかもしれない。それまでにもっと練度を上げ、いざという時に備えなければ。

 

「そうだ、初霜さん。改二おめでとうございます」

「ありがとう朝潮さん。おかげでみんなを守れます」

 

ここ最近の訓練や哨戒任務での敵機殲滅で、初霜さんは改二になれる練度まで上がっていた。駆逐艦の雷撃担当は貴重なので、司令官もすぐに改装を決定。無事に改二へと改装された。

ちなみに初霜さんは制服だけが変化するタイプ。きっちり着こなしていたブレザーが少しはだけて袖を捲っている程度ではあるが。

 

「朝潮はもう少し先のようだね」

「実戦経験が1回だけですから。訓練だけではとてもとても」

 

私の改二はかなり高い練度が必要らしい。そこから改二丁になるには、さらに練度を上げる必要がある。道のりは厳しい。まずは改二にならなくては。

 

「あ、敵哨戒機発見」

「艦載機もいますか。今日は本当に多いですね」

 

こちらは私の仕事だ。高角砲を構え、狙いを定める。いつも訓練で相手にしているものとは雲泥の差だ。攻撃もしてきそうにないので、手早く片付けた。

 

 

 

哨戒から戻り、司令官に報告をする。

ここ最近の敵機の確認情報から、司令官も近々何かありそうと考えているらしい。最前線の鎮守府なのだから、一番最初に交戦するのはここだろう。

 

「やはり戦力増強を考えた方がいいみたいだね」

「ですが、近隣の鎮守府では欠陥(バグ)持ちの艦娘は報告されていませんよ」

「ああ。だから、艦娘全員の底上げを行おうと思う。特に改二が実装できる者は全員改二になってもらうくらいにしようか」

 

司令官と大淀さんが相談しているが、今まで以上に激しい訓練をするぞという事に聞こえた。だが、大きな戦いが来るのなら、それくらいはしておかないと身を守ることができないだろう。

何せ、この鎮守府の方針は安全第一。安全に事を済ませるには、できるだけの力が必要だ。矛盾しているようにも感じるが、そこは仕方のないこと。

 

「最優先は白露君と朝潮君だね。駆逐艦の改二はなるべく多くしておきたいし、幼い娘達には身を守る手段を早く持ってもらいたい」

「ガングートさんや霞さんも改二がありますが」

「急ぐにはまだ早すぎるよ。哨戒任務もまだなんだ」

 

私の優先順位が高いのは嬉しいことだ。改二になれば今よりも生存率が上がる。それだけでもやる価値は充分にある。

 

()()訓練をやろうか。2人には酷だが、私も今ばかりは鬼になろう。強く成長してもらいたい」

「あのって、ああ()()ですか。最後に受けたの誰でしたっけ」

「改二大詰めの時の吹雪くんだね」

 

一体何をされるというのだろうか。

司令官が鬼になるというだけあり、相当ハードな訓練なのはわかる。だが、それをこなせば短期間で改二、ひいては皆の力になる事ができる。

 

「朝潮君、明日は大型の訓練を行う。()()()()()()()()()

「は、はいっ」

 

念を押されるほどだった。訓練の内容も誰にも口外させないように手配しているほどだ。覚悟より、期待が大きくなってきた。

 

 

 

翌日の朝、工廠から一人で出撃することになった私。訓練をつけるものはすでに海上で待っているという話だ。白露さんは午後から同じことをするらしく、自室で監禁、もとい待機させられている。扉の前に山城さんが立っていたのはそういうことか。

 

「えっと、ゴーヤさんが待ってると聞いているんだけど……」

「来たでちね。こっちこっち」

 

いつもの対空訓練をする場所からさらに沖に出た場所にゴーヤさんが待っていた。海上艦である私に潜水艦が付くというのは今までに無かった。周囲には何人かの艦娘がこちらを見ている。まさか全員使って訓練するのだろうか。

 

「ルール説明するでちよ。全部避けて、艦載機3機と潜水艦1人を倒せれば勝ち。服がペイントで染まりきったら負け」

「わかりました。潜水艦に狙われながら対空ということですね」

「うーん、ちょっと違うでち。はい、みんなー準備してー!」

 

周りにいた艦娘が全員武装状態になっていることに今更気付いた。

艦載機を飛ばす空母は龍驤さんと蒼龍さんに加え、鎮守府唯一の()()()()()空母である雲龍型正規空母1番艦、ネームシップの雲龍さん。龍驤さんと同じ式神型で、欠陥(バグ)は搭載数不備。軽空母である龍驤さんよりも艦載機を飛ばすことができない。その分火力に特化したらしい。

攻撃役は火力特化。主砲特化の古鷹さん、清霜さん、さらには鎮守府唯一の()()()()()()戦艦である金剛型巡洋戦艦3番艦の榛名さん。欠陥(バグ)は低速化。高速戦艦の売りが無くなってしまっているが、火力は健在。榛名さんにも改二があるが、練度がまだ足りていないとのこと。

 

「えっと、もしかして、全員から攻撃受けるんですか」

「そうでち。勿論ゴーヤ達も狙うよ」

 

空母戦艦組に加えて潜水艦が3人。対潜訓練の時のゴーヤさん、イクさん、しおいさん。元帥閣下の護衛艦隊よりも多い人数を、私1人で捌けと。

 

「地獄なのでは」

「でも即効で強くなれるでち。空母が発艦したら開始だから、頑張ってね」

 

ゴーヤさんが潜っていった。

 

「朝潮、この訓練やるっちゅーことは、期待されとるってことや! うちらも手ぇ抜かんから、気張りぃ!」

「は、はいっ! よろしくお願いします!」

「じゃあ、訓練開始やぁ!」

 

空母3人による一斉発艦。いつもの訓練とは比にならない艦載機の量。

 

「攻撃開始します! 朝潮ちゃん、避けてくださいね!」

 

さらに榛名さんの一声から海上艦の攻撃が始まる。最近の対空訓練は主砲による攻撃を避けながらというのが入ってきていたが、この量は当然初めてだ。まず戦艦の砲撃を避けることに精一杯になる。

 

「これはっ、き、きついっ!」

「上ばっか見てるとダメなのね」

 

気付いた時にはイクさんが頭だけ出していた。時すでに遅く、脚に一発貰う。

そこから総崩れだった。艦載機の爆撃を避けたら戦艦主砲の餌食に。どちらも見えてくるようになったら潜水艦の攻撃。

だが、大規模な敵の進行があるなら、これくらいの攻められ方もする可能性はある。さすがに1人で全部捌くことは無いだろうが。

 

「せめて艦載機を……!」

「下が空いてるでちー」

「わかってますよ!」

 

爆雷を投射しながら退避。ゴーヤさんの機銃が背中に当たるが、訓練でそれはもう気にしていられない。爆雷が命中したかは定かではないが、後ろも振り返らず艦載機に狙いを定める。

 

「余所見!」

「っぐっ」

 

古鷹さんに肩を狙い撃たれた。照準が定まらない。わかって狙ってきている。大火力の2人と違って、古鷹さんはピンポイントの射撃で私を揺さぶってきた。

 

「動きが止まったわね」

 

今度は爆撃の雨。こればっかりは逃げるしかない。進行方向、足元を確認しながら退避。戦艦はまだ向いている方向にしか撃ってこないので、それだけを意識しながら移動を続ける。

すでに私の制服は半分が染まっている。まだ訓練は終わらない。

気付けば、潜水艦の攻撃が少し減っている。今撃たなくてはチャンスが無いだろう。あれだけ艦載機が多いなら、ある程度の照準でも当たるだろう。

 

「ってぇーっ!」

 

密集している部分を狙って射撃。同時に戦艦主砲をもろに受けてしまうが、3機の艦載機に命中した。

 

「1回目、しゅーりょー!」

 

龍驤さんの宣言で訓練が一旦終わる。終わったということは、先程の爆雷はちゃんと当たっていたようだ。

だがそれよりも気になったことがある。今1回目って言った。まだ続くらしい。

 

「いやぁ残念やなぁ。艦載機やられる前に朝潮全部染まっとるで」

「えっ、き、気付きませんでした……」

「じゃあ、洗い流したらもう一回やで」

 

やっぱり。休憩も与えられず、同じことを何度もすることになる。これは大きく練度が上がりそうだ。私が先に潰れそうな気がしないでもないが。

 

 

 

午前中、私の時間は全てこの訓練に費やされた。

1回が早く終わるので何十回とやったが、それだけやっても艦載機3機が墜とせなかった。潜水艦はまだ何とかなるが、それも隙を見せて上に上がってきたタイミングで爆雷を投射することくらいしか対処する手段がない。それはこの鎮守府の潜水艦だからやれることだ。

 

「お疲れさん。さすがに初日じゃあ無理やったか」

 

雲龍さんに曳航してもらいながら龍驤さんがやってきた。2回目以降も割と惜しいところまでは行くのだがうまくいかない。コツを掴むというより、周囲の把握が間に合っていない。

 

「明日もやから」

「え?」

「これ、明日もやから。無傷で3機墜とせるまで終わらんから」

 

これは急ピッチな練度上げである。嫌でもできるようになるだろう。今までの訓練が全て簡単に思えるほどだ。

 

「最後の方はいい感じだったわ。明日も頑張って」

 

雲龍さんに頭を撫でられた。くすぐったかったが、期待されているのはわかる。

移動できる空母が雲龍さんしかいないため、訓練よりももっぱら戦闘に駆り出されている。こういった形で力を貸してもらえるのは光栄だ。

 

皆さんはお昼の休憩後、そのまま白露さんの訓練にも参加するらしい。白露さんの場合は私と違い対空ができないため、榛名さん、清霜さん、古鷹さんに射撃を当てることが出来たら勝ちになるそうだ。爆撃を避けながら戦艦に攻撃というのも相当辛そうである。

 

「大丈夫ですか? 痛くなかったですか?」

 

工廠で榛名さんに心配された。痛くなかったといえば嘘になるが、跡が残るような痛みではない。特にダメージが大きかったのは古鷹さんのピンポイントな射撃の方だ。

 

「大丈夫です。さすが戦艦、範囲も攻撃力も高いですね」

「速度が下がっても攻撃力はそのままですから、榛名は大丈夫です!」

 

戦艦の主砲火力は榛名さんと清霜さんに頼るしかなく、清霜さんはオーバースペック故に燃費に悩まされているため、雲龍さんと同じく、友軍艦隊には榛名さんは引っ張りだこだった。榛名さんがなかなか訓練にも参加していないのはこのため。

 

「榛名はしばらく朝潮ちゃんと白露ちゃんにつきっきりになりますから、お互い頑張りましょう。榛名も練度を上げて改二にならなくてはいけませんから」

「はい、よろしくお願いします」

 

とは言われたものの、今回の訓練は今までに比べて群を抜いてキツイ。終わった時には身体がガクガクだった。この状態でお風呂に入ったら初陣の後くらいのダルンダルンになるんだろうなと腹を括った。

 

午後の白露さんも初日ではクリアする事ができず、爆撃を頭から被って髪が染まったレベルだった。なんとか榛名さんには当てられたらしいが、1番のネックは清霜さんだそうだ。小柄で素早い戦艦という規格外は、欠陥(バグ)により低速化した白露さんにはクリアするための壁となっている。

 

それでも2人して充実していた。先が見えているからこそのこの訓練。知ることは全て知り、改二に臨みたい。

 




戦艦3空母3とかいう部隊は難関海域だとよく出ますよね。イベント海域だと輸送艦隊にそれぶつけてきたりするから困る。
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