混ぜ物を含む水雷戦隊が鎮守府に攻め込んできた。当然ながら深海組は避難対象なのだが、その中でヨルが自分自身に異変を感じる。それに応じて艤装を展開したところ、私、朝潮のみ、深海艤装に過負荷がかからなくなっていた。これがヨルのおかげなのかは定かではないが、動けるようになったのはありがたい。
出撃可能になったため、私のみ戦場へ。そこに待ち受けていたのは、軽巡岬姫率いる水雷戦隊。駆逐陽姫もいたが、問題はそこではない。頭に深海忌雷が寄生し、生死不明な状態の駆逐艦が随伴として運用されていた。
私を含めた5人でその随伴艦、人形を撃破することが今回の戦いの目的となる。
「さっさと終わらせて、混ぜ物と交戦している連中に合流する。我に続け! Ураааааааа!」
ガングートさんの咆哮と共に、5人同時に突撃。本来なら私とガングートさんで白兵戦をし、最上さん、古鷹さん、ポーラさんがそのバックアップとなるが、私以外の人も今回の敵にはいろいろと思うところがある。まさかの5人全員特攻。
人形4人の駆逐隊は、バラけることなく完全にチーム戦の様相。個別撃破とは行かなそうだ。こちらに対して集中砲火を仕掛けてくるため、それを弾ける私とガングートさんが先頭に。
「朝潮、挟み撃ちにしよう。ボクと古鷹をあいつらの真裏に投げてくれないかな」
「了解。古鷹さん、アサの腕へ。最上さん、ヨルの頭へ」
言った時には立ち位置完璧。ガングートさんを盾に、射出の構え。まずは腕に乗った古鷹さんから。
「オッケー! お願い!」
「古鷹さん、投げます! アサ、やって!」
『おうよ!』
こなれた感じでアサが放る。やはり出力が上がっている。古鷹さんだって重巡洋艦だ。駆逐艦よりは重量がある。それでも軽々投げ飛ばし、敵駆逐隊の真裏に猛スピードで飛んでいく。いくら意思が無くても、このスピードにはすぐに追いつけない。
「じゃあ次はボクだね」
「続いて最上さん行きます! ヨル!」
『よーし! おりゃあ!』
ヨル頭部のカタパルトから最上さんを放り投げる。アサの時よりも強引かつ雑ではあるものの、それ以上のスピードで飛んだ。
『上手いぞヨル』
「ええ、上手よ」
『やったー!』
褒めて伸ばすスタイルは戦場でも変えず。
敵頭上を越える寸前で古鷹さんと最上さんは人形の頭部に主砲を撃ち込んだ。が、頭部に寄生した深海忌雷が余程硬いのか、直撃しても頭部が破壊されるどころか首が捥げることもない。一番手っ取り早い対処法は使えないということがここでわかる。
「硬いなぁ……古鷹、手脚狙おう」
「だね。動きを止めます!」
着地と同時に脚への砲撃。しかしこれは砲撃自体を蹴られて回避。身体は駆逐艦だがめちゃくちゃな強度。さらにいえば、あの回避の仕方は扶桑姉様のものに近い。
人形達は正直、防空霞姫よりも厄介な敵だった。感情がないために煽る事も出来ず、疲れがないためにペースを崩さない。淡々と、黙々と、こちらを攻撃するだけの殺戮人形。攻撃力は深海側にしては並程度だが、数が集まるとシャレにならない。足止めを狙った最上さんと古鷹さんが集中的に狙われ始める。
「ロッソ、ビアンコ、撃ちますよ〜。Fuoco!」
それを飲酒状態のポーラさんが砲撃。隙をついた砲撃は素面のときより精度が上がり、装甲の隙間である関節部分を的確に狙う。これは決まったと思った攻撃は、他の人形がガード。思考がない割にはチームワークまで整っている。
「うぅ〜、ズルくないですか〜」
「彼奴等、防空霞姫の敗北で学んでいるな。ははっ、痛快だな!」
砲撃が効かないならと、私とガングートさんが白兵戦を仕掛ける。突っ込むということは敵の猛攻を掻い潜らなくてはいけないが、その隙は最上さんと古鷹さんが作ってくれた。動きを止めるために脚を集中的に狙ってくれているおかげで、私達が近付く隙は出来ている。
「貴様と並んで白兵戦をするとはな」
「私も予想外ですよ。戦っているのは私ではない感じですが」
固まって行動する4人のど真ん中を切り込む、たった2人のネルソンタッチ。まずは2人ずつに分断。2人を最上さん、古鷹さん、ポーラさんに任せ、残り2人を私とガングートさんで引き取る。
『1人壊すよ!』
『おう、やれヨル!』
殴りかかったところで尻尾が勝手に動き、完全に不意打ちで1人の胴体に噛み付く。それを察知した他の1人が尻尾を切断するために動き出すが、そこはガングートさんが強引に掴み上げてブレーキ。
『真っ二つー!』
そのまま噛み砕いてしまった。人としての形を失った人形はその場で消滅。心身ともに深海棲艦化しているため、死体が残らないことが唯一の救いだった。冒涜された魂に心の中で謝罪しながら、次の敵を見据える。
「やるなぁ朝潮! いや、それはヨルの方か!」
「この子は容赦がないので!」
ガングートさんは人形の首根っこを掴んでいた。防御の方法は扶桑姉様を模倣していても、こういうところは普通に駆逐艦。掴んでしまえばこちらのもの。砲撃では折れなかった首も、直に力を加えてやれば、頭ごと潰れる。
「すまんな、貴様達を救う方法は死しかないんだ」
小さくガングートさんの舌打ちが聞こえた。この敵を倒すのは精神的に疲労を感じる。
私とガングートさんが撃破した人形が探照灯を持っているものだったため、戦場は暗闇に包まれた。
「やっぱり白兵戦組は早いや。ボクらは結構いっぱいいっぱいだよ」
そう言いながらも躊躇なく攻撃を続ける最上さん。古鷹さんとポーラさんをバックアップに使い、2人同時に相手取っても関係無し。先程から的確に攻撃を加え、それが効かないと判断すると次の手段をすぐに導き出す。
そもそも艦娘としての性能に
「古鷹、ポーラ、足止めしてくれるかい」
「了解」
「Comprensione〜」
頭には攻撃しても効かず、他の場所は防御される。隙を突いたとしてももう片方が相方を守る。ならば、両方同時に足止めして、カバー出来なくする。単純なことでも、人数がいないと出来ない作戦。
同時に動きが止まった瞬間に、片方を最上さんが蹴り倒した。もう片方はポーラさんが接近し、ロッソとビアンコにより両腕を拘束。
「ゴメンね。こういう形でしか救えなくて」
倒れた人形を踏みつけ、顔面に向けてゼロ距離で主砲を連射。一撃では破壊出来なくても、何度も撃てば破壊が出来る。しかもゼロ距離。着弾時の爆風で最上さん自体にもダメージが入るが、別段気にした様子もなく、消滅するまでただただ撃ち続ける。
冷酷に敵を処理する。今は探照灯もつけていない状態。爆破の光でチラチラ見える最上さんの顔は、仮面も相まって感情が欠落しているように見えた。
「ポーラちゃん、そのまま押さえておいて」
ポーラさんがロッソとビアンコで拘束している最後の1人は、古鷹さんが頭を撃った。最上さんと同じように、消滅するまで何度も何度も。そのまま撃ってはポーラさんに当たってしまうので、真横から。
今回の敵は、酷い有様になっているとはいえ艦娘の外見に近い。裏切りの記憶を持っているポーラさんにそれを撃たせるのは酷というもの。それを考えた古鷹さんが、汚れ役を買って出た。爆破の光で見えた古鷹さんの顔は、最上さんとは打って変わって苦痛に歪んだ顔。
「敵駆逐艦4体撃破。残りは混ぜ物だけだね」
表情を変えず言う最上さん。心情はあえて探りはしない。いろいろ耐えながら戦っているようにも思えた。
私達が人形を処理している中、時津風さん達は駆逐陽姫と激戦中。駆逐陽姫は相変わらずレ級艤装を展開し、全ての攻撃を繰り出しながら猛攻してきていた。
「艦載機は私が処理するから!」
「さんきゅーブッキー! 魚雷がうっざいなぁ!」
「そっちも私が処理する!」
ここで真価を発揮しているのは吹雪さんである。
元々対空特化のスペックだったものを、深雪さんを見習って万能タイプに鞍替え。対空メインではあるものの、精密射撃や魚雷によるスナイプなど、全ての手段を鍛え上げていた。
本人曰く、初期艦の意地。攻めより守りに特化しているのは、吹雪さんの人柄か。
「艦載機の数が多いなぁ!」
文句を言いながらも1人で処理している。爆撃を避けながら魚雷まで処理し、時津風さんと榛名さんの道を開ける。
「カスミちゃんの仇め! 大人しく死んでください!」
「んじゃあさ、雪風。あたしらが1人殺されたとして、仇取りに来たら大人しく殺されるの?」
「ママの指示ですし、そちらが殺されて当然なんです! ヒナタ達が死ぬ理由は無いです!」
滅茶苦茶な理論。戦艦天姫と同様、破綻した思考で植え付けられた北端上陸姫至上主義のせいで、自分達が正義であると思い込んでいる。私達が正義であるとは到底言えないが、少なくとも私達が攻撃される道理は無い。むしろこの戦いに正義なんぞ無い。
「……雪風、やっぱダメだね。話になんない」
「話なんていらないよ時津風。ヒナタはここのみんなを殺すの。そしたらアサちゃんが壊れてくれるんだよね。それがママの望みなの。なら時津風は死ななくちゃいけないの」
レ級艤装でこちらを狙ってきたタイミングで時津風さんも主砲による砲撃。榛名さんと協力して本体を攻撃していく。主砲による砲撃は榛名さんがガードし、艦載機と魚雷は吹雪さんが処理。時津風さんは邪魔されずに延々と攻撃を続けていく。
「鬱陶しい人達ですね。ヒナタ、今日は本気出しちゃいます」
防空霞姫は防空棲姫と水母水姫の艤装のハイブリッドだった。駆逐陽姫もレ級艤装だけでは無さそうである。以前からあちらは尻尾がトレンドな感じはしたが、駆逐陽姫は既に尻尾を持っている。
「夜じゃ意味ないですけど、ヒナタ、時津風を直に殴りたいです。殴って殺してあげます」
両腕が胴体と同じほどの大きさの艤装に包まれた。あれは、軽巡ツ級の腕。対空特化の艤装のはずだが、あの巨大な拳なら白兵戦も可能だろう。
駆逐陽姫はイロハ級の性能の集合体と見た。その筆頭がレ級。その次がツ級。ならば、ヲ級などが入っていてもおかしくない。とにかく万能に、それを雪風さんにやらせていることで、驚異の性能を実現している。
「それじゃあ、死んでください!」
「誰が死ぬか!」
今までとは打って変わって接近戦を仕掛けてくる。レ級艤装とツ級艤装での強烈な打撃。一撃貰った時点で大破は必至。そうなると、それに対応するのは同じように戦う榛名さんになる。
「時津風ちゃん! 榛名が守ります!」
「邪魔です!」
ツ級艤装での拳をAGPで受け止める。その衝撃は海面に逃がすが、水飛沫の大きさがレ級主砲を受けたときよりも大きい。これは一撃で轟沈するのが目に見えている。
止められた反動を使ってレ級艤装まで振り回してくるが、同じようにガード。右でも左でも衝撃の受け流しは出来るみたいだ。
「どれだけ受け止められますかね!」
「どれだけ来ても、榛名は大丈夫です!」
このガードと水飛沫の合間を縫って、時津風さんが回り込んで接近。榛名さんに集中してるところを見計らい、背後からの攻撃。卑怯だの何だの言っていられない状況であるのは間違いない。出来る戦いは全てやっていかなくては勝てるものも勝てない。
「2人がかりとか恥ずかしくないんですか!」
「どの口が言うんだよ! いやらしい攻撃ばっかりしてきて!」
榛名さんのことすら考慮しない攻撃だったが、レ級艤装で弾かれる。榛名さんの方はツ級艤装で押し返す。戦艦含めた2人がかりでも、未だ無傷。前回は6人がかりで艤装を破壊するところまでしか行けなかったため、3人ではかなり厳しい。その上吹雪さんは2人を他に気を向けずに戦闘が出来るようにするための補助に徹している。
1人で混ぜ物1人を撃破したガングートさんがフリーになればまだ善戦出来るかもしれない。
と、ここで私達の人形処理が終わる。5人が一気にフリーに。精神的にダメージは受けているが、現状を打破するための戦力はこれで手に入る。
「時津風! 榛名! 援護するぞ!」
「ガンさん早いね! 最高!」
私も時津風さんの方へ。最上さん率いる夜間任務組は未だ接戦中の天龍さん達の方へ。
「うそ、みんなが……」
「貴様はあの仲間を見て何も思わなかったのか。頭に寄生され意思も奪われていたんだぞ。救済の方法が死しか無かったんだ。貴様は何を思っていた」
「ママが作ってくれたヒナタの仲間を……絶対に許しません!」
会話すらままならない。あちらは仲間を殺された怒りで我を忘れている。こちらは艦娘への冒涜を見て怒り狂いそうだというのに。
レ級艤装、ツ級艤装に加え、ヲ級艤装が現れた。艦載機の量が一気に増え、吹雪さんも押し潰されかけたため、大急ぎで私が対空砲火に参加する。身体も艤装も変わり果てたが、高射砲は未だに健在。
「ありがとう朝潮ちゃん! ギリギリだった!」
「間に合ってよかったです」
その間に駆逐陽姫はレ級艤装をブンブン振り回しながら無差別攻撃を始めた。白兵戦を仕掛けているガングートさんと榛名さんには、重い一撃が何度も繰り出される。時津風さんは近付けなくなってしまった。魚雷の対処が出来なくなってしまい、戦闘が一気に困難になる。
「重いな……あの霞もどきより強いのはわかるぞ」
「貴女ですか、カスミちゃんの仇は!」
「ああ、私がこの手で霞もどきを殺した」
怒りの矛先を自分に集中させたガングートさん。攻撃も強いが防御も一級品だ。ガングートさんが受け続けている間に、攻撃できる隙を作り出す作戦。
「絶対に許しません! ここで確実に沈めます!」
「悪いがこちらの台詞でもあるんだ。貴様らは蛮行を働いた。艦娘の命の冒涜だ。よって、死をもって償わなくてはいけない。貴様はここで沈むんだよ雪風もどき!」
新たな開戦。私は吹雪さんと協力して、あの場に降りかかる全ての攻撃を捌ききることが仕事になった。ガングートさんと榛名さん、そして一番躍起になっている時津風さんを全力でサポートする。
駆逐陽姫は全てのイロハ級を内包した混ぜ物。イ級やロ級と言われてもピンと来ませんが、レ級、ツ級、ヲ級に加え、ネ級改、ル級、ホ級改など、イベントでも大破要因となるイロハ級もいっぱいいるので、驚異であることには変わりません。