混ぜ物2人を含む空母機動連合艦隊に攻め込まれ、窮地を凌ぐ。龍驤さんの負担を減らすために、私、朝潮がヨルの力を借りて2体の戦艦水鬼を同士討ちさせることに成功したが、それを見た空母鳳姫に何やら不思議な言葉をかけられた。
「邪魔というのは撤回しましょう。貴女はやはり、
後継者。後継者と言ったか。
雪風さんの中に入っていた人間は、私を2人目の北端上陸姫にすることがあちらの目的だと言っていた。そういう意味では後継といえば後継か。
北端上陸姫の目的はまだ公表していない。余計なことを言って鎮守府を混乱させるわけには行かなかった。だが、こうなっては仕方がない。
「朝潮が後継者? 何言うとんねん鳳翔」
「貴女には関係の無いことですよ龍驤。どうせここで死ぬのですから、知る必要もないでしょう」
「はっ、嘗め腐りおってからに。朝潮はな、うちらの大事な仲間なんや。渡さへんで」
瞳が一層輝いた気がした。先を、いつも以上に先を視る。
龍驤さんが危ないことはわかる。大発動艇の上から動けない龍驤さんは恰好の的だ。響さんが常に動かし続けているにしても、あちらは容赦なく龍驤さんを狙うだろう。
現段階では艤装は甲板。空母棲姫と共に鎮守府へ空爆をしている時のまま。変形の素振りはないため、いきなり砲撃が飛んでくることはない。だが、空母鳳姫には匕首がある。接近戦を挑まれたら例え龍驤さんでも厳しい。
「響さん、行動予測は回避に寄せてください。私が守りに寄せます」
「了解。先生と分担か。いいね、胸が熱いよ。なら私も、無理をしないといけないな」
少しだけなら響さんも『未来予知』が可能になった。そこに私が予知を重ねる。二重の予知で龍驤さんを守りながらの戦いをしていく。
提督の力は予知をも超えることは理解している。だからこその2人がかりでどうにかするしかない。もう少し人が増えれば、情報は増えるが手段も増える。勝ち目は見える。
「援軍! 来たよ!」
白露さんの声。高雄さんの反応もある。戦力増強したが、まずは鎮守府への空爆を続ける空母棲姫の処理をお願いしなくてはいけない。
「後ろの空母棲姫をお願いします!」
「あいつらか鎮守府爆撃してんの! 高雄さん、やっちゃおう!」
「ええ、すぐに処理してあげますわ」
横槍に見えたのだろうか、空母鳳姫がチラリと高雄さんを見た。次の行動を予知。視線からは高雄さんだが、弓にも手をかけたため、他を狙うこともあり得る。むしろもう誰でも対象になり得る。アサとヨルにもフル稼動してもらい、次に導き出される答えは。
「では死んでいただきましょう。まずは貴女です。ヴェールヌイ」
「だろうね。龍驤さんの足は私だ」
私も動き出していた。すぐに届くのはヨル。回避してもらいつつ守りに入れば、響さんがやられることはない。目測を上回る動きをされるのなら、それも見越して先を視るだけだ。
全員が同時に動く。私は響さんの前へ。響さんは回避行動しつつ砲撃。龍驤さんは艦載機の発艦。空母鳳姫は弓に矢をつがえ、既に放っていた。
『危ない!』
その矢はヨルがしっかりガード。これが開戦の合図となった。式神よりも早く矢を射ってくるため、対応速度がモノを言う。
龍驤さんは息もつかずに式神を展開。艦載機を次々と発艦しながら、一部は防御に使う。響さんは行動予測からの牽制砲撃で動きを食い止めながら、龍驤さんの乗る大発動艇を今最もいてほしい場所へと操作する。そして私は、弓など関係なしに突撃。攻撃を邪魔さえできればいいため、匕首による白兵戦を警戒しながらの接近。
「貴女には傷付いてほしくないのですが」
「それなら私自身が人質ですね。本気は出さないんですか? 提督の力と、姫の艤装は」
「使いませんよ、この程度では」
違う、
暴風雨のような力を撒き散らすが、持久戦になればこちらが有利になる。出来れば、だが。
『こいつ、本当に空母か!?』
『全然当たらないよ!』
アサとヨルが隙を突くように攻撃をしているのだが、まったく当たらない。それどころか、避けては私以外に矢を放ち、さらには深海の艦載機を鎮守府に送り込む始末。
提督の力を持つだけあり、空母鳳姫は格が違った。これでまだまだ手加減しているという現状が、私達に絶望を過ぎらせる。
先程洗脳した戦艦水鬼が、同士討ちの末に勝利したのが確認できた。だが大きく消耗しているのが見て取れる。艤装も至る所が破損し、身体も服もボロボロだ。実力がまったく同じもの同士の戦いなのだ。時の運で勝ったに過ぎない。
あれでは、空母棲姫の処理を任せるのは難しいだろう。ならば一度下がってもらう。私のワガママで洗脳してしまった戦艦水鬼だ。私が面倒を見ずに誰が見る。
「貴女は一旦下がって! 手伝ってくれてありがとう!」
またコクンと頷き、フラフラと戦場から離れていく。それを見逃さないのが空母鳳姫だ。こちらの攻撃を全て回避しながらも、矢は一時的に私達ではなく、戦艦水鬼の方を向く。
「裏切り者に命は要りませんね」
私の考えはアサとヨルにも伝わっている。私は、あの戦艦水鬼も守りたい。洗脳で意思を捻じ曲げてしまったとはいえ、もう仲間だ。
瞬時にアサと入れ替わり、私が艤装側に。防御特化の艤装コントロールで、矢の方向を無理矢理変える。戦艦水鬼には掠めることもなかった。一安心。
「そんな余裕があるのですか」
「お前のところの姫と違って、うちの姫はお優しいんだよ!」
やってることに優しさなんて微塵もない。本来なら撃破していた敵をこちらに無理矢理引き込むという鬼畜の所業。アサが提案したとしても、ヨルが実行したとしても、私が狂っていたからやったのではなく、
私はさっき、あの洗脳した戦艦水鬼は死んだところで問題ないと考えてしまった。最悪な考えだ。自分達の命を守るために、敵を味方につけた上に捨て駒扱いしようとした。今の自分と先程の自分の矛盾に吐き気がしそうだった。
『ご主人、今は考えちゃダメ。私もあの人助けたいから』
『……ありがとうヨル』
今は余計なことを考えていてはダメだ。迷いが敗北に繋がる。
「鳳翔、お前も余所見しててええんか」
「貴女方にはそれでも充分なんですよ。でも、そろそろ減らず口を叩けなくしてあげましょう。少しだけ、お見せします」
突然目の前から消えた。司令官にされた、予知を凌駕する
「っぶな……っ!」
「あら、よくもまぁ受け止められたものです」
空母鳳姫は大発動艇の上にいた。狙いは龍驤さんの首。それを見越して、式神を急所という急所に張り巡らせていた。やってくるのなら一撃必殺だろうと見越した結果、案の定首の辺りに用意していた式神が真っ二つに。紙で耐えることが出来ているのは龍驤さんの技量なのだろう。
「降りろや!」
さらに切り札である私の艦載機を発艦。まだ覚えたばかりの力で、乱暴な攻撃になってしまうが、少しだけでも体勢を崩させるのには充分だった。
「深海の艦載機……まともに動くものですか。アサさんのものですね」
「おう、うちの切り札や。わかったらさっさと降りろ!」
押し出すように艦載機をぶつけて、さらには蹴り出し、大発動艇から落とす。大発動艇も急加速でその場から離れ、一旦仕切り直しとなった。
一方その頃、天龍さんと龍田さんは人形5人を含む水雷戦隊と戦闘中。2対6と数的優位は取られているが、人形に関しては何も気にしていなかった。死のみが救済であることを2人とも前回の戦いで理解しているため、容赦なく斬り捨てる。
「悪い……これしか方法が無いんでな」
砲撃も魚雷も難なく躱し、一刀の下に斬り伏せた。首は硬めに作られていたが、天龍さんの刀も、龍田さんの薙刀も、そんなこと関係なしに斬っていく。せめて一瞬でと、最期の優しさを込めて。
天龍さんは謝罪をしながら、龍田さんは無言で。元々が艦娘であることがわかるように寄生しているのも最悪な敵である。
「いちいち謝るのね。疲れない?」
「おう。人の心を持ち合わせてるんでな。お前にゃわからんだろ」
「わからなくて結構。捨て駒は捨て駒らしく役に立ってもらいたいんだけど、あっという間ね」
人形5人は全て処理。生々しい返り血に塗れた天龍さんが、刀を軽巡岬姫に向ける。
「次はお前だぞ」
「出来るものならどうぞ」
言うが早いか、突撃する。相変わらず普通の速さではない。
「速くなってるわね」
「おうよ」
即座に懐。主砲が向けられる範囲のさらに内側に潜り込み、強烈な斬り上げ。私が演習でやられた時のような、胴体を真っ二つにする勢い。
だが、軽くバックステップされ、その範囲から離れられる。あちらも速さで押すタイプか。
「綺麗な太刀筋。ねぇ、前にも言ったけど、第二水雷戦隊に来ない? ここで死ぬのは惜しいと思うのよ」
「前にも言ったよな。クソ喰らえだ」
着地間際に横薙ぎ。撃ちながらの回避にも関わらず、御構い無しに突っ込む。砲撃の射線は、少し刀を添えるだけで天龍さんには一切当たらない。私の艦載機を全て斬り払ったときのような、見えないほどの太刀筋。
それを今度は忌雷が寄生し、艤装に包まれている左脚で受け止める。人形の首をいとも容易く刎ね飛ばす一刀を、何事もなく受け止めた。
「かってぇ!」
「簡単に壊れるものですか。ここは私の第2の心臓よ」
「あらそう。なら逆はどうなのかしら」
天龍さんの後ろから龍田さんがヌルリと現れ、軸にしている右脚を薙ぎ払う。が、それも跳ばれて回避。空中では身動きが取れないが、そこを砲撃によってカバー。隙が無い。
隙がないのならこじ開けると、着地を狙ってさらに突撃。やはり天龍さんには敵の砲撃は関係ない。今度は艤装のない右脚側から。
「意外と頭を使うのね」
「
当然左脚でガードしようとする。が、身を捩って胴に向かっての斬り上げに変化。同時に龍田さんが逆方向から一閃。
「っふ、ふふっ、楽しいわね。今まで見てきた中で貴女達が一番やりがいがあるわ」
その攻撃は両方腕によって阻まれる。ここで欧州水姫の艤装を展開。両腕が艤装に包まれ、2人の技でも食い止められてしまった。
「じゃあ、今度はこちらの番よ」
背中に接続された4基の戦艦主砲が2人に狙いを定める。白兵戦故に至近距離。そのまま撃たれれば軽巡岬姫もただでは済まないと思うが、関係なしに砲撃準備に入ったということは、何かしら対策があるのだろう。
「当たると」
「思ってるのかしら〜」
同時に本体狙いの一閃。砲撃の瞬間でもあったため、射線をズラしつつの攻撃となった。砲撃は当たらなかったものの、攻撃は当たり前のように腕で食い止められる。
「そうこなくっちゃ。もっと、もっと楽しませてちょうだい」
やたら大振りな左回し蹴り。艤装に包まれているため、当たれば大きなダメージになるだろう。近くにいた龍田さんは跳びのき、天龍さんは刀でそれを受ける。
が、その左脚から水上機が発艦。龍田さんへの爆撃が始まり、天龍さんには戦艦主砲での砲撃が再開される。
「さっきまでの威勢はどうしたの?」
「ちょっと待ってな。すぐにわからせてやるからよ!」
怒涛の砲撃も持ち前の俊敏さで掻い潜り、またもや懐へ。龍田さんも爆撃をヒラリヒラリと避け、天龍さんと同じように接近。
まず天龍さんがその場で身体を捻りながら斬り下ろす。至近距離なら戦艦主砲を向けることが出来ない。腕が脚で止めざるを得ない。片腕を使いその一刀を止める。
「貴女の腕では斬れないわよ」
「知ってる。だからよぉ、こうするんだ!」
受け止めている腕を強引に押し下げる。膂力も戦艦並になっているであろう軽巡岬姫に、力で押し勝った。そしてその背中から目を光らせた龍田さんが薙刀を振りかぶっている。これは当たると判断したのだろう。受け止めるのではなく回避を選択した。片腕は天龍さんに封じられたため、バックステップで。
「へっ、そうするよなぁ!」
それに合わせて、爆発するような突進。腕を押し下げているのだから、当然刀は軽巡岬姫の喉元に向かっている。突撃からの、強烈な突き。
「この……っ」
もう片方の手で刀を掴み、突きは止めた。だがこれで両腕を封じている。脚を使われないように、天龍さんがその脚を踏みつけた。後ろに跳んだ状態からのこれなので、嫌でも体勢が崩れる。
「ガラ空きよ〜」
そこまでやって、龍田さんの薙刀が届いた。艤装も無く、ガードも届いていない腹に突き刺さる。
「っぐ……」
だが反撃の砲撃が放たれ、致命傷になるほどまでには行かなかった。とはいえかすり傷でもない。血はドロドロと流れている。
「やってくれるじゃない……!」
「まだ終わらねぇだろうが!」
握られていた刀を強引に引き抜き、その場で横薙ぎに。当然腕でガードされるが、当たった瞬間にピシッとヒビが入る音がした。天龍さんの刀と軽巡岬姫の艤装、どちらにも小さなヒビが。
「ここまで……っ、っは、はははっ!」
「っはぁ! 面白くなってきたじゃねぇか!」
さらに滅多斬りにしていくが、その全てに対して両腕を使って対応。攻撃する暇を与えず、怒涛の猛攻を続ける。そして、
「っらぁ!」
「はぁ!」
天龍さんの一撃が届く。ガードに基本的に使っていた右腕の艤装が、ついに破壊され、右腕の肘から下が宙を舞った。しかし、同時に天龍さんの刀も折れてしまい、攻撃手段そのものを失ってしまう。相打ちを見計らって、龍田さんがさらに一撃。右腕ではガード出来ないため、そちらの方向から。脚の艤装も左のため、今の軽巡岬姫は右側のガードが甘い。
「最っ高よ貴女達! こんなにやりがいがあるのは初めて!」
だが、ここで新たな艤装。複合型のもう片方。腕そのものが戦艦主砲に覆われた。
「南方棲戦姫かよ!」
「こっちの方が負荷が大きいのよ。出せたことを喜んでいいわ!」
残った左腕での殴りつけるような砲撃により、爆風で天龍さんが吹き飛ばされ、龍田さんも何とかガードするが近付けなくなってしまった。これにより天龍さんは中破。龍田さんも小破。至近距離の爆発だというのに、軽巡岬姫はこの爆発での傷は無い。
「クソが……!」
「こっちも右腕がないのは困るわ。今日はこのくらいにしておいてあげる。あとはオオトリさんに任せるわ」
ここで空母鳳姫と合流。私達の方に混ぜ物が2人になってしまった。
「あら、その腕……やられてしまいましたか」
「ええ、ごめんなさいオオトリさん。少し戦いづらいから私は退くわ」
あれで少しと言い放つ。痛覚が無いのかと思えるほど平然としていた。
「空母棲姫撃破です!」
「高雄さんナイスぅ!」
「白露もよくやってくれたわ!」
また別の場所では、鎮守府に向かって空爆を続けていた空母棲姫が、高雄さんと白露さんの手で処理されていた。たった2人で姫3体をどうにかしてくれたのは本当にありがたかった。こちらは全力で立ち向かったというのに空母鳳姫はピンピンしている。
「あら、私の鍛えた部下達が。致し方ありません。では、終わりにしましょうか。それなりに楽しめましたよ。それに……なかなかいい成果です」
逃げ果せた戦艦水鬼の方を見てから、こちらを見てくる。あの顔、私が戦艦水鬼を洗脳したという事実が余程嬉しいらしい。こちらは罪悪感に苛まれているというのに。
だがこちらもただではやられない。援軍がこちらに向かっているのは、私と響さんが気付いている。他の誰もが気付いていないだろう。
「龍驤、これで終わりです。最後まで私に通用しないようでしたが、やる気だけは認めてあげましょう。楽しかったですよ」
「ほう、そうかい」
後ろ手に合図。既に艦載機を1つ飛ばしていたのだ。援軍が私と響さんの電探に入った直後から、タイミングを合わせるために。
その援軍とは、清霜さんだ。
私と響さん、龍驤さんは纏まって行動している。高雄さんと白露さんは別方向。天龍さんと龍田さんは傷を負っているが逆方向。電探の反応からして、完全に直線上が開いている状態。撃つなら今だ。
「アサさんは生きていてもらわなくてはいけませんから、残りを1人ずつ、アサさんの前で嬲り殺しにしましょう」
「やれるものならやってみろ」
合図を出した瞬間、混ぜ物2人に降り注ぐ超火力。完璧な位置、完璧なタイミング。防御したかは見えなかったが、少なくとも現在、爆炎と爆煙に包まれている。
さらに追撃。清霜さんの砲撃が何度も何度も放たれた。爆炎に次ぐ爆炎。普通の深海棲艦ならひとたまりもないだろうが、混ぜ物、かつ提督の力を持つ空母鳳姫がこれで倒れてくれるとは思えなかった。
「なかなかいい不意打ちですね。火力も大和型ですか」
爆炎の中から空母鳳姫の声が聞こえる。やはり倒せていない。
「私で無ければ、ダメだったかもしれませんね」
突然、龍驤さんの乗る大発動艇が爆発した。今の爆発は魚雷。それに気付いた白露さんと響さんが魚雷処理を始めるが、間に合わないレベルの数が爆炎の中から放たれている。
まだ放たれている清霜さんの砲撃も、深海の艦載機が受け止めていた。何という硬さだ。あの連射が受け止められるほどとは。
「最後に私の姫の艤装を見せてあげましょう。冥土の土産、というものですね」
爆炎と爆煙が晴れる。
奥から、金属の光背を背負った空母鳳姫が姿を現した。恐ろしくも神々しい敵の姿に、私達は言葉を失った。