欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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託す思い

白兵戦演習終了後、他の訓練にも立会い、いつものように午後の業務が終了する。久々の訓練担当に、私、朝潮も少し気合が入っていた。楽しく皆を指導出来たと思う。ここ最近はいろいろありすぎてこう日常的なことは何でもが楽しい。少しテンションが上がりすぎて、若干スパルタになってしまったかもしれない。

業務終了後は雪風さんと合流。萩風さんに鎮守府を案内され、大体ここがどういうところかはわかったらしい。雪風さんの身体についてや、ここにいる特殊な艦娘達の説明は私がすることになっているため、ここからの時間を使っていろいろ話していくことに。触れていいことと悪いことがあるため、その辺りは慎重になる。特に、元深海棲艦であることは触れない方がいいこと。それに関しては何も言わないことにする。

 

夕食まではまだ時間があるので、談話室で皆が集まり説明した。私の周りには説明が必要な人が多く、直に見せてあげるのが一番わかりやすいだろう。

 

「お母さんは元艦娘の深海棲艦で、霞ちゃんと初霜ちゃんは艦娘だけど後から変えられた半分深海棲艦、春風ちゃんは最初から半分深海棲艦……」

「ちょっと難しかったですか?」

「雪風にはみんなおんなじに見えますから……」

 

認識としては間違ってないのだが、心持ちが違うというか。見た目自体は結構バラバラ。先天性で扶桑姉様ほど深くない春風は黒く染まっているのみ。初霜は角やら痣やらが右半身だけ。私と霞は全体的に。それでも立ち位置としては、私以外は全員半深海棲艦。本人を見ながらでも少し難しいかもしれない。

 

「大潮ちゃんは……深海艦娘? 深海の気配は感じられません」

「大潮は身体だけ深海棲艦っぽく変えられちゃったんです」

「だから角があるんですね」

 

この辺りが特殊なので覚えるのに苦労しそう。霞が深海艦娘の外見をしている半深海棲艦であるのがそれを困難にしている。

 

「雪風には少し難しいですが、みんな仲間、お友達ですよね。それでいいです!」

「そうですね。その認識で充分です。ここには私とは違う純粋な深海棲艦もいますし、今ここにはいないですけどお友達の深海棲艦もいますから。皆仲良くするのが一番ですよ」

 

膝の上に座っている雪風さんを撫でながらの説明。私の隣に座る大潮と、正面に座る問題児3人。この光景を見て嫉妬するかと思いきや、思ったより穏やかな様子。

 

「なんでしょうね、この感覚」

「脅威には思えないのよね」

「母娘だからでしょう。私達とは立ち位置が違います」

 

この子達は何を言っているのやら。仲がいいのはいいことだが。余計ないざこざを作らない辺りは成長しているといえるか。

 

「お、ここにおったんか。朝潮、ちょいええか」

 

談話室で話をしていると、龍驤さんが顔を出してきた。私に用があるようだが、龍驤さんから私に来るのは意外と珍しい。深い話をしたのは、龍驤さんが入渠した時くらいだろう。

 

「話がある。来てくれへんか」

「わかりました。雪風さん、ここで皆とお喋りしててください」

「はい!」

 

雪風さんを膝から下ろし、龍驤さんについていく。誰かに聞かれたくない話なのだろうか。龍驤さん自身も、少し真剣な表情だった。

 

 

 

やってきたのはあまり人が来ないような工廠の隅。今は任務や訓練も終わり、基本的には工作艦しかここにはいない。睦月さんはともかく、明石さんやセキさんもそろそろ夕食時であるために作業を終えて奥にいる。

 

「すまんな、呼び立てて」

「いえ。で、話とは」

「頼みがあってな。朝潮の艦載機、貸してくれへんか」

 

珍しい頼みである。私の艦載機は深海製。夜でも飛ばせる特別なもの。以前にヒメさんやミナトさんの艦載機を借りて、夜に飛ばしたり昼でも意表を突いたりと、特殊な戦いをしていたのは知っている。

だが、今の戦場、深海の艦載機も敵の過負荷で飛ばせなくなることは実証済み。私の場合はヨルのおかげでその辺りは克服しているが。

 

「この前、朝潮出撃出来たやん。ちゅーことはや。過負荷乗り越えたんとちゃうんか」

「はい。ヨルのおかげで、過負荷はもう効きません」

「ほんなら、艦載機も行けるんちゃうかな思うてな」

 

私と接続されているから大丈夫なイメージもあるが、使ってみなくてはわからない。手数が増えるのはいいことだ。

 

「わかりました。試す価値はあると思います」

「ありがとうな。早速なんやけど、2つでええから今貸してもらえへんか」

 

艦載機を展開。言われた通り2つを渡す。ヒメさんの持つ猫耳ボールとも、ミナトさんの持つ意思を持っていそうな真っ黒な飛行機とも違う、角の生えたボール。意思があるようでない。

 

「ヒメのともミナトのとも違うんやな」

「深海艦娘の物がより深く堕ちたものですから。勝手が違うかもしれませんので、事前にテストはした方がいいかと思います」

「せやな。ほんなら、明日付きおうてもらってもええか?」

「いいですよ。予約済みとしておきます」

 

これはこれで私が指導することになるのだろうか。最初期に教えてもらう立場だった私が、今度は龍驤さんを教える立場に。天龍さんの時もそうだったが、私がこんな立ち位置になるだなんて、当時には思ってもみなかった。

 

「先に渡しておく必要があるんですね」

「そりゃあな。事前にこいつを式神にしておかなアカン」

 

艦載機を式神にする方法というのはよくわからない。教えてもらおうにも、秘密と言われてしまった。式神の生成は、工作艦にも伝わっていない秘伝のものらしい。逆に気になってしまうが深入りすると身の危険を感じる。

 

「それは私とアサの血と涙の結晶なので、大事に使ってくださいね」

「おう、朝潮や思うて切り札にさせてもらうわ」

 

なんだか重い言い方だが、私自身を託しているようでわかりやすい。乗り越えたとしても戦場に出ることを控えているのだから、私達の思いが籠った品を持って行ってもらえれば、私も一緒に戦っているように思える。

 

「これくらいのことなら談話室でも良かったのでは?」

「……いや実はな、司令官から話聞いててん。向こうの鳳翔のことや」

 

雪風さんの中の人間が言っていたことを、龍驤さんは伝えられたそうだ。その話は雪風さんの前では出来ない。あの場どころか、鎮守府内でも、司令官以外では私だけしか知らないことだ。

 

「あいつ、提督の力持っとるんやってな」

「……はい。私は直に聞かせてもらいました」

「そりゃあアホみたいに強くもなるわ。艦娘じゃあ本来太刀打ち出来ひん」

 

なるほど、こういう泣き言は私にしか聞かせられないと。内情を一番知っているのは確かに私だ。この話題を気兼ねなく話せる相手は私くらいしかいない。

提督の力を持っていると聞けば、あの尋常ではない強さも理解できた。弓による直接射撃、艦載機による範囲攻撃、主砲による砲撃、匕首による白兵戦、その全てが最高水準を超えている。それですら、深海の姫の艤装を展開していない手加減状態。

 

「それでも勝たなあかん。なら、やれる手は何でも使ったる。(こす)い、汚い、何でもござれ。無理も無茶も承知の上やで」

「命を捨てなければ問題はありませんよ」

「生きて帰るんが勝ちやし、誰が死んでも負けや。それだけは絶対に忘れんから心配せんでええ」

 

薄く微笑みながら話す龍驤さん。危うさも見え隠れするが、ここの鎮守府を古くから支えているだけあり、信念だけはしっかり根付いている。心配はいらないはずだ。

 

「せやけどな、どうすりゃ勝てるんかな。割とお手上げやで」

「姫の艤装すら出していませんでしたからね……とりあえず、見えている攻撃方法は全部対策すべきでしょう」

「それしかあらへんわな」

 

空母がどう対策すべきかはピンと来ないが、移動が不可能な龍驤さんには、相方となる響さんとの連携が必要不可欠。そちらも今以上に鍛え上げなくてはいけない。私に出来るのは、それをお手伝いすることだけだ。

 

 

 

翌朝の部屋、霞と準備している時に初霜がネクタイを締めに来てくれるのは毎日のルーティン。今回はそこに雪風さんも加わった。部屋は与えられているものの、霞と同様に添い寝希望。帰すわけにも行かず、3人で川の字になって眠ることに。2人が小柄なお陰でベッド1つで収まった。霞すら、雪風さんのことを姪っ子と見るようになったのかも。

 

「ほんま賑やかやなぁ朝潮の部屋は」

「龍驤さん、おはようございます」

 

まだ朝食の時間にもなっていないが、龍驤さんが私の部屋に訪ねてくる。雪風さんまでいたのは予想外だったみたいだ。

 

「昨日借りた艦載機、式神化出来たで。朝飯終わったら早速頼むわ」

「了解です。ちなみにどんな感じになるんです?」

「ん? ああ、こいつや」

 

懐から式神を取り出す。自前の艦載機は人の形、ヒメさんとミナトさんの艦載機は鬼の形となっていた。私のものも当然後者のものになるだろうと思っていたが、実際は違った。

 

「切り札やからな。形にもこだわったで」

「これ私の形してます?」

「せやで。これなら絶対間違えへんし、濡れてもええので作っとる」

 

その式神は、どちらかといえば人の形だが、抽象的に表現されたものではなく、私の髪型を模している。見ただけで、私の艦載機であるとわかる一品。

 

「龍驤さん、それ1枚貰えないかしら」

「私も欲しいですね」

「うちが戦闘するために丹精込めて作ってんねんで。2枚しかあらへんねんやから、渡せるわけないやろが」

 

その形のためか、霞と初霜が強請(ねだ)り出すが、軽く突っぱねる龍驤さん。雪風さんも欲しがったが、そちらは私が諌めた。あれは龍驤さんに貸し出したものだからと言えば、雪風さんはすぐに納得してくれた。

 

朝食を終えて早速工廠へ。今までの艦載機とは確実に使い方が違うため、早速発艦させた。

普通なら龍驤さんの持つ巻物状の甲板を滑る形で飛び立ち、そのまま空へと向かっていくのだが、私の艦載機なだけあり、甲板を滑った後、龍驤さんの周りをグルグル回るように移動した。こういうところは私譲り。

 

「おお、やっぱ朝潮のもんなんやなぁ」

「みたいですね。コントロールは出来ますか?」

「出来るみたいやな。これでうちも深海艦娘っぽく見えるんかな」

 

私達のように意識的に艦載機をコントロールすること自体が初めてのことだ。艦載機を発艦してしまえばお留守になる指を使ってのコントロール。まだ変化する前の霞が魚雷のコントロールをした時のように、視覚的に操るのが一番のようだ。

 

「結構難しいやんコレ」

「慣れれば指も必要なくなりますよ。現に私は12個使っているので」

「他の連中に聞いとるぞ。深海艦娘になった時点で勝手にわかるようになるらしいやん」

 

私もそうだった。深海艦娘にされた時点で、自然と6つ使えるということが理解できたし、指で意識する必要が無いほどに()()()()()()()という認識にされる。おかげで、練習要らずであの動き。

 

「ここに来て初めてやることがあるんやなぁ」

「私達にはそういうの多いですよね」

 

私も隣に艦載機を2つ発艦し、クルクル回しながら真似をしてもらう。手足のように操作できるようになれば、次は射撃や爆撃だ。

そういえば、水鉄砲にすることは出来るのだろうか。渡した時はそういった部分を考慮していなかったため、実弾しか出せないかも。

 

「龍驤さん、渡した時点では実弾が入ってたんですが、水鉄砲に変えるとか出来ませんよね流石に」

「出来そうにはあらへんな。式神にするときに内部構造はある程度見せてもらっとるんやけど、ようわからへんかった。形は近いけど、ヒメのもんとは違いすぎる」

 

深海艦娘の艦載は相当特殊な構造をしているようだ。いくら慣れていたとしても、内部構成がまるで違う艦載機。さらには自分の意思でコントロールする部分が大きい。

 

「よくもまぁこれで戦えるな」

「一時的に、これしか私の手段がなかったからですね。嫌でも慣れないと何も出来ない時期があったので」

 

不器用ではないものの、龍驤さんでも制御に苦戦を強いられているようだった。今は発艦したもののヘロヘロ。私の艦載機に追いつくのがやっと。

 

「これは練習あるのみやな。せめて深海艦娘くらいに動かせるようにならんと」

「そうですね。頑張りましょう」

「任せとき。そんなに時間使わんとマスターしたる」

 

気合の入り方が違う。気さくな雰囲気だが、いつになく真剣だ。

 

「前に、1人でやるんか言うてきたやん」

「はい。でも龍驤さんは皆と戦うと」

「最初はな、1人でやろう思うとった」

 

自分を嘲笑するかのように鼻で笑う。

 

「朝潮に言われてな、こいつマジかとビビったわ。でも言われてアカンって気付けたからな。感謝しとるで」

「よかったです。すぐに切り替えたんですね」

「うちがここにどんだけおると思っとんねん。アカンと気付けばいつも通りや。吹雪や天龍も同じやろうな」

 

最古参ならではの話。メンタル的な部分はこの鎮守府でも一番上。これだから皆がついていく。勿論私も。

 

今でこそ私が教える立場になったものの、まだまだ教わることが多い。この人はいつまでも私の先を行く人なのだと思う。




朝潮の形をした式神は、龍驤が頑張って作りました。特殊な紙を自分で切って、せっせと内職に励む。
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