欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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対等な関係

混ぜ物2人との戦闘は大敗に終わったが、犠牲者は出ずに済んだ。今は龍驤さん筆頭に怪我人が入渠中。最も重傷を負った高雄さんが、入渠終了が今晩深夜になりそうとのこと。同じ怪我の白露さんが寝る前くらいには終わりそうであると聞き、艦種の違いを思い知らされる。龍驤さんは高雄さんよりもさらに長い辺り、空母は本当に長い。

そしてもう1人。私、朝潮が洗脳してしまった戦艦水鬼も一緒に入渠中。こちらはフラフラで大分消耗していたようだが、夕食後くらいには終わるという話だ。その時には『種子』も中和されている。

 

『気負うな……とは言えないな。私に言う資格はない』

『ご主人、落ち込まないで。仕方ないよ。やってなかったら私達が危なかったもん』

 

アサとヨルは慰めてくれるが、私は割り切れていない。自己嫌悪と罪悪感で、食事も喉を通らなかった。

 

午後からは訓練担当の業務があったが、戦闘後というのと、何もすることが出来ないほどに心が消耗していたため、お休みを貰い私室に篭っていた。ただただベッドの上で蹲る。

部屋には誰にも入ってほしくなかった。誰とも顔を合わせたくなかった。それを察してか、扉の前に瑞穂さんが陣取ってくれている。霞ですら面会謝絶。

 

「私は北端上陸姫と同じよ……結局他人を利用するんだもの……もう何も言えないわよ……」

『んなことあるか。お前は反省してるだろ』

 

反省したところでやったことは変わらない。取り返しが付かないことをしたのだ。反省は当然する。二度とやらないと誓う。だが、開き直ることは出来ない。

 

『それに何度も言うが、洗脳で切り抜ける案を出したのは私だ。お前だけの罪じゃない』

「アサの罪なら私の罪でもあるわ……」

 

洗脳された時よりも酷い罪悪感。司令官に自分を追い詰めるなと言われたが、私の性質上、それは無理な話だった。どうしても考えてしまう。そして、さらにダメな方向に考え方が向かってしまう。

 

『ご主人、もしかして私のせいで落ち込んでる?』

「ヨルのせいでも無いわ。全部私のせいだから、気にしないで」

『全部自分で被ろうとするな!』

 

自己嫌悪はいつまで経っても払拭出来ず、罪悪感は一層深まる。敵に対して罪悪感を持つなと言われたらそれまでだが、今回の件はそういう問題ではない。

 

 

 

結局夕食も食べることが出来ず、誰とも顔を合わせることもなく、戦艦水鬼の入渠が完了する時間となった。部屋の前にいる瑞穂さんから知らせを受け、私は重い腰を上げる。

 

『私が表に出るぞ』

「私の罪だもの……私が会わないでどうするの」

 

シャンとすることが出来ない。身体が重い。でも、ここで進まなくては、まず私自身が前に進めない。無理にでもアサを思考の海におしつけて、私は歩く。

 

工廠。辿り着くまでにいろいろな人と顔を合わせたが、誰とも会話をしなかった。私のしでかしたことを皆が聞いたのだろうか。それとも、私に会話出来ない雰囲気が漂っていたのか。どちらにしろ、誰とも話さなかったのは助かった。

 

「来たね、朝潮君」

 

先にドックの前で待っていたのは司令官。少し表情が暗い。この顔も私のせいかもしれないと思うと、罪悪感がさらに膨れ上がる。

 

「ドック開きます。呉々も気をつけて」

 

明石さんの声と共に、戦艦水鬼の入る入渠ドックの蓋が開く。目を覚ましたようだが、私達に対して訝しげな表情を見せるだけで起き上がろうとしない。

 

「我々の勝手な行動でこちらに引き寄せてしまって申し訳ない」

 

司令官の言葉に対し、敵意を見せることは無かった。どちらかといえばこちらに友好的な印象。『種子』を埋め込んだ私の姿を見ても動揺も恨みも無い。

 

「……あの忌々しい姫の呪縛から解放してくれたことを感謝するわ」

「ふむ、なら君は」

「私は呪縛で強制的に従わされていたの」

 

珍しい白寄りの戦艦水鬼だった。今まで戦った戦艦水鬼とは、口調も少し違う女性らしい話し方。どちらかといえば戦艦棲姫に近い。素材になった艦の魂に引っ張られるのかもしれない。

おそらく、北端上陸姫に反発したが混ぜ物の過負荷により弱体化させられた挙句、『種子』を埋め込まれて洗脳されていたのだろう。そもそも反発しなくても『種子』は埋め込まれているわけだが、この戦艦水鬼に関しては『種子』を埋め込まれる前に姫に敵対心を持ったようだ。

 

「途中でこの子の呪縛に囚われたようだけれど、そのおかげで一矢報いることが出来たわ」

 

やはり私の『種子』も、この人にとっては呪縛として認識されていたようだ。意思を強制的に書き換え、本来の意思に関わらずに私の指示に従う人形に成り果てる呪い。私の罪が浮き彫りになる。

 

「貴女もあの姫と同じ力を持っているの? 他の姫を呪縛に捕らえるなんて同胞聞いたことが無いけど、何者なのかしら」

「……私は……その姫に改造されてこの姿にされた元艦娘です。成り行きで相手を洗脳する力も手に入れてしまい……貴女を悪意の下に洗脳しました」

 

素直に自分の罪を話す。この人にも知ってもらいたい。そのせいで私を恨むのなら仕方のないことだ。むしろ恨まれるべきである。この人の尊厳を踏み躙り、私のいいように使ったのだから。

北端上陸姫を忌々しく思っているのなら、私も同じように思って然るべき。

 

「そう……貴女はあの忌々しい姫とは違うのね」

「え……?」

「あの姫の呪縛は私の心を蝕んだけれど、貴女の呪縛は心地よかったもの。どちらも強制してきたのは変わらないけれど、貴女の方がまだマシかしらね」

 

ようやく起き上がる。ここで全裸であることに気付いたようだが、司令官の目があるというのにまったく気にした様子もない。

 

「貴女、いい子でしょ。さすが元艦娘ね。深海らしくない綺麗な魂を持ってるわ」

 

頭を撫でられる。まるで姉様達に撫でられるような温かさ。初めて会った深海棲艦なのに、慈しみを感じる。この人は、見た目は黒の深海棲艦、凶悪な戦艦水鬼ではあるが、心は白の深海棲艦だ。完全に穏健派。協力者になってくれる可能性のある人。

 

だが、やはりわだかまりはある。洗脳した事実は変えられない。今までの優しさから一転、冷ややかな空気が流れる。

 

「だけどね、心を狂わされたことに関しては、私は許せない。私にも姫のプライドってものがあるの。奴に洗脳された記憶もあるけど、貴女に洗脳された記憶もあるわ。いいように使おうとした時のことをね」

「ごもっともです。私は罪を償うためにここにいます」

「殊勝な心がけね。なら1発殴らせてもらおうかしら」

 

それで済むのなら安いものだ。

が、ここでアサが隙をついて強引に主導権を奪ってきた。私は思考の海に放り込まれ、ヨルに捕まえられる。思ったより強い力で、振りほどくことが出来ない。

 

『何するのアサ!?』

「殴るなら私を殴ってくれ。1発なんて言わず何発でもいい。気が済むまで頼む」

『ヨル、離しなさい!』

『ダメ。アサ姉が()()()()()()()って言ってたの。ご主人はここで見てて』

 

突然態度が変わったことに驚いている戦艦水鬼。アサと交代させられたことで、深海の匂いも強まり、瞳の閃光がより激しくなったことだろう。何かが変わったと、直感的に察してくれたと思う。

 

「なんなの貴女。人格が変わった……?」

「説明が難しいが、さっきまで表にいたのは艦娘側の人格だ。私は深海側の人格だと思ってくれ。お前を洗脳し手駒に置こうと考えたのは、さっきのじゃなく私なんだ。あいつは選んだだけでな、本来の罪は私にある」

 

考えたのはアサかもしれないが、選択をしたのは私だと何度も言っているのに、何故痛みがあるときばかりアサが表に出なくちゃいけないのだ。

 

「朝潮、お前は提督に叱責を受けただろ。充分心に痛みを受けたんだ。選択をした罪はそれでいい。だけどな、身体の痛みを受けるのは発案者の私でないといけないんだ。黙って見てろ」

『そんな、アサ……私の罪なのに……』

「ふざけるな! 私とお前は同列なんだよ! お前だけが償うな! 私にも償わせろ! 何勝手に1人で背負ってるんだ!」

 

こうなることを予想して、このタイミングまで待っていたとしか思えない。

私はもう、黙るしか無かった。思考の海に閉じ込められ、ヨルにも掴まれ、身動きが取れずに見ているしか出来ない。

 

「悪い、中の艦娘側の人格が駄々をこねたんでな、黙らせた。さぁ、殴ってくれ。気が済むまで、スッキリするまで頼む」

「……わかったわ。貴女、深海側の人格っていう割に、律儀じゃない」

 

顔面を殴られる。見えている視界がブレるが、アサはその場に踏みとどまった。艤装を出していないとはいえ、相手は戦艦。感じていなくても痛みがどれほどかは何となくわかる。

 

『アサ!』

『ご主人、ダメ』

「私は黙って殴られるしか償い方を知らん。どうせ風呂に入れば全部治る。好きにやってくれ」

 

続けてもう1発。

司令官も止めようとしなかった。本来なら1発目から手を出していたと思うが、アサの気持ちを汲み取ったか、その場から一切動かない。血が出そうなほどに拳を握りしめていることがわかる。

 

「本来一番悪いのはあちら側の姫なんでしょう。でも、私を狂わせたのは貴女もなのよね。なら、これでチャラにしてあげる」

 

最後の1発は顎に入った。いくらアサでも視界がグラリと揺れ、そのまま真っ暗に。

そういえば、私が裏にいる状態で身体が気を失うのは初めてだった気がする。まるで停電したかのように思考の海が暗くなった。

 

 

 

戦艦水鬼に殴られて気絶してしまったことで、私とアサとヨルが夢の中に集まる。3人でこういう形で集まるのは悪夢以来。

 

「アサ……」

「提督に叱られた時に口を出さなかったんだ。お前に口を出される筋合いはないからな」

 

話し合いをする場として設けられた夢の場だからか、3人で小さな円卓を囲う。ヨルは脚をブラブラさせながら私達を見ているが、私とアサは一触即発のムード。

 

「私とお前とは対等だと言ったよな」

「……ええ、最初に」

「対等なら罪くらい寄越せ。なんでそういうところばかり天秤がそちらに傾くんだよ」

 

何も言い返せない。腹が立つほどに正論だった。一心同体で対等な関係なら、何もかもを分け合うべきだ。幸せも、不幸せも。それを、私だけが罪を被ることでアサを逃がそうとした。アサはそれが気に入らないのだと思う。

 

「私はお前と他人じゃないんだぞ。まずお前はそれを反省しろ。お前の一番の罪は、私を蔑ろにしたことだ」

 

睨みつけられる。目が逸らせない。本気で怒っているのがわかる。

 

「なぁ、そんなに私は頼りないか」

「そんなことあるわけないじゃない。いつも頼りにしてるわよ」

「ならこういう時も頼れよ!」

 

円卓が蹴り飛ばされ、そのまま胸ぐらを掴み掛かられる。夢の中とはいえ、痛みを感じそうなほどの気迫。ここまで怒り任せなアサを見るのは初めてだ。

 

「独りで背負うなといつもいつも言ってるだろうが! 何がお前をそうさせるんだよ! 仲間を頼るって言ってる割に全部自分で背負いこもうとしやがって!」

 

ヨルがアワアワし始めた。子供にこんなところは見せたくなかった。だが、抵抗が出来ないでいた。アサが突き付けてくる言葉は、全て正論だ。本能の化身には私の考えていることなんてお見通し。

 

「こういう時も頼れよ……私はお前の何なんだ……」

 

涙目で訴えてきた。笑顔をなかなか見せないアサだが、泣き顔はもっと見せない。むしろ初めて見たほどだ。それを私に見せたということは、それだけ私に必死に訴えてきているということだ。

アサがそれだけ強く思いを伝えてきたのなら、私もその思いに応えなくてはいけない。本心をさらけ出す。

 

「……ごめん、アサ……私何処かでアサのことを下に見てたんだと思う……」

 

思い返せば、私は事あるごとにアサを後ろに引っ込めていた。裏から出さないようにしていた。大体の痛みを私が受けようとしていた。アサが痛い思いをするなら、私が全部受ければいいと。

優しさといえば聞こえがいいが、奥底には私の方が強いから耐えられると考えている部分があったのかもしれない。

 

「ごめん……ごめんねアサ……対等なんて嘘っぱちだった……」

「なら今からは完全に対等だぞ。2人で罪を被るんだ。お前1人で引きずるんじゃない。言っても聞かないだろうから、無理にでも対等に持っていくからな」

 

1人で背負えないものでも、2人でなら背負えるだろう。私が戦艦水鬼に殴られていたら、それこそ背負いきれずに潰れていたかもしれない。

 

「私は仲間外れ?」

 

不満そうなヨルの声。私とアサが言い争うところを見てハラハラしていたようだが、最後のアサの言葉から疎外感を感じたようだった。こういうところでも上下関係を意識してしまっている。ヨルは子供だから、艤装だからと、私達の罪から離そうとしてしまっていた。

ヨルだって私の中の住人、同居人だ。意味がわからなかったにしても、実行したという罪を持っている、3人ともが、今回の件の咎人だ。

 

「ゴメンねヨル……一緒に背負いましょ」

「今の私達は3人で1つだ。罪も3人で償おう」

「よくわからないけど、みんなでごめんなさいしたらいいんだよね。私もする。噛んだの私だし」

 

思考の海で、改めて一致団結出来た私達。これからは外も中も頼れる相手がいる。考えを改めて、先に進む決心ができた。




自己嫌悪も三等分。ヨルはあまり理解できていませんが、いるだけで頼もしい妹分。
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