欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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あの時の再現

佐久間さんがついに過負荷の克服を達成した。その処置を受けた霞、島風さん、そしてイクサさんは、次の戦いからは率先して参加することになる。私、朝潮もそうだが、あちらの過負荷を力に変えるシステムなので、普通よりも出力が上がっているため、戦力としては最上級になる。

特に島風さんは、1人で駆逐隊を組むことが出来るという特殊なスペックのため、戦力増強としては最高の逸材であった。その全てが深海艤装であり、通常の駆逐艦島風から逸脱した出力を持っている。本人の因縁など関係なしに、優先順位は高かった。

 

霞への埋め込みが完了したため、司令官に連絡。同じタイミングで島風さんと雪さんも執務室に来ていた。どうやら島風さんに処置したのは雪さんの様子。元艦娘として仲がいい2人であり、そういう処置を佐久間さんに教え込まれているおかげでより適切に処置が出来る。

 

「島風も埋め込まれた?」

「う、うん。雪にやってもらった」

「雪さんなら安心出来ますね」

 

何処かぎこちない島風さん。雪さんも妙に顔が赤い。その時点でいろいろ察した。霞でアレだったわけだし、島風さんも同じことが起こっているだろう。あまり深く聞かないように。

 

「島風……アンタも?」

「霞もだよね……私すごい声あげちゃって……」

「私はギリギリ我慢したけど危なかったわ……。お互いえらい目に遭ったわね……」

 

羞恥心の共有中。同じことが起きたからこそ、深まる仲もある。あまり内容はよろしくないが、島風さんは孤独を極端に嫌う性格故に、こういう内容でも共有できる仲というのは必要であった。自分だけが恥ずかしい思いをしたわけではないとわかれば、多少は落ち着けるだろう。

 

「霞の処置が完了しました」

「ご苦労様。詳しい話は聞かないことにするよ。イクサ君が特別だったということは私も理解している」

「はい……2人の名誉のためにお願いします」

 

特に司令官は男性だ。今回のことは同性に見られるのも辛いのに、異性に見られるのはさらに辛い。司令官もそれに関しては理解してくれている。

敵の攻撃を回避出来る画期的なアイテムなのだが、これに関してはどうにか出来ないものかと佐久間さんに打診しているらしい。そういう意味では、霞と島風さんは犠牲者とも言える。

 

「霞は傷と同じ背中に埋め込みました」

「島風ちゃんは処置がしやすい首に。今後何かあれば真っ先にそこを確認してください」

 

何もないことが一番だが、『種子』という形を取っているのは敵が使っているものと何ら変わりないのが事実。万が一のことがあった場合、またそれを中和する必要も出てくるだろう。佐久間さんが中和剤を作っているかは知らないが、2人に何かがあれば、まずそれを疑うに越したことはない。

 

処置後の確認は問題なく、2人は混ぜ物対策班の即戦力として登録された。魚雷役として高雄さんと並べる霞が増えたことを龍驤さんが喜び、1人駆逐隊により邪魔者を排除できる島風さんが増えたことを天龍さんが喜ぶことに。

 

 

 

午後、霞と島風さんが戦闘訓練をすることとなった。『種子』を埋め込まれた後の確認は運用面だけであったが、今回は戦いを通じて何かしらの問題が無いかの確認。

対戦相手は深海艦娘から選出した。霞の案である。私怨が混ざっているような気がしないでも無いが、相手として申し分がないのは確かだ。

 

「深雪に電、時雨、皐月、潮……あの時と同じメンバーね」

「あの時って?」

「ちょっと無茶した時があってね。あのメンバーに姉さん加えた相手に喧嘩売ったのよ」

 

選出された深海艦娘は、奇しくも霞が迷走していたときに私が指揮して霞を完膚なきまでに叩き潰したときと同じメンバー。接近戦の皐月さん、特殊攻撃の時雨さん、艦載機運用が得意な潮さん、連携が得意な深雪さん電さんコンビの5人。

 

「でも、今回は無茶をしない。島風が仲間にいる状態だもの。勝ちをもぎ取りに行きましょ」

「おっおーう! 勿論!」

 

今回は無茶なんて一切無い。相応の仲間を使い、自分を痛めつけるのではなく、適応してあるかを確認するための演習になっている。

あの時から霞も大きく変化している。半深海棲艦化と、手動操作魚雷。この2つだけでも、霞をトップクラスに引き上げるほどのパワーアップである。それに加えて、今回は島風さんが仲間。万全の態勢だ。

 

「あの時の再現と行きましょう。姉さん、あっちに入って」

「ええ、霞がそれを望むなら。全力でいいのかしら」

「勿論。少なくとも姉さん以外の5人は倒すつもりでやるから」

 

6対2。本来なら圧倒的に不利だが、島風さんという1人駆逐隊のおかげで6対5。確かに充分勝ち目のある演習だ。

 

「女帝様の指示で戦うのはあの時以来なのです」

「だな。女帝、頼むぜぇ」

「そうですね。とりあえずあの時と同じことを言っておきますけど、後頭部に気をつけてくださいね。今私24機使えますからね?」

「多くね!?」

 

あの時からこちらも成長している。私は身体そのものが成長してしまっているが。艦載機の数も当時から格段に増え、自分で攻撃も可能。今回は白兵戦は控えるつもりではあるが、事と次第によっては使う。全力を望んでいるのだから仕方あるまい。

 

「それじゃあ始めましょうか。こういう指示も久しぶりですね。皐月、正面から。深雪、電、左右から」

 

同時に全員が一斉に艦載機発艦。皐月さんは自分の足場にしか使わないため、合計21機が2人に襲い掛かるかたちに。

 

「島風、よろしく!」

「小、高射砲! 撃ち落としちゃってー!」

 

大量の艦載機を、たった1つの連装砲ちゃんで食い止めようとしていた。同時に霞もありったけの魚雷を発射。半深海棲艦化により20本の手動操作魚雷を放ってきた。

 

「電!」

「なのです!」

 

魚雷の進行方向から逃れるように大きく迂回して攻撃を繰り出す深雪さんと電さん。ただし、魚雷はその迂回まで考慮した挙動をする。霞だって今では行動予測の使い手。回避方向を見越した魚雷操作をする。魚雷処理は

 

「中と大は皐月を止めて!」

「それでボクをとめようっての? かわいいね!」

 

真正面から突っ込む皐月さんに対しては、連装砲ちゃん2つをぶつけるつもりのようだ。艦載機を足場に使い、上から攻撃してくる皐月さんには魚雷が効きにくい。上に当たるのは連装砲ちゃんだけになる。島風さんは本体では魚雷と爆雷しか使えないため、皐月さんは天敵中の天敵。

 

「時雨、2時へ」

「早速かい。人使いが荒い女帝様だ」

「島風さんは早いところ止めた方がいいです」

 

霞の魚雷が脅威なのは確かだが、島風さんが轟沈判定になれば連装砲ちゃん3つも同時に機能停止する。数を減らすことの方が優先順位が高いのは確かだ。

時雨さんの背部大型連装砲により、島風さんを集中狙い。が、私は少しだけ見誤っていたところがある。島風さんの素早さは、尋常ではなかった。

 

「時雨、おっそーい!」

 

発射を見てから回避して無傷。連装砲ちゃんは自立型なおかげで指示1つで最善の動きをする。おかげで自分は雷撃しながら回避に専念すればいい。

 

「島風はそこまで速いのかい!?」

「疾きこと、島風の如し! だから!」

「潮、2時へ艦載機」

「了解」

 

動きの速さを計算し直し、艦載機での牽制。眼前に突如現れれば、嫌でもブレーキをかけるはずだ。案の定、島風さんの動きはそこで一瞬止まる。そのうちに時雨さんはその場から退避。

 

「皐月ちょっと邪魔よ!」

「いやぁそれならいい仕事出来てるよね!」

 

一方、霞に一番接近している皐月さん。連装砲ちゃんからの砲撃を回避して霞の真後ろに着地した。振り向きざまに斬ろうとするが、そこは霞も予測済み。真後ろに魚雷を1本だけ移動させ、自分に被害が出ないギリギリの位置で起爆。その衝撃で皐月さんは体勢を崩す羽目に。隙を見てその場から撤退。

 

「深雪、電、8時から10時へ」

「迂回ってことか。追尾してくる魚雷ってきっちぃ!」

「前と違って近づけないのです!」

 

霞も皐月さんからの攻撃を回避することに専念しつつ、深雪さんと電さんのコンビを魚雷で無理矢理近づけさせないようにするだけで、大分有利に戦えるようになる。

なら、そろそろ艦載機を増やそうか。島風さんの速さに時雨さんがついていけなくなってきているため、そちらにまず援軍が必要。

 

「ヨル、艦載機お願い」

『はーい!』

 

尻尾から発艦する水上機12機。これで私も全開状態。

 

「艦載機増えたよ霞!」

「ああもう、対空出来ないのがしんどいわ。連装砲ちゃんは艦載機処理に全部回して!」

「おっけー! 時雨は雷撃で!」

 

3つの連装砲ちゃん総動員で艦載機対策。その隙間を縫うように、霞の魚雷が時雨さんと潮さんの方へ。そちらは自分で対処してもらうしかない。

今の最善を予知。島風さんはあくまでも時雨さんへの攻撃を続け、霞が回避に専念しながら全方位への雷撃を担当。爆破しては追加を繰り返し、牽制とダメージを並行しながら魚雷の密度は一切変えない。連携がいくら得意でも、近付く事が出来なければ意味がないため、深雪さんと電さんがただの魚雷処理マシーンと化している。

艦載機で魚雷の処理をしているものの、その艦載機自体が連装砲ちゃんに次々と処理され、思った以上に厄介だった。

 

「朝潮、これまずいぞ!」

「霞ちゃんの魚雷がどうにもならないのです!」

 

持久戦に突入しそうな様相だが、その前にやり口を変えよう。島風さんを優先するべきだと思ったが、戦い方からして霞の方が先に消えてもらう必要が出てきた。

 

「時雨、10時」

「了解」

 

島風さんに狙われている状況ではあるものの、一旦時雨さんには霞を狙ってもらう。あちらも予測で回避しそうではあるが、行動を阻害する必要は確実にある。集中力を削ぐ意味でも、大火力を向けておく必要はある。

 

「皐月、7時へ」

「ボクが島風!? りょーかい!」

 

役割自体を変えた方が良さそうだった。速さには速さで対抗。天龍さんに鍛えられている皐月さんは、艦載機による空中移動を込みにしても普通より素早い。本人の艦載機は連装砲ちゃんに軒並み墜とされてしまっているが、私の艦載機をそちらに回しているため、空中移動はまだ可能。

 

「悪いね霞。まず僕が相手させてもらうよ」

「勘弁してよ……!」

 

大型単装砲による一撃が霞を掠める。咄嗟に回避したようだが、魚雷のコントロールが一瞬甘くなった。この隙は見逃さない。

 

「深雪、4時、電、8時」

「よし、やっとか!」

 

指示後、即座に予知。挟み撃ちに対して魚雷発射は読めている。さらにその先、手前で爆破して牽制してから、もう一本ずつ。これを回避するためには、ただの回避だと他の魚雷にぶつかる。

 

「深雪、電、手前で爆発したらジャンプ」

「滅茶苦茶なのですーっ!?」

「濡れる覚悟で行くぜぇ!」

 

予知通り手前で魚雷が爆発。その後ろに魚雷が隠れているのも確認。ジャンプで避け、水飛沫の中特攻する形になった。

 

「うっそマジ!?」

「やっと抜けたぜぇ!」

「霞ちゃん覚悟なのです!」

 

2人同時のヘッドショット。霞がこれで轟沈判定。ばら撒かれた魚雷が一斉に爆発する。

 

「うぇっ、霞!?」

「島風、余所見は良くないね」

 

霞がやられたことに動揺した島風さんの目の前には皐月さん。連装砲ちゃんを無視し、真正面に。こうなると連装砲ちゃんが皐月さんに集中砲火を浴びせようとするが、時雨さんが連装砲ちゃんに対して大型単装砲を放っていた。

 

「もう逃げられないよ!」

「避けるよ! だって速いもん!」

 

完全に入ったと思われた皐月さんの一撃。紙一重のところで回避していた。島風さんはそこまでのスピードが出るのか。思った以上だった。

 

「えっと、島風ちゃん、ダメです」

 

が、避けたところに潮さんの艦載機。1発の射撃でヘッドショット。これが轟沈判定となり、演習が終了となった。

 

 

 

顔を拭きながらため息をつく霞。

 

「なかなか攻撃に転化出来ないわね……」

「でも上手いものよ」

 

私としては、思った以上に苦戦したという気持ちが大きい。私はその場から動かなかったものの、近付く隙がなかなか無く、結局深雪さんと電さんは水浸し。あれが演習用の魚雷だったからあれで済んでいるだけで、本番だったら少なからず制服が焦げていた。

霞は大きく成長している。頼りになる妹だと、改めて見せてもらえた。背中を預けるに値する存在だ。

 

「ボクはアレを島風に避けられたのが悔しいよ」

「へっへー、見てから避けたよ!」

 

島風さんの素早さは目を見張るものだった。あれは計算に入れるべき強みだ。砲撃以上に、皐月さんの白兵戦ですら回避したあの性能。深海棲艦化であそこまでのものになったのかはわからないが、充分すぎる。本人は雷撃のみであるものの、切込隊長として不安がない。

 

「じゃあ、もう少しこれを続けましょう。霞と島風さんが音をあげるまで同じことを繰り返します」

「それくらいやれば身体に染み付くでしょ。絶対に姉さんを引きずり出してやる」

 

その後、嫌という程訓練を続けた。

島風さんは終始楽しそうだった。仲間との共闘、仲間との演習、強くなる実感。どれを取っても、島風さんには欲しいものだったようだ。

明日以降の混ぜ物襲撃でも、その力を遺憾なく発揮してくれるだろう。




ここのところ登場する機会を失っていた深海艦娘達。艤装不調に巻き込まれているせいでなかなか出せずにいましたが、今回はある意味霞の因縁。
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