欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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先を行く者

昼食時に駆逐陽姫から転生した雪風さんが公表された。どのような状況であるか、どうやってここに来たかは、自分が元深海棲艦であることを自覚していない本人の前では伏せられている。消えていると思っていた記憶は奥底に封印されているものであると、瑞穂さんが証明してしまっているためだ。余計なことをすると、表に出てきてしまうかもしれないと危惧されている。

 

「朝潮、まーた誑かしたんか」

「誑かしたとは失礼な」

 

龍驤さんに言われるのも無理はない。何かあれば私、朝潮にベッタリな雪風さん。初めての食事の場というのもあり、私の隣で食べているのだが、それはもう満面の笑みで美味しそうに食べる。微笑ましい光景に、周りの空気が温かくなるように思えた。

 

「で、ホンマのところは」

「駆逐陽姫がどういうのだったか知ってますよね、その気質を受け継いでるんです。壊れて修復されたことで、私のことを母だと認識していまして……」

「あー……まぁ、頑張りや」

 

雪風さんに聞こえないように龍驤さんに説明。これも本人には聞かれてはいけない内容のため慎重に。

 

「お母さん、どうしました?」

「何でもありませんよ。ご飯、美味しいですか?」

「はい、美味しいです!」

 

口元を汚して食べているので、ティッシュで拭いてあげる。その光景を見た龍驤さん、なんだかニヤニヤしながら霞の方へ。

 

「おう霞、ええんかアレ」

「別に。姉さんがああいうことやるのは初めてじゃないし、レキやクウもいるんだもの。気にならないわよ」

 

さすがは一番長く私の側にいる霞なだけある。この程度であれば寛容。おそらく頭の中では、春風や初霜とは違い、最初からライバルにならないと安心しているからというのもあるだろう。

 

「微笑ましい光景ね……山城……」

「そうですね姉様。でも、朝潮に娘が出来たとなると、私達の立ち位置が……()()()()になってしまいます」

「それは……少し不幸ね……」

 

霞や大潮も叔母。春風も立ち位置的に一応叔母。我々も女、『おばさん』と呼ばれるのには抵抗があるものである。

これに関してはおそらく雪風さんがその事実に気付くことがないので不安には思っていない。雪風さんに必要なのは()()()()()()であり、()()()()()()。私以外は普通に艦娘なのだと思う。

 

 

 

午後からは予定通り訓練担当。瑞穂さんを補佐にして、戦場に出る可能性のある艦娘を鍛え上げる業務。ここ最近はお休みしていたが、今日から復帰する。雪風さんは萩風さんに預けて、鎮守府の案内をしてもらうことにした。初日はまずそれがいいだろう。

 

今回の訓練は少し毛色が違った。相手が相手だからである。

 

「おう、悪ぃな朝潮」

「いえ、でも私が相手で良かったんですか?」

「当たり前だろ。お前、その身体になったことでこの鎮守府では上から数えた方がいい戦力だからな」

 

今回の相手は天龍さん。後ろには龍田さんも控えている。

白兵戦も出来るようになってから、アサが一緒に筋トレをするようになっていたが、こうやって実戦形式の訓練をするのは初めて。天龍さんには対空訓練を習った仲であるが、まさか立場が逆転するとは思わなかった。とはいえ先生と生徒というわけではなく、同等の立場での白兵戦演習となる。

 

「あの矢矧を倒せるようになるために、やれることやっとかないとな。手始めにお前だ。あと時間があれば神通のとこにも行かせてもらうつもりでな」

「徹底的に鍛え抜くと、そういうことですか」

「今のままじゃ全然足りねぇ。こっちも全力じゃなかったとはいえ、オレと龍田2人がかりで手ェ抜いてる矢矧とトントンだ。そのくせアイツ、欧州水姫っつーヤベェもん持ってやがる。んなら、まずはお前に勝てるか試しておきたかったんだ。似たようなもんだしよ」

 

まだ欧州水姫という深海棲艦がどういうものかは調べていないが、とにかく何をしてくるかわからないのが混ぜ物。何に対しても臨機応変に対応出来るようになることが強くなるための一番の近道と判断したのだろう。結果、私のような戦術がおかしな者を相手取ることにしたようだ。

 

「わかりました。では……全力で」

「おう。まぁ、まだまだお前にゃ負けるつもりはねぇよ」

 

今までにないマッチングだからか、何やら観客まで出始めた。見世物ではないのだが。

 

「それじゃあ……やるか」

 

私も同時に行動予測開始。演習と言えども、手を抜いた瞬間に一気に持っていかれる。あと模擬刀とはいえ当たると普通に痛い。天龍さんの腕前なら、模擬刀でも斬れる可能性まである。

 

「朝潮とこうやってぶつかり合えるなんてな」

「ガングートさんにも言われました。隣り合って戦うのも、演習でぶつかり合うのも、私には無縁だと思っていましたから」

 

手を払い、艦載機を発艦。まずは私の分12機。

 

「相変わらずインチキくせぇなぁ」

「それは褒め言葉として受け取っておきます」

 

一斉にけしかける。低空飛行の全機突撃。上下左右に振りつつも前方からの同時攻撃。刀1本ならば、ある程度は処理出来ても、飽和攻撃でどれかは当たるだろう。

 

そう考えていたのも束の間、

 

「皐月の倍ともなると、そりゃあ処理は面倒だ」

 

12機全てが斬り払われた。一応射撃も加えたのだが、それも関係無しだった。

受け流すかのごとく流麗に。荒々しさが目立つ天龍さんからは少し予想の出来ない動き。これは予測がつかない可能性が出てきた。

 

「皐月と叢雲合わせてやらせてもそれ以上の数だもんな。でも、やれないことはないぜ」

「インチキはそちらもでしょう」

「褒め言葉として受け取っておくぜ」

 

そのまま突撃してくる。相変わらず恐ろしい速度。

艦載機は今ので全機やられた。ヨルの方の水上機もあるが、今の様子では足止めにすらならない。ならば、早速の白兵戦。素早さには予測で対応し、スタミナには効率で対応する。

 

『ヨル、噛まずに薙ぎ倒す方向で行け』

『はーい。ご主人、振るよー!』

 

私が予測した行動は、アサにもヨルにも行き渡っている。そこからの最善の行動も、私と繋がっているが故に、子供のヨルですら導き出すことは可能。そもそもヨルは悪夢の中では鎮守府全員を破壊出来るほどセンスがある。

迎撃するように尻尾が動き、私の身体を強引に動かしての薙ぎ倒し。やり過ぎると背中を見せることになってしまうので何度もやるのはご法度だが、初動の1発目には都合がいい。なるべく早く天龍さんの方を向くように努力はするが。

 

「ヨルか! 射程伸びてんのはきっちぃな!」

 

そんなこと言いながらも、間合いに入らないようにブレーキ……するかと思いきや跳んでいた。必要最低限の跳躍。こちらは大振り故に尻尾を振った後は隙が出来やすい。

 

『んなろ、やらせるかよ』

 

まだ体勢は整っていないが、背部にはアサのコントロールする自立型艤装がある。空中で体勢を変えられるのは、艦載機を持ち、それを足場として扱う私と皐月さんのみ。刀しか手段がない天龍さんは、空中では無防備のはず。それでも跳んできたのだから、なんらかの手段を携えてきたのだろうか。

空中の天龍さんに向けて、アサが攻撃。どう避けるか。これはまだ私のデータには無い。

 

「アサはこういう事キッチリしてくるよな。隙を見せりゃ確実に狙ってくる」

 

その攻撃を強引に斬り払った。見た目以上に重い一撃。艤装のパンチを払えるほどなら、これは相当鍛錬を積んでいる。

尻尾を振り、艤装も払われ、本体が隙だらけになる。ならばここから未来を視る。この状態ではお互いがやれることが限られる。予測はしやすい。それに、私自身の戦力をどう見積もっているかは確認したかった。

 

「っ!」

「うぉ!」

 

艤装を払うのに刀を振り下ろしていたため、即座に攻撃するならそのまま回転してもう一度振り下ろすのが最速。角度的に袈裟斬りにされる場所のため、タイミングを合わせて必要最低限の動きで、腕の装甲で外へと弾く。その勢いで間合いをとった。

たった数秒の攻防なのに、どっと疲れが押し寄せる。計算が多い、あととにかく速い。慣れ方が段違い。身体が成長し、艤装が変化してしまったことをキッカケに白兵戦も覚えた私達とは雲泥の差。

 

「よく追いついたな。あれか、未来を視たか」

「全力ですから」

 

再び突撃することを見越して、足下に爆雷。扶桑姉様のように水飛沫を気にせず突っ込んでくる可能性はあったが、ほんの一瞬でも時間を作れれば、こちらは違う手段に走る。

 

「アサ、交代」

『あいよ』

『いってらっしゃーい』

 

水飛沫に隠れている間にアサに交代。白兵戦は当然ながらアサが一番得意だ。私はどちらかといえば頭脳労働であり、本来戦闘するのはアサの役目。このポジショニングをすると、艤装を動かすのは私になってしまうわけだが、今までの経験でそれくらいは出来る。

水飛沫が晴れる前に今度はこちらが突撃。ヨルが尻尾を大きく振り、水飛沫ごと天龍さんを跳ね飛ばそうとするが、いち早く気付かれ、刀で受けながら後退。

 

「うおっ!?」

「今度は私だ」

 

私が裏に回った方が攻撃的になるのは仕方のないこと。背部の自立型艤装で防御に専念し、アサの攻撃をサポートする。私が裏にいる間は、まっすぐ敵に突っ込んでくれて構わない。

 

「さすが扶桑姉妹仕込み。キレがいいな」

「朝潮は見様見真似だけどな。私は直接教えてもらった!」

 

天龍さんの攻撃は私が先読みして艤装による防御。攻防一体の艤装故に、どちらが表にいるかで戦術が大きく変わる。私が裏の場合は艤装の動きは防御強めになる。

 

『ヨル、ちょっと大振りは控えましょうか』

『はーい。じゃあ、頭でゴッツンで!』

 

ヨルに指示し、尻尾を振り回すことをやめ、頭部での打撃にシフト。私は予知しながらの防御に専念。

アサとヨルが攻撃役。私が防御役。私の身体での一番いい戦い方は、おそらくコレ。私も戦いやすい。

 

「予知での防御がやっぱ辛ぇな。全部先読みで防いできやがる」

「裏に回った朝潮は厄介だぞ。防ぐのももう無意識のレベルだ。どうやって越えるよ」

「そりゃあ、勿論」

 

ふっと目の前から消える。急に速くなった。

 

「追いきれないくらい速くなりゃいい」

 

電探を凌駕する瑞穂さんの移動法ではない。姿勢と、速度と、視線誘導。予知などと言っても、結局のところは私の思い込みもある。知らない攻撃に即座に対応することが出来ないのが欠点だ。

今は突然しゃがんだから、目の前から消えたように見えた。刀は振り下ろしているのに、身体は下へ。完全に死角を突かれた。

 

『アサ姉、危ない!』

 

尻尾が股の下をくぐり海中から迎撃しようとしたが、そのポイントまで絞られて前進。完全に懐に入られた。こうなるとスピード勝負。腕で攻撃出来るアサの方が速そうに見えるが、百戦錬磨の天龍さんに私達では追いつけない。予知をしても、()()()()()()()()()()()()

 

「よっ」

「いったぁ!?」

 

振り下ろしてきていたはずの刀は、身体を回転させながら斬り上げに変化。思い切り身体を斬られ、一撃で轟沈判定。

 

全部合わせて1分足らずの攻防だったが、物凄く濃厚なせめぎ合いだった。予知と本体による格闘、艤装コントロールによる防御と私がやれること全てをやってのだが、追いつけず。

この演習は私にも身になるものだった。まだまだ成長の兆しが見えたし、覚えなくてはいけないことが沢山ある。

 

「くっそーっ! いい感じだったんだけどな!」

「オレもいろいろやったからな。お前の予知は超えたぞ。次はダメそうだけどな」

『当然。覚えましたよ』

「朝潮が二度と喰らわないと息巻いているぞ」

 

誇張しすぎ。

 

『むぅ、尻尾当たらなかった』

『細かいこと出来ないもの。仕方ないわ』

『ご主人を守るためにもっと頑張るね』

 

なんて可愛らしい宣言。自立型艤装の意思だとしても、ヨルも娘のように感じられる。ここ数日で娘が増え、私の心は満たされるようだった。

ここでアサが私に主導権を渡してくる。途端に胸の痛みを感じ、顔をしかめてしまった。最後の一撃は割と強めに入っていた様子。

 

「痛た……結構強く入ったんですね」

「悪いな。咄嗟だったからつい」

「本物だったら今頃バッサリですか。恐ろしい」

 

こういう演習は初めてのことなので、この痛みも少しだけ楽しかった。対空訓練や対潜訓練とは違った緊張感、索敵担当では感じられない痛みは、私に戦う力があることを表してくれている。

 

 

 

その後、龍田さんも加わり、白兵戦演習がヒートアップ。天龍さんに傷1つ負わせることが出来なかった私達では、負けない戦いを徹底する龍田さんには触れることも出来ず敗北。とはいえ、あちらにも新しい刺激になったようで感謝された。

結局この2人は一度も勝つことが出来なかった。どういうことをしてくるかがデータに入ったとしても、私がそれに追いつかなければ意味がなかった。

 

「ありがとうね朝潮ちゃん。いろいろ見えてきたわ〜」

「それは良かったです。アサが裏で反省会してますよ」

「可愛いところあるのね〜」

 

余程悔しかったのだろう、アサは天龍姉妹に対しての対策を練るために裏側に引っ込んでしまった。次は負けないと意気込み、ヨルまで巻き込んで作戦会議中。これは夜に夢の中で呼ばれることだろう。

 

「もう龍田もオレと五分五分でよ。結構厳しいんだぜ」

「天龍ちゃんが教えてくれたおかげよ〜。私の先生はいつまでも天龍ちゃんだもの〜」

 

本当に仲がいい姉妹だ。出会った当初の危うさが少しだけ薄れているようで安心。私と霞のような仲なのだろう。

 

「うし、じゃあ龍田、オレらはオレらで続けるか」

「そうね〜。また胸を貸してね?」

「おう。朝潮、ありがとな」

「いえいえ。また何かあったら私が訓練担当の時に言ってください」

 

白兵戦演習というのも、有意義な時間だ。またやってもいいかなと思えた。たまには違うことをやっての気分転換もいいものだ。

 




久々にこんな一幕も。今までなら個人演習なんて以ての外だった朝潮も、今では1人で3人分の動きを見せる異常者。誰が呼んだか朝潮トリニティ。
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