元帥閣下直属の部下である司令官、南司令官が情報共有のためこちらの鎮守府にやってくることが決まった。なるべく事は早急に運びたいということで、連絡が来てからすぐにこちらへ向かっているということで、すぐに合流出来るように響さん旗艦の部隊が出迎えに行くことに。
南司令官は、声は知っているがどんな人かは知らない。声を聞く限りでは若い男性であることはわかるが、さすがに声から顔立ちはわからない。
「姉さんは声を聞いたことあるのよね」
「ええ。多分だけど、佐久間さんくらいの歳だと思うわ」
「ほぇー、若い人なんですね」
お茶会をしながらの話題も、南司令官のこと。外からのお客様というのは滅多に来ることはないため、それだけでも興味深いもの。むしろ人間という存在に興味が出てきているのも確か。
「元帥閣下が直々に教えているくらいだし、優秀な人なんだと思う。諜報活動が得意だって話だし」
「で、秘書艦が川内さん……あの那珂ちゃんのお姉さんだったかしら」
「神通さんと那珂ちゃん知ってると、なんか凄い人に思えますねー」
実際凄い人なのだろう。忍者であるというくらいだし。
艦娘には凡そ必要のない技能である敵鎮守府侵入を、司令官と共に成し遂げるほどの隠密スキル。そもそも陸上での活動に関してはそこまで考えなくていいのが艦娘なのであるのだが、あえてそこを伸ばしている辺り、一種の特務艦なのだろう。ケッコン艦と言っていたほどだし、練度もずば抜けて高い。
「来るのは夕方くらいなのよね。なら1泊して帰る感じかしら」
「ならその時にお話しくらいさせてもらいましょー!」
ここに長く籍を置かせてもらっていても、まだ会ったことのない艦娘は多い。緊張はするものの、出会いというのは楽しみである。
だが、簡単には行かない。万が一が本当に起きてしまった。響さん達が合流した直後に敵の反応を拾ったらしい。天龍さんと龍田さんがいるにも関わらず、こちらに連絡があったのは、何かしらの問題が発生したということだろうか。
「響君、何があった」
『敵の襲撃を受けた。受けたんだけど……
あちらにいる艦娘は、当然だが深海棲艦の気配なんてわからない。顔を隠していると敵が何かがわからなくなる。ただし、少なくとも艤装は深海のものではないようなので、『種子』により洗脳された艦娘である可能性が高い。
『艦娘相手だと殺すわけには行かない。どうにか撤退させたいんだけど、天龍さん達も手こずってる。とにかく妙に手練れが多い』
「了解した。部隊を1つ出す。持ちこたえてくれ」
通信が切れた。響さんの声色から、本当に切羽詰まっているのだろう。もう長い間北端上陸姫と戦ってきているが、顔を隠している状態の敵というのは今までにない。あの姫がわざわざそんなことをする理由がわからないが、とにかく今は救援が必要だ。
この状況になると、どうしても索敵専門が必要になる。そのため、私が旗艦。峰打ちが出来る白兵戦組、扶桑姉妹と皐月さん、叢雲さんの4人と、いつの間にか準備していた瑞穂さんを随伴にして向かう。万が一、顔を隠していて深海艤装で無くても混ぜ物という場合、叢雲さん以外は戦闘続行可能だ。
「すぐに向かいます」
「朝潮君、頼んだ。救出後、すぐに戻ってくるんだよ」
「了解です。朝潮、出撃します!」
どの辺りで交戦しているかを大まかにだけ聞き、大急ぎで出撃する。少なくとも響さん達3人の反応を探せばいいので、索敵範囲に入るまで全速力で駆けた。
鎮守府を出てしばらくし、響さんの反応を確認。近しい位置に南司令官が乗っているであろう台船と、知らない艦娘の反応、これがおそらく、随伴艦であり秘書艦である川内さんだろう。
そしてその周り、不明な気配が12個。戦艦や空母も含まれている、混成の連合艦隊。
「深海の気配無し……純粋な艦娘です」
「なら『種子』かしらね。中和剤持ってる?」
「持ってきています。何人かは中和しましょう」
会敵。視認した不明な敵のその全てが、フルフェイスのヘルメットのようなものを被っている。制服も統一し、見た目だけで何者かが判断付かないようにされている。
相手が艦娘という時点で天龍さんと龍田さんも苦戦しており、やり過ぎると死んでしまうが、手加減するにも思った以上に手練れで、気絶させることが難しいようだった。峰打ちしたいが、相手は実弾で狙ってくる。深海艦娘の時とはまた違った苦労。響さんは実弾しか持っていないために、南司令官を守ることに尽力している。
「追加で深海棲艦が出現だと!?」
「ありゃオレ達の仲間だ! 心配しなくていい!」
こちらに気付いた南司令官が私の姿で驚いたようだが、すぐに天龍さんが取り持ってくれた。こちらの鎮守府がそういうものであるということがわかっているために、それで納得してもらえた。
「救援します!」
「すまない! 川内、あの子達と協力して現状を打破しよう!」
「了解! 深海棲艦と肩を並べて戦うなんて、滅多に出来ない経験だよね! 夜戦だったら最高だったんだけどなぁ!」
瑞穂さんに合図し、船の防衛に移ってもらう。響さんと2人なら心配が要らなくなるだろう。ここからは峰打ちによる敵の一掃を目的とする。
「戦艦は……何人いるの……?」
「3人です。あと空母が2人」
「大型艦は私と姉様でやるわ。朝潮も来なさい」
「はい。姉妹でやりましょう」
扶桑姉様も山城姉様も伝家の宝刀がある。ヘルメットを着けているかもしれないが、おそらく御構い無しだ。中和剤は戦艦に打ち込みたいと考え、私も含めた扶桑3姉妹で大型艦を処理。
「んじゃあ、私も手伝うよ。どっち手伝えばいい」
「川内ちゃんはこっちにちょうだい〜。軽巡と駆逐艦やっちゃうから〜」
「おう、なら皐月、こっち来い。川内、叢雲と一緒に龍田と頼む」
残り7人の中型、小型艦娘は他の4人に任せる。天龍さんと皐月さんが組み重巡洋艦3人、龍田さんと叢雲さんが組み軽巡洋艦2人と駆逐艦2人を処理。川内さんは龍田さんの組に入り3対4の流れ。
「少ない人数で川内の旦那を守りながらはしんどかったからな。揃えば峰打ちも楽勝だろ」
「天さん簡単に言い過ぎだよ」
重巡主砲による砲撃を刀で弾きながらボヤく皐月さん。深海艦娘化と今までのたゆまぬ努力により、駆逐艦とは到底思えないくらいのスペックを持っているため、深海艤装でもない重巡主砲ならば軽く弾いてしまう。
「事実そうだろ。周りにたかられたらしんどいだけだぜ」
砲撃を皐月さんが弾いている間に、天龍さんが持ち前のスピードで重巡1人を峰で横薙ぎにする。重い一撃により、それだけで気絶させた。1人減るだけで戦場はすぐにこちらが有利になり、皐月さんも前進。天龍さんに気を取られた瞬間に艦載機を顔面にぶつけ、天龍さんと同じように横薙ぎ。負けず劣らずの重みのある一撃で気絶させる。
あっという間に1人にされ、顔は見えずとも混乱しているのがわかった。そんな隙を見せたらあの2人は即座に対応。2人がかりで横薙ぎにして即気絶させる。
「天龍ちゃんノリノリね〜」
「皐月も勢いが凄いわ」
「アンタ達いつもこんななの?」
「私達にはこれが普通よ〜」
4人を相手している龍田さんだが、叢雲さんに頼らずとも全ての弾を弾いていた。負けない戦いの真骨頂、本当に当たらない。
「じゃあ、私が行くわ。1人でも引っ張れば龍田さん行けるでしょ」
「たまには叢雲ちゃんが頑張ってもいいのよ〜」
「えぇー……まぁいいわ。川内さんもいるし」
「私、実弾だから峰打ち出来ないよ。足止めだけ手伝ってあげるよ」
龍田さんが砲撃を弾く横から、叢雲さんが突撃。一部の敵の攻撃が叢雲さんにズレるが、その瞬間を見逃さず、川内さんが足下に砲撃。一瞬動きが止まったところで叢雲さんが接近し、敵駆逐艦に槍による峰打ち。槍故に難しいようで、柄で殴り付けて気絶させる。
「野蛮な攻撃になっちゃうのが嫌ね」
「仕方ないでしょ」
視点が叢雲さんに向いていたところを見計らい、もう片方の敵駆逐艦の首をキュッと絞め気絶させる。
「砲撃出来ないっていうか、殺しちゃいけないって辛いよね。こうやるしかないんだもん」
「わかるわ〜。手加減って難しいもの〜」
弾く砲撃が減ったことで龍田さんも前進。あえて恐怖を与えるように、笑顔でゆっくりと進みながら、最後は2人同時に横薙ぎに。あまりにも呆気ない。
「なるほど、少数に寄ってたかってさっさと潰そうってやつらなのね。まったく、陰険なやり方よね」
戦艦主砲で撃たれているにも関わらず、その砲撃を素手で弾く山城姉様。レベルが違うことを見せつける。
「山城……殺しちゃダメなのよね……」
「ダメですよ姉様。相手はただの艦娘みたいですし、気絶させるだけにしてください」
「わかったわ……殺したら山城と朝潮に迷惑がかかっちゃうのね……」
砲撃が飛んできても気にも止めず、軽く払うように全てを弾く扶桑姉様。相手からしたら、素手なのに砲撃がまったく効かないとは恐怖以外の何物でもないと思う。
『邪魔だな。ヨル、水上機出せ』
『はいはーい。あれ全部墜とせばいいよね』
『おう、そうしとけば姉さん達が本体をやってくれるだろ』
空母2人からの艦載機は、私が艦載機と対空砲火を、ヨルからも水上機を発艦させてあらかた一掃していく。2人がかりでも私が処理出来るほどなので、あちらは軽空母か何かだろうか。
「ヘルメットがあるからどうにかなるでしょ。気絶させるだけだから耐えなさいよ」
後ずさる敵に対して何も考えずに真っ直ぐ突っ込み、強烈なデコピン。ヘルメットを粉砕するつもりで打ち込んだようで、額の部分だけが粉砕し、気絶。
「山城……器用ね……」
「やっと姉様の繊細なコントロールを覚えることが出来ましたから」
「殺せないから……それが一番早いかしら……」
扶桑姉様も同じようにデコピン。軽く突いたように見えたが、山城姉様のデコピンと同じように、額の部分だけが粉砕した。山城姉様も大概だが、扶桑姉様はそれ以上に無茶苦茶である。
これに焦った残った敵戦艦が、咄嗟に南司令官の船に向かって主砲を向けた。が、そこは既に予測済みの響さんが砲塔に砲撃を入れ、艤装を破壊する。
「うまいものね、響」
「先生の教えの賜物だよ。白露と精密射撃の訓練も受けたからね」
艤装破壊で怯んだところにデコピン。本当に容赦が無い。
これで空母2人のみ……と思いきや、私が艦載機を処理している間に扶桑姉様が同じように気絶させていた。相変わらずいい加減な出力である。
襲撃はこれで対処完了。敵連合艦隊12人は全員気絶し、束にして置いておいた。そのうちの1人、旗艦のような動きをしていた戦艦の首筋に中和剤を打ち込む。
が、痛みを感じているようには見えず、ただ予防接種を受けただけのような状態に。
「……中和されていないわね」
「ということは?」
「この人達は、洗脳されていない状態で私達を殺そうとしてきたということです」
悲しいことに、艦娘が自分の意思、もしくは上からの指示で、南司令官を殺そうと動いていたということである。
私は今の状況に覚えがあった。北端上陸姫の変化前、寺津という男が受けた仕打ちと同じ。組織の目的を達成するために行動をしているのに、同じ組織の者に命を狙われるなんて、そんな酷いことは無いだろう。
『ーーーー』
その敵戦艦のヘルメットから、小さく声が聞こえた。もしかしたらこの連合艦隊を指揮しているものかもしれない。真相を知るためにヘルメットに耳を当てる。
『返事をせんか! 何があった! チッ、使えん奴らめ』
私達の司令官よりも歳を取った男の声が聞こえる。
「貴方がこの部隊を指揮している人ですか」
『何者だ!』
「南司令官を助け出したものです。何を考えて襲撃を」
私が話し切る前に、ヘルメットから聞くに堪えない罵声が聞こえてきた。耳が壊れるかと思った。
全員に聞こえるように出来ないかと南司令官に聞いたところ、諜報に使うための盗聴器を差し出される。ヘルメットに取り付け、その音声を拡張してもらった。
『貴様、何処の所属だ! ただで済むと思うなよ!』
「……もう一度聞きます。貴方は何故襲撃をしたんですか」
イライラしてきた。こちらの話をまったく聞いてくれない。だが、決定的な一言を言い放った。
『貴様もしや加藤の鎮守府の連中だな? 薄汚い深海棲艦との共存などという得にもならん終戦を考えている愚か者どもめ』
私達の司令官を侮辱する発言。一番反応したのは山城姉様だが、ここで怒ったところでこの先にいる者には何も起こらないため、拳を震わせながら耐えている。
『戦争が続けばいくらでも金が手に入るというのに馬鹿なことを。共存などするくらいなら見世物にして金を儲けろと伝えておくんだな』
イライラが募る。この場にいる艦娘全員が、スピーカー越しの男に対して憎しみを持ち始めている。私もそうだし、アサもそうであった。ヨルだけはよくわかっていないらしく、オロオロしている。
この声を聞いて南司令官はピンと来たようだった。小声で私達に伝えてくる。
「コイツは
ということは、南司令官が狙われた理由は、北端上陸姫の調査をし、元帥閣下や私達の鎮守府にその情報を流すのを防ぐため。つまり、自分の利益のために、南司令官を秘密裏に殺そうとした。
何もかもが寺津という男と同じだった。私以前に、南司令官が第2の北端上陸姫になってしまうような所業。
『どうした、黙りこくったようだが。自分の愚かさがわかったか。だが後悔しても遅いぞ。加藤の鎮守府は私の権限で必ず潰してやるからな。覚悟しろ!』
なんでこんな人間のために南司令官が殺されなくてはいけない。
なんでこんな人間のために加藤司令官が路頭に迷わなくてはいけない。
なんでこんな人間のために私達が嫌な思いをしなくてはいけない。
「人間って……みんなこんなのなんですか……」
「違う。このクズだけだ。ちゃんと元帥閣下が然るべき処置をしてくれる。つい最近ようやく7人目がいることがわかっただけで、すぐに元帥閣下が然るべき処置を下してくれる」
元帥閣下に以前に言われた『人間を嫌いにならないでくれ』という言葉を思い出す。だが、このスピーカー越しの声を聞いていると、人間への憎しみが膨れ上がるようだった。嫌いになりたくないのに、嫌いになりそうだった。
『ご主人! ご主人! なんか変だよ! ここが熱いよ!』
ヨルの声が聞こえるが、反応出来なかった。
仲間達が利用されることよりも、命を狙われることよりも、深く、深く、憎しみを持った。こんな人間が艦娘をいいように使っている事実に怒り狂いそうだった。
その結果、最後の引き金が引かれた。