明け方の襲撃。軽巡岬姫は撃破したものの、空母鳳姫は逃してしまった。だが、空母鳳姫の最後の艤装が確認でき、あちらが出来ることは全て判明したとも言える。ここからは隠し球をあまり考えずに作戦を立てることが出来るだろう。
しかし、あちらも残り2人となったことで、空母鳳姫が戦艦天姫と共に行動する可能性も出てきている。提督の力を持つ2人の混ぜ物が同時に来られた場合、どう対策すればいいかわからない。特に戦艦天姫は、まだ手の内を全て晒したわけではないのだ。
鎮守府も惨憺たる状況だった。あの後の空襲により被害は拡大し、3階だけでなく2階にも影響があった。私の部屋も潰れているわけではないが大変なことになっているらしい。
1階はほぼ無傷だったおかげで、今すぐ使いたい施設は全て稼働している。中破以上の怪我人は全員すぐに入渠。小破で済んでいる霞も、響さんと一緒にすぐにお風呂へ。比較的無事な私と龍驤さん、そしてイクサさんが司令官への報告をしている。
「軽巡岬姫は撃破したが、空母鳳姫はまた逃げてしまった、と」
「ホンマごめんなぁ……また倒しきれんかった」
「いや、皆が生きて帰ってきてくれたことの方が嬉しいよ。それに、あちらの手の内は全てわかったのだろう? それなら作戦が立てられる。龍驤君が気に病むことではないさ」
先程の戦いで、空母鳳姫とはもう3度目の交戦。徐々に追い詰めることが出来ているのは確かなのだ。こちらの被害も毎度甚大だが、相手の最終段階までは持っていけた。イクサさんのおかげで勝ち筋も見えた。次こそは勝てると信じている。
「今は身体を休めてほしい。鎮守府の再建はもう始めているが、また大部屋に全員で寝てもらうよ」
「仕方あらへんか。目処はどれくらいなん?」
「前回のように大幅な改築はしないのでね、3日から長くて5日くらいだそうだよ」
相変わらず、妖精さんの手腕には驚かされる。
またあの生活が戻ってくるというのは、不謹慎ながら少し楽しみでもあった。前回大部屋で全員で寝るなんてことをしたのは、アサが生まれ、鎮守府から離れていた時期だ。私は堪能出来ていない。今回は思う存分楽しませてもらおう。
「朝潮君、この後回復したらいつも通り佐久間君のところだ。白い『種子』の摘出をするよ」
「了解です」
「あれは良かったわ。あいつらが来た時だけ、いつもよりも出力が上がるのよ」
イクサさんも金の『種子』による過負荷の転化は大いに満足したようだ。防空のための三式弾も、腕部主砲も、勿論自立型艤装の口内大型主砲も、全てにおいてスペックアップしている。
空母隊の殲滅から、空母鳳姫の牽制、さらには艦載機の撃墜まで、幅広く活躍してくれた。しかもほぼ無傷での帰投。出来る限りの最高の戦果である。
「全員に埋め込みたいくらいよ」
「さすがにそれは難しいかと。今回でどれだけ摘出出来るか次第ですが、それでも追加は1人か2人分じゃないですかね」
「あら残念。でも一矢報いることは出来たわ。貴女達のおかげね」
頭を撫でられた。イクサさんの癖なのか、よく撫でられる。悪い気はしない。
「イクサ君も検査を受けてもらっていいかな。金の『種子』を埋め込んで初めての戦闘だ。今はスペックアップに繋がっているかもしれないが、後から悪影響が出ましたとなったらシャレにならないからね」
「わかったわ。サクマのところにいけばいいのよね」
「ああ、お願いするよ」
ここからは事後処理になる。私達もお風呂に行ってから、佐久間さんにいろいろと調査をしてもらうことに。私は艤装が一部抉れてしまったが、お風呂に入ればその辺りも修復可能。この身体の利点は活かしていかなくては。
事後処理まで終わらせると、もうお昼に近い時間になってしまった。回復、白い『種子』摘出、さらに金の『種子』組の検査と、やることは多い。大破により入渠中の島風さんも、ドックの中でそのまま検査をされるようだ。
ヨルの中の白い『種子』は、見積もりで2人分の摘出が出来たらしい。これでまた2人、深海組から戦場に出られる者が増える。1人は扶桑姉様で確定しているが、もう1人は誰にするか。そこは司令官に考えておいてもらうとしよう。
「霞ちゃんもイクサさんも、金の『種子』が身体の中で増殖しているとかは無かった。ちょっと期待したんだけどね」
「そっか、私の中で増殖してたら、佐久間さんの手が入らなくても全員に埋め込めたのね」
「さすがにそんな上手くはいかないねぇ。2つの『種子』を混ぜ合わせてるから、そういったところが消えちゃったみたい。同じシステムなのになぁ」
上手く行っていれば霞達が噛み付くことで全員が金の『種子』持ちとなれたのだが、そう事はいいように運ばないようである。とはいえ、『種子』というシステム自体、身体をいじくり回しているものであるため、あまり頼ってはいけないものではある。それは佐久間さんも重々承知。
「それ以外は完璧だね。混ぜ物が来た時だけスペックアップ。後からの代償無し。完璧過ぎて自分を褒めてあげたい」
「私が褒めてあげるわよサクマ。よくやってくれたわ」
佐久間さんの性格を判断した上で抱き寄せたイクサさん。まるで子供をあやすように撫で回す。私がやられているのを客観的に見るとこうなるのかと改めて思う。
私と違い、生まれた時からの純粋な深海棲艦に抱きしめられ、いろいろな感情が爆発している佐久間さん。私から見てもだらしない顔をしている。
「この調子で頑張ってちょうだい」
「ウッス! 誠心誠意やらせていただきます! アザッス!」
身体の柔らかさやら深海の匂いやらをある程度満喫したところでようやく離れる。イクサさんは気にしていないようだが、あまり酷いようなら引っ叩くまであったかも。
「まずは金の『種子』の増産かな。研究室が壊れなかったのはラッキーだよ」
「1階はほとんど無傷だったらしいですね」
「そうそう。特に私狙われてるし、妖精さんが特別頑丈にしてくれてたんだよね」
言われてみれば、佐久間さんの研究室は傷一つなく、前に来た時から物の配置すら変わっていない。空爆で激しく揺れたのだろうが、中では何も起きていなかったようだ。緊急時にはシェルターになるのではなかろうか。
午後イチに追加の金の『種子』が完成。出来たのは当初の予想通り2つであった。誰に埋め込むかを決めるため、先日と同じように深海組が招集される。
まだ島風さんの入渠は終わっておらず、金の『種子』の実体験を語れるのは霞とイクサさん。2人とも明らかに出力が上がっていると力強く説明する。
「最初さえ乗り越えられれば、あとは何も変わらないわ。生活に支障もない。混ぜ物との戦闘中だけスペックアップするって感じね」
「まさか三式弾まで威力が上がるだなんて思ってなかったわ。出来るものなら全員に埋め込みたいくらいだもの」
大絶賛の2人。だが、霞の言う通り、最初が肝心である。あの強烈な快感が非常に羞恥心を煽る。1人で処置をするのも問題はないかと思うが、
「私は……ここで貰うわ……」
「前回に言っていたね。準備が出来たから、扶桑君に1つ渡そう」
「あとから山城にやってもらうわね……」
扶桑姉様にはここで埋め込まれることに。この鎮守府でも最強と言っても過言ではない。現段階で誰よりも優先度が高いのは間違いなかった。空母鳳姫の最後の艤装は、扶桑姉様なら破壊出来るように思えた。山城姉様も参戦出来るようになり、ゴリ押しも利くようになる。
「さて、もう1つだが……」
判明している敵の戦力からして、必要なのは瞬発力。扶桑姉様筆頭のゴリ押し勢により艤装を止め、その間に素早く生身に近付いて一撃を入れる。龍驤さんの艦載機もそうだが、今後は生身を即座に攻撃出来ることの優先度が高い。白兵戦なら皐月さんや叢雲さん、そうでないのなら火力がより高い春風や時雨さん。
「私としては、皐月君にお願いしたい」
「ぼ、ボク!?」
「この中で一番素早いのは君だ。回避性能を活かして、龍驤君の手助けをしてほしい」
天龍さんの弟子として、匹敵するとまでは行かなくとも強力な力を持つ皐月さん。金の『種子』によるスペックアップで、天龍さんにより近付ける。龍驤さんの問答無用の艦載機運用も、自力で回避しながら白兵戦を仕掛けることが出来るだろう。
「わ、わかった。ボクが深海艦娘代表として、金の『種子』を埋め込まれるよ!」
「おー、頑張れよ皐月。あたしらの期待を背負ってくれ」
「はいはい、ボクに任せてよ」
無駄に緊張を煽るようではあるが、深雪さんなりの激励。皐月さんもそれをわかっていてヘラヘラしながら返した。
皐月さんは深海艦娘に変えられたときの快感を知っているため、金の『種子』による快感にも多少なり慣れがあるはずだ。霞や島風さんほど、羞恥心を感じることは無いと思いたい。
「では2人は処置をお願いするよ」
「ボクは誰に……姉ちゃんかな」
「睦月がやってあげるにゃしい」
あれに関しては姉妹がやってあげる方がいいだろう。皐月さんには睦月さんがいてくれたおかげで、そこまで心にダメージは受けないで済みそうだ。
その後、扶桑姉様は山城姉様と、皐月さんは睦月さんと破壊されていない部屋に入っていった。少なくとも扶桑姉様は声を抑えることができていたが、皐月さんは声が大きかったというだけで、これ以上語るのは憚られる。真っ赤な顔で出てきた皐月さんと睦月さんから察した。
2人の処置が終わり、今度は入渠組が次々と目を覚まし始めた。一番時間がかかるのは戦艦故に榛名さんなのは一目瞭然だったが、その次に時間がかかるのが島風さんという辺り、深海棲艦化が効いている。
まず終わったのが那珂ちゃんさん。起きてきて私を見た瞬間の第一声が、
「朝潮ちゃん、オフレコでお願いね♪」
あの戦い方の口止め。四水戦旗艦として猛然と戦ったあの姿、私は見るのは2度目ではあるが、やはり鬼気迫るものだった。アイドルを捨て、戦士として敵と立ち向かうその姿は、震えるほどに格好良かった。
空母鳳姫と相対しているときでも、その恐ろしいほどの気迫はこちらにも伝わってきた。凝視するほどの余裕もないが、何をしていたかくらいは把握している。
『那珂ちゃん、凄くカッコよかったよね』
『ああ、いつもの調子が嘘みたいだったな。ああいうのもいいと思うが』
『でも、那珂ちゃんはカワイイ方がいいよ! 歌って踊ってる那珂ちゃんの方が私は好き!』
思考の海の会話で、思わず笑みが浮かんだ。
「勿論、那珂ちゃんさんの名誉のために」
「ありがとね」
「ヨルも言っています。凄くカッコよかったけど、歌って踊ってる那珂ちゃんさんの方が好きだと」
テヘヘと少し恥ずかしそうに笑う那珂ちゃんさん。素直に好意をぶつけられると、アイドルでも少し困ってしまうようだった。
那珂ちゃんさんが着替えている内に、天龍さんの入渠も完了。大破ではあったものの、天龍さん自身の燃費の良さがこういうところで役に立っている。
「おはよー天龍ちゃん」
「おう、那珂が先だったか。あんだけボロボロだったのに」
「那珂ちゃんは皮だけだったからね。天龍ちゃんは肩抉れてたんだから早い方だよー」
着替え終わったくらいで天龍さんに服を放った。受け取って天龍さんもすぐに着替える。
着替えながらも私に戦況を聞いてきた。眠っている間に決まったことが無いか、鎮守府はどうなっているのか、などなど。
「金の『種子』が追加で2つ生成されまして、それを扶桑姉様と皐月さんが使うことになりました」
「扶桑姐さんはわかってたが、皐月か」
「司令官の指示です。空母鳳姫対策に、素早く一撃を入れられる人材を採用したようで」
空母鳳姫の最後の状態を詳細に覚えていないようで、そこも含めて説明した。艤装の状態によって効く攻撃が違い、鶴棲姫の状態では効くと思われていた魚雷が微妙になる代わりに、本体が生身になると。
そこまで聞いて皐月さんが採用されたことに納得が行ったようだった。
「あいつぁオレの一番弟子だからな。オレとほとんど同じことが出来る。力は足りねぇけど、速さならオレとどっこいどっこいだ」
「流石ですね。でしたら最後の押し込みが出来るでしょう」
「敵は提督の力を持ってるんだよな。島風がギリギリ追いつけたみたいだけど、皐月がそこに追いつけるかが心配だ」
大丈夫だとは思うが、と後に付けるが、やはり心配そうではあった。自分の弟子が危険な戦場に出るのは、思うところがあるのだろう。だが止めようとは絶対にしない。
「とはいえ、ようやく勝ち目が見えてきたんだな」
「はい。対策も大分組めてます。次で決着をつけたいです」
「おう。オレも参加するぜ。1人相手にどれだけ戦力ぶっ込むんだっつー話だけどな」
ついに空母鳳姫を倒すための一筋の光明が見えた。勝ち目が無いほどの圧倒的に不利な状態から、ようやくここまで掴み取った。
姉妹相手だからある程度の痴態は見せられるかもしれませんが、姉妹だからこそ見せたくないというのもあるかもしれません。扶桑姉様はイクサほどではないけどビクンビクン震えるだけ。皐月は島風レベルでやらかした感じ。