欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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派閥

改二改装され成長した私、朝潮。身体も大きくなり、本当の意味で成長してしまったが、一晩も経てば慣れる。むしろ寝起きに私の姿を見た霞の方が驚いていたくらいだった。

 

朝食後、白露さんと共に改二艤装のチェックを始める。皐月さんは機動力が格段に上がっていたが、私も同じようになっているかもしれない。

 

「海上での自立は問題ありません。移動も……違和感は無いですね」

「こっちも問題なし。こんなに艤装デッカくなっちゃったけど、前と同じように使えるかな」

 

今度はタービンをフル回転させ、最大戦速で移動する。以前の皐月さんの意味がわかった。前より格段に速い。舵も切りやすくなっている。以前の対潜訓練で潮さんがやった急旋回なども今なら出来るかもしれない。

白露さんも以前と比べると少し速くなっているように見えた。欠陥(バグ)が深刻でどうしても低速にはなっているが、代わりに私より急旋回がしやすいようだ。

 

「うん、いいですね。全体的にスペックの向上、確認できました」

「あたしも! これでいっちばーんになれたかな?」

 

明石さんに報告し、艤装を置く。その時の疲れも大分軽減されており、燃費が良くなったのを実感する。

私は本当に成長できた。

 

 

 

日に日に増す敵潜水艦や哨戒機の報告。それを受けた司令官は、悩んだ末に、いつもよりも遠い場所まで哨戒し、敵がいるかどうか確認することを決定した。

遠方までの哨戒、ほぼ遠征に近い任務は、それだけでも危険が付き物だ。万が一敵と出会ってしまった場合、援軍もすぐには辿り着けない。撤退も敵に地の利がある。

 

「危険な任務であることは間違いない。だが、今後のためには必要不可欠と判断した」

「潜水艦と哨戒機から、ある程度哨戒コースを考えてあります。今回の部隊は、燃費と火力の両立です」

 

司令官と大淀さんがボードを使って全員に説明する。

今回は速力よりも燃費。遠くに行って帰るだけで燃料は相当使う。さらにはその場で戦えるだけの戦力は欲しい。

 

「旗艦は古鷹君。主砲、雷撃担当に吹雪君、白露君。対空担当に皐月君、朝潮君。対潜担当に潮君。この6名で出てもらうよ」

 

今回の選出メンバーは全員改二。また、偵察任務も兼ねているので、白兵戦のみの天龍さんや、ブレーキのかけられない那珂ちゃんさんは除外されたのだろう。

重巡洋艦の中では最も燃費がいい古鷹さんを筆頭に、駆逐艦で編成されている。古鷹さんの欠陥(バグ)である索敵不可は、私達駆逐艦が全て賄うのだろう。古鷹さんは戦力としての旗艦だ。

 

「今までの哨戒の結果から鑑みて、敵には空母と潜水艦がいるだろう。特に潮君には負荷がかかるかもしれない。朝潮君は対空に加え、爆雷も装備していってほしい」

「了解しました。私は兼任ということで」

「そういうことだよ。皐月君は対空のみに、潮君は対潜のみに専念してくれ」

 

先日までの訓練で対空と対潜を同時に行うのは慣れている。それに、2人ほど特化しきれていないのも確かだ。兼任が私には一番の役割だと思う。

 

「では準備を頼む。長い哨戒任務になりえるため、弁当も用意してあるから持っていってくれ」

「提督、戦闘糧食です。お弁当だと緊張感が無くなります」

 

若干ピクニック感覚になりかけたが、重要な任務だ。気を引き締めていこう。

 

 

 

6人の部隊で出撃し、ある程度進んだ。鎮守府から北へ、いつもなら引き返すであろう場所も直進。私にとっては未知の海。

救援任務の時とはまた違った方向が今回の目的地だ。岩礁帯もなく、移動しやすい海上。360度、島一つ見当たらない。

 

「さすがに敵機が増えてきましたね」

 

どんどん進み、見つけた艦載機を墜としながら周りを確認。敵地に入ったと思えるほど増えてきている。駆逐艦などもこちらを襲ってきた。すでに哨戒機でもない。

 

「大分進んできたからね。索敵は入念に、確実に進むよ」

 

古鷹さんを先頭にした単縦陣でゆっくり進む。

 

「敵に違和感があるね……。私達を見たら逃げる駆逐艦もいるよ」

「潜水艦も2種類います……どういうことでしょう」

 

敵の艦載機も2種類いた。こちらを見たら即座に爆撃の体勢に入る艦載機。それと、即座に退避する艦載機。無駄弾を使いたくなかったので、退避した艦載機は墜とさなかった。

 

「鎮守府の近くで見つけたのはどっちでしたっけ」

「攻撃してこないのもいたよね。見つけた時点で墜としてたし」

 

進めば進むほど、海の色は赤く染まっていく。

敵陣、それも強力な敵が統率している海は赤くなると聞いた。まさにそれが今足元に。この戦力で進むのはまずい気がする。だが、それと反比例するように敵の数が妙に減ってきた。

 

「本拠地が近いけど……敵の攻撃が殆ど無い? どういうこと……」

「もし敵が本拠地を放棄した場合はどうなるんでしょう」

「それならこんなに赤い海にはならないよ。そこまで偵察してから撤退しようか」

 

慎重に進んでいく中、時々爆発音が聞こえる。

それがそもそもおかしかった。敵陣で私達の部隊以外に対する爆発音がするということは、別の部隊と交戦中ということだ。そんな話は聞いていないし、そもそもこの敵陣に一番近い鎮守府は私達の鎮守府だ。

 

「みんなストップ。目視でも確認できた」

「何あれ……あんなの初めて見るよ」

 

初期艦の吹雪さんですら見たことがない状況がそこでは繰り広げられていた。

深海棲艦同士が戦っている。

海の真ん中に私達の鎮守府のように陸地ができていた。地図にもない島であり、周りには背の高い岩礁帯も出来上がっている。その中心に白い深海棲艦が2人鎮座していた。それに対し、複数の黒い深海棲艦が攻撃をしているような状態。

こちらを攻撃してこなかった敵機はおそらく白い深海棲艦の方。攻撃的な敵機は黒い深海棲艦の方の陣営だ。

 

「提督、古鷹です。通信聞こえますか」

 

こんな異常な光景は今までにない。さすがに司令官の意見を仰ぐ。

古鷹さんは索敵できないが水上機は搭載でき、以前の山城さんの戦いの時のように鎮守府に映像を送れるようにしていた。深海棲艦同士の争いを送り、状況を把握してもらう。

 

「え、な、なんです、ガングートさん!? 白い方を助けろって、どういうことですか!」

「深海棲艦を助ける!?」

 

本来ならば、ここで共倒れを確認したかった。だが、通信の向こうでガングートさんが荒れているのがわかる。

ガングートさんは元深海棲艦だ。もしかしたら、今攻撃を受けている白い深海棲艦と何かあるのかもしれない。だがガングートさんは記憶が半分くらいしか残っていなかったはずだ。光景を見て何か思い出したのだろうか。

 

「提督、指示を……えぇっ!? りょ、了解。白い深海棲艦を援護! 北方水姫の名前を出せばいいんですね?」

 

とんでもない戦闘になりつつある。

白い深海棲艦はいわば『陸上型』というタイプの深海棲艦。私達のように海上を移動する深海棲艦と違い、発生と同時に自分の陣地を形成し、自らの島を出現させる。あの島はまさにそれ。2人とも陸上型なのか、島の規模が本来の倍近くあるらしい。

 

「朝潮ちゃんと皐月ちゃんは島へ上がり2人の陸上型深海棲艦を対空で援護! 潮ちゃんと吹雪ちゃんは島の周囲! 私と白露ちゃんはあの黒い深海棲艦を撃退!」

 

大急ぎで島に上がる。普通の陸地と同じような感覚だ。これが深海棲艦の力で出来上がった地面だと思うと、敵の力が強大であることを思い知る。

 

「ダレダ!」

 

当たり前の反応だ。私達艦娘は深海棲艦の敵。

白い深海棲艦の片方、大きな一本のツノと大きな腕、そしてコンテナとタンクのような巨大な艤装が特徴的な女性が、大きな爪をこちらに向ける。

 

「ガングートさん……いや、()()()()からの援護要請です! 艦娘ですが、貴女達を助けます!」

「スイキ……スイキネエチャン!」

 

白い深海棲艦のもう片方、女性を幼くしたような女の子が、北方水姫の名前を聞いた途端に顔を上げる。これはガングートさんの声を聞かせた方が早い気がする。

 

「古鷹さん! 通信こちらに回せますか!」

「これ使って!」

 

水上機をこちらに飛ばしてくる。索敵できずとも発艦はできるようで、器用に私の手に着陸した。

向こうには深海棲艦2人が大きく映っていることだろう。その中から装備妖精さんが、小さなスピーカーのようなものを取り出した。古鷹さんの持つ通信施設とリンクしているようだ。

 

『港湾! 棲姫! 無事か!』

「ソノコエ、スイキカ!」

 

スピーカーからガングートさんの声が響いた。装備妖精さんがその声の大きさにビリビリと震えている。

 

『そいつらは私の味方だ! だから、貴様らの味方だ!』

「ミカタ、シンジテイイノカ?」

『そいつらは攻撃できん、だから貴様らを攻撃することは絶対にない。だから信じていい!』

 

だから私と皐月さんを島に上げたのか。私達には目の前の深海棲艦を倒すための武器は無い。できるのは、ここを攻撃してくる艦載機を全て墜とすことだけだ。

 

「朝潮手伝って! 割と数ある!」

「了解です! すみませんが、これを。北方水姫とお話できますから」

 

女児型の深海棲艦に水上機を渡し、私も対空砲火に加わる。私達2人がかりならまだ行ける。むしろ4人であちらの深海棲艦を処理していることの方が心配だ。

 

「ソウカ……ワカッタ」

 

ガングートさんから話を聞いた女性型の深海棲艦が立ち上がり、艤装を起動する。コンテナ状の艤装から蛇のような巨大な首が伸びてきた。

 

「テツダオウ……」

 

その蛇の方が大きく開き、中から夥しい数の艦載機が吐き出された。以前見た一航戦2人がかりの本気の艦載機以上の数を1人で操っている。手からも艦載機を発艦し、尋常ではない数の艦載機を飛ばした。

 

「ネエチャン、ワタシモヤル」

 

今度は女児型の深海棲艦が動き出す。手をギュッと握ったかと思うと、開いた瞬間に艦載機が生成されていた。他のとは違う、猫耳が付いたボールのような可愛らしいものだったが、その1つ1つが殺傷能力の高い兵器。

 

「貴女達への攻撃は私達が全て墜とします!」

「すっごいなぁこの艦載機の量! 敵だと怖すぎるけど、味方だと心強いよ!」

 

皐月さんと一緒に、陸地に飛んでくる艦載機は全て撃ち墜とす。2人の白い深海棲艦の攻撃を邪魔させない。

陸地からだと戦況がよく見えた。古鷹さんと白露型さんが相手をしている黒い深海棲艦が一番の強敵のようだ。本人は攻撃せず、自分を抱きかかえさせている巨大な艤装、自律行動する主砲が激しい攻撃をしていた。2人がかりでも厳しく、スペックアップした白露さんもギリギリ怪我なく耐えられている程度。

白い深海棲艦はあの攻撃から身を守るために艦載機がほとんど使えなかったのだろう。出来てしまえばここまでの攻撃が出来るということだ。深海棲艦の力を改めて理解した。

 

「チッ……イマハヒクワ……カンガエヲカエルコトネ……」

 

こちら側の攻撃が一気に苛烈になったことで、あちらの深海棲艦が撤退を始めた。深追いはしないことを司令官に伝えられ、私達はそこで攻撃をやめる。

白い深海棲艦達も、危害が加えられないとわかると、攻撃をやめた。

 

 

 

白い深海棲艦、女性型の港湾棲姫は、ガングートさんと知り合いだった。正確には、北方水姫の知り合い。今の北方水姫が艦娘となり、深海棲艦の敵となっていることは知っていたようだ。

港湾棲姫とガングートさんが言うには、深海棲艦にも派閥があるらしい。それがわかりやすいのが、()である。

白の深海棲艦は戦闘をあまり好まない者が多いらしい。確かにガングートさん、北方水姫も白かった。山城さんに喧嘩を売る以外何もしていなかった。

 

「ワレワレハ……シズカニクラシタイダケダ」

「そういう事ですか。だから、向かってくる者を叩くだけだったと」

 

港湾棲姫は防衛だけしかしていない。人間には興味なく、何もしてこないなら友好的にしてもいいと考えている。

だが、黒の深海棲艦、特に今回の中心にいた戦艦棲姫は、人間を滅ぼすことを悦びとしているほど好戦的。港湾棲姫とは考え方が根本的に真反対である。

 

「私達は貴女達を攻撃しません。そういう深海棲艦がいるのなら、私達の提督は歓迎するでしょう」

 

古鷹さんが説明する。

水上機による通信で司令官も自分の言葉で話し始めた。

 

『姿を見せることが出来ずにすまない。この子達を預かっている者だ』

「オマエガテイトク……カ」

『私は、君達のような深海棲艦と協力関係になりたい。君達の平和も守りたいんだ』

 

戦う必要が無いのなら、深海棲艦とだって仲良くする。それが司令官の考え方だ。戦艦棲姫のような人間に害を成す存在はさすがに看過できないが、港湾棲姫のような存在は司令官が待ち望んでいた者。

 

『勝手な提案で申し訳ないのだが、私達の鎮守府に来てみないかい?』

「ナゼ」

『その場所は戦艦棲姫にバレているのだろう。今は退くということは、また来るということだろう。それならもっと安全な場所にいた方がいいのでは?』

 

私達艦娘には気が気でない提案だ。ガングートさんは元深海棲艦なだけであって今は艦娘である。だが、今回は話が違う。そのままズバリ深海棲艦だ。

それでも司令官は2人の深海棲艦を信用して、この話を持ちかけている。おそらくガングートさんの推しもあるだろう。

 

「……セイキ、オマエガマズミテクルンダ」

「ワタシガ? コウワンネエチャンハ?」

「ココニノコル……チンジュフトヤラガ……ワレワレニソグワナイナラ……カエルバショガヒツヨウダ」

 

鎮守府に全員で行き、そこが自分達の意にそぐわない場合、帰る場所が無ければどうにもならない。そのためにも1人はここに残る必要がある。

 

「ワタシノタメニ……チンジュフヲミテキテクレ」

「ワカッタ。ネエチャンノタメニイッテクル」

 

女児型の深海棲艦、北方棲姫だけがここを離れ、港湾棲姫に逐一鎮守府の情報を伝えるということで落ち着いた。それだけでも大問題ではあるが。

あくまでも元であるガングートさんを配属させたのは大本営の意向。だが今回は司令官の独断で深海棲艦を鎮守府に招き入れる。

北方棲姫は見た目だけなら皐月さんより小さい、いわば幼女だ。だがその攻撃力は一航戦に匹敵する。1人で戦った太刀打ちできない。

 

『君達は海上を移動できるのかな?』

「……デキナイ。カンムス……ダレカニハコンデモラウ」

 

陸上型の深海棲艦は島から出ることができない。私達でいう脚部艤装に属する装備が、この島そのものになるらしい。ここから出るというのは、脚部艤装で海に出ることと同様。

なら、この中の誰かが北方棲姫を運ぶことになるだろう。6人いる私達艦娘を、北方棲姫が品定めするように眺める。

 

「オマエ! ワタシヲハコベ」

「わ、私ですか。わかりました」

 

選ばれたのは私。古鷹さん、白露さん、吹雪さんは主砲を持っているのがお気に召さなかったのだろう。残り3人から運ばれやすそうな者を選んだ結果が私なのだろうか。

 

「これでいいですか?」

「ン、ミコンダトオリ」

 

背中には艤装があるので、必然的にお姫様抱っこの形になる。そうなると潮さんには胸があるので少し抱かれにくい。皐月さんだと小柄な分、北方棲姫が掴みにくいだろう。確かに私が適任かもしれない。筋トレしておいて良かったとつくづく思う。

 

「ネエチャン、イッテクル」

「アア……スイキニヨロシク」

 

まだ不安そうではあるが、北方棲姫を見送った港湾棲姫。私達が帰った後、荒らされた島を立て直すらしい。人型に近いイロハ級の深海棲艦がそれを手伝っている姿は、少しシュールだった。

 

「痛くないですか?」

「ダイジョウブ、オマエ、ハコブノウマイ」

「それは良かった。少しの間このままですから」

 

ふと私が生まれた時のことを思い出した。天龍さんにこうやって運ばれて鎮守府に辿り着いた時のこと。今は私が天龍さんと同じことをしているわけだ。感慨深い。

抱いているのが深海棲艦だということは思った以上にプレッシャーではあるけど。




港湾棲姫は特に共存ができそうな深海棲艦だと思います。セリフ的にも来てほしくないってだけだし。
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