欠陥だらけの最前線   作:緋寺

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提督の力

一戦終え、復旧中の鎮守府。3階がほぼ全壊、2階にも被害が出ているということで、私室の半分近くが使用出来ない状態に。部屋を使えない、または片付ける必要のある者が多くなり、鎮守府内部での破壊工作がされたときのように、大部屋での生活を余儀なくされた。1階に私室を構える者は私室で寝てもいいが、部屋のない者は特設された寝泊まり用の部屋で夜を過ごすこととなる。

とはいっても、なんだかんだ全員がこの部屋で過ごすことを希望するのがこの鎮守府。あの時のワイワイした感じの生活は、戦い続きでいつ襲撃されるかもわからない現状では、一服の清涼剤となった。

特に、孤独を嫌う島風さんは大喜び。入渠が終わってこの話を聞いた時、飛び跳ねるほどに喜んでいた。いろいろな人の部屋にお邪魔しては一緒に眠るが、大人数というのは初めてである。

 

大部屋はいの一番に準備された。妖精さんの技術の恐ろしいところであり、先程まで第二会議室だったような場所が、今では畳の大広間。相変わらずどういう原理で部屋を改築しているのか理解が出来ない。

 

『またアレやるのか?』

「やるんじゃないの……?」

 

アサの言うアレというのは、当然私、朝潮の隣に誰が寝るかを決める戦い。本当に演習をするとかではなく、ちょっとした小競り合いがある程度。ジャンケンやら腕相撲やら枕投げやらで決めるためか、他の人達も妙に盛り上がるレクリエーションだったりした。

私としてはいい迷惑であるため、そういうのに関係なく、私が指名して隣を決めることが多い。むしろ端に寄って瑞穂さんをつける。

 

『なになに? 何があるの?』

『朝潮の争奪戦だ。ハルカゼやハツシモが面白いことになる』

『見たーい!』

 

呑気なことを言っているが、私の与り知らぬところで私のことが勝手に決まっているのはどうかと思う。もう気にならなくなりつつあるが。

 

「そろそろ予約制にしようかしら……」

『それだとカスミとユキカゼが有利すぎる。皆平等に権利を持つべきだろう』

「権利って」

 

誰が隣に来るかで睡眠の質が変わるわけでもないので、もうなるようになれであった。

 

結局私の隣を勝ち取ったのはジャンケン大会を制した雪風さんと初霜。雪風さんに至っては出来レースなのではないかと思えるほどに1抜けをしていたのが印象的だった。

 

 

 

翌日、作戦会議。金の『種子』組が追加されたことと、空母鳳姫の全容がようやく明らかになったことで、勝ち目のある対策が立てられるようになった。

だが、当然それのネックになってくるのが、残った2人、戦艦天姫と空母鳳姫の持つ提督の力である。今でこそ島風さんが追い付くことが可能になったとはいえ、あの脅威はまだ残ったままだ。

 

ということで、今日はとんでもない訓練が実施されることとなった。

 

「扶桑君と山城君は私が鍛えよう。敵の速さに追い付くために眼を鍛えた方がいい」

 

なんと、司令官自らが訓練担当を行う。当然だが司令官は海の上に立つことは出来ないため陸上で。私や響さんは司令官の動きを先読み出来るように観察し続けることとなる。他の人達も、実際に戦っているところを見て覚えることに。

 

結局のところ、提督の力に対抗するために必要なのは『眼』である。

地上に上がった敵潜水艦を一撃で吹き飛ばした司令官ではあるものの、撃破まではいかない。あくまでも人間、()()()()()非力。それでも艦娘全員を押し留めることが出来る理由が、その速さと多彩な技。

以前、扶桑姉様が侵攻した際には、何もかもを破壊するほどの攻撃を受けた時に、気付けば組み伏せているという事態であったのがわかりやすい。

 

「殺すほどの攻撃はやめておくれよ。ただし、機関部艤装は使ってくれて構わないからね」

 

生身の人間相手に機関部艤装を使用。これが司令官を相手にするということ。

私も一度味わっているが、予知した未来を覆されるという恐ろしい力を見せつけられている。私では正直勝ち目はない。少しだけでも予知に確実性が持たせられれば御の字。

 

「なんで今までこの訓練やらなかったわけ?」

「そもそも私にあまり時間が無かったというのもあるんだが、考えてもみたまえ。私が今から君達に教えるのは、()()()()()()()なんだよ。提督という存在の倒し方を、身体で覚えるためなんだからね。そんなこと、最終手段に他ならないんだ」

 

本来なら軍規違反に最も近い、黒に近いグレーの訓練。私達を信頼しているからこそ教えてくれるわけだ。勝てなくとも、 互角に戦えるようになるだけでも、その艦娘は危険人物として解体対象になりかねない。

だが、今回は敵がその提督の力を行使してくる。実力では倒せない本物の提督は強大すぎる火力で、それ以外は提督の力で。これだけでこちらはなすすべが無くなる。それを続けるスタミナが無いようだが、それまでにこの鎮守府の全員を殺すことが出来る可能性が高い。

だからこそ、ここで最後の手段を使うわけだ。

 

「山城君、以前までのスパーリングとは全く違うからそのつもりでね」

「勿論よ」

「龍驤君、君も私の隙を探してみなさい」

「せやな、あの鳳翔をヤるためにはそれくらいせなアカン。大和にゃそれ以上や」

 

なかなか時間が空けられない司令官も、鎮守府復旧中の今ならば、少しくらいは訓練の時間が取れる。今しかないというタイミングだった。

 

「私にそれを見せていいの? 曲がりなりにも深海棲艦なのよ」

 

それを親切に言ってくれる辺り、既に優しいイクサさん。穏健派であることを如実に表している発言ではあるものの、司令官は信頼していることを伝えるように話す。

 

「君はこの一件が終わったら侵略を始めるつもりかい?」

「……そのつもりは無いわね。何処かでまったりさせてもらうわ」

「なら構わないだろう。それに場所も提供しようか。話をつける必要はあるが、北に我々と友好関係にある陸上型姉妹がいるんだ。別にここに住んでくれても構わないしね」

 

あまりの言葉におかしな顔になっているイクサさん。最前線の鎮守府の司令官が言うことではないだろうとは皆が思っている。だが、この人がこういう人だからこそ、皆がついていっているのも確かなのだ。

 

「ッハハハ! 貴方、本当に正気じゃないわね! でも私、そういう人は好きよ!」

 

司令官の肩をバンバン叩く。その発言から、山城姉様の眉が動くのを見逃さなかった。まさかこのタイミングで好敵手(ライバル)出現とは。

 

「気に入ったわ。最初は敵の姫への復讐に利用させてもらうつもりだったけど、今から私は貴方のために戦ってあげる。私が気に入った男だもの。必ず勝利に導いてあげるわ!」

 

イクサさんは正直、深海棲艦に向いていない気がする。戦艦水鬼という黒の中でも特に真っ黒な深海棲艦にも関わらず、思いやりが凄い。ここまで信頼出来るタイプな人は滅多にいないのではないだろうか。

 

 

 

司令官自らが訓練をするということを知り、それを一目見ようと鎮守府の全員が集まってしまう事態になった。しかもその相手が扶桑姉妹。鎮守府最強の戦力がどうなるのかというのは、興味の的であった。

司令官は軍服のまま。着替えることすらしない。これが司令官としてベストの状態なのだろう。

 

「手加減無しで行くからね。では、ちゃんと見ておくように」

 

最初の相手は山城姉様。扶桑姉様は山城姉様の戦いをよく見てから参戦するとのこと。念のため私が隣にいることで安定してもらっている。

山城姉様でも勝つことが出来ない相手なのは皆が理解している。何処まで対抗出来るか、なすすべがあるかを確認する戦いになる。

 

「ここでは一番私が提督にスパーしてもらってるし、素早いのも天龍や皐月で見てきてるわ。多少なりとも対応出来ればいいんだけど」

「まずその認識は捨てなさい。例えばだね」

 

少し前に進んだかと思った瞬間、山城姉様が倒れた。既に山城姉様の真後ろに立っており、脚を掬っていたらしい。

予知をしていたわけではない。反応をジッと見ていただけだ。同じように行動予測をメインにしている響さんと顔を見合わせてしまう。何が起きたのかわからなかった。

 

「これくらい出来なくては、提督という職につけないんだ。例えば、この鎮守府にいる全員に叛乱されたとしよう。それを1人で鎮圧しなくてはいけない。ならばどうするか」

 

倒れている山城姉様の腹に手を置き……何もしなかった。

 

「本来ならここで一撃入れて、無理矢理気絶させている」

「なるほどね……これを全員にやれば1人で無力化出来るわけか。説明なんてしていないだろうし、倒されて気絶させられておしまいね」

「そういうことだね。説明中にやってしまってすまない」

 

山城姉様を起こした後、改めて間合いを取った。ここからが本番。

今の移動は瑞穂さんのそれとほぼ同じ。それを()()()()()がやっているというのが恐ろしい。司令官はやはり人間とは別の位置にいるのだと思う。

 

「さて、では改めて。次は当てるよ」

「ええ、構わないわ」

 

タンッと足音が聞こえたと思った瞬間に山城姉様の目の前に。扶桑型のお株を奪うデコピン。

 

「このっ」

「ムキになっちゃいけないよ。心は静かに」

 

山城姉様の拳は払いのける。まともに受けてしまうと、どんな攻撃でもひとたまりも無いのだと思う。だから払う。

司令官の動きは合気道に近い。相手の攻撃は払いのけ、その力を利用して倒す。自分から動くときは、デコピン以外では脚を掬い、関節を極め、力をかけずに相手を行動不能にする。訓練のために激しい技をかけることはないが、人間が艦娘相手に腕の関節を極めて、抜け出すことが出来なくなっているという事実。

 

「ゴリ押しもいいが、白兵戦でも搦め手というのは出来るよ。天龍君の使う関節技とかね」

「関節技か……いいかもしれないわね」

 

戦艦天姫はその拳、空母鳳姫は匕首を使って、今の司令官と同じことをやってくる。しかも深海棲艦の力を持っての攻撃だ。司令官以上の力を持って、殺意を込めてこの動き。今までよく回避出来てきたと思う。

それへの対抗策として、その攻撃の腕を極める。それが出来れば、攻撃を避けつつ相手の行動を抑制出来て、さらにはダメージも与えられる。一石三鳥の技になるだろう。

 

「とはいえ、生半可なものであれば抜け出せるよ」

 

伸ばした腕を掴み、関節を極めようとした山城姉様。やろうとしたことは天龍さんが大分前に神通さんにかけたアームロック。しかし、スルリと抜けた後に逆に極め返していた。

 

「一朝一夕じゃ、うまくいかないわね……」

 

大分冷静になっている山城姉様。やられ続けても研究に余念がない。

私の隣にいる扶桑姉様も、静かに、真剣な目で2人の訓練を見続けていた。眼の動きを見る限り、司令官の動きが少しずつだが追えるようになっている。

逆に私は今の状況に混乱している。変に戦場の見方が変わっているせいか、どこをどう見ればいいのかよくわからなくなってしまった。

 

「先生、予測は出来るかい……?」

「いえ、まだ。司令官の全容を把握していないというのもあるんですが、動きが()えません」

「だね……眼なのか頭なのか、どっちに頼ればいいのやら」

 

響さんは私と同じ悩みに。これが出来れば戦場で有利になることは間違いないのだが、先読みした動きとは別のところにいたり、読めたはいいが既に動いた後だったりと、死に直結するミスばかりが起こる。これは瑞穂さんにも手伝ってもらって訓練していく必要がありそうだ。

 

「アカン、うちもようわからん。隙なんてあるんか……?」

「隙があったら司令官はやれないのでは」

「うん、確かにそうやわ」

 

龍驤さんも頭を捻っていた。空母はただでさえ攻撃が遅れるタイプだ。完全に先読みするくらいでなくてはやられる。

 

この頃には、山城姉様は静かに冷静に攻撃を見ることが出来るようになっていた。ただし、行動が見えるようになってきても、それに対応できるように自分が動くことが出来ない。あれを見てから避けるなんて芸当は、ブーストがかかった島風さんくらいにしか出来ないのだろう。

 

「瞬発力も鍛えないといけないわ。わかっても動けないんじゃ意味がないもの」

「そうだね。君は島風君と違って戦艦故に大人の身体だ。素早く動くにはより一層の研鑽がいるだろう」

「それが理解できただけでも御の字ね」

 

山城姉様はもう数えきれないほどの敗北を喫していた。それだけやられても、司令官の動きが把握出来ていない。提督の力というものがどういうものかというのを、身を以て改めて感じる結果となった。

この一方的な戦いを見ていた皆も、今戦っているものの強大すぎる力を目の当たりにして、怖気付く者もいれば研究を始める者とそれぞれ。

 

だが、誰にもやる気があった。怖くても前に進もうと、歩みは止めない。特にやられっぱなしの山城姉様が一番やる気に満ち溢れている。

 

「もう少しやるかい?」

「ええ、ちょっと見えてきたわ」

 

一旦距離を取り、そしてまた動き出す。

その時、たった一度だけだが、山城姉様が司令官の攻撃を払った時があった。運が良かったのか、タイミングが良かったのかはわからないが、回避出来たという事実は出来た。

その後は結局一度も当てられず避けられなかったが、何かコツのようなものを掴んだように見える。

 

「時間があればまた相手をさせてもらうよ。じゃあ、次は扶桑君かな?」

「いえ……私の分は山城にやってあげて……」

「いいのですか姉様」

「ええ……今日は貴女が提督を使えばいいわ……」

 

扶桑姉様は一歩引いた位置から山城姉様を見守る。イクサさんというライバルが現れたことから、山城姉様への細やかな応援の気持ちが溢れ出ている。

 

「なら……もう少しお願いするわ。もう少しで何らかのコツが掴めそうなのよ」

「わかった。ではもう少しやろうか」

 

結局それ以降、山城姉様が司令官に自分から触れることは出来なかった。一方的にやられ続けるだけかもしれないが、それでも有意義な訓練にはなったようだ、

私と響さんはコツも掴めず、結果的には進歩なし。とはいえ、今後のためになるいいものを見ることが出来た。これを活かして次こそは……!




山城姉様に明確なライバルが出現。でもイクサ姉さんに恋愛感情的なものはなく、好きというのはlike。
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