欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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払暁の襲撃

午後一杯を使った霞と島風さんの演習は、とても有意義なものになった。途中からは天龍さんと龍驤さんも見学に来て、どれ程までに成長したかを確認している。今後の作戦立案もそうだが、現場判断は基本的にこの2人。私、朝潮が戦闘に参加出来たとしても、実戦経験の差が大きすぎる。私がその場で考えるより、実際に戦っている人の判断の方が有効な場合が多いだろう。その2人が口を揃え、次の襲撃でも問題なく運用できるだろうと話していた。

 

司令官の予想では、混ぜ物の次の襲撃は明日ではないかと考えていた。前回の襲撃から3日。前回、前々回と、襲撃ペースは3日前後になっている。タイミング的には確かに明日。

時間まではなかなか予想は出来ないが、前々回が深夜、前回がお昼回った直後と、こちらとしてはあまり来てもらいたくないタイミングで来ることを視野にいれると、次は早朝、それもまだ日が昇る前ではないかと予想していた。

 

その方針で準備をし、迎撃体制を作ることとなる。あちらはそれも見越して何かをしてくるかもしれないが、今やれることは全て出し切っている。ここまで来たら、あとは根気比べだ。

 

 

 

翌日早朝。まだ日も昇らず、外は薄っすらと闇が拡がる時間。私は霞と島風さんを連れて工廠で待機する。これもあるため、昨日は早めに床につき、万全の態勢で臨んでいる。

朝食は控えめに携帯食。カロリーの少ない清霜さんのオヤツみたいなものだが、お腹に入れておけば少なくとも気力は出る。

 

「本当に来るのかな」

「司令官はあくまでも予想って言ってましたし、来ない可能性は大いにありますよ。でも準備だけはしておいて損は無いです」

 

まだ眠そうな島風さんには、ヨルが巻きついて眠気覚ましをしてくれている。連装砲ちゃん達と戯れながら、島風さんにも頭を擦り付けていた。大型犬と戯れるような状況に、心が穏やかになるような感覚。

 

「来ないなら来ないで寝直すわ。暗い内から起きてるのは辛いもの」

「そうね。来るまではここで寝ててもいいのよ」

「姉さんが起きてるなら私も起きてるわよ。緊張してるから眠気もないもの」

 

緊張感が増しているのは確かだ。そのせいか私も眠気すら来ていない。こんな中でも眠そうにしている島風さんは、大物なのか緊張感が無いのか。

 

私達が前衛。艦娘の準備が整うまでの時間稼ぎ。数人は既に艤装の装着を終えて待機中だが、今回も大人数で鎮守府そのものを狙ってくる可能性があるため、こんな妙な時間でも総動員の可能性は非常に高い。

今回の夜間部隊には、深海の気配が読めるポーラさんが含まれている。近付いてきたら私達よりも先に勘付くはずだ。

 

「夜間部隊、帰投だよ。お疲れ様ー」

 

だが、そうこうしているうちに最上さん旗艦の夜間部隊が帰ってきてしまった。何も連絡が無かったということは、今日はただ哨戒をして終わっただけということか。

 

「お疲れ様です」

「提督以外のお出迎えがあるっていうのはいいね」

 

仮面をつけていない最上さんを見るのも少し久しぶり。まだこの時間なら日も出ていないため、仮面は不要なわけだ。戦闘中は敵の探照灯があるために、仮面が必要なことも多いようだが。

後ろから随伴のポーラさんと長良さんも帰ってきた。怪我もなければ戦った痕跡もないため、この一晩は本当に何も無かったのだと思う。司令官の予想は外れてしまったか。

 

「何にもありませんでした〜」

「静かな海だったよねー。いつもこうなら夜間部隊も楽なのにね」

「大体こうじゃないかな。あの時の襲撃が特別なだけだよ」

 

私達が知らないだけで、夜も酷い戦闘があるのかといえばそうではなく、念のための哨戒の役割が大きい。今でこそ佐久間さん暗殺部隊が毎日のように襲来するために、専属の部隊を割り当てているというくらいである。

その専属部隊、第十七駆逐隊も工廠に戻ってきた。見た感じでは戦闘をしていない。ただ、疲れているのは確か。

 

「珍しく今日は何も無かったな」

「いつもこうであってほしいねぇ」

 

比較的元気そうではあるが疲れた顔の磯風さんと、疲れを隠さずに溜息をつく谷風さん。他2人も似たようなもの。来ないなら来ないで気疲れはある。

今日は佐久間さん暗殺も無かったようだ。珍しいこともある。いや、むしろこれが嵐の前の静けさというものなのかもしれない。暗殺という(てい)も捨てて、以前のようにダイレクトに鎮守府を破壊してくる可能性はある。しかもこんな起きているか起きていないかの微妙な時間だ。回避が難しいタイミング。

 

「皆、お疲れ様。何事も無くてよかった」

「お疲れ様提督。予想外れたね」

「ああ、変に緊張させてしまってすまなかったね」

 

外れてよかった予想なので問題は無いだろう。最上さん達も問題ないと手をヒラヒラ振っていた。眠そうではあるものの、一切の戦闘が無かったようで、普段通りとなったようだ。

 

「朝潮達は早く起き損だったかな?」

「いえいえ、戦闘はないに越したことはないですよ」

 

そう、無いなら無い方が良かった。

 

このタイミング。私が確認できる範囲の端の端。混ぜ物の気配が2つ。全員が鎮守府に引っ込んだこのタイミングを狙ってきた。ポーラさんの感知を超えた位置からこちらの動きを見ていたような動き。それが出来るのはおそらく空母鳳姫の艦載機だろう。

 

「……このまま終わってくれれば良かったんですが。混ぜ物の気配が来ます」

「提督、予想当たっちゃったね」

「全く嬉しくないがね」

 

気配と匂いからして、今回も空母鳳姫と軽巡岬姫。戦艦天姫は3つ前の襲撃以降姿を見せていない。艤装を出したことで何かしらの問題が発生したか。

ひとまず司令官は鎮守府全体に警報と通達を放送。少なくとも動ける者は総動員。動けないものも避難が必要。

 

「霞、島風さん、身体は?」

「大丈夫。いつもの吐き気も無いし、艤装も動きそう」

「こっちも! 連装砲ちゃんも準備万端だよー!」

 

佐久間さん謹製の金の『種子』の力により、過負荷による艤装不調と体調不良は完全に克服出来ている。むしろ出力が上がっており、連装砲ちゃん達の動きにキレがあるほどだ。

だが、その副作用もあるみたいだった。2人とも、瞳が()()()()()()()()。金の『種子』により過負荷が力へと転化させられていることが、見た目にも現れている。副作用はそれだけのようで安心。

 

「奴らが来たみたいね」

 

同じように瞳を輝かせたイクサさんも工廠に到着。金の『種子』を埋め込まれれば、もれなくこうなるようだった。

 

「さぁ、さっさと迎撃するわよ」

「はい。私達は迎撃と時間稼ぎです」

 

この闇の中では空母組が機能しない。対して空母鳳姫含む深海の空母は夜間でも艦載機を飛ばしてくる。制空権の確保に参加できるのが私しかいない時点で大きく不利。

まずは日の出を待ちたい。勝てるならそのまま行きたいところだが、前回の宣言通りならば、空母鳳姫は最初から本気。深海日棲姫の力を全開で使ってくる。

 

「オレらも行くぜ。このために先に待機してたんだからよ」

「矢矧ちゃんいるんだものね〜」

 

私達に便乗して、先に準備をしていた天龍さんと龍田さんも迎撃戦へ。特に天龍さんは、因縁のある軽巡岬姫との決戦のために、刀も新調している。ここで決着をつけるつもり満々だ。

先程まで夜間任務に出ていた7人は、一旦休憩。鎮守府防衛に入り、どさくさに紛れて佐久間さんの暗殺などが無いかどうかを警戒することとなる。

 

「あ、ちょっと待ってください、何かしてきました……」

 

こちらに向かってくる気配が電探の索敵範囲に入った時、明らかにこちらが不利になる何かをしてくるのがわかった。一気に反応が増えたということは、艦載機を発艦したということだ。夜だというのに当たり前のように使ってくるが、数がやはり尋常ではない。

さらには随伴の空母棲姫や、それ以上の気配を持つものからも艦載機が一斉に発艦したせいで、到底対処出来ない量がこちらに向かってくることに。

 

「か、艦載機が来てます! 絨毯爆撃です!」

「鎮守府を壊しにかかってきたのね。私も手伝うわ。防空出来る子は全員来なさい!」

 

イクサさんがすぐに工廠から出て行く。防空が出来る者となると、今この場にいるのは私と天龍さんしかいない。島風さんも可能ではあるが、私達ほど経験がない。だが、出来ることをやらなければ私達の居場所がなくなる可能性があるため、私達は大急ぎで出撃した。

 

 

 

工廠から外に出ると、イナゴの群れかというほどに空が艦載機で埋まっていた。確実に鎮守府が全壊するレベル。

 

「初仕事が羽虫退治だなんてね。私が半分は受け持ってあげるわ!」

「おいおい姐さんやれるのかよ!」

「私は姫なんだし、過負荷を力に変えてるのよ?出力も上がってるわよ!」

 

自立型艤装の頭部が上空を向き、口を大きく開けた。

 

「撃ちなさい!」

 

轟音と共に放たれたのは三式弾。過負荷により出力が上がり、空一面の艦載機のど真ん中から、穴を空けるように撃墜していった。

だが、それだけでは全機墜とすことは出来ない。その撃ち漏らしを、私と天龍さんが処理していくことになる。さらに島風さんがさらに撃ち漏らしを連装砲ちゃんで撃っていった。

 

「やべぇ、全然足りねぇ!」

「避難はしてるんでしょう? 多少の損害は大目に見なさい!」

 

最終的に2割ほどにまで減らすことが出来たが、どうしても間に合わない。薄く出来たものの絨毯爆撃により、鎮守府が破壊されていく。内部から破壊された最初の時よりは被害は軽いが、それでも3階は見るも無残な形に。私室がある場所も破壊され、ちゃんと避難出来ているかが心配になる。

 

「あら、意外と減らしましたね」

 

必死に艦載機に対抗していたところで会敵。空母鳳姫の後ろには空母棲姫2体とその上位版、空母水鬼が3体。空母のみの艦隊。完全に空爆メインでここに来ている。そちら方面で本気を出されても困る。

その隣には軽巡岬姫。相変わらず人形を随伴につけているが、天龍さんの姿を見た途端、前回飛ばした右腕を見せてきた。

 

「いつぞやの借り、返しに来たわよ」

「おう、返さなくていいぞ。ここでくたばるんだからよ」

 

あちらは因縁をここで終わらせるための戦いになるのだろう。私が口を出すことではない。龍田さんも付いているのだから心配は要らないはずだ。

 

金の『種子』組は空母鳳姫と対峙。空母の姫6体との戦闘というのは初めてのこと。その全てが私達ではなく鎮守府の破壊を目論んでいるとなると厄介極まりない。

私の後ろのイクサさんを見ていろいろな感情が入り混じった表情を浮かべる。

 

「おや、その戦艦水鬼はアサさんが自分の意思で洗脳をしたものですね。どうでしたか、他人を自分の意のままに操るのは気持ちよかったでしょう」

「反吐が出ますね。これを好き好んでやる貴女方がどこまで外道なのかが理解できましたよ」

「でも、それを貴女が選んでやったんです。やはり貴女は姫様と同じものなんですよ」

 

私が言われたくないことをズケズケと。苛立たせる天才か。そうやって私の心を不安定にしようとしているのは目に見えている。予想が出来ているのなら、私は冷静に対処出来る。

 

「ですが……少し想定外ですね。貴女以外は倒れているはずですが」

「残念ですが、我々は過負荷を克服していますので」

「そうですか。……佐久間さんの仕業ですか。やはり殺しておかなくてはいけませんね」

 

スッと目の前から消える。提督の力を使った攻撃。気付いた時には遅いのだが、今回は一味違う。私の少し後ろでパァンと何かがぶつかり合う音が聞こえた。

 

「人の友達に何しようとしたの」

 

その攻撃を島風さんが受け止めていた。あの速さに対応できるのはもう島風さんしかいない。過負荷を力に変えたことにより、それにも追いつくことが出来るようになっていた。疾きこと、島風のごとし。

 

「貴女は姫様に捨てられた島風……まさかここで牙を剥いてくるとは思いもしませんでしたよ。何も出来ずに朽ちていくだけの木っ端だと思っていましたが」

「みんなのおかげで私はここに立ってるの」

 

手首をギリギリと握り、空母鳳姫を睨みつける。同時にイクサさんが動き出していた。至近距離故に砲撃は難しいため、そのまま自立型艤装による格闘。さすがに殴られたら危険と判断したのか、島風さんの手を振り切って先程までいた位置に戻っていた。

 

「あら残念。逃げ足だけは速いのね」

 

逃げた場所にイクサさんの砲撃。咄嗟の攻撃だったため、少し火力の小さい副砲ではあるものの、当たれば致命傷の強力な攻撃である。が、それは艦載機によってガード。

そこへ霞がこっそり放っておいた魚雷を合わせる。大回りし、深く潜ったところからの急浮上。足下、ドンピシャ。気付いた時にはもう遅い。大きな爆発に巻き込まれた。

 

「これで倒せるなんて思ってないけど、燃えてるとこを見ると清々するわね」

「……貴女達は本当に厄介です。姫様が目の敵にするのもわかりますよ」

 

爆炎の向こう、金輪の陰が見えた。深海日棲姫の艤装を展開している。あれをするだけで魚雷のダメージを軽減している理由はわからないが、とにかく、段階を1つ進めることは出来た。ここからは時間が経てば経つほどこちらに有利になる。

 

「アサさんは瀕死に、他は皆殺しです。覚悟はよろしいですか?」

「貴女も覚悟はいいかしら。これだけ恨みを買ったのだもの、ただで死ねると思わないことね」

 

水平線の向こう、日が昇ってくるのが見えた。夜が明ける。

爆炎が晴れ、姿を現した空母鳳姫が逆光を浴びていた。神々しくも禍々しいその姿に以前は畏怖を感じたものだが、今は違う。ここまで来たらもう手が届くはずだ。

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