敵の大きな侵攻がありそうと考え、改二実装に向け急ピッチで練度上げをすることになった私、朝潮。地獄の訓練を、同じく改二実装が間近の白露さんと始めて、もう1週間が過ぎようとしていた。
「よしっ、3機撃墜!」
この1週間で格段に成長していた。最初は服が染まりきることで訓練がリセットされていたが、今では艦載機の撃墜でのリセット。そして今回は
「惜しい! 朝潮、脇腹に一発入っとるで!」
「えっ!? あ、ああー! ゴーヤさんですね!?」
「隙を見せるのが悪いでち。へいへーい、もっかい行くでちよー」
そろそろ無傷クリアが見えてきた。最初の頃から比べると、戦場が見えていると思う。戦艦の射線、潜水艦の位置、爆撃の方向、大体が把握できていた。
以前と違い、最後に私を悩ませているのは潜水艦。大体は把握できていても、音もなく忍び寄ってきて一発だけ当てられる。その時点で次の訓練が確定するため、結果的には潜水艦3人全員を処理した後に艦載機を撃墜するというのがベストの解答になりそうだ。
「さぁ、次です! お願いします!」
「朝潮、逞しくなって……! うち泣いてしまいそうやわ」
でも一番容赦がないのは龍驤さん。稀にまた顔面狙ってくるのは勘弁してほしい。
その後、数回リセットを受け、ついに、
「お、終わった……! 無傷で勝ちです!」
私の周りには水死体のように浮かぶ潜水艦3人。艦載機も3機以上撃墜し、服に汚れ一つない。訓練終了の条件である無傷での完全勝利を成し遂げた。むしろ潜水艦3人全員はオーバーキルまである。
「お疲れさん!」
曳航されてきた龍驤さんとハイタッチ。今回の訓練で一番仲良くしてくれたのは龍驤さんだ。艦載機を使うからこそ、艦載機の対処法もよく知っていたので、アドバイスを沢山受けた。
潜水艦対策はゴーヤさんから、戦艦対策は榛名さんからきっちり学び、私はここまで来れた。皆には感謝してもしきれない。
「早速報告や。白露はまだ苦戦しとるでな、まずは終わったことを教えたり」
「そうですね。司令官に報告してきます!」
喜び勇んで、私は司令官に報告しに向かった。
結果として、私の練度は改二実装に届いていた。改二丁にはまだまだ足りないが、1週間の成果はしっかりと出ている。
「よくやったね朝潮君。あのような訓練をさせて申し訳ないと思っている」
「そ、そんな、成長できましたし」
「霞君から聞いたよ。夜は泥のように眠っていたそうだね。あれだけされては疲れ果ててしまうだろう。艦娘とはいえ君は幼い身体だ」
確かにこの1週間、霞が部屋に来てもろくに話すことなく眠ってしまっていた。むしろ話しているうちに寝落ちしていた。霞にも迷惑をかけてしまっただろう。後からお詫びしておかなくては。
「だが君は晴れて改二となる。実装は白露君の訓練終了後、夕食に違い時間になってしまうが、そこで行うよ。白露君は苦戦しているようだが、今日にでも終わるかもしれないからね」
「了解しました!」
出来ることなら2人で一緒に改二になりたいものだ。
白露さんも改二になるための練度は相当高いらしい。駆逐艦の中では一番だそうだ。そんなところでいっちばーんになりたくはなかったと白露さんですら嘆いていた。だが、その分相当強い改装になる。もしかしたらこの鎮守府一の駆逐艦になるかもしれない。
執務室から出ると、霞が待っていた。私の訓練が終わったことを誰かから聞いてきたみたいだ。
「姉さん、改二になれるって?」
「ええ、今打診されたわ。白露さんの訓練が終わったら改装だって」
「そっか。おめでと」
心なしか、霞も足取りが軽やかだ。私が改二になれることが嬉しいのか、私のあの訓練が終わったことが嬉しいのか、そこはわからない。
その足で食堂へ向かう。午前は私、午後は白露さんときっちり分けて訓練しているので、今頃は緊張した面持ちの白露さんがいるはず。白露さんにも報告しておかなければ。
「お、朝潮ー。今日はどうだった訓練」
「私は今日で終了です。白露さんの訓練後、改二への改装が決まりました」
「なんだとー!? じゃああたしも今回で決めてくるから!」
白露さんは焚き付けるほど力を発揮するタイプだ。先程龍驤さんに苦戦していると聞いているので、ここで少し煽っておくと実力を発揮するだろう。白露さんは反骨心が強いと天龍から聞いている。
「白露さん、できれば一緒に改二になりましょう」
「わかってらーい! 見てろよ見てろよー!」
手早く昼食を終え、足早に去っていく。やる気は充分。あの調子なら今日中に訓練を終えることができるだろう。白露さんはそういう人だ。
「白露っていつも騒がしいわね」
「それがいいところでもあるわ。哨戒任務も楽しいもの」
「哨戒任務かぁ。私もそろそろやる事になるのかしら」
私が訓練漬けの1週間、霞も初霜さんの協力の下、雷撃訓練をみっちりこなしていた。回避訓練と併用した2組合同訓練で、ついに皐月さんに魚雷を当てたらしい。私が見ていない内に、霞もしっかり成長している。
雷撃担当を哨戒任務に付けるとなると、主砲担当のように海上艦への攻撃役としての配置になるだろう。そのためには命中精度をもっと上げなくてはいけないかもしれない。
「霞もすぐに任務が回ってくるわ。それまでにもっと訓練しないとね」
「わかってるわ。今度は姉さんにも魚雷当ててあげるから」
「改二の私でお相手しましょう」
その後、昼食を終えて部屋に戻った私はそのまま寝落ちしてしまった。余程疲れが溜まっていたのだろう。霞曰く、気を失うようにベッドに倒れこんだそうだ。気が抜けたというのもある。
夕食前、私と白露さんの改二改装が実施される。白露さんも何とか間に合わせたらしい。やはり焚き付けておいてよかった。
「じゃあここに入ってね。すぐに眠くなると思うけど、寝てる間に妖精さんがやってくれるから」
明石さんに案内されたのは入渠ドックとは違ったドック。ただ艤装を改装する程度なら艦娘はいらないが、改二となると話は変わる。稀に1回目の改装ですらここを使う人がいるのだとか。
「では白露さん、次は改二で」
「オッケー。見てビックリしようね!」
入った感じは入渠ドックに近い。すごく寝心地のいいベッドのような感覚だ。
入渠ドックだとここに修復材などが加えられて水の中に沈められるのだが、今回は改装。そういったことはないようだ。だが、蓋を閉められ、妖精さんが作業し始めた途端、猛烈な睡魔に襲われた。なるほど、これが明石さんの言っていたすぐに眠くなるというものか。
気付いたときには改二改装が終わっていた。変わったという感触は今の所なく、ドックの中は真っ暗で自分の姿もわからない。
「改装完了。蓋開けるよー」
明石さんの声が聞こえ、目の前が明るくなっていく。ぐっすり眠ったようで、身体はすっきりしていた。さっきお昼寝したというのに。
「はい、お疲れ様。白露の方も開けるよ」
ゆっくりと身体を起こした。すぐにわかったのは制服が変わっていること。今までの吊りスカートはジャンパースカートに変わっていた。皐月さんの時ほど大きくは変わってないように見えるが、やはり変化したのはすぐにわかる。
「ったー、終わったー。朝潮も終わったんだよねー」
白露さんもドックから頭を出す。が、あちらは見た瞬間に変化がわかった。
まず髪型が変わっていた。というか髪が伸びていた。今までに無かった癖っ毛まで出来ている。しかもその先端だけ妙に色味が違う。あれはどうなってるんだろうか。
「あれ、朝潮はそんなに変わってない感じ? 制服だけ?」
ドックから出てさらに変化がわかった。前までは制服越しでもわかるなという程度だった胸。改二になって主張が一気に激しくなった。天龍さんと同じように一回りくらい大きくなっている。
そっと自分の胸に手を当てた。成長、していない。
「白露さん、そのけしからん胸はなんですか」
「そんなこと言われても。天龍さんだってそうだったし、あたしもそうなったってだけでしょ」
なんて羨ましい。私だって女の子、スタイルも気にし始めるお年頃だ。改二になったら少しは、と天龍さんのときに抱いた下心のせいでバチが当たったか。
だが、私の改装は制服が変わっただけじゃないことがすぐにわかる。ドックから立ち上がったとき、目線が違った。
「朝潮、もしかして背伸びた?」
「みたいですね。目線違いますよ」
「うわぁ、成長期ってやつ?」
身長が10cm以上伸びていた。今まで駆逐艦全員で並べても霞に続いて小さかった私だが、今ではおそらく真ん中くらいにまで伸びている。それで胸が成長しなかったのは複雑な気分だが。
「次、艤装お願いね」
明石さんに呼ばれ、改二の艤装を装備していく。改二になった事で
私の艤装は変化としては少ない。前と同じランドセル状の機関部。だが、肩にかけるベルト部分に探照灯が追加されていた。引っ張れば光る仕様みたいだ。
白露さんは艤装まで大きく様変わりしている。煙突やら電探やらで大きさから違った。あとは謎の警笛。
「白露さん変わりすぎですね」
「これは慣らすのに時間がかかりそうだぁ。背が変わってないからバランス自体はそのままだけど」
「あ……そっか、身長が変わるとバランスが変わるかもしれませんね。私もちょっと怖くなってきました」
完全装備となり、明石さんにお披露目を促される。そう言われると少し恥ずかしくなる。
「じゃああたしから行こうかな!」
私の躊躇を余所に、白露さんがさっさと出て行ってしまった。外には皆が待ち構えている。前回の時は何かあったら龍驤さんのツッコミが入っていたが、何を言われるだろう。響さんほどではないが、私も大分変わっている。
「白露お前……白露か? 誰やお前!」
「いやいやいや、龍驤さんそれは無いって!」
「髪型も艤装も変わりおって! ちゅーか何やその乳! おい駆逐艦こら!」
大きく変わった白露さんへのそれは私も言いたくなる気持ちはわかる。別人とまでは言わないが、雰囲気が全く違うのでぱっと見では一瞬誰かわからなくなるかもしれない。
「先に私が出ればよかったです。出づらいですよ」
「朝潮お前……えらい背ぇ伸びたな。小学校卒業おめでとうな」
「まだ艤装はランドセルなんですけど」
確かに改装前は小学生くらいの身なりではあった。急成長で中学生ほどにまで身長は伸びたが、祝われ方が複雑である。
その龍驤さんの隣では、霞が興奮している。同じ朝潮型である私の改二は、自分の改二もこういう変化をするという指標になる。データベースに書かれていない外見の変化が確認でき、自分の次の姿がわかったようなもの。
「私も頑張れば姉さんのように背が伸びるのよね! 期待してもいいのよね!」
霞は自分の小柄さを少しコンプレックスにしている節がある。おそらく鎮守府の中でも一番小さい。背が伸びることが保障されたようなものだから、いつもの雰囲気が何処かに行ってしまったほどはしゃいでいる。年相応、と言ったら怒るだろうか。
「でも胸だけはあかんかったみたいやな」
「アレを見るとちょっとショックですね」
白露さんのそれをこれ見よがしに指差す。
「背が伸びれば何だっていいわよ! せめて皐月より大きく!」
「えぇーっ! ボクだって朝潮達が来るまでは一番ちっさい艦娘だったんだよ!? 改二になっても大きくならなかったしーっ!」
「また一番ちっさいのになればいいのよ! 私は! 改二で! 大きくなる!」
これで個体差で大きくならなかったらどうしよう。私だけ朝潮型でも特別とかだと、霞に申し訳ない。逆に霞が私より大きくなったらショックを受けるかもしれない。
「ま、タッパが欲しいんはうちもようわかる。改二になっても何も変わらんかったからなぁ」
「身長に関しては個人差あるみたいですね。白露さんにも何もありませんでしたし」
今のところ背が変わったのは私と古鷹さんくらいだそうだ。世の中には他にもいるらしいが、朝潮型は全員そういう改二なんだろうか。
「改二への改装、終わったようだね」
ここで執務室での業務を終わらせた司令官が大淀さんを連れて工廠にやってきた。これが最後の業務なのだろう。私と白露さんの姿を見て目を丸くする。
「これはまた……随分と変化したね2人とも」
「見違えましたよ。かたや成長していて、かたや全部変わっていて」
最後の業務は私達の改二実装の結果待ちの部分もあったようだ。
「改二のスペックチェックは明日の朝にやること。今日はもう夕飯の時間だ。今は改装した身体に慣れるところから始めるといい」
特に背が伸びた私は身の回りから慣れる必要があるだろう。椅子と机の高さも変えなくてはいけない。ベッドの大きさは最初から大人の艦娘に合わせられているから問題ないにしても、他がいろいろ大変だ。
夜にはいつも通り霞が部屋に来たが、少し小さく見えた。一緒に寝るときも感覚か違う。慣れるまでには時間がかかりそうだ。
朝潮改二、急に頭身が上がって成長した感じ、いいですよね。白露改二は最初すごくびっくりした思い出。