混ぜ物2人、空母鳳姫と軽巡岬姫との戦闘中。天龍さんと龍田さんが軽巡岬姫に中破以上のダメージを与え、さらには援軍の清霜さんの長距離砲撃により大きなダメージを与えたと思った矢先、空母鳳姫が姫の艤装を展開。まったくの無傷な挙句、避けきれないほどの魚雷を放ってきた。
本来の空母鳳姫、軽空母鳳翔は魚雷なんて運用出来ない。それを、姫の艤装、深海日棲姫の力により可能としていた。深海日棲姫は甲標的母艦、すなわち魚雷運用に秀でている。空母なのに魚雷を放つのはそのためだろう。
「なんやあれ……滅茶苦茶やんけ……」
大発動艇が破壊され、それに巻き込まれてほぼ大破状態となってしまった龍驤さん。向かってくる魚雷は響さんが処理してくれているが、
「天龍ちゃん、引っ張るわ〜」
「悪ぃ……魚雷の爆風まで当たっちまった……」
元より軽巡岬姫との戦いで中破状態の天龍さんは、龍田さん曳航で退避中。しかし、満遍なくばら撒かれた魚雷同士がぶつかった際の爆風で、追加ダメージを受けていた。
一切の容赦なく、見境すらない。軽巡岬姫にさえ当たらなければどうでもいいという無差別攻撃。私も艦載機による射撃で魚雷処理をお手伝いする。
「無駄な足掻きを。アサさん以外はここで死んでもらいますよ」
「ふざけるなよ。誰も殺させはしない」
まだ表側にいるのはアサだ。今のところダメージを受けてはいないようだが、先程までの空母鳳姫との戦いで大分消耗している。
出来ることなら撤退をしたいが、残念なことにここは鎮守府近海。撤退したところで追われれば全員が危険に晒される。ここで食い止めてあちらのガス欠を狙うしかない。
「皆殺しと言っているでしょう」
艦載機も追加で発艦。空と海全てが空母鳳姫の攻撃に埋め尽くされる。だが、ここで私は気付くことが出来た。空母鳳姫が汗をかき始めている。やはり燃費が極端に悪い。
持久戦に滅法弱い代わりに、火力がとんでもない。一気呵成に瞬殺するスタイル。耐えることが、勝利に近付く唯一の手段。
「ならば、これは如何ですか」
高雄さんが呟いた瞬間、空母鳳姫の周囲に魚雷が飛び出した。この乱戦の中、白露さんに魚雷を処理してもらいつつ、手動操作魚雷を放っていた。それはスピードを変え深度を変え、空母鳳姫の足下まで移動した後、急速浮上により海上へ。
対応させる暇を与えず即座に爆破。清霜さんの砲撃も効かなかったが、至近距離の魚雷の爆破ならば或いは。
「っ……そんなことも出来るんですね。ここの艦娘は面白い」
これでもダメか。だが、着ている喪服に傷は付いていることを確認。ほんの少しだけだがダメージを与えることに成功している。直撃なら或いは。
清霜さんの砲撃に関しては、砲撃開始から着弾までに間があるために艦載機による防御をされたのだろう。だが今回のものは、いきなり至近距離に現れての爆破だ。防御する暇を与えない。
勝利の鍵は、魚雷にある。
『弱点わかったわ。足下よ』
「無茶言うな。私らにそういうものが無いことくらいわかってるだろう」
『だから皆を頼るの。今はどうにか撤退させる』
唯一ダメージを与えた高雄さんを睨みつける空母鳳姫。ターゲットが絞られた。先に排除しようとする辺り、本人も理解しているのかもしれない。空母鳳姫の天敵は、魚雷をコントロールできる高雄さんであるということが。
「貴女には一番に死んでもらいましょうか、高雄」
「……貴女には私も思うところがあります。心苦しいですが、そこまで堕ちてしまったのならば、手にかけるしかありません」
スッとその姿がそこから消える。まずいと思った矢先、高雄さんを守っている白露さんが高雄さんに体当たり。その瞬間、匕首による一撃が、白露さんの腹を斬り裂いていた。出てくる血の量からして、思った以上に深手。
「白露!?」
「いっちばーんイイ護衛するっての……! 今は高雄さんを死なせるわけにはいかないんでしょ!」
腹から血を流しながら白露さんが必死の応戦。私もそちらへ向かうが、その前に空母鳳姫が元の位置に戻り、一息ついていた。こちらが必死だというのに呑気に休憩とは。
「オオトリさん、まだ行けるの?」
「ええ、もう少し可能です。誰か1人はアサさんの前で屠りたいところですね」
先程以上に汗をかいている。やはり持久力がない。ならばと、清霜さんに合図。向きを伝えて、長距離砲撃の再開。清霜さんには申し訳ないが、限界まで撃ち尽くしてもらうくらいでないと厳しい。今は空を埋め尽くす艦載機の爆撃により全員が回避一辺倒になってしまっている。
「またですか。懲りませんね……ん?」
ここから弾種が変わる。清霜さんのために作られた三式弾改が放たれ、艦載機を次々と破壊していった。
「厄介ね。私が行く?」
「貴女は右腕が無いでしょう。誘い出されている可能性もありますから、今はあちらは無視です。目の前の艦娘を殺すことに専念しましょうか」
電探の端に反応追加。さらなる援軍。清霜さんの隣を陣取ったのはウォースパイトさん。鎮守府側が大分落ち着いてきたか、火力をこちらに投入してくれている。
ならば、清霜さんと同じほどの火力が発揮出来る、フィフの頭部超大型主砲も追加してもらう。艦載機からの指示で、砲撃開始。
「増えましたね。そろそろ面倒ですし……もう一度だけ」
チラリと高雄さんの方を見た。高雄さんと合流出来たため、私も防衛に参加。白露さんは重傷なため、無理をさせるわけにはいかない。
私の陰から魚雷を海中に放っているのはわかっている。タイミングを合わせたいところだが、今は厳しい。
「やはり貴女でしょう。高雄」
「させるかよ。私が守ってやる!」
再び空母鳳姫の姿が消える。その前に未来を視る。提督の力を使われたらそれすらも乗り越えてくるのは理解しているが、やらないよりはマシだ。それに私はいつも瑞穂さんを見ている。電探を凌駕する動きは比較的慣れている。
『ここ!』
「あら、追いつきましたか」
艤装の腕で迎撃。ヒラリと躱されるが、本来いるであろう場所には辿り着けさせないようには出来た。が、
「でも、間に合っていません」
私の後ろで、高雄さんが腹から血を流していた。白露さんと同じように、血の量から重傷であることがわかる。
だが、最初の龍驤さんの時のように首を狙うことが無くなっているのは何故だろう。まさか、
「ふぅ、さすがに疲れましたね。誰も殺せなかったのは残念ですが、今日はこれくらいにしておきましょうか」
また軽巡岬姫の側まで戻る。汗はさらに増え、誰が見ても疲れが来ているのがわかるほどに。戦艦天姫よりもわかりやすくガス欠しているのが理解できた。
「トドメを刺さなかったこと……後悔させて……あげますわ」
既に放っていた魚雷を急浮上させ、空母鳳姫の足下で全てを爆破させる。が、それはいち早く気付いた軽巡岬姫に阻まれてしまう。空母鳳姫は足下が弱点だろうが、それを補佐出来るものが近くにいるのなら補われるのは自明の理。
「まったく、そういうのは良くないわよ」
「次に来るときは最初から本気で行きますよ。また会いましょう。愚かな艦娘達」
魚雷の爆煙が目くらましとなり、晴れた時には2人とも姿を消していた。
空母鳳姫に対して、本当に為すすべがなかった。高雄さんの魚雷が辛うじてダメージを与えたが、それだけ。それに対して、こちらは私と響さん以外は怪我人ばかり。特に白露さんと高雄さんは、空母鳳姫自身から腹を裂かれている。早く入渠させなくては命の危機もある。
あまりにも高すぎる壁。絶望の中での大敗。
ここからは私が表に出て、帰投準備。すぐに入渠が必要な人ばかりだ。
「響さん、大発動艇は」
「ダメだね。うんともすんとも言わない。後から回収するよ。今は皆を入渠させないと」
天龍さんは龍田さんが、龍驤さんは響さんが曳航する。私は白露さんと高雄さんを曳航。曳航といっても、アサに担いでもらうことで運ぶ。
と、奥から退避していた戦艦水鬼が戻ってくる。当然だが、時間経過により洗脳が解けることはない。その顔を見ると、戦闘中はなりを潜めていた罪悪感と嫌悪感が一気に噴き出してくる。
「……貴女もついてきてください。司令官に説明しますので」
コクンと無言で首を縦に振る。私の言うことだけは絶対に聞く人形。死ねと言えば喜んで死ぬ。本来の意思を塗り潰してしまった。それが私達の敵であり、そのままならこちらに殺意を向けてくるような意思だったとしても、私はこの人の何もかもを奪ったのだ。私の意思で。
涙が出そうになった。私は、取り返しのつかないことをしてしまった。命のやり取りをするような相手でも、これは違う。尊厳を奪うことに他ならない。
私がやったことは、北端上陸姫と同じだ。自分のために他者を利用する。相手の意思など関係なく、自分の手駒として。私の中の悪意が、表に出てきている証拠。
『……すまん。私があんな案を出さなければ』
「選択したのは私……迷いもしなかったもの。それに、本能の化身が出した案なんだから……私も何処かでこれが有用だって気付いてたわ。アサは悪くない」
有用なのはわかっているのだ。だが、それは仲間達を手駒に使う行為。そんな考えが浮かんだ自分が一番許せない。自己嫌悪で頭がいっぱいになった。
工廠に帰投したが、鎮守府も散々な有様だった。いたるところに被弾し、修復が必要な状態に。三度目ともなると、皆、妙に冷静である。
本当に大量の敵が押し寄せてきたのだろう。戦力となる者全員が駆り出されていた。援軍が少なかったのも頷ける。近くに混ぜ物がいたせいで戦力となれない深海組が後片付けをし、戦力となった艦娘は各々回復に努める。
「すぐに入渠させる! 皆手伝ってくれ!」
工廠で待っていた司令官達に、怪我人を運んでもらう。私も担いでいる2人を入渠ドックに運んだ。
「朝潮君、彼女は」
海から上がってこず、じっとしている戦艦水鬼のこと。自分の口で説明するのは辛い。だが、これは自分の罪だ。誰かに説明してもらうわけにもいかない。
「私が……洗脳しました」
素直に話す。司令官の顔が驚きで歪む。事情を察したのか、今はそれ以上言わないでくれた。
「その子にも入渠してもらいなさい。その後に話を聞かせてもらうよ」
「はい……」
戦艦水鬼にも入渠ドックに行ってもらった。皆その姿にギョッとしたが、私が連れて行ったので敵対していないことはすぐにわかってもらえる。敵対するわけがない。私の命令に忠実に従うだけの人形なのだから。
私はほぼ無傷のため、そのまま執務室へ。司令官に話を聞いてもらうためである。
「不利な戦況を切り抜けるため、『種子』による同士討ちを画策したんです……。片方を洗脳すれば……確実に1体減らせると。私が……自分の意思で、戦艦水鬼の意思を塗り潰しました。私の……私の部下になるように……しました」
自分の罪を詳らかにしていく。司令官に聞いてもらうことで、少しだけでも気持ちを落ち着けたい。話しているだけで勝手に涙が溢れた。
だが、決して認めてもらいたくない。許されないことをやった自覚はちゃんとある。
「君のやったことは褒められることではないね。仲間を助けるためにやむを得なかったかもしれないが、彼女の尊厳を踏み躙った。君自身も理解しているようだけど、あえて言わせてもらうよ」
「はい……」
「相手は命のやり取りをしている深海棲艦とはいえ、彼女にも何らかの意思があっただろう。君はそれを自分の都合で書き換えてしまった。もう彼女は本来の彼女ではない。中和すれば元に戻るかもしれないが、君がやった事実は変わらないね」
淡々と説教をされる。司令官に叱られるのは初めてのことだった。私の言ってほしいことを言ってくれる。核心を突き、一番辛いところを抉ってくれる。心が張り裂けそうだった。でも、司令官への感謝の方が大きい。
「仲間が増えることは喜べるが、この増やし方はダメだ。一方的すぎて仲間とは言えない。それを一番理解しているのは君だろう。何度も何度も身体を変えられ、洗脳も体験し、最も忌むべき行為だとわかっているのに、君はやってしまった。頭を冷やしなさい」
戦場であの判断を容易に出来てしまったということが一番の罪だ。選択し、実行するまで自分の悪意にも気付かなかった。やられたことをやり返すための行動は、それこそ敵と同じである。
「君がそれを悪だと理解できているからまだいいだろう。反省はすべきだが、あまり自分を追い詰めないようにするんだよ」
「……自己嫌悪でいっぱいです。今になって、何故私はあの選択をしてしまったんだろうって」
「やってしまったものは取り返しが付かないんだ。これからのことを考えようか」
説教はここで終わり、今後のことについて。罪を償うためにも、私はあの戦艦水鬼の面倒を見なくてはいけない。自己満足と言われても仕方がない。
私が埋め込んだ『種子』の中和もするべきだ。本来の意思を取り戻し、私に恨みを持つのなら仕方のないことだ。それ相応の罰は受ける。死ぬわけにはいかないが。
「明石君には中和するように言っておくよ。その後は君に任せる」
「はい、私がやってしまった罪です。償いをさせてください。……こんなことが償いになるかはわかりませんが」
私はこれから、今まで以上の罪悪感を背負って生きていく。自業自得なのだから、何も文句はない。
自己嫌悪はしばらく払拭されそうにない。今の私は、私が嫌いだ。
防空霞姫: 防空棲姫+水母水姫
駆逐陽姫: イロハ級全て
軽巡岬姫: 欧州水姫+南方棲戦姫
空母鳳姫: 深海日棲姫+???
戦艦天姫: 戦艦仏棲姫+???