欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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悲痛な戦い

混ぜ物水雷戦隊との激戦続く夜の海。人形4人の撃破が完了し、残りは混ぜ物2人。旗艦である軽巡岬姫は天龍さん達に任せ、私、朝潮は駆逐陽姫の撃破に乗り出す。

イロハ級の能力を全て持ち合わせていそうな駆逐陽姫は、たった1人でも1部隊分の働きをする。現に、私と吹雪さんはレ級とヲ級の艤装から発艦された艦載機の処理に追われ、ガングートさんと榛名さんはレ級艤装とツ級艤装による猛攻に防戦一方。嵐のような猛攻で時津風さんも攻撃する隙がなかなか見つけられず、長期戦の様相。

 

「カスミちゃんの仇! そろそろ死んでください!」

 

ツ級艤装が消えたかと思うと、主砲が接続された盾のような戦艦ル級の艤装が出現。攻防一体の艤装により、近付かず砲撃をし始めた榛名さんと、隙を見て砲撃をする時津風さんの両方の攻撃を防御しながら砲撃。盾での防御と砲撃をぶつける防御で、一切傷がつかない。

似たように攻撃してきた防空霞姫はここまででは無かった。これは完全に基礎スペックの問題。霞と雪風さんなら、悔しいがどうしても雪風さんの方に軍配が上がってしまう。手数が多すぎるというのもあるが。

 

『ツ級艤装を消した? 同じ位置に出るからか……?』

「同時に3つまでなのかもしれないわ。なら、4人目が入れば打開出来るかも」

『なら私行きたーい!』

 

レ級艤装とヲ級艤装のせいで制空権はギリギリ。私と吹雪さんで手一杯の状況。そこから抜けるのは厳しいだろう。だが、一応聞いてみる。

 

「吹雪さん、防空1人で行けますか」

「わぁ無茶振り! でも、いいよ。持ち堪えるから!」

「流石です!」

 

少しの間なら1人でも制空権は維持出来るだろう。あちらだって常に艦載機を発艦し続けているわけではないので、数は徐々に減ってきている。今ある分は私の艦載機とヨルの水上機、そして吹雪さんの高射砲に任せ、一時的に駆逐陽姫の行動阻害に入る。

現段階での一番の問題はレ級艤装。あれさえ破壊出来れば戦況は一気にこちらに傾くはず。あの艤装を破壊すべく駆逐陽姫の背後、それに牽制され続けているガングートさん寄りに。砲撃も飛んでくるが、掻い潜りながら接近した。

 

「一時的にこちらに入ります! すぐに戻りますが!」

『まずは一発!』

 

振り回されるレ級艤装にアサがタイミングを合わせて一撃入れる。そんなことでは破壊されそうになく、むしろこちらが弾き飛ばされる。あの艤装、大分使い慣れているようだ。

 

『流石に硬いな』

『それなら今度は私!』

 

またタイミング合わせ、今度はヨルが噛み付こうとする。が、次は直感回避により空を切ることに。その隙を逃さずガングートさんも攻撃を繰り出すが、それすらも綺麗に回避。ル級艤装で榛名さんと時津風さんを牽制しながらこれである。相当辛い。

回避しながら砲撃と魚雷を垂れ流してくるため、それの対処も厄介だった。私とガングートさんは砲撃はまだマシだが魚雷に関してはどうにも出来ない。回避する以外の選択肢が無い。

 

「なら……!」

 

当たらないのなら、当たる未来を手繰り寄せる。全てを対象に未来を予知。まだ未知の艤装があるかもしれないが、現在わかっている情報から最善の未来を導き出す。行動予測を直感で乗り越えてくることも加味して、今までの行動、前回の戦闘も考慮に入れた結果を、行動に移す。

 

「ここ!」

 

攻撃の隙間。直感の先。山城姉様のルーティンまで真似て、背中に一撃。当たる寸前で身を引かれたようだが、それでも体勢を崩すのには問題が無かった。

私の仕事は撃破ではない。艤装の破壊だ。その一番簡単な手段が、私で不意をつき、アサとヨルに任せること。一番距離があるのはヨルがコントロールする尻尾だ。このタイミングでなら、ヨルが一番いい動きをする。

 

『どりゃあー!』

 

尻尾が伸び、真横からル級艤装の盾を噛み砕く。それと同時にこちらに引き寄せた。

 

『ナイスだ。こいつも吹っ飛ばしてやる』

 

頭上のヲ級艤装をアサが殴り飛ばし破壊。これで艦載機の心配が少しだけ薄れる。未だ最大の障害であるレ級艤装は無傷なものの、戦いやすくなったのは目に見えてわかる。破損したル級艤装では戦いづらいのだろう、即座に消し、ツ級艤装に戻す。

 

ただしその時、死角が出来る。

 

「榛名パンチ、ですっ!」

「っぎぃ!」

 

不意をつける場所から、榛名さんがAGPによる一撃。即座に対応し、ツ級艤装でガードするが、捩じ込むように殴り飛ばし、艤装を破壊。返しで腕に備え付けられた主砲を放たれたものの、掠めただけで軽傷。今なら『種子』に怯えなくてもいい。

 

「負けない! 仇を取るためにも、負けないんだからぁ!」

「それはこちらも同じなんだよ」

 

集中力が切れてきている。レ級艤装を榛名さんに向けたが、その後ろにはガングートさんが待ち構えていた。レ級艤装を握り潰そうと腕を伸ばすが、またここで直感回避。なかなかあちらの艤装は破壊させてくれない。前回破壊されたことを相当根に持っているようだ。

 

「まだ、まだです!」

 

今度は重雷装巡洋艦の艤装。おそらく雷巡チ級のもの。さらには重巡ネ級の艤装も同時に展開。キリがないが、駆逐陽姫の異変に気付く。

今まで疲れ1つ見せない戦いだったが、妙に汗ばんでいるのがわかった。なるほど、艤装1つ展開するごとに消耗するということか。

戦艦天姫もそうだが、混ぜ物は総じて持久力が無いのかもしれない。粘って粘って、粘り切れば勝機が見出せる。

 

「雪風、なんでアンタが被害者面してんのさ。お互い様でしょ」

「うるさい! ヒナタの友達を何人も殺して!」

「あたしらは死にたくないから戦ってんの。それをそっちは何さ、ママに褒められたいからだっけ? バカじゃないの? 褒められたいならおうちでお手伝いでもしてろっての。だから艤装も壊されて泣いて帰ることになるんだ」

 

防空霞姫に対してのガングートさんのように、駆逐陽姫を面と向かって煽る時津風さん。いつもののんびりした雰囲気はもう何処にも見えない。駆逐水鬼と戦っていた時とも違う。無表情で、冷酷で、静かに怒りを灯し続ける。

 

「みんながお膳立てしてくれたんだから、ここで死になよ。どうせアンタの愛しいママは泣いてもくれないよ。使えない手駒だったって、すぐに忘れられるんだ」

「そんなことない! ママはいっぱい褒めてくれる! ここで皆殺しにすれば、ヒナタのことを!」

「そんなくだらない理由でさ……」

 

時津風さんからのアイコンタクト。私の意思はアサとヨルに伝える。

 

「殺されたらたまったもんじゃないんだよ、雪風ぇ!」

 

小さく跳ぶ。それに合わせて、急接近し、ヨルの力で時津風さんを駆逐陽姫に向かって放つ。遠心力も加わり、以前榛名さんが投げた時よりも速度が出ていた。いくら直感があろうが間に合わせない。

弾丸のように低空飛行した時津風さんは駆逐陽姫に直撃。ぶつかる寸前に艤装を前に出し、攻撃を防御しながらダメージを大きくする。

 

「大人しくしなよ。あたしがバカな姉貴を黙らせてやる」

「は、離して……!」

 

完全にマウントを取った。問題のレ級艤装は残ったままだが、反撃を許さず主砲を胸元に突きつける。自分もダメージが入るだろうが、そんなことは関係ないと、容赦なく引き金を引いた。

 

……はずだった。

 

時津風さんの主砲の音ではない砲撃音。いや、小さな音だったので銃声といってもいいだろう。その銃声のあと、時津風さんの小さな悲鳴。拘束が緩んだか、駆逐陽姫が蹴ってマウントを外す。

 

はふひたはわはいほはへほっへおふほほはほ(隠し球は最後まで取っておくものだよ)

 

駆逐陽姫の口内、小さな小さな主砲。駆逐イ級の主砲。殺傷能力は小さいが、今のような状況で真価を発揮する隠し球。こちらが白兵戦をすることを見越した超至近距離の搦め手。

 

「っくそぉ……」

 

時津風さんが押さえる左目からは、止め処なく血が滴り落ちる。今の攻撃は額を狙っての砲撃だったが、咄嗟の判断で回避したようだ。致命傷にはならなかったが、酷い傷なのは変わりない。

口内の主砲を飲み込むように消すと、今までとは打って変わって笑顔を見せる。

 

「殺せなかったのは残念です。ママをバカにしたのは許せませんから、いっぱい苦しんで死んでもらいます」

「死なないっての。あたし1人じゃないんだから」

 

既に後ろからガングートさんが殴りかかっていた。調子に乗ったタイミングでレ級艤装を叩き潰す。これで残りは見えているのはチ級、ネ級、片方だけのル級、そしてイ級。口内の艤装など何も考えなくていい。

 

「艦載機処理おしまい! 結局1人でやりました!」

「戻れずにごめんなさい!」

 

吹雪さんも艦載機全てを終わらせてくれた。序盤は私もお手伝いしたが、最終的には吹雪さんのソロプレイ。もう対空No.1と言っても過言ではないだろう。夜戦だと言うのに艦載機を飛ばしてくる方がおかしいのだが、もうその辺りは何も言えない。自分でも飛ばしているし。

 

「な、なんで時津風仲間にならないの!?」

「ああ、やっぱりさっきの弾、『種子』入ってたんだ。死んだら良しだし、死ななくても洗脳ね。はー、ホント意地が悪い。佐久間さんに感謝だねぇ」

 

口内の主砲からは『種子』が撃ち出されていたようだが、こちらは事前に対策済み。撃たれた場所は悪いが、洗脳されることはもうない。

 

「ま、まだ、まだ!」

 

半壊したル級艤装を展開したが、即座に榛名さんが破壊。さすがに戦艦主砲を受ければ、半壊した深海艤装程度ならひとたまりもない。

チ級艤装から魚雷を放とうとした瞬間に時津風さんが艤装を撃ち抜く。これで残りはネ級艤装のみ。気になるほどでも無くなった。

 

『ご主人、もうあれ壊してもいい?』

『ヨル、我慢しろ。アレにはな、トキツカゼに因縁があるんだ。あいつにやらせてやれ』

『そうなんだ。わかったー』

 

ここまで来たら決着は時津風さんにつけてもらう。私達に囲まれ逃げ場はない。軽巡岬姫もあちらが足止めしてくれている。駆逐陽姫は汗だく。何度もいろいろな艤装を出したことで限界が来ているようだった。

 

「ホントさ、さんざんやってくれたね雪風。ゲロ姉を呼べなかったのは残念だけど、これでトドメ。まだ武器あるんでしょ。反撃しないの? しないんだ。じゃあ……」

 

主砲を2発。両肩を撃ち抜いてどの艤装を展開しても攻撃出来ないようにした。これで本当に終わりだ。

 

「遺言は?」

「ヒナタはまだ負けてない……! 負けて……ないんだから……」

 

口を大きく開け、イ級艤装を展開。それを見逃さない時津風さんではない。放たれても軽く避け、至近距離に。

 

「終わりだよ、雪風」

「死にたくない……死にたくないよ……ママ、助けて……嫌だぁ……」

「私達にこれだけのことやっておいてさ、最後に泣き言言わないでよ。潔く……潔く死になよ」

 

1発、胸を撃ち抜いた。死として認識され、艤装の端から消滅していく。

 

「嫌だっ、嫌だぁ! 助けて! 助けてよママぁ!?」

 

防空霞姫以上に胸糞悪い結末だった。断末魔の叫びの中、消滅していく駆逐陽姫。雪風さんの外見だから尚更である。潔く消えてくれればまだ良かった。水母棲姫の最期を思い出す。

 

「嫌だ、嫌、こんなの……嫌だぁ……」

 

誰もが目を伏せていた。ガングートさんは帽子を目深に被る。せめて見届けてやるのが弔いになるだろう。

 

「……あれ? 雪風……?」

 

消滅した駆逐陽姫。

 

と思いきや、一切の侵食がない全裸の雪風さんが浮かんでいた。ボロボロの身体を脱ぎ捨てたかのように、新品同様の雪風さんだ。この浄化の仕方、瑞穂さんとそっくりだ。

 

「う、嘘でしょ……混ぜ物が……!?」

「匂いはしません。でも気配はします。この雪風さんは……この雪風さんは元深海棲艦です」

「『種子』は!? 深海忌雷は無いみたいだけど、こ、この雪風は雪風なの!?」

「落ち着いてください時津風さん! ただでさえ目が危ないんですから!」

 

興奮して目から流れる血がより多くなり、時津風さんも危険な状態になってしまうため、なんとか落ち着いてもらう。

念のため持っていた中和剤を注入するが、何の反応もない。『種子』は体内に無いようだ。ならば、この雪風さんは、混ぜ物であることを脱却した、元深海棲艦として生まれ変わった雪風さんであると考えていい。

 

『これが浄化なのか? 私が見たポーラのものとは全く違うぞ』

「瑞穂さんと殆ど同じ。未練がありすぎて艦娘になったパターン」

『そうだとしたら、心が壊れてる可能性があるわけだ』

 

それは心配だが、入渠すればある程度はどうにかなる。今はそれを考えるのを置いておいて、軽巡岬姫の方だ。

 

 

 

あちらはあちらで激戦だった。

天龍さんと龍田さんの2人がかりで均衡。最上さん率いる夜間任務部隊が加わった5人がかりで何とか有利になっている状態。しかし、軽巡岬姫は艦娘としての歪んだ艤装しか展開していない。

 

「まだ本気じゃねぇってことかよ」

「当たり前じゃない。貴女達に出すほどでは無いの」

「違うわよね〜。深海の艤装を出したらこんなに長く戦えないのよね〜?」

 

龍田さんは今までの戦闘で混ぜ物の本質に気付いていたようだ。私も駆逐陽姫との戦闘で理解できた。艤装を出した戦闘をすると、通常以上に消耗していた。

つまりは、艤装を出させるところまで行かない限り、勝機は無い。

 

「そう言うけど、貴女達もまだ出し惜しみしているわよね。私相手に」

「オレらの役目はどちらかといえば足止めだ。おら、見てみろ。お前の部下の駆逐艦は全滅したみたいだぞ」

 

人形だけならず駆逐陽姫もだ。それにはさすがに動揺を見せた。

 

「ヒナタ……そう、あちらの方が上だったのね。残念だわ」

 

ギリッと歯軋りが聞こえる。部下を失い、怒りを露わにした。混ぜ物ではあるものの、部下思いの水雷戦隊旗艦だったようだ。

 

「なら……帰る前に艤装を少し見せてあげる」

 

歪んだ艦娘の艤装はそのままに、マントと腕を覆う戦艦艤装が展開された。やはり見たことのない艤装。私だけではなく、他の人達も初見の様子。戦艦天姫もそうだが、そういうところからも何をしてくるかわからない。

 

「お前、それ……!」

「私の艤装の1つは『欧州水姫』。ま、それだけ知っておきなさい。また会いましょう、天龍、龍田」

 

それだけ言い残して海中に沈んでいった。

 

これで戦闘終了。だが、誰もが後味悪く鎮守府へ帰投している。浄化……とは到底言えない形で生まれ変わった雪風さんは時津風さんが運ぼうとしたが、力むと血を噴き出すために私が抱きかかえることに。

 

「素直に喜んでいいのかわかんないよ」

「そうですね……元々混ぜ物だったものが浄化、いえ、転生してこの姿ですし……記憶がまともにあるかもわかりません」

 

目を覚ましてみなくてはわからないことが多い。もしかしたらこのまま目を覚まさないかもしれない。

どうであれ、ここにいる雪風さんはもう混ぜ物でないことは確かだ。最後の最後まで未練を残し、助けを求めながら息絶えた。瑞穂さんの時と全く同じ状況。怒りよりも憎しみよりも強い生への執着により転生してしまっている。

 

「これでまだママとか言い出したらどうしよう。嫌だなぁ……」

「その時はその時です」

 

まずは入渠してもらわないと始まらない。時津風さんも重傷なのだ。今は急いで帰らなくては。

 




いくら混ぜ物であっても、身体は完全に深海棲艦。まったく同じ現象が起きます。とはいえ、混ぜ物側が満足してを逝くようなことは無いでしょう。
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